間違いやすい経費処理を徹底解説!勘定科目別の注意点と正しい仕訳例
経費処理ミスは金銭リスクに直結

「この支出は何費にすればいい?」「経費で落とせるの?」――日々の経理で迷う場面は多いものです。
特に個人事業主や中小企業では勘定科目の使い分けを誤ってしまえば、税務調査で指摘を受けたり、正確な損益把握が難しくなったりといった業務に支障をきたすリスクが発生します。
本記事では、実務で間違いやすい経費処理のパターンを科目別に整理して正しい判断のポイントを解説します。
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この記事の目次
なぜ経費処理で間違いが起こるのか

会計処理では、頻繁に間違いが発生します。そもそもなぜ経費処理で間違ってしまうのか、間違いが起こる理由をまとめました。
勘定科目の定義を曖昧にしている
経費処理では、事業に関わる仕入れや売上、経費といった資金の流れを勘定科目に割り当てて処理します。
しかし、経費の中には、どの勘定科目で処理するかあいまいなものも少なからず存在します。
勘定科目の定義を社内で統一せずに処理していると、同じ支出でも担当者により仕訳が異なってしまうことが間違いの理由のひとつです。
同じ経費なのに担当者によって仕訳が違うと会計の連続性が保てません。
勘定科目一覧を社内規程として文書化し、経理担当者全員が参照できる状態にしておくことが重要です。
「経費にできる/できない」の線引きが不明確
そもそも経費に計上できる支出であるかどうかも、事業者や担当者によって異なります。
事業との関連性が薄い、業務関連性が不明確な支出を経費に計上すると、税務調査時に否認されるリスクが高まります。
経費に計上できるかどうかは、社内のルールとして線引きしておくようにしてください。
領収書や取引記録に「業務目的」を明記しておくことで、税務調査でも経費算入の正当性を証明しやすいです。
プライベート支出との区別がつかない
事業規模が小さい時には、事業用と私的支出を同一口座やカードで管理しているケースがあります。
しかし、事業用のやり取りとプライベートの取引きが混じってしまえば経費の判定があいまいになりやすくなってしまいます。
プライベートと事業を明確に線引きするには、事業専用口座・クレジットカードを用意し、支出の分類を明確にしておくことが基本です。
混在した支出は、必ず帳簿上で按分処理を行います。使用時間や量に応じて業務使用割合を合理的に算出するようにしてください。
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経費処理で間違いやすい勘定科目と実例

経費処理で間違いやすい勘定科目はある程度決まっています。ここでは間違いやすい勘定科目を実例とともに紹介しています。
同じような間違いをしていないか確認しておいてください。
1. 交際費と会議費の違い
社内でミーティングをした際の弁当代と飲料代を交際費で処理をしてしまった。
会議費と交際費は、混同しやすい勘定科目です。しかし、交際費は得意先など社外関係者との接待や贈答に該当し、社内会議の飲食は会議費として処理します。
社内ミーティングでの軽食やコーヒー代を交際費にすると、税務上損金算入限度額の対象となってしまいます。
会議記録には、会議の目的と参加者、内容を記載しておくようにしてください。後から見た時に交際費との区分が明確にできます。
2. 消耗品費と備品の区別
10万円以上の電子機器を購入して消耗品費で処理をしてしまった。
消耗品と備品の違いは金額です。長期間使える備品の中で、取得価額が10万円を超えるものであれば備品、10万円未満の場合には消耗品費として処理します。
消耗品費は当期の費用として当期に一括計上可能です。
一方で備品は固定資産になるので法定耐用年数に応じて減価償却によって分割して経費に計上します。
後から間違いに気が付いた時には、逆仕訳をして処理を取り消してから改めて備品として計上しなおします。
3. 通信費と広告宣伝費の違い
SNS広告の費用を通信費として計上した。
通信費は電話料金やインターネット回線使用料など、情報通信の維持に要する費用に限定される勘定科目です。
SNS広告やリスティング広告の出稿料は広告宣伝費として処理してください。
クラウドサービス利用料など業務基盤に関わる費用は通信費、販売促進目的の費用は広告宣伝費と区分するようにします。
4. 旅費交通費と交通費の混同
近くにある取引先を訪問する時にかかる費用を旅費交通費として処理した。
旅費交通費は、取引先への出張にかかる費用や旅費、交通費に対する勘定科目です。
業務上の移動は、仕入れや納品、取引先への訪問など日常に関わる近場への移動と、出張に分類される遠方への移動に分けられます。
加えて、通勤にかかる交通費は通勤交通費であり、交通費には該当しません。
旅費交通費には、移動にかかる費用や宿泊費、出張手当などが含まれます。
旅費交通費と交通費の混同を防ぐには、旅費に関するルールを決めて旅費交通費に該当する費用、金額を決めておくようにしてください。
5. 福利厚生費と給与の違い
目標を達成した従業員に対して一時的な報奨金支給して、福利厚生費で処理した。
給料と福利厚生は、どちらも従業員に対する支出ですが、性質はまったく違います。給与は、労働への対価として支払われるお金です。
一方で、福利厚生費は全従業員を対象とした共通の福利施策です。
福利厚生費は、福利厚生の目的に沿っていて、すべての従業員を対象とした妥当な金額のものしか認められません。
成績が良い従業員だけに支給する報奨金といった特定個人への支給は給与とみなされます。
慶弔金や社員旅行などは「全員参加の原則」が満たされているかを判断基準としなければいけません。
福利厚生は公平に実施していると証明できるように社内ルールを定めて法の基準に沿った運用をしてください。
6. 水道光熱費と地代家賃の区別
自宅兼職場の水道光熱費と地代を全額経費として計上した。
自宅で仕事をしているようなケースでは、家賃や水道光熱費の一部も事業に必要な支出として経費計上できます。
経費計上する時には、支出を事業用の部分とプライベートを区別する家事按分を行って事業部分だけを経費としてください。
家事按分の割合は、使用面積や使用時間といった具体的な基準に基づいて計算します。
合理的に計算していると説明できるように家事按分の基準を決めておくようにしてください。
7. 外注費と給与の違い
部品の加工を依頼して、支払った報酬を外注費で処理した。
外注費と給与は、働いたことに対する対価の支払いという点では同じです。しかし、税務上、会計上ではそれぞれを区別しなければいけません。
給与は雇用契約に基づいて支払われるのに対して、外注費は請負契約、委託契約に基づいて支払われます。
外注費であるか給与であるかの基準は、代替性があるかどうか指揮監督しているかどうかなどの観点で判断します。
外注費で処理したものが給与と判定される場合には、源泉徴収漏れとなるので訂正が必要です。
また、外注費として仕入税額控除していた場合には消費税額の納付が必要になることがあります。
8. 支払手数料と雑費の違い
銀行振込をした時に発生した手数料を雑費として処理した。
比較的金額が小さく、ほかの勘定科目に含まれない費用は雑費として経費計上できます。
しかし、銀行振り込みを定期的にしていて、手数料をまとめればある程度の金額になるような場合には雑費ではなく支払手数料で処理し、用途が不明な少額支出を安易に雑費に分類しないようにしてください。
雑費の多用は経理精度の低さとみなされ、税務調査で詳細説明を求められる可能性があります。
経営状況を把握するためにも、取引内容を明示できるのであれば、適正な科目(例:支払手数料、通信費、広告費など)で仕訳するのが理想的です。
9. 研修費と福利厚生費の区別
社員旅行において研修を実施して会場費やテキスト代などの費用を福利厚生費として処理した。
仕事に必要な知識や技術を身につけるための研修は業務上必要な費用であり、経費計上可能です。
業務に直接関係するスキル向上目的の支出は研修費、娯楽性を含む社内イベントは福利厚生費に分類されます。
講師謝礼やセミナー参加費は原則として研修費とし、社員旅行や懇親会費用は福利厚生費に該当します。
社員旅行で研修の時間を設けるといった目的が混在する場合は、内容を分析して業務関連部分のみを研修費として計上してください。
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経費処理を間違えた時の対応方法

