CVC JAPAN 冨田 賢|独立系ベンチャーキャピタルの先駆けとして見てきた「VC業界の変遷」

創業手帳
※このインタビュー内容は2024年02月に行われた取材時点のものです。

資金調達の選択肢が増えた今こそ知っておきたいCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)とは?


これまでの数十年間でベンチャーキャピタル(以下、VC)業界は、目覚ましい変化を遂げました。2000年代初頭には、証券系、銀行系、大手企業のVCが中心でしたが、今では独立系VCやプロジェクト単位のVCも増えており、起業家としても資金調達の選択肢が増えています。

独立系VCの先駆け的存在として20年間VC業界に携わっているのがCVC JAPANの冨田さんです。

そこで今回は、VC業界の変遷4つに分類されるCVCの特徴CVC JAPANが見据える今後の展望について、創業手帳の大久保が聞きました。

冨田 賢(とみた さとし)
CVC JAPAN株式会社 代表取締役社長
略歴として、米国系銀行を経て、20歳代に、独立系ベンチャーキャピタルの立ち上げに参画し、投資先企業の株式上場(IPO)とともに、VC自体のIPOも達成(2001年)。その後、大阪市立大学大学院・専任講師、住友信託銀行・専門職を経て、2008年独立・起業。この15年で、経営コンサルティングをのべ200社以上実施。CVCファンドを運用し、日本内外のスタートアップに投資。2016年慶應義塾大学から博士号を取得し、2017年~2020年立教大学大学院・特任教授。著書6冊。講演多数。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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大手企業、スタートアップ、大学院を経て「CVC JAPAN」を創業

大久保:まずはご経歴から教えていただけますか?

冨田:大学卒業後に、外資系の銀行に入社しました。その後、大手VCへ入社し、そこでVC業界について知ることとなります。

それから、その時の上司と独立系VCの立ち上げに参画しました。

日本で最初に投資事業責任組合で運用したり、民間VCとして最初に中小基盤整備機構から出資を受けたりしました。さらには私の地元、石川県で自治体版VCを設立するなど、VCとしては先駆的な活動をいくつもしたのち、創業3年後に上場しました。

2001年には京都大学で修士号を取得し、大阪市立大学大学院での専任講師としてベンチャーファイナンス論やベンチャーキャピタル論を教えました。なお、その後、会社経営の傍ら、2016年には、慶應義塾大学から博士号を取得し、立教大学大学院(MBAコース)にて、アライアンス論、ベンチャー企業論、ベンチャー金融論などを教えてきています。

大久保:この時点でもかなり異色の経歴ですね。

冨田:再度、ビジネスの世界に戻りたいと思い、住友信託銀行に移籍し、VCファンドや不動産投資プロダクトなどへの年金資金の投資を担当しました。

そこで、知人から会社の社長をやってくれと頼まれたんです。そこで、数社に投資している知人の会社の雇われ社長として入ることとなりました。

その中で、経営コンサルティング部門を作ったのち、CVC JAPANとして独立・創業したという流れです。

そのため、20代から会社立ち上げに参画したり、その後、大企業、大学での講師といった経験をして今に至ります。

ただ、私の父親は会社勤めだったこともあり、最初から社長になりたいと思っていたわけではありません。

大久保:「起業」と「大企業」という大きく異なるノウハウと経験値をそれぞれお持ちなのですね。

2000年代初頭と今の「VC業界の違い」

大久保:今はVCが認知されてきていますが、冨田さんが最初にVCの立ち上げに参画した2000年代初頭と今ではどのように違いますか?

冨田:当時は「ベンチャーキャピタル」という言葉・仕組みも世間では知られていない時代でした。

当時は証券系、銀行系、大手のVCしかありませんでした。

VCすら認知されていない時代でしたので、独立系は少なく、今は独立系VCが増えました。

当時はファンドを募集するだけでなく、投資先を探すことすら怪しまれていました。

また、第三者割当増資をして、資金調達を得る企業も少ない状況でした。

そのため、まずは独立系VCという存在を理解していただくところからのスタートだったので、我々が独立系VCの先駆けだったと思っています。

大久保:その時は投資先の開拓、資金調達のどちらもご経験されてきたということですね?

冨田:どちらかというと、ファンド集めを中心にやってきました。

石川県内の企業21社、石川県の自治体、そして中小企業基盤整備機構から、合わせて15億円のファンドを集め、それが自治体版のファンドの走りとなりました。

大久保:自治体としては、地元の企業にだけ投資していたのでしょうか?

