不動産担保ローンのメリットとデメリットをわかりやすく解説
事業資金の借り入れでも活用できる
不動産担保ローンとは、保有している不動産を担保として提供し、融資を受けられるローン商品です。不動産が持つ価値を活用した資金調達方法として、個人・法人問わず活用されています。
多くの不動産担保ローンは、事業資金の借り入れとしても活用できます。運転資金や設備投資資金を工面するにあたって、選択肢の一つとなるでしょう。
今回は、不動産担保ローンの基本的な仕組みや活用できるシーンなどを解説します。ビジネスローンよりも低金利で、高額な融資に対応している魅力があるため、効果的に活用しましょう。
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この記事の目次
不動産担保ローンとは何か
不動産担保ローンとは、所有する不動産(土地や建物)を担保として、金融機関からお金を借りるローンです。担保として提供する不動産には抵当権が設定され、返済ができなくなった場合は金融機関がその不動産を売却し、融資したお金を回収します。
不動産担保ローンは、担保評価がある不動産を保有していれば、法人でも個人でも利用できます。法人が事業資金を用意したり、個人が納税資金を用意したり、さまざまな場面で利用されている商品です。
不動産の価値に応じて融資額が決まるため、数千万円以上の高額な借り入れも可能です。事業を発展させるための投資資金を用意する手段として、不動産担保ローンを活用する経営者も少なくありません。
不動産担保ローンはどんな時に活用できる?
資金繰り・設備投資・事業拡大など、不動産担保ローンを活用できる具体的なケースとして、以下が挙げられます。
事業拡大・設備投資 | ・新店舗の出店 ・工場の拡張 ・大型機械の導入 ・研究開発投資:新製品・新技術の開発に必要な長期的な資金調達など |
運転資金の調達 | ・当面の運転資金を確保したいとき ・季節的な売上変動に対応するための資金確保 ・大型案件の着手前の資金調達など |
事業承継 | ・後継者への事業譲渡時の資金調達 ・相続税の納付資金など |
借入金の借り換え | ・既存ローンよりも低金利の不動産担保ローンに一本化して、返済負担を軽減する |
新規事業への参入 | ・新たな事業領域への進出に必要な初期投資資金の調達 |
M&A資金 | 他社の買収や事業譲受の資金調達 |
危機対応 | 経営危機や災害時の復旧資金の調達 |
つなぎ資金 | 売掛金の入金までの期間や、補助金・助成金の交付までの一時的な資金調達 |
DX投資 | デジタルトランスフォーメーション(DX)に必要なシステム投資 |
オフィス移転・改装 | 事業規模拡大に伴うオフィス移転や大規模改装 |
不動産担保ローンは、一般的に無担保ローンより金利が低く、長期の返済計画が立てやすいメリットがあります。
事業を経営していると、資金調達が必要になるシーンが少なくありません。まとまった資金を借り入れたいときに、不動産担保ローンは有用です。
経営者にとって不動産担保ローンのメリット
経営者の方が資金調達をする方法は、不動産担保ローン以外にもさまざまです。
以下で、不動産担保ローンならではのメリットを見ていきましょう。
無担保ローンよりも低金利で借りられる
不動産担保ローンは、無担保ローン(一般的なビジネスローン)よりも低金利で借りられます。低金利で借りられるということは、利息負担を抑えられる経済的なメリットがあります。
不動産担保ローンが無担保ローンよりも低金利である理由は、不動産という担保を金融機関に提供するからです。借入金の返済ができなくなった場合でも、金融機関は担保不動産を売却して債権(貸したお金)を回収できるため、低金利でお金を貸せます。
一般的な無担保のビジネスローンは、金利が年5〜15%程度であるのに対し、不動産担保ローンでは年1〜4%程度です。利息負担を軽減することにより、財務状況へ与える影響を軽減できるでしょう。
