人材不足解消のカギは 障がい者・難病患者の雇用

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ほんの少しの心遣いで状況は変わる

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(2018/09/03更新)

厚生労働省の発表によると、2018年6月の有効求人倍率(季節調整値)は1.62倍。つまり、求職者1人に対して1.62件の求人があるということで、これは1974年以来44年ぶりの高水準です。こうした空前の人手不足の状況に、「なかなかいい人材を採用できない・・・」と悩んでいる起業家の方も多いのではないでしょうか?

その対策として、積極的に外国人を採用する企業も増えてきているようですが、今回は「この分野に向けて考えてみてはどうでしょうか?」というものを提案します。それは、障がいを持つ方や難病を抱える方の採用です。そこで、NPO法人労働者を守る会を通じて難病患者の就労支援を行う、社会保険労務士の黒田英雄さんにお話を伺いました。

身近な存在である障がいや難病

内閣府が公表している「平成29年版 障害者白書」によると、身体障がい者・知的障がい者・精神障がい者を合わせた人数は約858.7万人。その後の厚生労働省の推計では、さらに増えて約936.6万人とされています。これは、日本の全人口の約7.4%を占めます。

この中には子どもや65歳以上の高齢者も多く含まれますので、実際に働いている障がい者の方の人数を見てみると、平成28年6月1日現在で38.6万人です。民間企業においては、その規模によって差はありますが、約2%の割合で障がいを持つ方を雇用していることになります。

一方、難病を抱える方の人数については「特定疾患医療受給者証」の所持者数から推測することができます。この受給者証は、指定難病の方が医療費の助成を受けるために交付されるもので、難病情報センターによると、平成26年度の所持者数は約92.6万人です。ここから就労世代の具体的な人数を割り出すのは難しいですが、おそらく読者のみなさんがイメージするよりは、はるかに多いのではないかと思います。

つまり、障がいや難病というのは実はとても身近な存在なのです。もしかしたら、読者のみなさんのすぐ近くにもいらっしゃるかもしれません。

働きたくても働かせてもらえない

障がいや難病と言ってもその重症度は人それぞれで、中には就労にほとんど影響がない方もいます。障がいを持つ方については、障害者雇用促進法によって雇用される機会が増えてきています。障がい者雇用を積極的に推し進めている企業も多く、それはとても喜ばしいことだと思います。

一方、難病を抱える方については、現段階では残念ながら法律で雇用が義務付けられていないこともあって、就職すること自体が困難な状況にあります。面接の段階で難病のことを話すと不合格になってしまうことから、病気を隠さざるをえないケースも多いようです。

難病という響きから、寝たきりであったり仕事をすることが難しい状態のようなイメージがあるかもしれません。しかし実際には、外見ではまったく病気であることが分からない方もたくさんいます。

難病というのは、あくまで原因が不明・長期療養が必要・治療方法が不確立な「希少な疾患」ということであり、その中でも患者数が少ないものについては、指定難病として医療費助成の対象となっています。

難病を抱える方の半数以上は、18歳から65歳です。その世代では、消化器系の疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病など)、免疫系の疾患(全身性エリテマトーデス等のいわゆる膠原病など)、神経や筋肉の疾患(パーキンソン病など)が患者数が多い病気です。
これらの病気は完治はしないものの、継続して治療を受けながら普通の生活を送ることが可能です。社会生活を送ることは生きる上で当然の権利ですし、現実問題として治療にはお金もかかります。

しかしながら、雇用する側の難病に対する理解が進んでいないことから、働きたくても働かせてもらえない方たちがいるのが現状です。ほんの少しの配慮や思いやりがあることで、まだまだ貴重な人材になり得る方たちがたくさん存在するのです。

国も難病の方の就労支援に動きはじめている

厚生労働省は、リーフレットを作成して難病の方の雇用支援活動について啓発しています。

ハローワークには「難病患者就職サポーター」を配置し、難病を抱えた求職者の相談に乗っています。また、難病の方を雇用した事業主に対して助成金を支給するなど、金銭面での支援もおこなっています。

働き方改革関連法案の成立もあって、多様な働き方やワークライフバランスの重要性が、今後さらに増していきます。そういった流れの中で、障がいを持つ方や難病を抱える方の労働力を重視し、積極的に活用していきたいという考えがあるのではないかと思います。

また、国の施策とは違った観点ではありますが、最近では難病を抱えていることを公表する著名人も増えてきました。病気だけでなくLGBTに関してなど、多様性を受け入れることが世間一般の傾向になってきています。

まだ時間はかかるかもしれませんが、いずれは難病の方が働くのが当たり前の社会になっていくのではないでしょうか。

具体的にどのように配慮すればいいのか?