冨田:石川県ファンドにおいては、半分は地元石川県内の企業、もう半分は県外の企業に投資していました。

県外に投資する理由としては、やはり地方だけで伸びる企業を見つけるのは難しいため、東京を中心としたスタートアップに投資していました。

私が関わって投資した会社としては、4社ほど上場しています。

20年間VC業界にいて実感した「伸びる経営者の特徴」

大久保:伸びそうな経営者、企業などはどのように見分けるのでしょうか?

冨田ビジョンで社員を引っ張り、世の中に味方を作り、会社を大きくできる能力がある方は「伸びる経営者」です。

その本質は20年経った今も変わってなく、スタートアップ同士の競争が激しくなった今では、より重要になってきたと思います。

今のスタートアップは恵まれています。

昔は上場(IPO)のハードルが厳しく、今のように上場に向けた資金調達や上場による資金調達ができませんでした。

今では創業1〜2年、もっと言えば創業時からVCから投資を受けて、VCから経営のサポートをしてもらえていると思います。

大久保:当時は資金調達が難しかったですよね。

冨田:はい。ある程度の売り上げがあっても、VCからのエクイティでの調達が難しく、銀行からの借り入れができませんでした。銀行も今以上に、担保や返済能力、自己資本比率を厳しく見る時代でした。銀行からの借入には、社長は個人連帯保証を入れているため、失敗したら再起不能ですよね。

だからこそ、起業する人が少なかったのです。

起業しやすい環境が整い、スタートアップやVCが増加

冨田:また当時は、スタートアップを起こす、あるいはスタートアップに入社するということが社会的に弱い立場にあり、認められていませんでした。

良い大学に入って、有名企業に入って、長く働くことが理想のキャリアと思われていましたので、スタートアップが優秀な人を採用することが難しかったのです。

そこからバブル崩壊、リーマンショックを経て、大企業にいるだけでは安泰ではない、やる気があれば勝負に出るといった、アメリカ的な考え方を持つ人が増えてきました。それにより、スタートアップが増え、投資するVCも増えました。

そのため、20年前から知っている私からすると、今は想像できなかった世界になっています。

大久保:今はかなり起業しやすい環境が整っていますよね。

冨田:その通りです。エクイティでの資金調達がしやすくなっていますし、東証グロースでは、世界でも最も上場しやすい市場となっています。

さらに、大学発ベンチャーも増えています。

私が約20年前に、京都大学でアドバイザーをやっている時も、大学発ベンチャーを増やそうといった活動はありましたが、そこまで盛り上がりませんでした。

政府が力を入れ、大学発ベンチャー向けファンドも増えたことによって、大学の研究を事業化することも増えました。

大久保:スタートアップの経営体制も当時と今では違いがありますか?

冨田:会社の体制に関しても変わってきました。

カリフォルニアの企業では、CEOがビジネスを作り、CTOが技術開発を担う、というところが多いですが、日本においても多くなっています。

スタートアップと出資者でアライアンスが成立しやすい条件

大久保:冨田さんといえば、海外のアカデミックとのつながりが多いと思いますが、どのような研究をされているのでしょうか?

冨田:私は2016年に慶應義塾大学の博士号を取得しました。

15年で約200社のコンサルティングを実施したので、アライアンスによる新規事業の立ち上げをテーマに研究していました。

具体的には、コンサルティング先の企業にどのような企業を紹介したら、アライアンスが成立しやすいかについて、マッチングしやすいか否かを数学で表現する研究です。この分野で博士号を取得しました。

大久保:その理論の味噌となるのは、どのようなところでしょうか?

冨田企業の強みと弱みについて、8項目において評点付し、5段階に分類します。

評価点の差が大きい上に強みの提供バランスが取れていると、相互補完関係が成立し、アライアンスしやすいです。

この関係値を示す点を、最大の相互補完関係の点との距離で数学的に表現したのが、私の研究です。

大久保:評価点に差がなく、領域が同じだった場合は、競合だということで、合わせる意味がなくなってしまいますもんね。

冨田:先にお話ししましたように、2016年の時に博士号を取得し、2017年度〜2019年度の3年間、立教大学大学院の特任教授として、社会人向けビジネススクールで教えていました。

大久保:今まさに手がけられている事業とも関わりがありますよね。

冨田:おっしゃる通りです。

スタートアップ企業は資金が不足していますが、新しいアイディアや技術を持っています。反対に大企業では資金力は持っているが新規事業のアイディアが不足しがちなため、それらが引き合う力は強く、良い相関関係です。

度々、日本の大企業では、内部留保を貯めすぎだという議論がありますが、それをスタートアップに投資することで、日本経済も回ります。

コロナの真っ最中、日本のCVCの設立数は過去最高となりました。

オープンイノベーションを認めて、外からのアイディアを取り込まないと、新しい事業を生み出せないという課題が浮き彫りになりました。

多くの大企業がスタートアップに注目。4種類のCVCとは

大久保:大企業の多くがスタートアップへの出資に関心を持っていますよね。

冨田:今でも定期的にCVCに関する講演を行いますが、毎回30〜50社ほど大手企業の方が参加されており、スタートアップへの投資に対する、期待値が上がってきています。

