中小企業注目のインボイスファイナンスとは?
インボイスファイナンスは業績回復時の強い味方
中小企業における資金調達方法の一環として、インボイスファイナンスが注目されています。
売掛金を利用した資金調達といえば、発行した請求書の売掛金を債権譲渡するファクタリングを思い浮かべる人が多いかもしれません。
インボイスファイナンスは請求書を利用した資金調達に使われる言葉です。
インボイスファイナンスは、コロナ禍など業績低迷時から回復基調にある中小企業の経営者にとって強い味方になると期待が寄せられています。
ここでは、インボイスファイナンスについて詳しく解説していきます。
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この記事の目次
インボイスファイナンスとは「請求書を使った資金調達」
企業は経営に必要な資金をさまざまな方法で調達します。
資金調達の方法にはいろいろありますが、近年話題となっているのがインボイスファイナンスです。
インボイスファイナンスとは、インボイス(請求書)を活用した資金調達です。
インボイスとは『invoice』、商業上の送り状である請求書を指す言葉です。会社が取引先や顧客に対して送付する請求書をインボイスと呼びます。
請求金額や支払い期日といった情報が記載され、債権の存在を証明してくれる書類です。
売り手が請求書を送付することによってそこに債権があることの認識を共有することができ、未払いなどのトラブルを避けることができます。
インボイスファイナンスであれば、資産であるインボイスを売却したり担保に入れたりすることで、金融機関から資金を調達できます。
日本での資金調達は、不動産を担保にした金融機関からの融資が主流でしたが、中小企業の需要にマッチしたインボイスファイナンスが注目を集めています。
インボイスファイナンスのメリット
インボイスファイナンスは、多くの企業が注目する資金調達方法です。どのようなメリットがあるのか紹介します。
不動産がなくても資金調達できる
融資契約で一般的に担保の対象になるのは、建物や土地といった不動産です。
しかし、まだ創業したて、規模が小さい企業のように担保となるものを持たないケースもあります。
インボイスファイナンスは、売掛金があれば不動産のような担保がなくても資金調達可能です。
近年は必要がない不動産などの資産を持たないことが財務上高く評価される傾向があり、インボイスファイナンスへの注目も高まると考えられます。
インボイス担保を持った状態で営業できる
インボイスファイナンスを利用したとしても、金融機関が請求書を差押さえたり、営業活動を停止したりすることはありません。
インボイスを担保とした状態で、今までと同様に営業活動を続けられます。
売掛先に知られずに利用できることがある
インボイスファイナンスは、利用方法によっては売掛先に通知せずに利用できるケースもあります。
売掛先にインボイスファイナンスを利用したことを知られると、経営状況が悪いのではないかと懸念され、取引に支障が出る可能性もあります。
しかし、売掛先に秘密にできればネガティブな印象を抱かれる心配がありません。
自社の信頼を損なわないためにも売掛先に知られるかどうかは重要なポイントなので、申し込む前に確認するようにしてください。
不動産より査定しやすく審査が早い
一般的な融資では不動産を担保にします。しかし、不動産は評価額の算定が必要で、審査に時間がかかってしまう点がデメリットです。
インボイスファイナンスの場合は、請求書の金額がそのまま評価につながるため価値を把握しやすく、審査もスピーディーに進みます。
できるだけ早めに資金を調達したい場合には、インボイスファイナンスを検討してください。
インボイスファイナンスのデメリット
インボイスファイナンスは、メリットばかりではありません。利用するときには、デメリットも確認しておくようにしてください。
インボイスファイナンスのデメリットをまとめました。
会計上の負債が増える
インボイスファイナンスの中でも、売掛債権担保融資は売掛金を担保にした融資であり、一般的な融資と同様に会計上は負債に該当します。
そのため契約条件によって長期借入金か短期借入金として決算書類に記載されることになります。
売掛債権担保融資を利用することにより、借入金が増えれば会計上負債が多いと判断されてしまう点には注意が必要です。
