後継者不足の問題を解決するには?原因から対策までまとめて解説

事業承継手帳

後継者不足の現状と原因を知り、自社に合った対策を講じよう


企業によっては後継者不足に悩んでいる場合もあります。
会社を存続させ続けるためにも問題を解決することが望ましいですが、対策の取り方がわからない企業もあるかもしれません。

そこで今回は、後継者不足の割合や推移を解説すると共に、後継者不足が起きる要因や引き起こされる問題、問題を解決するための対策方法について解説していきます。
事業承継の予定がある経営者の方や後継者不足で悩んでいる方は、ぜひ参考にしてみてください。

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後継者不足の割合と推移


後継者不足の現状は帝国データバンクによる「全国「後継者不在率」動向調査(2024年)」で把握できます。
全国にある全業種約27万社を対象とした調査で、2024年の後継者動向では、後継者がいないもしくは未定と回答した企業は14.2万社にも上ったといいます。
全国の後継者不在率は以下のとおりです。

年度 後継者不在率
2017年 66.5%
2019年 65.2%
2020年 65.1%
2023年 53.9%
2024年 52.1%

調査結果を見ると、2017年度は過去最高の後継者不在率となっていますが、その後は徐々に低くなっており、2024年には前年度から1.8ポイント低下し、改善傾向が続いています。
これは、事業承継に関する官民の相談窓口が全国に普及し始めていることが要因だと考えられます。
各種支援メニューも拡充されているため、改善に向けて大きな影響を与えたことがうかがえます。
今後も様々な対策が取られることで、後継者不在率が今後も下がっていくでしょう。

後継者不足が起きる原因


年々後継者不在率は減少傾向となっていますが、後継者不足に悩む企業があることには変わりありません。
ここでは、なぜ後継者不足が起きてしまうのか、その要因を解説していきます。

親族が後継者になりたがらない

事業承継となれば、配偶者や子ども、親族など、親族内承継が一般的です。
一緒に会社を経営してきた親族がいれば後継者に選ばれるケースが一般的ですが、その親族が会社を引き継ぐことを拒むため、後継者不足につながっている事例も多いです。
身内や親族に会社を任せようとしたものの、その人物に経営者になれるような資質や能力がないことから断念せざるを得ないケースも中にはあります。

事業を引き継いでくれる子どもがいない

引き継ぐ子どもがいない=少子高齢化が要因だと考えられます。
少子化の加速によって事業を引き継ぐ子どもがいない経営者もいるため、こうした状況が続けば後継者不足に悩む企業もさらに増えていくはずです。
経営者が高齢になり交代時期になったとしても、担い手となる若い人材がいなければ後継者を任命できません。

従業員への引き継ぎが難しい

配偶者や子ども、親族に会社を引き継いでもらうことが難しい場合には、次に従業員への引き継ぎが検討されます。
しかし、個人経営や中小企業であれば従業員が少ないために担い手がいないケースもあります。
その場合は、事業承継をしたくてもできません。
また、たとえ従業員がいても経営者になれるような能力やノウハウを持っていない場合は不安要素が多いため引き継ぎも不可能となってしまいます。

後継者の育成に取り組めていない

その結果、育成が終わる前に経営者が亡くなるなどして事業承継が難しくなるケースもあります。
企業は後継者不足にならないためにも対策を取っておく必要がありますが、後継者の選定や教育、経営資源の引き継ぎなどには多くの手間や手続きが必要です。
そのため、対策を取ろうとしても日常の業務に支障を与えてしまうため、思うような時間が確保できないケースもあります。

一般的には、後継者の育成には5~10年程度の期間が必要だと言われています。
しかし、育成方法がわからない、思うように時間が取れないからと後回しにしてしまう企業も多いです。

事業自体の将来性が不安視されている

事業の先行きが不安な場合は、後継者としても安易に引き継ぐことはできません。
事業が安定し、将来性も期待できれば引き継ぎを前向きに検討できますが、経営難に陥っているのであれば躊躇うのも仕方ありません。

