オープンイノベーション促進税制とは?要件やメリットなどを起業家の目線で解説
本税制はスタートアップにとって出資やM&Aのチャンス!令和5年度の改正についてもお伝えします
スタートアップの起業家は、大企業からの出資に大きく関わるオープンイノベーション促進税制を理解しておくべきです。令和5年度の改正により、M&Aおよび出口戦略との関連も大きくなり、本税制の重要度はますます高くなりました。
そこで今回はオープンイノベーション促進税制について、概要や要件、メリットなどを起業家の目線から解説します。スタートアップ・ベンチャーの起業に関心のある人は、ぜひ参考にしてください。
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この記事の目次
オープンイノベーション促進税制とは
オープンイノベーション促進税制とは、国内の事業会社やその投資部門が、スタートアップ企業に出資する場合に所得控除を受けられる制度です。スタートアップ企業とのオープンイノベーションに向け、同企業の新規発行株式を取得する場合に、取得価格の25%が控除されます。
なお、オープンイノベーションとは、自社以外の知見や技術を積極的に取り込み、自社の商材やサービス、ビジネスモデルを刷新すること。成長が鈍化した事業会社も、オープンイノベーションで新しい技術やビジネスモデルを活用すれば、持続的な成長が可能になります。
オープンイノベーション促進税制は、そのようなオープンイノベーションを推進するために設けられた仕組みです。スタートアップが出資を受けやすくするとともに、大企業や中小企業の成長を促進する仕組みとも言い換えられるでしょう。
オープンイノベーション促進税制の改正について
令和5年度(2023年度)の税制改正により、オープンイノベーション促進税制が拡充されます。スタートアップへの出資の形式が既存発行株式の取得、つまりスタートアップを買収するM&Aでも所得控除が受けられるようになる見込みです。
本改正により、スタートアップはM&Aによる出口戦略(イグジット)を考えやすくなります。M&AはIPOに比べて実現が容易であるため、スタートアップを起業すること自体のハードルも下がるといえるでしょう。
なお、オープンイノベーション促進税制の対象にM&Aを含めることは、2022年9月に経団連が提言した内容でもありました。大企業にも、スタートアップとのオープンイノベーションおよびM&Aに対する意欲が十分にあることが示唆されます。
▼スタートアップのM&Aについては以下の記事も参考にしてください。
オープンイノベーション促進税制のメリット
オープンイノベーション促進税制を起業家の目線で見ると、主に以下のようなメリットがあるといえます。
出資を受けて成長速度を速められる
本税制のオープンイノベーション要件には、出資する事業会社がスタートアップの成長に貢献する協力を行うことが明記されています。
具体的には、事業会社の資金や設備、サプライチェーンなどを活用できるようになることが想定されます。そのような協力を受けることで、スタートアップは事業の成長速度を速められるでしょう。当初想定していなかった規模やベクトルで成長できる可能性もあります。
M&Aによるイグジットが容易になる
令和5年度の改正により、オープンイノベーション促進税制はM&Aにも適用されるようになります。事業会社に大きな節税効果が生まれるため、スタートアップは出口戦略(イグジット)としてM&Aを実現しやすくなるはずです。
M&AでEXITするハードルが下がることで、ベンチャーキャピタルから出資を受けやすくなる可能性もあります。またIPOに比べてEXITまでの期間も短縮できるため、次々と新しい事業を起こしたい起業家にとっても好ましいといえます。
事業会社は未来投資をしながら節税できる
スタートアップに出資する事業会社の目線では、本税制の大きなメリットは節税効果です。本税制の所得控除は出資額の25%なので、法人税率を23.2%とすると出資額の5.8%分だけ法人税が安くなります。
例えば、1億円出資すれば580万円、年間上限の500億円の出資だと29億円もの節税効果が生まれます。加えて、将来的にはスタートアップの革新的な技術やビジネスモデルを活かした成長により、さらなる収益を得ることが可能です。
以上より、オープンイノベーション促進税制は、内部留保を多く持っている事業会社にとってメリットが大きい制度といえます。
なお、中小企業の場合、1,000万円から出資が認められます。そのため、これから起業する経営者の方は、将来的にスタートアップへ出資することも頭に入れておくと良いでしょう。
オープンイノベーション促進税制の要件
オープンイノベーション促進税制では、スタートアップ企業(受け手側)と対象法人(出資側)について、以下の要件が設けられています。そのほか、出資の金額や年数などについても、一定の要件があります。
スタートアップ企業(受け手側)要件
オープンイノベーション促進税制の出資対象とスタートアップ企業は、以下9つの要件を満たす法人です。なお、外国法人でも、下記の要件を満たす法人に準ずると認められれば、出資の対象になります。
1. 株式会社
2. 設立10年未満(要件を満たす場合設立15年未満)
3. 未上場・未登録
