起業家必見!知らないとヤバイ「社会保険」「労働保険」入門

創業手帳

社労士Hの「人を雇用すると発生する社会保険と労働保険のお金」に関する話

人を雇用すると発生する社会保険と労働保険のお金に関する話

(2014/11/20 更新)

ベンチャー事業を行うにあたっては、創業当初から社員を雇う場合もあれば、起業してから事業がある程度軌道に乗り、いよいよスタッフを雇おう、という場合もあるだろう。

人を雇用すると発生するお金としては、まずは「給与」が思い浮かぶが、会社が負担すべきお金は給与だけではない。会社が負担すべき給与以外の「お金」、特に労働保険(労災保険、雇用保険)と社会保険(厚生年金保険、健康保険)がある。

今回は、人を雇うと必要になる「労働保険」と「社会保険」について知っておきたいポイントをまとめた。ある創業直後の社長(高校生の頃の夢はロッカー)と社会保険労務士(社労士H)による対話を通じて、「労働保険」と「社会保険」について、基本的なことを学んでいこう。

創業期において雇用は負担になってきます。しかし、雇用に関する助成金があるのはご存知でしょうか。冊子版の創業手帳(無料)では、公的保険制度の概括し、人事・労務の仕組みを整備することが大事であると説明しています。助成金を受給するためには、就業規則の整備や、賃金台帳・出勤簿の作成が必要となってきます。これらの作成の専門家である社労士にピンポイントで依頼できるサービスも紹介していますので、ぜひチェックしてみてください。(創業手帳編集部)

1. 労働保険、社会保険に入らなきゃいけないの?

社長:夫婦2人で商売を始めたんだけど、起業してからトントン拍子で上手くいっちゃってさー。今度社員を雇おうと思うんだ。給与以外にどんなお金がかかるのか教えてよ?

社労士H:人を雇用すると、原則として会社は、労働保険(労災保険、雇用保険)に加入する義務が発生します。また御社の場合は法人ですので、厚生年金保険や健康保険にも入らなければなりません。これらそれぞれについて、保険料の会社負担分が発生します。

社長:うちなんて創業したての小さなベンチャーだし、入りたくないんだけど。。。俺、そういうの入って枠にとらわれたくないから。高校生の頃はロッカー目指してたくらい枠にとらわれないロケンローな男だから。うちはロケンロー経営だから!

ロケンロー社長のギター社労士H:ゴホン!

社長:入らなきゃだめなの?

社労士H:ロケンロー経営だろうが、ナニ経営だろうが、労災保険や雇用保険は、人を雇う以上原則として加入しなければなりません。また、起業直後で小さくても「法人」である以上、たとえ社長と奥様だけの会社でも厚生年金と健康保険に加入しないといけないんです。日本年金機構も未加入事業所の削減に力を入れていて、最近は年金事務所からの調査に関する相談も増えてきています。

社長、もしかして厚生年金と健康保険の手続きをまだしておらず、今も国民年金と国民健康保険に入っている、なんてことないですよね!?

社長:手続きしてないのが、露見ロー!なんつって。ロケンローだけに。。。すみません。ちゃんと手続きやります。

社労士H:ゴホン!・・・ブラック企業と呼ばれないためにも、法律に沿ってちゃんと加入しましょう!

2. どんな雇用形態だと社員を労働保険・社会保険に入れないといけないのか?

どんな雇用形態だと労働保険・社会保険に入れないといけないのか?社長:会社が加入しなければいけないのはわかったよ・・・保険関係ってちゃんとしなきゃ!ってのはマウンテンマウンテン、じゃねぇや 山々なんだけど、実はサラリーマンしてたころから、労働保険とか社会保険のあたりは詳しくはよくわからないんだよね。言葉は聞いたことあるんだけど。

会社に勤めてても、雇用保険、健康保険や厚生年金に入っていない人もいるよね?

