「イレギュラー系」支出のキャッシュフローを管理する
意外な時期に発生する「イレギュラー系」支出のキャッシュフローを上手に管理して資金ショートを防ぐためのポイントとは?
(※2014/7/31に内容をアップデートしました)
キャッシュは会社の血液である。人間の身体が血液の循環無しに生きていけないのと同様に、会社はキャッシュが回らなければ生きていくことができない。
利益がどれだけあろうと、キャッシュが途切れてしまうと「黒字倒産」になるし、逆にどれだけ赤字になっても、キャッシュさえ途切れなければ会社は潰れないのだ。
事業継続のためには、営業で売上を獲得したりコストを減らすのはもちろん重要だが、創業期の会社経営ではキャッシュを恒常的に獲得し、キャッシュ切れをさせないように管理することに最も意識を向けるべきである。
そのために、キャッシュフローを管理する上での基本的な注意点を挙げた後で、一番の重要なポイントであるイレギュラー系のキャッシュ・アウトを管理する方法を紹介しよう。
1.キャッシュ・インのキャッシュフロー管理のポイント
1.1.キャッシュ・インを恒常的に生み出すようなモデルをつくる
キャッシュを獲得する方法は大きく分けて「自分で用意する」か「人に用意してもらう」かの2つだ。前者は営業努力で売上を獲得することで、後者は金融機関等から借入を行ったり資本を入れてもらう方法である。
しかし、起業して間もない創業期のスタートアップベンチャーに対して、融通を利かせてくれる金融機関はさほど多くない(※)。よって、起業家はいち早く売上を伸ばすことによって余裕のあるキャッシュフローを恒常的に生み出すモデルを確立しないといけない。
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1.2.掛取引でキャッシュ・インが遅くなる
ここで注意しなければいけないのが、「売上=キャッシュイン」とはならない場合が多いということだ。確かに、現金売上の場合は「売上=キャッシュイン」となるが、掛取引を行う場合には、通常はキャッシュを回収できる時期が後ろにずれ込む。
起業直後はキャッシュに余裕などない場合が多いだろう。回収できていない間に大きな出費を強いられたら…。
これを回避するためにも「売上の入金サイトを短くすること」が重要だ。入金サイト(※)は短ければ短いほど良い。創業期のスタートアップベンチャーでも、最長でも30日サイト(月末締め翌月末払い)を目指したいところだ。
2.キャッシュ・アウトのキャッシュフロー管理のポイント
キャッシュ・アウトについては、発生の時間的な性格から二パターンに分類することができる。すなわち、「レギュラー系」と「イレギュラー系」だ。
前者は家賃や水道光熱費などの毎月発生するもので、後者は納税など年に数回しか発生しないものだ。
2.1.レギュラー系のキャッシュ・アウトを管理する
レギュラー系のキャッシュ・アウトの管理でやるべきことは「仕入れの支払サイトをできるだけ長くすること」である。最低でも売上の入金サイト以上にしておかないと、支払いが先行し、キャッシュが厳しくなってしまう。
レギュラー系のキャッシュ・アウトは毎月発生するため、経営者も「だいたい『どの時期』に『どれくらいの金額』が出ていくのか?」を感覚として忘れることなく把握しやすい。よって、カレンダーで毎月レギュラー系の支出が発生する日をメモしておき、地道に管理していけば問題ないだろう。
2.2.イレギュラー系のキャッシュアウトの管理こそ細心の注意を払う
支出に関するキャッシュフロー管理では、年1回・半年1回など、イレギュラー系のキャッシュ・アウトははどうしても忘れがちになる。
よって、キャッシュ切れ(資金ショート)を予防するためには、レギュラー系よりリスクの高いイレギュラー系のキャッシュ・アウトにより注意を払うべきである。
イレギュラー系のキャッシュ・アウトしっかりと管理するためには「資金繰り表」を作成し、キャッシュフローの未来予測をするのが基本かつベストな方法だ。資金繰り表を作成する意味は、「タイムリーな数字の把握に基づくより未来の正確な予測」をすることである。
例えば「〇月〇日に納付しなければならない法人税△△円」は未来の数字で実際は今後の売上や利益によって変わってくるはずだが、今現在の数字と、それに今年のトレンドを加味した予測を加えることで、大まかな数字を把握することができる。
キャッシュフローの数字を把握せず、自分の勘だけを頼りに進んだ結果、実は芳しくない方向に進んでいたということがよくある。「俺は分かっている。大丈夫だ。」と言っている経営者ほど、取り返しがつかなくなる場合が多い。逆に、儲かっている会社の経営者は、必ずと言ってよいほど自社の数字を見て戦略を考えているものである。