利益が大きく減っている企業であれば引き継ぐとしてもリスクが大きいため、経営者の子どもであっても親の会社を引き継ぐことには前向きになれないでしょう。

負債がある

企業によっては負債を抱えているケースもあります。その額が大きければ大きいほど、後継者を見つける作業は困難になります。
前述した事業の先行きが不安な場合と同様に、子どもであっても会社を引き継ぎにくいため、負債を抱えている企業であれば、後継者を見つけられずに思い悩む経営者も多くいる傾向です。

後継者不足によって引き起こされる問題


後継者不足に陥ると、様々な問題が浮上してきます。どういった問題が懸念されるのか解説していきます。

黒字経営でも廃業に陥る

後継者不足が深刻化してしまえば、黒字廃業する企業も増加してしまいます。
経営がうまくいき安定した黒字経営ができている企業でも、後継者がいなければ廃業を選択せざるを得ません。

特に家業を営んでいる事業主に多い問題で子どもに事業承継できないために、そのまま廃業となってしまうケースも多くあります。
経営者の高齢化や健康面の問題が理由となり廃業に至ってしまうケースが多いので、早い段階で後継者について考えておく必要があります。

日本経済が衰退する可能性もある

日本の企業の99.7%は中小企業であると言われています。こうした背景の中で中小企業の多くが後継者不足で悩み、廃業が続いてしまうと日本経済が衰退する危険性もあります。
例えば、ネジにしても廃業して製造できなくなってしまえば、ものづくりに大きな影響を与えてしまうこともあるでしょう。

また、日用品や食品などを取り扱う小売店が廃業した場合、地域住民の生活に影響を与えてしまいます。
人々の生活や日本経済にも影響があるため、後継者不足に関しては対応策を検討する必要があります。

後継者不足の問題を解決するための対策方法


事業を継続させるためにも円滑な事業承継を行い、次世代に経営資源を引き継ぐ必要があります。後継者不足を解決するための対策方法は以下の通りです。

親族や身内、従業員から後継者を見つける

後継者不足を解消する際にまず考えられるのが、親族や従業員といった身近な人物に事業を引き継いでもらうことです。
既に親族が一緒に働いている場合は、次の経営者として指名しやすいです。

しかし、後継者に指名しても断られるケースがあります。その場合は、別の後継者候補を見つけなければいけません。
たとえ親族や従業員を後継者として指名できても、事業経営に関するノウハウが無ければ育成も必要です。そのため、早い段階での事業承継計画が重要です。

外部の経営者に依頼して招へいする

親族や従業員の中から後継者となる人物を見つけ出せない場合には、外部の経営者を招き入れて事業を引き継いでもらうこともできます。
将来性の高い事業や安定性のある事業を行っていれば、「やってみたい」と考える人も出てくるかもしれません。
優秀な人材に承継できれば、事業が成功して成長できる可能性も期待できます。

ただし、小規模な会社だと収益性や継続性を不安視されるケースもあり、オファーを受け入れてもらえず後継者不足が解消されない場合もあります。
その際は、他の承継方法を考えなければいけません。

引き継ぎ支援を行う公的機関に相談する

後継者不足を解消する対策として、公的機関に相談する方法もあります。そのひとつが、「事業承継・引き継ぎ支援センター」です。
中小企業診断士や税理士といった専門家が在籍している施設で、後継者が不在となる場合のサポートや事業承継計画の策定といったサポートを受けられます。

また、商工会議所では事業承継に関する専門家を紹介してもらえるサポートがあります。
基本的に公的機関は無料で支援を受けられるので、事業承継に関する悩みを気軽に相談できます。悩んだ時には一度相談に行くことを検討してみてください。

後継者とのマッチングサイトを利用する

経営者不足に悩む企業と会社を引き継ぎたいと考える人をマッチングさせるサービスを活用することも可能です。
インターネットを活用したマッチングサイトのため、手軽に後継者探しができる点が魅力です。
民間企業がサイトを運営している場合は有料での利用となるケースが多く、成果報酬を支払う必要があります。
そのため、予算に合わせたサービスを選定する必要があります。

予算を抑えたい時には、公的機関が提供している「後継者人材バンク」や「事業承継マッチング支援」などの活用を検討してみてください。
公的機関なので基本的に無料で利用できます。マッチングにコストをかけたくない経営者におすすめのサービスです。