4. 既に事業を開始している
5. 対象法人とのオープンイノベーションを行っている又は行う予定
6. 一つの法人グループが株式の過半数を有していない
7. 法人以外の者(LPS、民法上の組合、個人等)が3分の1超の株式を有している
8. 風俗営業又は性風俗関連特殊営業を営む会社でない
9. 暴力団員等が役員又は事業活動を支配する会社でない
出典:経済産業省「オープンイノベーション促進税制 申請ガイドライン(B)」
なお、直近の決算で売上高研究開発費率が10%以上かつ営業損失がある場合、設立10年以上15年未満の企業も出資の対象です。
対象法人(出資側)の要件
オープンイノベーション促進税制の対象法人(出資側)に課せられる要件は下記の通りです。青色申告書を提出する株式会社等で、スタートアップとのオープンイノベーションを目指しさえすれば対象となれます。そのため、スタートアップ企業が、本税制の恩恵を受けて事業会社から出資を受けられる可能性は比較的高いといえるでしょう。
1. 青色申告書提出法人であること
2. スタートアップ企業とのオープンイノベーションを目指していること
3. 以下のいずれかの法人形態であること
・株式会社
・相互会社
・中小企業等協同組合
・農林中央金庫
・信用金庫及び信用金庫連合会
出典:経済産業省「オープンイノベーション促進税制 申請ガイドライン(B)」
加えて、対象法人が主体となるCVCについても、以下の要件を満たせば対象となります。CVCとは、事業会社が自己資金で組成するファンドのことです。自社の事業収益を高めることを目的として、ベンチャー企業に投資します。
1. 上の対象法人が出資割合の過半数※を有する以下の組合
2. 投資事業有限責任組合(LPS)のうち
a. 対象法人の国内完全子会社が無限責任組合員(GP)
であるもの
b. 対象法人が単独の有限責任組合員(LP)であるもの
民法上の組合
※出資割合の計算に当たっては、対象法人が他のLPSを通じて行う当該CVCに対する出資の金額は除外します。
出典:同上
出資要件と所得控除の上限額
オープンイノベーション促進税制の出資要件は以下の通りです。
・資本金の増加を伴う現金による出資であること
・1件あたり1億円以上の出資であること(※対象法人が中小企業の場合:1,000万円以上
・スタートアップ企業が海外法人の場合:一律5億円以上)
・オープンイノベーションに向けた取組の一環で行われる出資であること
・取得株式の3年以上の保有を予定していること
・純出資等を目的とする出資ではないこと
出典:経済産業省「オープンイノベーション促進税制 申請ガイドライン(B)」
上記の通り、対象企業が3年以上の継続保有を見込み、スタートアップの新規発行株式を一定額以上取得する場合に本税制が適用されます。また1件あたりの出資額は現金で1億円以上(中小企業が出資する場合は1,000万円以上)です。
加えて、出資する対象企業が受けられる所得控除の上限額については、以下のような定めもあります。
・1件あたり25億円(1回の払込み額のうち100億円まで税制対象)
・一事業年度内あたり125億円まで(同じ事業年度内の出資額の合計は500億円までが税制対象)
※所得控除の割合は取得価額の25%
出典:同上
まとめると本税制でスタートアップは、事業会社から1回1,000万〜100億円、年間500億円まで出資を受けられるチャンスがあります。
オープンイノベーション要件
本税制の出資要件に含まれるオープンイノベーションとは、以下3点を満たす事業活動のことを指します。
1. 対象法人が、高い生産性が見込まれる事業または新たな事業の開拓を目指した事業活動を行うこと
2. 1の事業活動において活用するスタートアップ企業の経営資源が、対象法人にとって不足するもの、かつ革新的なものであること
3. 1の事業活動の実施にあたり、対象法人からスタートアップ企業にも必要な協力を行い、その協力がスタートアップ企業の成長に貢献するものであること
出典:同上
オープンイノベーション促進税制・適用までの流れ
事業会社がオープンイノベーション促進税制の適用を受けるための手順は以下の通りです。
1. 経済産業省への事前相談※(相談から30日以内に回答)
2. スタートアップへの出資
3. 経済産業省への事前相談※(相談から30日以内に回答)
4. 経済産業大臣への証明書交付申請(事業年度末日の50日前〜30日後)
5. 経済産業大臣による証明書の交付(申請から60日以内に交付)
6. 税務申告
※事前相談は任意手続
出典:経済産業省「オープンイノベーション促進税制 申請ガイドライン(B)」
出資を受ける側のスタートアップについては、事前申請などは特に必要ありません。また出資を受ける方法としては、直接交渉や知人からの紹介、イベント、マッチングサイトなどがあります。
まとめ
オープンイノベーション促進税制が改正され、M&Aにも適用されるようになれば、起業家にとってかなりの追い風です。イグジットのハードルが下がるため、起業を考えやすくなります。
革新的な事業に関するアイデアや技術がある人は、これを機会にぜひスタートアップの起業を前向きに検討してみてください。
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