そのため、VCだけでなく、大手企業からの資金調達も、1つの手段となってきました。

さらに後者であれば、資金調達だけでなく、大企業と事業提携という形で、大企業のアセットを使って自社のプロダクト開発、販売の拡大も狙えます。

大久保:業務提携やアセットを活用した成長を狙うのであれば、VCからの出資ではなく、直接大企業からの出資を受けた方が、やりやすいですよね。

冨田CVCには4種類あると考えています。

1つ目は事業会社の本体から投資をする場合。
2つ目は子会社VCを作る場合。
3つ目は複数の投資家が集ってファンドを作って投資をする場合。
4つ目は1社のLPに向けて専用ファンドを作って投資をする場合。

この4種類です。

複数の投資家がいるファンドの場合だと、どのようなシナジーを持つ会社に投資するか、はっきりしないですし、提携がうまく進まないケースもあります。

出資者が1社だけの専用のCVCファンド(二人組合)だと、財務的なリターンだけでなく、新規事業立ち上げのための戦略的なリターンを重視できます。

そこを判断基準にも置いてくれるため、普通のVCでは投資を受けられなかった企業でも、CVCでは投資を受けられた、といったケースがあります。

ただし注意点として、投資を受けると出資した企業向けに自社の方向をピボットしないといけないケースも出てきます。

大久保:自分たちが本当にやりたいことと逸れると、良くないですよね。

冨田逆に大企業としても、スタートアップにアイディアを出してもらうだけではダメで、大企業の方も動き、変わる必要があります。

そうでないと、スタートアップ側が振り回されてしまいます。そういったときに、株主だから無碍にできない、といった状況に陥ってしまうのです。

大久保:会社が違うと共通言語が違うので、簡単ではありませんよね。

冨田:私は16年会社をやってきているだけでなく、大手企業、スタートアップ、上場など、さまざま経験してきたので、そのスキルを活かして活動しています。

CVC JAPANが見据える「今後の展望」

大久保:これからの展望を教えてください。

冨田大企業とスタートアップは相関関係が良いので、うまく手を組むことで新しい事業やサービスを作っていけると思います。

そして、大企業とスタートアップとの連携が進むことで、日本経済も良くなり、世界的にも再び日本が注目される可能性が高まります。

当社としても社会に求められる役割を果たすために、3〜4本目のファンドを立ち上げていきたいと考えています。

幸いなことに、私の元には有望な起業家の情報は入ってきていますので、投資をして伸ばしていきたいです。

また、一部の大手企業ではファンドを立ち上げることが難しい場合もありますので、その場合はコンサルティング契約を結んで、CVC投資をサポートしていけたらと考えています。

そしてスタートアップ向けには資金調達、事業戦略、営業展開のサポートをしていきたいと思います。

大久保:最後に起業家へのメッセージをお願いします。

冨田:起業家として、社会課題を解決して、事業を大きくすることは重要ですが、組織を大きくするだけが会社経営ではないとも思っています。

ごく少数で運営している会社でも十分、社会にインパクトを与えられることもあります。

起業する人全員が、多くの社員を抱えるような組織を作ることだけに固執しなくてよいということです。

人それぞれ得意、不得意な領域があります。自分の得意なことを見つけて、それに沿って進むことが会社経営で重要だと思います。

それまでの社会経験で、得意だと思っていたことが実は不得意だった。逆に、不得意だと思っていたことが、得意だったということもあります。

そのため、会社経営は今までの自分の延長線上だけで考える必要はありません。そして足りない部分があれば、アライアンスやアウトソーシングで補えばよいです。

自分の得意分野や自分なりのやり方を見つけた方が成功率が高まるので、今後起業する方は意識してみてください。


「アライアンス思考~CVCによるスタートアップとの提携~」冨田賢(宣伝会議)

会社を変える、未来をつくる! 最強のビジネスメソッドを大公開

「既存事業を飛躍的に伸ばす」「新規事業アイデアを獲得する」
「オープン・イノベーションを推進する」

現代の多くの企業が抱える課題は、スタートアップとのアライアンスで突破できる。

ビジネスにブレークスルーを起こす、C V C(コーポレート・ベンチャーキャピタル) 投資の基本と実践。新規事業・CVCの専門家が語る、これからの時代に会社の売上を伸ばすための思考とノウハウを徹底解説する、ビジネスパーソン必携の書。

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(取材協力: CVC JAPAN株式会社 代表取締役社長 冨田 賢
(編集: 創業手帳編集部)



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