その他マッチングサイトに関しは以下の記事もお読みください
M&A起業に役立つおすすめマッチングサイト8選!サイトの選び方のポイントも

M&Aを実施する

近年ではM&Aによって後継者問題の解決を目指す企業も増えています。
M&Aは、企業の合併・買収のことを指します。
企業または事業のすべてもしくは一部の移転を伴う取引きとなり、株式を譲渡すれば経営者は売却益を得られ、従業員の雇用も維持できる点が魅力です。

ただし、M&Aを有利に進めて成功を収めるためには様々なノウハウや専門的な知識が必要です。
M&A仲介会社やコンサルタント会社などの支援を活用して、スムーズな承継を目指してみてください。

創業手帳では中小企業のM&Aに特化した「中小企業のための『M&Aガイド』」をリリース!まだまだ「会社の売却・買収」といったネガティブなイメージが多いM&Aですが、M&Aを活用することにより、事業の急速の発展や新規事業の展開など事業の成長においても有効な手法です。また会社全体ではなく、一部の事業のみのM&Aなど、M&Aの手法は様々。詳しくは無料でお配りしているガイドブックを是非ご覧ください。


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事業承継の成功事例3選


最後に、後継者問題を解消できた事業承継の成功事例を紹介していきます。

M&Aで将来性を買われた事例

プラスチック射出成形業を展開している澤村製作所は、経営者が84歳と高齢になったことを受けて親族承継を目指して事業を継続していました。
しかし、負債や親族の経営に対する自信のなさから「できない」と断られ、承継が白紙になったと言います。
その後も従業員に継承を打診してみたものの引き受け手が見つからず、最終的に事業売却を決意しました。

銀行や信用金庫、商工会議所などを通じて譲受先候補を紹介してもらった結果、5~6年間は業績が黒字だったことや大手企業を取引先として抱えていた部分を評価され、同事業を展開している企業に事業譲渡が決定しました。
規模の小さい企業ですが、将来性を買われた事例です。

親族内承継を成功させた事例

資材の研磨加工や材料特性の評価など、先進材料加工に対応する秋田県の斉藤光学製作所では、前経営者であり現経営者の父親が前々から事業承継を検討していたようです。
そのため、早い段階から承継に向けての準備を進め、2017年に経営者の息子が入社したことを機に、本格的に事業承継をスタートしていきました。
息子は、役員就任をきっかけに事業承継を承諾しています。

父親が長年にわたり、事業や財務状況を把握する人材を育成していたことにより、問題なく2021年に息子に事業承継を成功させました。
スムーズな承継を目指したいのであれば、早い段階での行動が必須だということがわかる事例です。

老舗の蕎麦屋が復活した事例

銀座で30年続いている老舗蕎麦屋の「多吉」はM&Aによって事業承継を成功させています。
後継者不在に悩む飲食店の案件を探していた不動産コンサルティングや投資ビジネスを手掛ける人物と、マッチングサービスを通じて買収が決定しています。
その際、契約を結んだ後に赤字が判明しトラブルに見舞われましたが、譲渡金額から赤字分を差し引くことで交渉が成立し、老舗蕎麦屋の廃業を回避できました。
事業承継後も、働いていた従業員はそのまま雇用されたため、蕎麦の味も接客も変わらず提供でき、常連を中心に多くのお客様に来店してもらえるお店を続けているようです。

経営者不足に悩んでいる人の中には、同事業の経営者や知識を持った人物だけを承継先として考えている方もいるかもしれません。
しかし、魅力を感じられる事業であれば買収したいと考える企業や人物はいるでしょう。
広く承継先を募ればメリットのあるM&Aが成功する可能性があります。

まとめ・後継者不足を解決するには早期に取り組むことが大切

後継者不足率は年々改善されつつありますが、後継者不足に悩む企業は世の中に多く存在しています。
親族間での承継や従業員が後継者になりたがらないなど、様々な理由で後継者不足が起きています。
後継者不足の解消は早めの対処が必要なので、今回紹介した対策方法を試して後継者探しをしてみてください。

創業手帳別冊版「事業承継手帳」では、事業承継やM&Aに関する情報を多数掲載しています。悩み解消に役立つ内容となっているので、ぜひ参考にしてみてください。

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(編集:創業手帳編集部)

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