クラス 久保 裕丈|家具と家電のレンタル・サブスク「CLAS」で暮らすを自由に

創業手帳
※このインタビュー内容は2023年02月に行われた取材時点のものです。

家具・家電をレンタルすることで「便利」と「環境負荷の軽減」を同時に実現


家具や家電などのいわゆる「大きい・重たい・面倒」な物は、人生の流動性が高い人にとって、所有することで「自由度を阻害」する存在になっています。

さらに、最近はSDGsや脱炭素を目指す動きが加速しており、大量生産・大量消費の流れを食い止めることが求められています。

そこで、家具と家電のレンタル・サブスク「CLAS」で、必要な時に必要なものが利用できる仕組みを提供し「便利」と「環境負荷の軽減」を同時に実現させようとしているのがCLASの久保さんです。

今回は、CLASの創業までの経緯や、サービスに込めた思いについて、創業手帳の大久保が聞きました。

久保裕丈(くぼひろたけ)
株式会社クラス 代表取締役社長
東京大学新領域創成科学研究科修士課程修了。2007年4月、米系のコンサルティング会社A.T.Kearney入社。2012年、ミューズコー株式会社を設立し、2015年に売却。その後、個人で数十社の企業顧問を務め、2017年にAmazonプライム・ビデオの人気恋愛リアリティ番組『バチェラー・ジャパン シーズン1』にて初代バチェラーに抜擢。2018年、「“暮らす”を自由に、軽やかに」をビジョンに、個人・法人向けに家具と家電のレンタル・サブスク「CLAS(クラス)」を展開する株式会社クラスを設立。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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1社目の大変さを糧に2社目の起業では「2つのインフラ整備」に注力

大久保:起業までの経緯を教えていただけますでしょうか?

久保大学院を卒業して、経営コンサルティング企業に入社しました。そこで約5年ほど勤めて、組織戦略、コストカット、BPRと言われる人材カットプロジェクトなど、幅広く担当させていただきました。

その後、1社目の会社を起業したのですが「起業と経営コンサルは全くの別物だ」と、その時に初めて知り、経営者1年生の年は色々と失敗もしました。

大久保:1社目では多くの失敗をされたとのことですが、その経験を2社目にどのようにいかしたのでしょうか?1社目との違いがあれば教えてください。

久保:1社目は上場を目指すために、割り当て投資で資金を集めていましたが、それでも上場まで持っていくことは、大変シビアな戦いでした。

そのため、大手の傘下に入り、資金を提供してもらいながら、堅実に成長していく道を選びました。

2社目に創業した「CLAS」は、1社目の大変さを糧にして「2つのインフラ」を整えることに徹底的にこだわりました。

物流面に弱いベンチャーが多い。だからこそCLASは物流を強化する

大久保:「2つのインフラ」とは何でしょうか?

久保1つ目は「社員向けのインフラ整備」です。

ミッション・ビジョン・バリュー、就業規則、給与体系、評価制度、目標設定の仕組み、勤怠管理、など、会社を運営していくにあたっての「内政的なインフラ作り」を最初に行いました。