不動産の評価額次第では高額な借り入れができる
不動産担保ローンでは、不動産の価値や申込者の返済能力・信用力などが審査されます。不動産の評価額次第では、数千万円以上という高額な借り入れが可能です(融資上限額は会社によって異なります)。
金融機関は一般的に、不動産の評価額の50〜80%程度を融資限度額として設定します。例えば、評価額が1億円の不動産であれば、5,000万〜8,000万円程度の借り入れが可能です。通常の事業融資では難しい、大型の資金調達を実現できる可能性があります。
特に、好立地の物件は流動性が高いうえに価値そのものが高いため、担保として高く評価されます。工場建設や大型設備導入などの大規模投資を行うとき、企業買収や事業統合に必要な大型資金を調達したいとき、有効活用できるでしょう。
返済期間を長期に設定できる
金融機関によって異なりますが、一般的に不動産担保ローンでは、他の融資と比較して返済期間を長く設定できます。最長で20年~30年程度の返済期間を設定でき、長期に設定するほど月々の返済額を抑えられます。
不動産は安定した資産価値を維持できる強みがあるため、返済期間を長期に設定できるのです。
経営者としては、月々の返済額を抑えられれば、事業のキャッシュフローを圧迫する事態を防げます。大型投資のように、投資をしてから効果を得られるまでの期間が長期にわたる場合でも、長期的な視野で返済計画を立てられるでしょう。
資金は自由に使えるケースが多い
不動産担保ローンの多くは、資金使途が自由です。事業運営にまつわるさまざまな支出に充てられるため、運転資金や設備投資資金など、幅広い用途に充てられます。
まとまった金額の融資を受けられれば、複数の資金ニーズをまとめてカバーできるでしょう。複数のローンを組まずに済めば、返済スケジュールの管理が容易になるメリットもあります。
ただし、金融機関によってはお金の使途に一定の制限を設けている場合があります。完全な自由度があるわけではないため、事前に確認しておきましょう。
経営者にとって不動産担保ローンのデメリットと注意点
適用される金利が低く、まとまった金額を借りられるメリットがある一方で、不動産担保ローンにはいくつかデメリットや注意点があります。
融資の実行までに時間がかかる
不動産担保ローンは、融資の実行までに時間がかかります。ビジネスローンの中には最短即日でお金を借りられる商品もありますが、不動産担保ローンは申込みから融資の実行まで、3カ月程度かかることもあります。
不動産担保ローンで時間がかかる理由は、不動産の正確な市場価値・担保評価を算出するための調査が必要になるからです。不動産は金融機関にとって貸し倒れを防ぐための担保になるため、緻密な調査を行います。
資金需要に対応するためにも、日程には余裕をもって申し込みを行いましょう。
さまざまな手数料がかかる
不動産担保ローンでは、不動産を担保として設定する以上、さまざまな手数料が発生します。無担保ローンよりも事務的なコストが重くなるため、事前に費用を確認しておきましょう。
なお、発生する主な手数料は以下のとおりです。
事務手数料(融資手数料) | 融資額の0.5〜2.0%程度 |
不動産鑑定評価費用 | 5万~20万円程度 |
印紙税 | 数百円~数十万円(融資額によって異なる) |
登記費用 | 5万〜15万円程度 |
火災保険料 | 物件の種別や補償内容によって異なる |
諸費用の体系は、金融機関によって異なります。事前に申し込む金融機関に確認し、いくらの初期費用を用意する必要があるのか把握しておきましょう。
返済できないと不動産を失う
不動産担保ローンでは不動産を担保として提供するため、返済が滞ると不動産を失います。返済が滞ったとき、金融機関は抵当権を実行し、不動産を競売にかけて債権を回収するためです。
なお、実際に競売にいたるまでのプロセスは以下のとおりです。
- 金融機関からの催告
- 競売の申立て(裁判所への申請)
- 裁判所による競売開始決定
- 不動産の評価と競売公告
