大勢が行く逆を行け。リアルテックファンド代表 永田暁彦氏が実践する「マーケット拡大の秘訣」(インタビュー後編)

創業手帳
※このインタビュー内容は2017年11月に行われた取材時点のものです。

「どれだけゴールを共有できるか」が成功のカギ

(2017/11/17更新)

リアルテックベンチャー企業に投資するファンドの代表者であり、ミドリムシを主力事業とするベンチャー企業・ユーグレナの取締役でもある、永田暁彦氏。後編ではベンチャー企業に投資する際にチェックしているポイントや、ミドリムシを世間に広めていった経営戦略について、そしてベンチャー企業、起業家へのメッセージをうかがいました。

前編はこちら→世の中の役に立たないベンチャーはいらない。 リアルテックファンド代表 永田暁彦 氏インタビュー(前編)

永田 暁彦
リアルテックファンド代表
株式会社ユーグレナ 取締役 財務・経営戦略担当
独立系プライベートエクイティファンド出身。2008年に株式会社ユーグレナの取締役に就任。ユーグレナにおいては、事業戦略立案、M&A、資金調達、資本提携、広報・IR、管理部門構築、東証マザーズ・東証一部上場など、技術を支える戦略、ファイナンス、管理業務分野を担当し、当該領域に精通。リアルテックファンドでは、代表としてファンド運営全般を統括する。

投資するポイントは「テクノロジーを捨てられるかどうか」

ー「社会にインパクトを与えるリアルテックベンチャーに投資する」という定義がありますが、その会社が成長していけるかどうかの見極めは、どのようにしていますか?

永田こう言うと少し語弊があるかもしれませんが、私たちが大切にしているのは「研究者がテクノロジーを捨てられるかどうか」です。

前述しましたが、会社は課題を解決するための存在です。解決したい問題が自分たちの専門外の分野であったとしても、今持っている技術を捨てて新しい分野に取り組もう、という強い意識を持っている人なのかを重要視しています。頑固さも大事ですが、目的を達成するための柔軟性が必要だということですね。

あと、我々は研究チームで評価しているので、3人以上のチームじゃない企業には投資しない、と決めています。

ー今のお話を伺うと、出雲さんと永田さんの物事の見方が少し違うからこそ、ユーグレナは成長していったんだと思いました。

永田:そうですね。出雲は「ミドリムシを捨てる」って絶対言わないと思います(笑)。

先ほども話しましたが、大切なのは柔軟性と頑固さです。「ミドリムシにこだわる」ということは、社長としてやらなくちゃいけないことなんですね。ですが先を見越したときに、私は立場として「こだわるな」っていうことを言わなくちゃならないときもあります。このバランスを明確にして、語らずとも分かり合っている状況が必要なんじゃないかと思います。社内と社外に対してどうメッセージを発するか、という役割分担ですね。

皆が「いいね」という事業はだいたい危ない

ー例えば、ユーグレナに関しては社会の問題を解決するために様々な事業を展開していますが、永田さんは経営戦略を考える際に大切にしていることはありますか?

永田:そうですね、出雲は社会課題の解決に向かって突き進んでいますが、私は戦略を担当している立場として常に考えているのは「逆張り」です。

例えば、今やITの事業はものすごい人気だと思います。ですが、私たちがやっている健康食品の分野は、ITと比べると人口が少ないと思います。

何が言いたいのかというと、人口が少ない・あまり人気がない分野は、競合がいないからこそマーケットを拡大していくことができる、ということです。なので、私は世の中の人気路線とは違う「逆張り」が一番大切だと思っています。

やりたい事業に関して、起業家の方は様々な方に相談すると思うのですが、「これ、どうですか?」と相談して、「それいいね!」とか「流行っているね!」って言われるものは、だいたい危ないと思います。「なんでそんなことするの!?」って言われるようなものがいいですね。

ー周りの人の9割くらいは反対しているけれども、ものすごく鋭い1割の人が賛成してくれる事業が、マーケットを拡大しやすいビジネスなのかもしれませんね。ちなみに、ミドリムシは今でこそ様々なメディアに取り上げられていますが、「ブレイクしたタイミングはココだった」という実感はありましたか?

永田「ミドリムシ」っていうキーワードが市民権を得始めたタイミングですね。2010年頃だったと思います。

実は、メディア戦略の初期段階はミドリムシの学名である「ユーグレナ」という単語を使っていましたが、2010年頃に「ミドリムシ」に切り替えました。

「食品に「ムシ」という単語をつけるのは、やめた方がいいのでは?」という意見をたくさんいただきましたが、これも先ほどお話しした「逆張り」戦略の一つです。「東京大学卒業生が、ユーグレナという新素材を広めようとしている」より、「東京大学卒業生が、ミドリムシを使用した食品を作っている」という謳い文句の方が、メディアが取り上げやすい内容ですよね。

「難しい話を少しずつ世間に伝えて知名度を上げていこう」という方針から、「とにかく認知してもらって誤解を解いていこう」っていう方針に変えて、「ミドリムシ×原宿のカフェ店員」と言った自分たちと真逆のものを掛け合わせてメディアに紹介したこともあります。
その結果、数々のメディアに取り上げていただいて、今に至ります。

辿り着きたいゴールを共有できてこそ、苦しい状況を乗り切れる

ー最後に、起業家へのメッセージをお願いします。

永田まずは「ここまで辿り着きたい」というゴールを、メンバーと共有することが大切だと思います。

例えば私たちは今、ミドリムシを使用した燃料を開発して事業化しようとしていますが、それが実現するまではしばらく苦しい状況が続くと思います。ですが、「ミドリムシを使用した燃料で地球のCO2排出量を減らそう」という未来のゴールをメンバー全員で理解しているから耐えることができます。

ユーグレナは、困っている人を明日から1人2人助けていくのではなく、5年は辛抱するけど、5年後には困っている人を10万人助けることができるような事業を展開しています。
そう言った方針を、経営陣や創業メンバー、社員全体でどれだけ共有できているかっていうのは大切だと思います。

(取材協力:リアルテックファンド代表/永田暁彦)
(編集:創業手帳編集部)

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