まずは足場がしっかり安定させて、社員が安心して働ける環境を整えました。

2つ目は「お客様向けのインフラ」です。つまり、システム基盤や物流の体制を確立しました。

特にベンチャー企業は「物流面」で、お客様にご迷惑をおかけすることが多いと考えています。

ただし「ベンチャーだから物流が弱くても許される」ことは絶対にないので、最初から物流体制の構築には力を入れました。

これらのインフラを最優先で取り組んでいたため、ベンチャー企業によくある「起業後すぐに広告へ投資する」ことはしていません。

大久保:守りが強いから、攻められるということですね。

久保:おっしゃる通りです。積み木を高く重ねたとしても、土台がしっかりしていないとすぐに崩れてしまいます。

そして、崩れたものを組み直そうとすると、1回目より大変になってしまいます。

だからこそ最初に「2つのインフラ」を整えることに注力したのです。

「一般的なサブスク」と「CLASのレンタル・サブスク」の大きな違い

大久保:CLASのサービスの特徴を教えてください。

久保「家具と家電がレンタルできるサブスクリプションサービス」になります。

一般的なITサービスは、アカウントごとに対応できるトラフィック数を想定し、相応の構成にすることで、ユーザーの月額負担も変えています。

さらに事業の成長に合わせてサービスもどんどんアップデートしていきます。

CLASの事業モデルもこの仕組みに極めて近いです。

しかし、CLASのサービスは「実物のないITサービス」ではなく、「大きくて重たい家具や家電」です。貸し出す商品をアップデートする際には、重いオペレーションが発生します。

ベッド、冷蔵庫、洗濯機などは、日々倉庫から出し入れしており、倉庫管理システムにより個品単位で細かく商品の状態を管理しています。

さらに、リペアやクリーニングのノウハウも自社のシステム上で貯め続けているため、ある程度習熟度が低い方でもすぐに作業ができるようにしております。

ここが負担になっている部分だからこそ、競合との参入障壁になっています。

「家具と家電のレンタル・サブスク×デジタル化」で業界の常識を打破する

大久保:CLASが提供するサービスの最大の付加価値はどの部分でしょうか?

久保CLAS独自の付加価値としては、2つあると思っています。

1つ目は「大きくて重たいものを、レンタル・サブスクで気軽に利用できる点」で、2つ目は「木製の家具だけでなく、大理石テーブルの修理や家電の整備など、幅広くリペア対応ができる点」です。

商品数に関しては、無限に増やせるわけではありませんが、2023年1月現在で1,000アイテム以上もの商品を取り扱っており、ここもCLASの重要な資産です。

大久保:アナログなことをデジタルで行うと、時にものすごい力を発揮しますよね。

久保:アメリカの某大手EC企業が成長した要因としては、それまでアナログだった部分をデジタル化することに対して、積極的に投資をしてきたからだと考えています。

もちろんアナログで残る部分はあると思いますが、アナログとデジタルの両面を積み上げ続けてきたことが強みであり、我々の目指すべきところだと思っています。

現場とデジタルを融合させる「3つの工夫」

大久保:実際に家具を修理されるリペアチームの業務は、DXとは対局にある存在に感じますが、どのようにデジタル化を取り入れているのでしょうか?

久保:我々は、家具の設計から生産管理、物流とバリューチェーンが幅広いです。

その中での、ITリテラシーにばらつきがありますが、上手く取り入れられるように次の3つのことを意識しています。

1つ目は、ITリテラシーの低い人たちを一定レベルまで上げることです。

2つ目は、1つ目とは逆に、デジタルに関わりがあった人たちも、リテラシーが低い人たちのために、ある程度降りていくことです。

私が全社員向けに話をする時など、言葉を平たくするように心がけている上に、従業員にも横文字をあまり使わないようにと指導しています。

ITリテラシーのお話をしましたが、つまるところ、バックグラウンドの異なる人たちが仕事をするためには、コミュニケーションが重要となってきます。

共通言語を整えていけば、これまで不慣れことに対しても、抵抗なく受け入れられるようになるのです。

3つ目は、自分のチーム以外に対しても、興味と理解する気持ちを持ってもらうことです。

まとめると、ITリテラシーが高い人も、これまでデジタルに関わって来なかった人も、お互いに歩み寄っていけるように、全社的に心がけています。

ココ重要!現場とデジタルを融合させる「3つの工夫」
  • ①:ITリテラシーの低い人たちを教育する
  • ②:横文字を多様せず言葉を平たくする
  • ③:他チームへ興味と理解の気持ちを持つ