- 入札と落札者の決定
- 不動産の所有権移転
競売では、市場価格より安い価格(市場価値の6〜7割程度)で売却されます。競売により売却された金額よりも残債が多い場合は、不動産を失った後も返済を継続しなければなりません。
事業用不動産を担保として提供する場合、事業の基盤を失ってしまう点に注意しましょう。低金利で借りられるとはいえ、余裕を持った返済計画を立てることが大切です。
担保評価が低い不動産だと利用できない
そもそも、不動産の担保評価が低いと審査に通過できない可能性があります。担保となる不動産の評価額が低いと、金融機関からすると貸し倒れリスクに備えられないためです。
万が一競売になった場合には、十分な金額で売却できる必要があります。価値の低い不動産は売却が困難で、競売時にはさらに価格が下がるため、担保として機能しないのです。
例えば、立地条件が悪い物件や老朽化した建物、権利関係が複雑な物件などは担保評価が低くなりやすい傾向にあります。担保評価が低い不動産だと、融資額が低額になったり、融資に通過できなかったりする可能性がある点に留意しましょう。
不動産担保ローンの審査でチェックされること
具体的に、不動産担保ローンの審査において、どのような点がチェックされるのかを見ていきましょう。
不動産の価値(築年数・立地・市場価格など)
不動産担保ローンの審査では、不動産の価値を決定するために、以下のようにさまざまな項目が審査されます。
立地条件 | ・地域の人口動態 ・最寄り駅からの距離と主要交通機関へのアクセス ・商業施設・教育施設・医療施設などの生活利便施設の充実度 ・周辺環境の質(騒音、公害、治安状況など) ・地域の将来的な開発計画や再開発予定 ・ハザードマップ上の災害リスク(浸水想定区域、土砂災害警戒区域など) ・周辺の同種不動産の取引事例や賃料水準 |
土地の状況 | ・土地の面積と形状(整形地か不整形地か) ・前面道路の幅員と接道状況 ・土地の高低差や地盤の状態 ・用途地域と建ぺい率・容積率などの法的制限 ・日照条件と眺望 ・上下水道・ガスなどのインフラ整備状況 ・土壌汚染の有無 ・所有権以外の権利関係(借地権、地上権、抵当権など) |
建物の状況 | ・築年数と法定耐用年数の残存期間 ・建物の構造(木造、鉄骨造、RC造など)と耐震性 ・延床面積と使用可能な床面積の比率 ・設備の新しさと機能性(電気、給排水、空調など) ・リフォーム・リノベーション履歴 ・建物の汎用性と転用可能性 ・経年劣化の状況と修繕履歴 ・法令適合性(建築基準法違反の有無など) ・アスベストなどの有害物質の使用状況 |
収益性 | ・現在の賃貸状況と空室率 ・賃料水準の妥当性と賃料改定の可能性 ・賃借人の信用力と賃貸借契約の内容 ・維持管理費や修繕積立金などのコスト ・想定される将来の収益性と安定性 ・類似物件との競争力 |
権利関係 | ・所有権の確実性(登記事項証明書の確認) ・抵当権や根抵当権など担保権の設定状況 ・賃借権や借地権など使用収益権の設定状況 ・共有持分がある場合の持分割合と共有者の状況 ・私道負担や通行権などの権利制限 ・訴訟や紛争に巻き込まれていないか ・相続や贈与による所有権移転がある場合の税務処理状況 |
金融機関からすると、担保不動産を「いくらで売却できる見込みがあるか」という点を評価します。
いざ売却したときに買主が現れやすいか、買主が現れたときにいくらで売却できそうかという点を重視し、担保評価額を査定しています。
申込者の返済能力・信用情報(財務状況・返済履歴など)
不動産の評価だけでなく、申込者の返済能力・信用情報も重要なポイントです。金融機関が評価する、主な項目を見てみましょう。
財務状況 | ・過去3〜5年分の決算書(損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書) ・売上高と利益の推移と安定性 ・自己資本比率と借入金比率 ・手元資金(現預金)の状況 ・実質的なキャッシュフロー ・既存の借入金の返済状況と返済負担率 ・事業計画の実現可能性と将来の収益予測 |
