Finatextホールディングス 林 良太|遅れた日本の金融を“サービス”として再発明していく
日本の金融の現状と、アップデートしていくための方法
オンラインバンキングやキャッシュレス決済の普及が進む一方、諸外国に比べれば日本の金融は技術的にまだまだ大きく遅れをとっています。
その遅れの原因について、「金融が“サービス”化していないから」とFinatextホールディングスの代表取締役社長CEO林良太氏は言います。
日本の金融の現状や、外国に遅れをとってきた原因、現状を変革するために求められることについて、金融を“サービス”として再発明しようとしている同氏に話を聞きました。
株式会社Finatextホールディングス 代表取締役社長CEO
2008年東京大学経済学部卒業後、英ブリストル大学のComputer Scienceを経て、日本人初の現地新卒でDeutsche Bank Londonのテクノロジー部門に入社。ロンドン、ヨーロッパ大陸全域にて機関投資家営業に従事した後、ヘッジファンドを経て2013年12月に株式会社Finatext(現・株式会社Finatextホールディングス)を創業。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。
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金融機関をつなぐ“金融インフラ”を整備
大久保:最初に、事業内容について教えてください。
林:僕たちFinatextホールディングスがやっていることを一言で言うと、ミッションにも掲げているとおり「金融を“サービス”として再発明する」というものです。
これまで大手機関がやってきた金融は、機能追加などを数十年にわたり行ってきたため、システムが複雑化し、結果、柔軟にシステムが作れず、諸外国と比べて何十年も遅れをとってしまっていました。
複雑なシステムが故に、利用者にフィットしたサービス開発ができず、各金融機関の差別化ができないうえ複雑化した金融サービスのUIUXは、利用者にとって不便になっていました。
たとえて言うならば、その「高い、遅い、まずい」金融インフラを「安い、早い、うまい」に変えていこうとしているのが僕たちの会社です。
大久保:なるほど。「日本の金融は遅れている」と思った時期やきっかけが何かあったんですか?
林:僕は元々、ドイツ銀行のロンドン支店に勤めていて、グローバルテクノロジー部門というところで、エンジニアとして大規模システムの開発などに携わっていました。
当時ロンドンは、2009年から2013年の頭ぐらいまで結構フィンテックの勃興期だったんですよね。現在有名なところで言うと、Wise(旧TransferWise)などが登場した時期でした。
やっとiPhoneが発売された頃でしょうか、どんどん金融がデジタル化していくような状況を肌で感じてきましたし、「金融ってテクノロジーだよね」という認識が肌感覚としてありました。
ですが、2013年に日本に帰ってきて目にした光景はまったく違っていました。銀行ではオンラインバンキングすらもないところもありましたし、タクシーに乗れば「キャッシュしか使えません」ということが標準的。
ロンドンと比べてめちゃめちゃ遅れているんだと衝撃を覚えたんです。
日本で投資や資産運用の領域というと、ごく一部のエリートや頭のいい人が生き馬の目を抜く感じでやっているものという印象が世の中にはあると思います。ロンドンではテクノロジーが発達し、金融と人々の距離が近くなりつつあり、日本でも、もう少し金融と人々の距離を近づけたいな、と思いました。
それを実現するために会社を創業したという経緯です。
大久保:具体的には、どのようなサービスを手がけているんですか?
林:僕自身がエンジニアだったこともあって、はじめは金融アプリを開発しました。当時の金融機関が提供しているものはUXUIの設計が利用者視点に立ってなかったので、僕らが使いやすいUIUXの金融サービスを作ろうと思ったんですよね。
頑張っていくつかのアプリを世に出すこともできましたが、金融全体の課題で見ると、UXUIの問題は氷山の一角でした。UIUXをいくら良くしても、最終的に金融機関に接続する部分が複雑でうまく繋げられないということが判明し、結局システムを前提にサービスを開発しなければいけなかったのです。
料理でも、味付けで料理をうまくするのは限度がありますよね。素材自体がおいしくなかったら、どこまで頑張ってもおいしくするのは難しい。人々に良い金融サービスを届けたかったら、根こそぎインフラからアップデートしないと駄目だということに気づいたんです。
そこで次に取り組んだのが、現在主軸にしている金融インフラストラクチャ事業です。
さまざまな金融サービスをオンライン上で購入したり、証券であれば売却までできるよう統一基盤に乗せてSaaS形式で提供する基幹システムを作ろうと考えたんです。パソコンでたとえるなら、各メーカーが作る端末を動かすために半導体やマイクロチップが入っていると思うのですが、これを作るIntelの立ち位置に似ているでしょうか。
これらを証券・保険領域で展開しバックエンド側から金融をアップデートするということを今日まで進めてきました。
大久保:技術的にはかなりの遅れをとってしまっている今、これからどのような方針を採れば良いと思いますか?