人生の流動性が高い「起業家」にこそCLASがマッチする

大久保:従業員数がの増減が多いスタートアップにも、CLASのサブスクサービスがマッチしそうですね。

久保:CLASのサービスは「ライフステージの変化がある方」「人生の流動性が高い方」に、特にマッチすると考えております。

起業家は、そのような状況にある最たる存在だと考えており、大きなものを資産として抱えるのはリスクだと思いますので、CLASはまさにピッタリなサービスです。

起業家の他にも、個人事業主やITサービスを生業としている方にもおすすめです。

大久保:家具・家電をレンタル・サブスクで利用することは、自由を担保できるということにもつながりますね。

久保一般的な家具を買って、一度でも使用すると資産価値はゼロに等しいと考えられている上に、処分する時には、お金がかかってしまいます。

そこで我々が家具と家電のレンタル・サブスクを通じて、提供したい価値としては、まさに「人生における自由さ」なのです。

大久保:家具は資産価値がほぼないんですね。

久保:ヴィンテージ家具は別として、一般的な家具の減価償却期間は5〜8年が一般的ですが、実態としてはそのような資産価値の残り方はしません。使用すれば価値はすぐに落ちてしまいます。

そこで、我々のサービスを利用していただくことで、経費として計上できPL上のメリットもあります。

また、業績の波があるスタートアップは、事務什器にかかるお金はランニングコストとして月々少しずつ支払い、大きな出費は成長につながるところへ投資していくべきだと考えています。

ユーザーにベネフィットを提供するのと同時に環境にも配慮することが大切

大久保:昨今注目が集まっている、ESGやSDGsの流れは、CLASに良い影響となっていますか?

久保企業や行政がESG、SDGs、カーボンニュートラル(脱炭素)に着目し始めていますので、強い追い風が吹いていると感じています。

ただし、消費行動にどれほど繋がっているかという観点でいうと、まだ入り口に立ったところだという認識です。

これまでは、市町村単位での採択が多かったところ、今では都道府県だけでなく国単位でもお話をいただけるようになったため、「環境」という文脈で弊社に対しての注目度が上がってきていると実感しています。

大久保:CLASサービス単体で見ても、企業の為になる「地に足の着いたサービス」だという印象を受けたのですが、その点も意識されているのでしょうか?

久保CLASを創業したきっかけが「家具の耐久性のあり方」や「大量生産・大量消費」されていくことに対しての疑問視したことです。

SDGsの取り組みを進めている企業も増えていますが、中には「グリーンウォッシング企業」と言われる「環境配慮をしているように装っている企業」も一定数存在ます。

このような時代だからこそ、ユーザーにとって「ベネフィット」を提供するのと同時に「環境へも貢献できる」という両面を満たす形を実現しなければいけないと考えています。

起業家は「権限を移譲すること」と「仕事を任せること」が大事

大久保:1社目から2社目の起業を経て、読者の起業家へアドバイスをいただいてもよろしいでしょうか?

久保起業家は「権限を移譲すること」と「仕事を任せること」が大事になってきます。

1社目を起業した時は、自分がなんでもできると思い上がっていた部分もあり、何にでも手を出して行こうと考えていましたが、今思うと自分の力は限られていると感じます。

そのため今は、できる限り社員を信じて任せるようにしています。

一方で社内での自分の役割をきちんと定義をしておく必要があり、決めた役割を社内にもきちんとアウトプットすることも大切です。

例えば私は「戦略を書くこと」「お金集め・人集め」そして「集めた人を健全に働けるようコミットすること」を自分の役割として、社内にアウトプットしています。

大久保:バチェラーに出演されていたかと思いますが、その関係でのメディア出演は今でもありますか?

久保バチェラーに出演したのは、CLASを起業する前のフリーランスの時でした。

PR領域では、自分が出ていくことでメリットになるのであれば、出るようにしていますが、それ以外の領域は、できるだけ手を出さないように意識しています。

全て自分でするようなことはせず、実務と経営のウェイトを意識していくことが、経営者に必要だと思います。

経営者は企業で掲げているバリューを最大限に体現していなければいけない

大久保:「起業家としての格」について、高い低いという基準は何だと思われますか?