負債が多いと金融機関や取引先、株主からリスクが財務諸表上リスクが高いとみなされてしまうかもしれません。
会計上の負債を増やさないためには、ファクタリングも検討してください。
ファクタリングは、融資ではなく債権譲渡なので負債は増やすことなく資金調達できます。
通常の融資と比較して金利が高い
インボイスファイナンスは、一般的な融資と比較して金利が高めに設定されます。
法定の上限金利に近い金利になることもあるため、金利を意識せずに利用し続けるのは危険です。
返済額が大きくなってしまうため、他の資金調達が使えない時や急に資金調達が必要な場合に限るなど、必要な時に限定して利用するようにおすすめします。
複数の売掛先がないと難しいこともある
インボイスファイナンスでは、売掛先の信用情報や売掛金、取引状況から審査されます。
しかし、融資金額や契約内容によっては、複数の売掛先によるインボイスが求められることもあります。
インボイスファイナンスを利用しようとしても、売掛先が少なくて難しくなる可能性も考えておいてください。
インボイスファイナンスの種類は3つ
資金確保を目的としてインボイスファイナンスは普及しつつあります。ここでは、インボイスファイナンスに分類される3種類をまとめました。
1.売掛債権担保融資(ABL)
売掛債権担保融資は、売掛金を担保にする資金調達です。
一般的にインボイスファイナンスというときには、売掛金担保融資を指すことが多いかもしれません。
ABL(Asset Based Lending)とも呼ばれますが、ABLは売掛債権や商品在庫といった流動資産全体を担保にした融資です。
インボイスファイナンスと言うときには、売掛金を担保にした融資契約のみを指します。
売掛債権担保融資(ABL)のメリット
売掛債権担保融資(ABL)のメリットは、不動産がなくても融資を受けられる点です。
昔の日本企業は資産として不動産を保有して、不動産を担保にして資金調達してきました。
しかし、創業して間もなく、規模が小さい企業では不動産を保有していないことが多く、どのように資金調達するかが課題でした。
売掛債権担保融資であれば、不動産に依存しなくても個人事業主や中小企業が資金調達可能です。
ただし、売掛債権を担保に入れるために売掛先の通知や承諾が必要になることがあります。
承諾を受けるのが難しいからと資金調達に悩む事業主もいるかもしれません。
また、第二地銀やノンバンクでは、売掛金を担保に入れる際に売掛先への通知や承諾が要らないケースもあります。
申し込み時に承諾が必要かどうかを確認してください。
売掛債権担保融資(ABL)のデメリット
売掛債権担保融資は、一般の融資よりも利率が高く設定される傾向があります。
また、審査に時間がかかるケースもあるので、利用する場合には早めに業者を探すようおすすめします。
2.インボイスディスカウントファイナンス
インボイスディスカウントファイナンスは、輸出債権を銀行に売却する資金調達を言います。
輸出者であるインボイス利用者は、輸出債権を譲渡して資金化する仕組みです。
輸出債権を買い取った銀行は、債権額から割り引いた金額を入金します。
債権期日に銀行が、輸入者から輸入代金の支払いを受ける流れです。
輸入者から支払いを受けられないとき、つまり債務不履行があった場合に代わりに弁済を受けることを完全償還請求権(フルリコース)と呼びます。
インボイスディスカウントファイナンスは、リミテッドリコース(一部買戻請求権付き)かノンリコース(買戻請求権無し)で実行されるため、輸入企業が期日に支払いをしなかった場合でも自社が代わりに弁済することはありません。
海外向けに輸出するビジネスは、リスク管理が難しく、輸出企業は取引の都度リスクを負うことになります。
インボイスディスカウントファイナンスを利用することによって、輸出先と取引するときのリスクを避けて安心して海外進出を進められるのです。
インボイスディスカウントファイナンスのメリット
インボイスディスカウントファイナンスのメリットのひとつは、輸入者の信用リスク、相手国のカントリーリスクを回避できる点です。
海外との仕事が軌道に乗って輸出先、輸出国が増えれば増えるほど、リスクも気にしなければなりません。
インボイスディスカウントファイナンスは原則買戻し請求権無しのノンリコースなので、輸出先の国や企業のリスクを避けられます。