事業の安定性・成長性 | ・事業の業歴(創業からの年数) ・業界内でのポジションと競争力 ・業界の将来性と景気変動への耐性 ・技術力や知的財産の保有状況 ・新規事業への取り組み状況 |
代表者・経営者個人 | ・経営者の年齢と健康状態 ・経営者の資産状況(個人資産の有無) ・個人の借入状況(住宅ローンなど) ・経営者の過去の事業実績 |
信用情報 | ・信用情報機関の情報 ・過去の返済遅延や延滞の有無 ・税金や社会保険料の滞納状況 ・連帯保証債務の状況 |
返済計画の妥当性 | ・返済原資の安定性 ・返済期間中の設備投資計画 ・季節変動を考慮した返済計画 |
申込者の返済能力・信用情報に関する評価項目は、不動産の担保価値と合わせて総合的に評価されます。申込者の返済能力や信用力に問題がある場合、不動産に担保価値があっても融資を受けられない可能性がある点に注意しましょう。
不動産担保ローンの必要書類と申し込み・契約の流れ
金融機関によって差はあるものの、不動産担保ローンの申し込みにあたって必要となる主な書類は以下のとおりです。
- 本人確認書類
- 収入証明書類
- 資産・負債関係書類
- 不動産関係書類(不動産の登記簿謄本や物件の評価資料など)
- 事業計画書
実際に申し込む前に、複数の金融機関で事前相談と仮審査を受けましょう。融資を受けられる条件は金融機関によって異なるため、複数のサービスを比較検討することをおすすめします。
本審査へ申し込む金融機関を決めたら、すべての必要書類を揃えて提出します。金融機関による物件調査や担保評価が行われ、本審査の結果が通知されます。
条件に納得できれば、契約を締結して融資の実行を受けましょう。契約前に、返済シミュレーションを行い無理なく返済できるか確認してみてください。
不動産担保ローンと他の融資手段との違い
事業主が融資を受ける方法が複数ある中で、不動産担保ローンと他の融資手段との違いをまとめました。
金利 | 借入可能額 | 審査基準 | 審査期間 | 利用時の注意点 | |
不動産担保ローン | 1〜4%程度 | 不動産評価に応じて高額融資に対応(数千万円~数億円規模も可能) | ・不動産の担保評価 ・申込者本人の返済能力 |
1週間〜3カ月程度 | 返済不能時に担保不動産を失う |
無担保ローン(ビジネスローン) | 5〜15%程度 | 数十万円〜1,000万円程度 | ・信用情報 ・年収 ・事業実績など |
即日〜1週間程度 | 金利が比較的高い |
制度融資 | 1〜2%程度 | 数千万円~数億円も可能(制度によって異なる) | ・事業計画 ・納税状況 ・保証協会の保証など |
2週間から2カ月程度 | 手続きが煩雑で審査が厳格 |
不動産担保ローンは、最短即日融資には対応していないものの、無担保ローン(ビジネスローンよりも低金利で借りられます。特段資金調達を急いでいないときは、有用な選択肢となるでしょう。
不動産担保ローンと制度融資を比較すると、大きな違いとして手続きの煩雑さや審査の厳格さが挙げられます。制度融資は申し込みから融資までの手続きが煩雑で、また審査も厳格です。
担保評価が高い不動産を保有している場合、制度融資よりも不動産担保ローンのほうがスムーズに資金調達できるでしょう。
まとめ:不動産担保ローンは経営者にとって有用な資金調達の手段になり得る
担保評価がある不動産を保有している場合、不動産担保ローンを利用すれば低金利で資金調達できます。不動産の評価額次第では数千万円規模の高額な借り入れができ、また長期の返済期間を設定することも可能です。
返済不可能な状態になると担保不動産を失う可能性がありますが、担保評価の高い不動産を保有する経営者にとって、有用な資金調達の選択肢といえるでしょう。
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(編集:創業手帳編集部)