社労士H:そうなんです。会社が各制度に入っているということと、個別の社員が入るか入らないかは別問題なのです。労災保険については全ての社員が原則適用ですが、パート社員や契約社員等、非正規の形態で働いている方は、他の各制度(雇用保険・厚生年金保険・健康保険)に入らなくてもよいケースがあるのです。入らなくてもよい雇用形態とは以下のような場合です。

例外的に被保険者と”ならない”社員
  • 労災保険
  • ・原則として同居の親族を除く全ての社員が適用(個別の加入手続きは無い)

  • 雇用保険
  • ・65歳に達した日以後新たに雇用される社員
    ・1週間の所定労働時間が20時間未満である社員
    ・継続して雇用される期間が31日未満である社員

  • 厚生年金保険
  • ・70歳以上の社員
    ・2箇月以内の期間を定めて雇用される社員
    ・通常の社員の所定労働時間及び所定労働日数のおおむね4分の3未満の社員

  • 健康保険
  • ・後期高齢者医療の被保険者(75歳以上の社員等)
    ・2箇月以内の期間を定めて雇用される社員
    ・通常の社員の所定労働時間及び所定労働日数のおおむね4分の3未満の社員

社長:ということは、上記の表に該当しない正社員などの場合は基本的に加入させないとダメなのね?

社労士H:そういうことになります。逆に言えば、各制度に加入しなくてよいパートタイマーをうまく活用して法定福利費を抑えるのも一つの方法ですね。特に起業直後の創業期のスタートアップベンチャーの場合は、コストを抑えるために意識して活用していきたいところですね。

【関連記事】はじめて社員を雇用する -「雇用形態」編-

3. 労働保険と社会保険の保険料の基本的な計算ルール

3.1. 労災保険の保険料

社長:全ての制度に加入する正社員を雇う場合、会社が負担しなければならない保険料って、ハウマッチ?

社労士H:(なんで英語?)ちょっと細かくなってしまいますが、まず、労災保険は原則として 「給与や賞与の金額」×「保険料率」で計算され、その保険料率は業種によって異なります。順を追って説明していきましょう。

労災保険料率は業種により細かく決まっており(労災保険料率の一覧表:厚生労働省のページ)、0.25%~8.9%となっています。更にアスベスト被害者の救済費用に充てる為の一般拠出金として0.002%(全事業所一律)が課せられます。

ちなみにこれらは全て会社が負担することになっており、御社の場合は労災保険料率の一覧表の「その他の各種事業」に該当しますので0.3%と一般拠出金0.002%がかかります。

【外部リンク】労災保険料率の一覧表:厚生労働省のページ

3.2. 雇用保険の保険料

社労士H:次に、雇用保険についても、「給与や賞与の金額」×「保険料率」で計算されます。保険料率は、業種により以下の通りになっています。

雇用保険の保険料率
  • 一般の事業
  • ・社員負担:0.5%
    ・会社負担:0.85%

  • 農林水産・清酒製造の事業
  • ・社員負担:0.6%
    ・会社負担:0.95%

  • 建設の事業
  • ・社員負担:0.6%
    ・会社負担:1.05%

※上記保険料率は平成26年度分のもの。今後改定される可能性があります。

御社の場合は「一般の事業」に該当しますので、会社負担は0.85%ということになりますね。

3.3. 厚生年金保険の保険料

社労士H:続いて、厚生年金保険についてですが、こちらについては「標準報酬(標準賞与)」×「保険料率」で計算されます。標準報酬というと難しく感じますが、ここでは、月々の給与を段階別のテーブルに当てはめた切りのいい数字だと思ってもらえば構いません。

また、標準賞与とは賞与の1,000円未満の金額を切り捨てた金額だと思ってもらえば結構です。また、厚生年金に付随して児童手当拠出金が必要になります。

平成26年8月現在の具体的な保険料率は以下の通りです。

厚生年金の保険料率
  • 社会保険料
  • ・社員負担:8.56%
    ・会社負担:8.56%

  • 児童手当拠出金(社員の負担は無い)
  • ・会社負担:0.15%


3.4.健康保険の保険料

社労士H:最後に、健康保険についてですが、こちらも「標準報酬(標準賞与)」×「保険料率」で計算されます。また、45歳~65歳の健康保険の被保険者には、併せて介護保険料が必要になります。

平成26年8月現在の具体的な保険料率は以下の通りです(東京都の場合)。

健康保険の保険料率
  • 健康保険
  • ・会社負担:4.985%
    ・社員負担:4.985%

  • 介護保険(40歳~65歳の被保険者のみ)
  • ・会社負担:0.86%
    ・社員負担:0.86%


このような保険料を手作業で計算するとなると、非常に大変な業務になってきます。冊子版の創業手帳では、給与や、税金、保険料などを自動で計算してくれる、会計ソフトの導入について詳しく解説しています。また会計ソフトは、起業家のお金を見極める力を養うためにも役に立ちます。このことも創業手帳で解説しています。(創業手帳編集部)

