ライトシングアカデミー 吉田 善行|「格闘技の世界最高峰」UFCからジム経営へ。アスリートのセカンドキャリアを学ぶ
ライトシングアカデミー 吉田 善行インタビュー
(2018/08/20更新)
2005年2月にプロデビューした、総合格闘家の吉田 善行氏。2007年に日本の総合格闘技団体である「CAGE FORCE」のウェルター級王者となり、2008年にアメリカの有名総合格闘技団体「UFC」に所属。
「日本人が勝つのは難しい」と言われる世界最高峰の団体で、日本人として2人目の連勝記録を上げるなど、第一線で活躍しました。
その後、吉田氏は2016年にフィットネスジム「ライトシングアカデミー」を中野区にオープン。運営会社であるゼンファイト株式会社の代表取締役CEO、兼チーフトレーナーとして活動しています。
実は、アスリートの引退後のキャリアである「セカンドキャリア」の相談は、創業手帳でも多く寄せられています。
多くの困難を伴うアスリートから経営者への転身ですが、吉田氏は、子供や女性を含めた地元の幅広い客層から支持されるジムを確立し、軌道に乗せています。
今回は、ジム経営を軌道に乗せることができた理由と、格闘家のセカンドキャリアにおいて「ジム経営」を選んだ原体験について、お話を伺いしました。
吉田 善行 1974年5月10日生まれ
ジム経営者、総合格闘家。
柔道四段。元CAGE FORCEウェルター級王者、アメリカの格闘技界のメジャーリーグ、世界最高峰と言われるUFCで活躍した。
講道学舎・世田谷学園高校の柔道部に所属し、瀧本誠、大山峻護らと同期であった。2006年以降のUFCで複数勝利を挙げた2人目の日本人である。
現在、選手としてはペースを抑えながら、ジム経営に注力している。
今と昔で移り変わった格闘技ジムのあり方
吉田:4歳から柔道を始めて、日本でプロデビューした後、2008年にアメリカで戦うことに挑戦しました。
所属した「UFC」という総合格闘技団体は、アメリカ国内でとても人気が高く、強くなるシステムが整っていました。例えば、一つのジムにフィジカルトレーニングや基礎テクニックといった専門分野のコーチがいて、それぞれが見てくれる。また、どうすれば勝率が高いかという分析も全部してくれる。すごく合理的でした。
その後、2016年8月1日に「ライトシングアカデミー」を開業し、トレーナーと経営者として働き出して丸2年。現役を引退したわけではありませんが、ジム運営に重点を置いています。まだまだですが、軌道に乗ってきたところですね。
今と昔では、格闘技のジムの状況はかなり変わってきています。テレビで「K1」や「PRIDE」がブームになっていた頃は、何もしなくてもお客さんが来たかもしれませんが、今はターゲットを絞らないといけませんね。
吉田:資金は、日本政策金融公庫から借りました。事業計画書を作成し、税理士さんに手伝ってもらい、現在もお金の管理はすべてお任せしています。自分でやろうと思って抱え込んでもできないので、得意な人にお任せするのが大事かなと思います。
広報面もほぼ知り合いにお願いしました。「道場」という雰囲気にしたくなかったので、相談しながら、ホームページやジムのロゴはデザイナーの方に作っていただきました。
物件はいろんな地域をかなり探しましたが、なかなか合う所がなく、結局紹介で見つけました。商店街の入り口ですし、いい場所だなと思っています。外に面した壁が2面あるので、開ければ解放感があるのはいいですね。
運営にあたっては、キックボクシングのトレーナーと、柔術のトレーナーと、僕の3人。いろんな面から指導できればと考えました。
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- 公庫で資金調達
- 仲間に手伝ってもらう
- ホームページ立ち上げ
- ジム経営は立地が大事。物件との出会いと入りやすい場所がカギ
リピーター増加の秘策は「居酒屋ネットワーク」
吉田:近くに住んでいる30〜40代の女性の方と、小学生が多いですね。親子で一緒に来られる方もいらっしゃいます。ダイエットやストレス発散でキックボクシングをしたりする方がすごく多いんですよ。
最近は、エクササイズのためにキックボクシングをやっているモデルの方もいらっしゃって、その影響で始められた方も結構いるんですよ。そんな風に、あくまで地元に根ざしたビジネスをやっていますね。
吉田:一番は、ホームページと口コミですね。地元のネットワークはとても大きいので、入会してくださった方がさらに誰かを紹介するという口コミが最も大事です。
実は、オープンした頃は大変でした。人も集まらないし、時間もない。周囲から「ポスティングが重要だ」と言われて、一度業者を雇って大規模にやってみましたが、効果はありませんでした。どうやら、「格闘技のジムは敷居が高い」と思われているようだったので、空間を明るくしたりと入りやすいように色々工夫もしてみたんです。それでも「すごく気になるけれど行く機会がない」という場所でした。