久保:私の考えとしては、会社の経営陣の強さによって決まると思っています。

具体的には、人間性です。優しいというような話ではなく、企業のバリューの体現度が上がっていくものだと思っています。

経営者たるもの、企業で掲げているバリューを最大限体現していなければいけないのですが、それが極限まで上がっていくことは一つの経営者の格を上げることだと思っています。

もう一つは、経営者の職業として専門性や視座の高さを、どこまであげていられるかという点も大事です。具体的には、投資家の視点で物事を見ることができたり、マクロで経済を語れるようになることです。

私が尊敬する経営者は、株主や投資家としての視点、マクロ経済に対する物の見方がシャープになっています。

そういった点で、経営者の格の違いを感じることがあります。

「大きい・重たい・面倒」を突き詰めて社会に価値を提供する

大久保:CLASの今後の展望を聞かせていただけますでしょうか?

久保我々が扱っている「大きい・重たい・面倒」な物は、自由な意思決定の妨げになっているため、今後もこの「家具・家電のサブスク分野」を突き詰めていきたいと考えています。

「大きい・重たいもの」に関しては、処分する時の環境負荷が重いため、できる限り持たなくても良いようにすることで、環境負荷を和らげるという考え方を広めることも必要だと思います。

大久保:最後に起業家へのメッセージをお願いします。

久保:起業はすごく大変なことです。時には、夜も眠れないという日もあります。

そのようなことも、徐々に慣れて打たれ強くなってくるため、大変なことを乗り越えた先に、自分でしか生み出せない価値を見出せます。

経営者は、社会に影響を及ぼしうる職業の一つだと思いますので、ぜひ頑張ってください。

大久保の感想

大久保写真
久保さんはバチェラージャパンに参加した経歴や外見的なかっこよさもありスマートに苦労なく成功してきたと思いがちだ。しかし最初の会社は売却して、2度めのチャレンジであり、一度目の経験から学んでCLASの事業に挑んでいる努力と謙虚な学びの人という面がある。
スタートアップの中でもリアルのモノが絡むと、ネットだけのビジネスに比べて難易度が一段と上がるが逆に、チャンスの大きい分野でもある。
こうした難しい分野は取り残されがちなので、起業家にとってはおもしろ領域だ。

また、社会は所有からシェアなど流動性が高くなる方向に移ってきている。全てがシェアになることはないが、保有の市場が大きすぎるので、シェアの市場は必然的に大きくなっていく。
今後、社会の変化はますます激しくなっていき、また人は自由を求めるようになっていくので、こうしたシェアのサブスク家具のような自由なライフスタイルに合わせたサービスも今後増えていくだろう。

また取材の中で、ロジ・物流の重要性についてかなり時間を割いて熱心に話していたのは印象的だった。
起業だとまずは何も無いところから始めなくてはいけないし、攻めなくてはいけない。0を1にしないといけないからだ。
しかし、攻めだけだと、どこかで力尽きてしまう。そして、問題も起こりやすい。
起業家が出せる瞬間的な力は永遠には出し続けることはできない。
必ず組織として安定して淡々と対応できる体制にどこかで移行しないといけない。
そのため起業家は、新しいものを創造しながら、裏側のバックヤードなどの安定した社内の仕組みを作っていく必要がある。
この創造や成長と、安定稼働は頭の使い方が逆なので、同時にやるのは案外難しい。分かっていてもなかなかできないし、起業家がわりにと苦手な人が多いのが、この組織の仕組み化でありバックヤードだ。
最初の起業期を脱して成長していくには欠かせない要素だ。
そんな裏側の土台の大切さを久保さんが教えてくれたインタビューでもありました。

創業手帳の冊子版には、起業家のインタビューなどが多数掲載されています。無料での配布ですので、ぜひご覧ください。。

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(取材協力: 株式会社クラス 代表取締役社長 久保裕丈
(編集: 創業手帳編集部)



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