4. こんなにかかる労働保険・社会保険の保険料

こんなにかかる労働保険・社会保険の保険料社長:ちょうど、基本給25万円+通勤手当1万円(月額)で入社したいっていう人(30歳)がいるんだけど、具体的に会社が負担する保険料っていくらになるのかな? 俺たち夫婦そろって算数苦手だから、具体的な例で易しく教えてちょーだいよ。

俺なんて「サイン・コサイン・タンジェントってナニ?」って思った瞬間、数学Iはあきらめて聖○魔IIを聴くようになったからね。ロッカーにサインは必要だけど、コサインとかナニジェント?だっけ?、いらないよね?

ちなみに嫁の十八番は数学Aじゃなくて少○A!「『数列』なんて『じれったい~じれったい~』」ってあの頃よく歌ってたよ~!。っあ、言ってなかったけど、俺たち夫婦は高校の同級生なんだよね~。なに、そこ聞いちゃう?

社労士H:(いつの時代?社長のツボがわからないんですが。。。)馴れ初めとかロックの話は聞いてないです。あっ、奥様のカラオケの十八番の話もです。

気を取り直して、基本給25万円+通勤手当1万円(月額)の社員(30歳)を雇う場合、具体的に会社が負担する保険料はいくらになるのか計算してみましょう。

基本給25万円+通勤手当1万円(月額)
社員(30歳)を雇う場合の保険料

①労災保険:(25万円+通勤手当1万円)× 0.3% = 780円
②一般拠出金:(25万円+通勤手当1万円)×0.002% = 5.2円
③雇用保険:(25万円+通勤手当1万円)× 0.85%=2,210円
④厚生年金保険:標準報酬26万円 × 8.56%= 22,256円
⑤児童手当拠出金:標準報酬26万円 × 0.15% = 390円
⑥健康保険:標準報酬26万円 × 4.985% = 12,961円
⑦介護保険:40歳未満なので未だ発生しない

合計 38,602円(月)→ 463,224円(年間)


5. 労働保険と社会保険のコストを考慮した人員計画を立てよう

社長:てことは、年間だと46万円を超える保険料を会社が負担するの!?そんなに高いのか~!

社労士H:このケースでは賞与分を含んでいませんので、賞与を支給する場合は、更に高額になります。社員を雇う場合は、給与の金額だけではなく、会社が負担すべき労働保険料や社会保険料も考慮する必要があるのです。

社長:保険料のことを考えずに給与のことだけ考えて人を雇うと、保険料の負担でキャッシュが足りなくなって「まっさかさ~まに~堕ちて倒産!」ってことにもなりかねないな~。

社労士H:そうですね。また、会社組織も社会の一員である以上、社会的責任があります。ベンチャーの頃からブラック企業などと呼ばれない為にも正しい手続きを行いましょう。また、ちょっとした工夫で、社会保険料は負担金額を低減することができるケースもあります。

社長:Hさんにはいつも有用な情報をありがとう。「蝋人形じゃなくて、顧問契約にしてやろうか~!」なんつって。。。ゴホン。失礼、すでに顧問やってもらってましたね。これからもよろしくお願いします。

社労士H:今後、社員を雇ったら随時アドバイスさせていただきますね。

創業期からの社労士との顧問契約はコストの面から考えるとハードルが高いかもしれません。しかし、社労士が担当するような業務は、専門家ではない起業家にとっては、時間がかかってしまうと思います。冊子版の創業手帳では、創業期から社労士と顧問契約をし、後に必要な時にピンポイントで社労士に依頼できるサービスに切り替えた起業家のインタビュー記事を掲載しています。社労士との契約の参考になると思いますので、ぜひチェックしてみてください。(創業手帳編集部)

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※理解を深めやすくする為、法律で使われている言葉をより平易な言葉に置き換えています。また、本文で述べられている事項は原則的なものです。実際の手続きにあたっては社会保険労務士もしくは管轄の労働基準監督署、ハローワーク、年金事務所、協会けんぽ各支部にお問い合わせください。

(監修:東京北社会保険労務士事務所 代表 堀 拓磨 社労士)
(編集:創業手帳編集部)

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