ですが、誰か一人が始めると、「じゃあ私も」という感じで、どんどん広がっていきました。僕たちが地元で活動するうちに、居酒屋さんで知り合った方と話して興味を持ってくださるということもありましたね。そういうコツコツとした積み重ねの先に、一気に会員数が増えた瞬間がありました。2017年の春頃ですね。
きっと、格闘家は違う世界の人だというイメージなんだと思います。あまり出会わない職種なだけで、実は普通な人なんですけどね(笑)。
来てくれる方に楽しんでもらうことが第一歩
吉田:入会してくださっている方に満足してもらうことが一番大事です。楽しんでもらう、それしかありません。
まずは目の前のお客さんを大切にして、来てくれる方に楽しんでもらう。満足していただく事から始めれば、たぶんいろんな人に繋がっていくんでしょうね。
吉田:ええ。継続的に来てもらうためには「楽しむ」がキーワードです。それを何よりも意識しています。
一般のクラスは主に僕以外のトレーナーさんが担当していますが、いろんな方に目を届かせ、いかに楽しませるかを心がけてもらっています。その心構えさえあれば、トレーナーさんにはそれぞれ好きに指導をしていただいています。教える側も楽しむことが大切ですから。
吉田:始めは難しかったですね。僕としてはプロの選手を育てたいという気持ちは持っていますが、経営を考えると難しい。ものすごく強いプロを育てることと、多くの人に親しんでもらうことの2つのバランスを取らなければいけませんから。
僕自身はずっと体育会系な環境で育ってきて、強くなることを考えてきました。それでも今「楽しんでもらう」ことの大事さを考えられるのは、アメリカに行った経験が大きかったかもしれません。向こうはフィットネスも含めて日本よりも進んでいます。海外でいろんなジムを見てきたことはとても参考になっているんです。
- 集客のポイント
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- マニア層だけでなく一般層にも客層を広げる
- 気軽に来れる雰囲気づくりが大事
- 女性が入れる環境であれば女性も来るし、一般男性層も来る
- 地元のネットワーク、クチコミが大事
- 満足度を高めてリピーターを増やす
格闘家のセカンドキャリア
吉田:2015年頃ですね。その頃から、格闘家として一生やっていけるわけではないから、その後の人生をどうしようかと考え始めていました。
自分にできることは格闘技なので、それを活かした道を進みたいと思いました。正直に言うと、格闘家はお金がかかるので、引退した後に貯金が残っていることは少ないと思います。そのため、どのようなセカンドキャリアを送るかは、大きな問題なんです。
吉田:僕がトレーナー一本ではなくジムの運営を選んだのは、やはり親の影響が大きいかもしれません。道場と整骨院を経営している様子を小さな頃から見ていたので、経営という選択肢は自然と自分の中に浮かんできました。
吉田:確かに難しいですよ。格闘家としてはお休みしている状態ですし、指導者としては、自分のテクニックを教えることと、人を育てることは違います。それに、プロを育てることと、他の会員さんに楽しんでもらうことも違います。
経営者については、まだまだ勉強中です。格闘技という土壌で勝つために、経営もうまくマネージメントして売り上げを上げていく。なにをするにも、自分に厳しく取り組むことが大事です。
自分の取り組んでいることを信じて続けていけば、周りの協力者がどんどん出てくるかもしれません。お客さんだけでなく、経営面も口コミで仲間が増えていくことがあると思いますから。
吉田:僕は、友人で元総合格闘家の大山峻護がやっている「ファイトネス」という格闘技とフィットネスを融合したプログラムに参加しています。
大山は僕より先に引退し、それを企業向けにアレンジしたプログラムを自分で売り込み、現在は、様々な企業でフィットネスや研修をしています。彼がそうやっていろいろと考えて頑張っているのを見て、僕も刺激を受けて頑張ろうと思えました。
大事なことは、基本を一捻りして自分なりのやり方を見つけること。僕の場合は、女性が入りやすいように格闘技とフィットネスを組み合わせることかな、と考えています。
吉田:まずは、今運営しているジムの経営でより採算がとれるように、ジムの環境をもっと充実させていきたいです。施設の設備や、指導クラスの内容など、より充実させていきたいですね。
現時点ではもう1店舗出すということまでは考えていませんが、いずれはその可能性もあるでしょう。ちょっとずつ広げて、総合格闘技に興味を持つ方が増えていくと嬉しいです。
僕はいち格闘家でもありますが、それだけでなく、経営者としての考えも大切にし、柔軟でありたいですね。
(取材協力:ライトシングアカデミー/吉田善行)
(編集:創業手帳編集部)