さらに、キャッシュフローを改善できる可能性もあります。
海外との取引は入金が遅くなるため、支払いを受けるまでの間に資金不足に陥ってしまうかもしれません。
インボイスディスカウントファイナンスであれば、すぐに資金化できるので他のビジネスに活用可能。
フリーキャッシュフローを増やすためにも、インボイスディスカウントファイナンスが有効です。
インボイスディスカウントファイナンスのデメリット
インボイスディスカウントファイナンスのデメリットのひとつ目は、そもそも取り扱っている金融機関が少ない点です。
日本国内でインボイスディスカウントファイナンスを扱っている金融機関はそれほど多くありません。
そのため、何社かの取り扱い金融機関から条件を比較して選びたい場合や、審査に不安がある場合には適さないことがあります。
また、インボイスディスカウントファイナンスは、3社間ファクタリングなので輸入業者からの同意がなければ債権譲渡できない点もデメリットです。
輸入会社の同意が得られていれば問題ありませんが、そうでなければ利用できません。
3.ファクタリング
ファクタリングは、売掛債権をファクタリング業者に売却する資金調達方法です。売掛金をファクタリング業者に売却して、手数料が差し引かれた金額を受け取ります。
ファクタリングには、2社間ファクタリングと3社間ファクタリングがあります。
2社間ファクタリングの場合は、利用者とファクタリング会社の2社で行い、3社間ファクタリングは、利用者とファクタリング会社、売掛先の3社で契約する方法です。
売掛債権担保融資と混同しがちですが、売掛債権担保融資は銀行からの借入であり借入金として会計処理します。
一方でファクタリングは、借入ではなくインボイスの売却なので売掛金の取引として会計処理します。
そのため、ファクタリングは負債が増えない点が特徴です。
ファクタリングの審査は、自社の信用度でなく取引先の信用度が重視されます。
自社の実績や規模では審査に不安がある場合にも、信用性が高い取引先の売掛金があれば資金調達できるかもしれません。
2社間ファクタリングのメリット
2社間ファクタリングは取引先にファクタリングをしていることを知られないため、取引先との関係に影響を与えない点がメリットです。
2社間ファクタリングは、利用者が売掛金を売却後、取引先から売掛金の支払いを受けて速やかにファクタリング会社に支払います。
2社間ファクタリングは、利用者とファクタリング業者の合意で成立するため、比較的スピーディーに資金調達できる点もメリットです。
現金化を急ぐ場合には、2社間ファクタリングが適しています。
2社間ファクタリングのデメリット
2社間ファクタリングは手数料が割高になる点がデメリットです。
3社間ファクタリングが10%以下の手数料が相場なのに対して、2社間ファクタリングは、10~20%が相場となっています。
2社間ファクタリングはファクタリング業者が直接売掛先から支払いを受けることができないため、リスクが高いと判断されるため割高に設定されます。
3社間ファクタリングのメリット
3社間ファクタリングの場合は、売掛金を売却後、取引先が直接ファクタリング会社に売掛金の支払いを行います。
ファクタリング会社の支払いの回収リスクが少なくなるため、手数料が安く設定される点がメリットです。
3社間ファクタリングのデメリット
3社間ファクタリングは、取引先に売掛金の売却が明らかになる点がデメリットです。取引先との関係によっては、信用に影響してしまいます。
3社間ファクタリングで資金調達をする場合には、今後の取引を減らされるといった悪影響がない程度に信頼関係がある取引先を選ぶようにしてください。
事業の再建にインボイスファイナンスも検討しよう
個人事業主や中小企業が置かれた環境は厳しく、業績悪化や財政難に悩んでいる方も多いかもしれません。
インボイスファイナンスは審査がスピーディーであり、業績悪化時でも利用しやすいため、事業再建時にも利用をおすすめしたい資金調達手段です。
また、インボイスファイナンスだけに頼るのではなく、急な資金確保の手段にしたり、長期的な資金調達と組み合わせる方法もあります。
自社の財政状態や将来的なキャッシュフローに合わせてインボイスファイナンスを活用してください。
(編集:創業手帳編集部)
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