先に述べたとおり、障がいを持つ方や難病を抱える方の症状や重症度は、個人差があります。一律にどういう配慮が必要かというのが決められないところに、事業主側の対応の難しさがあるのかもしれません。
これについても厚生労働省はリーフレットを作成しており、配慮事例として紹介しています。

大まかに言うと、体調への配慮・労働時間や休憩休暇への配慮・業務量や労働環境への配慮といったところが、誰にも共通する事項です。また、本人だけでなく周りの方々にも配慮が必要な場合があります。

たとえば消化器系の病気の方は、トイレに行く回数が多くなることがあります。免疫系の病気の方は、体調に波があることがあります。どちらも本人の意思とは関係なく起きてしまうことなので、それを周りの方々が理解していないと、人間関係に影響が出てしまうことがあります。

最も大切なことは、その方の症状がどのようなものなのかをしっかりと把握・理解し、その症状に合った配慮をすることです。自分の症状について話をすることは、本人にとっても苦しいことだと思います。それでも働きたいという思いを汲みとって、より良い環境を作っていくことが必要です。

年齢や家庭環境が、社員それぞれで異なるのは当然のことですよね。それと同じように、病気についてもその方の個性として理解し配慮することができれば、障がいを持つ方や難病を抱える方が長く勤められる職場が増えていくと思います。テレワークをうまく活用するなど、環境を整備する選択肢も増えつつあります。

いつ誰が病気になってもおかしくない

実は、私は心臓手術と開頭手術をここ数年で立て続けに経験しています。特に心臓手術の時には、心臓機能が低下したことで内部障がいとして認定され、1年間ですが障害者手帳を持っていました。

外見上はどちらかというと健康体でしたので、事情を知らない人が見たら障がいがあるとは信じなかったでしょう。実際、あまりに立ちくらみがひどくて電車の優先席に座っていると、なんで若者が座っているんだと注意されたこともあります。

昨年は頚椎の手術も受けたのですが、手術後に一時的に全身麻痺になりました。お医者さんの適切な処置で後遺症は全く残りませんでしたが、頭がはっきりしているのに体が言うことを聞かない感覚は、今でも鮮明に覚えています。

どちらの時も思ったことは、「いつ誰が病気や障がいになってもおかしくない」ということでした。とても当たり前のことなのですが、病気になるまでは「自分だけは大丈夫」とどこかで考えていたような気がします。

難病を発症する時期は、子どもの頃とは限りません。働き盛りの年代になってから発見されることもあります。また、障がいに関して言えば病気が原因だけでなく、事故やケガの場合もあります。どれだけ気をつけていても、避けられないこともあるかもしれません。

障がいや難病を他人事と思わず、もし自分がその立場だったらどう考えるだろう?と想像することは、とても大切です。会社を経営する上では、きれいごとだけではやっていけないことも、もちろん理解できます。しかし、障がいや難病への配慮や思いやりについてじっくり考え、またそれを実践することが、経営にいい影響を与えることもあり得るのではないでしょうか。

まとめ

今回は、障がいを持つ方や、難病を抱える方の就労について解説してきました。特に難病の方については、法定雇用率の対象外であることから、就職に苦労されているのをよく耳にします。そんな経緯もあってか、難病を抱える方の多くは、できればひとつの職場で長く働きたいと考えているようです。

難病の方の採用を積極的に推し進める姿勢を打ち出すことで、出会うことができる新たな人材がいるかもしれません。空前の人手不足から企業を救うのは、ほんの少しの心遣いなのです。

※統計や法律などの固有名詞に関しては「障害」とし、それ以外は「障がい」と表記しております。

社会保険労務士が分かりやすく解説
人と人とを繋ぎたい!人材紹介会社を開業するには?

(監修:社労士オフィスこころこ 社会保険労務士 NPO法人 労働者を守る会 黒田英雄
(編集:創業手帳編集部)

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