3.イレギュラーな時期に発生する「社会保険」と「消費税」によるキャッシュ・アウト
事業を行う上で、必ず立ちはだかるのが「社会保険」と「消費税」だ。この2つは「事業開始当初は支払わないが、数年後から支払うこととなる」という厄介な性質を持っている。当初は気にしなくてもよいが、ある時期からは考慮しなければならないものである。つまり、これまで述べてきた「イレギュラー系」の支出ということになる。
3.1.社会保険料の支払
常時5人未満の従業員しか雇っていない個人事業主であれば、社会保険の加入義務はない(任意加入は可能)。しかし、法人や5人以上雇っている個人事業主であれば、ベンチャー企業であっても強制的に社会保険への加入の義務がある。よって、創業当初に起業家1人でベンチャー経営をやっている時期は社会保険を考慮する必要はないが、事業が軌道に乗り始めて5人以上雇うことになると強制加入となる。
社会保険のコストは「労使折半」だ。これは社会保険のコストについて会社半分・労働者半分の負担をするということである。例えば、月給30万円の場合、年金29,910円・健康保険51,360円となり、会社と労働者がそれぞれ14,955円・25,680円ずつの負担することになる(平成26年3月以降・東京都の場合)。
この負担分が毎月発生することになるので、社会保険のコストの支払が始まる時期になると、毎月のキャッシュが厳しくなる。
3.2.消費税の納税
消費税については、「2年前の売上が1,000万円を超えているかどうか」で納税義務が決まる(例外があるが、今回は詳細は割愛する)。
2年前の売上が1,000万円以下(年間売上)の場合は消費税の納税義務が免除されるため、創業後2年間は消費税を納める必要がない。その間は消費税分のキャッシュが会社に入ってくるが、創業3年目以降は2年前の売上が1,000万円を超えていた場合、消費税を納税しなければならない。
例えば、毎年2,000万円(税抜き)の売上があったとすると、2年目までは2,160万円(税込み)の収入があったのに、3年目からは2,000万円の収入しかなくなる。つまり160万円分のキャッシュが厳しくなる。
以上のように、社会保険と消費税は、ある時期から継続的にキャッシュ・アウトが発生するようになるので、準備をしていなければ、キャッシュフロー管理の中に「降って湧いたような」感じを受ける経営者も多いようだ。
しかし、事前情報と知識を持って十分なシミュレートができていなければならない。特に消費税は2年前には分かっている事実なので、対策を練る時間は十分にあるはずだ。ポイントを押さえておけば、「降って湧いたような」キャッシュ・アウトにもうろたえることなく対応できるはずである。
4.キャッシュフローの見通しを管理するためには?
4.1.資金繰り表は「売上控えめ費用は多め」でキャッシュフローを管理する
前述した通り、キャッシュフローで支出をきっちり押さえていくためには、重要なのはやはり「『資金繰り表』を作成しトレンドを見ながら未来予測すること」だ。
起業して間もない創業期のスタートアップベンチャーであれば、キャッシュフローの予測に際しては、かなり保守的に見積もって厳しめに予測することをおススメする。「売上控えめ費用は多め」が基本である。
予測よりもキャッシュが多くても何の問題も無いが、予測よりキャッシュが少ないと目も当てられない結果になる。資金がショートしてしまっては予測の意味がない。
4.2.会計士事務所・税理士事務所に外注するときはレスポンスの早い事務所を選ぶ
経理の仕事は直接利益を生まない「面倒な裏方の仕事」と考えることもできる。スタートアップベンチャーにとっては、起業直後は専属のスタッフを雇うのも難しいだろう。しかし、会社の土台であり、ぜひ創業期からキッチリこなせるようにしておきたい。
どうしても自分でやるのが苦手なベンチャー経営者は、会計事務所や税理士事務所に丸投げするのもアリだ。その場合は、レスポンスの早い事務所を選ぶのがポイントである。
例えば、4カ月遅れの数字しか出せないという事務所を見たことがある。4月にようやく昨年12月までの数字が出来上がってくるということであり、このような事務所は論外と言ってよい。
月次の処理と併せて資金繰り表の作成も行う事務所が多いので、経営者は「どれくらいのスピード感で資金繰り表を作ってくれるのか」を会計事務所や税理士事務所を選ぶときの条件の1つとして考慮するとよいだろう。
「資金繰り表」は、知識がなければ作成するのが難しい要素も多い。迷ったら「レスポインスの早い」会計士事務所や税理士事務所に相談するのも良いだろう。
(監修:渋谷税理士法人 中村剛士)
(創業手帳編集部)
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