林:単純に、昔の人頼みのやり方やテクノロジーを前提として開発するという考え方を変えないといけないですよね。昔のものに、うなぎのタレのように継ぎ足し継ぎ足していって、もはやレシピも作り方も分からなくなっているシステムが多くあります。
しかも、スクラッチ開発で開発しているので完全にブラックボックスになってしまっています。
僕たちがやっている金融インフラ事業は、今のテクノロジー、今のやり方、今のマシンスペックでやって、共有型にしています。結果、圧倒的に安く早く柔軟にできるわけです。
実は、ただそれだけのことなんですよね。
大久保:そう考えると面白いですよね。日本の金融機関ってリスクが嫌いなはずなのに、実際には自分たちでも理解できていないシステムを扱って、リスクの塊みたいなことやっていると言えますね。
上場の効果は「業界トッププレイヤーとのやり取りには有利」
大久保:今回上場したことについてもおうかがいしたいんですけど、上場に対して大変だったこととメリットは見合っていると感じますか?
林:現時点ではまだなんとも言えないです。
ただ、人材採用の場面では上場企業ということが一つの好材料になるでしょうし、あと、僕たちは業界トップの大企業との取引が多いので、そういう場では上場しているとやはりスピードが速いとは感じています。
大久保:信用が一段付くわけですね。何か同じサークルに入る感覚というか。
林:日本だと特にそうですね。
大久保:採用については、どのようなメンバーを集めていますか?
やはり元金融の方を中心にという感じでしょうか。
林:いえ。どちらかというと、元金融という方は多くないですね。金融をわかってる方と、あとは金融の常識に塗られていないメンバーとの間をうまく取り持つ人を多く採用しています。
大久保:金融に詳しくても昔の風習などに染まってしまっていたらかえって駄目なわけですね。
林:そうなんです。あと僕たちは基本的に技術者の集団を目指しているので、採用はエンジニアなどが中心です。
今は人数は100人ぐらいいるうちの、プロジェクトに携わる人員が全体の7割、エンジニアが5割といった感じです。いわゆる営業マンみたいな人はほとんどいませんね。
人柄に関して言うと、みんな柔らかいですね。
今後の展望は
大久保:この先はどのような展望を持っていますか?
林:3年から5年にかけては、今取り組んでいる金融インフラ事業に軸足をおいて、事業を伸ばす方向性でやっていこうと思っています。
つまり、日本において証券・保険でシェアを取るということですね。その中で必要になってくるのが、会社としての総合力です。
知名度はもちろん、提案力、プロダクト、チーム力。今はそれらを育みながら、粛々と今の事業を伸ばしていくという考えです。
大久保:最後にまとめとして、創業手帳を読んでいる創業前、創業初期の起業家に向けてメッセージをいただけますか。
林:創業当初ってやる気満々ですよね。ただ事業って「マラソン」と同じだと思うんです。
基本しんどくて、調子の良いときも悪いときもある。あまり意気揚々と行き過ぎてしまうと、何かあったときにテンションが下がって続かなくなってしまうんです。
だから、少し期待値を低く頑張るぐらいの方が長く続くんじゃないかなと思います。
(編集:創業手帳編集部)
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(取材協力:
株式会社Finatextホールディングス 代表取締役社長CEO 林 良太)
(編集: 創業手帳編集部)