経費処理の間違いは、気が付いた時に早急に修正対応してください。ここでは対応方法についてまとめています。
決算修正
決算修正は、すでに確定してしまった過去の年度の決算書に間違えがあった時に、当年度の決算書で修正する方法です。
決算修正は、大企業と中小企業でそれぞれやり方が違います。
中小企業であれば、過去の誤りを当期の財務諸表で修正することが認められていて、「前期損益修正益」や「前期損益修正損」といった勘定科目で処理して当期の特別利益または特別損失を計上します。
大企業の決算修正は、過年度の財務諸表を遡及修正して利益剰余金の期首残高を修正しなければいけません。
決算修正の期限は、原則として5年です。修正した時には税務署で更正の手続きを行います。
決算整理
決算修正と似た方法に決算整理があります。決算整理は、決算期前に経費区分の確認を行い、誤仕訳をまとめて修正しておくことです。
決算修正はすでに申告が終わった決算内容の修正です。それぞれタイミングや方法も違うので注してください。
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税務署に修正申告が必要なケース

間違った経費処理は税務署に修正申告が必要になることがあります。確定申告期限までであれば改めて申告書等を作って期限までに提出します。
ここではどういったケースで修正申告が必要なのかまとめました。
税額を実際より多く申告していた時
納税する金額を実際よりも多く申告していた場合には、更正の請求が可能です。
「更正の請求書」を所轄税務署長に提出してください。更正の請求の期限は法定申告期限から5年間です。
請求が正当であると認められた時には減額更正が実施されて納めすぎた分が還付されます。
税額を実際より少なく申告していた時
実際よりも少なく申告していた場合には、修正申告で正しい税額に修正します。新たに納付することになった税額は、修正申告書を提出する日(納期限)までに納めてください。修正申告は、税務署からの更正を受けるまではいつでもできます。しかし、過少申告加算税や延滞税が発生する場合もあります。
過年度の経費誤分類が見つかった場合
過年度の経費について間違いがあった時には、修正申告をして資産、もしくは負債を正しい残高に合わせる処理をお行ってください。
収益の計上漏れであれば前期損益修正益」、費用の計上漏れは前期損益修正損を相手勘定にして仕訳をします。
税務調査で指摘を受けた場合
税務調査で間違いを指摘されてそれを認める時には修正申告を実施します。一方で指摘内容に納得できない時には、更正の手続きに進んでください。
更正では、税務署が納税額を決定する手続きで指摘された内容の税額と追徴課税額が通知されます。
修正申告した場合、指摘を認めたことになるので後から不服申し立てはできません。指摘に納得がいかない場合には、どうするのか専門家に相談することも検討してください。
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経費処理ミスを防ぐためのポイント

経費処理が発生してしまうと、修正の手間がかかります。経費処理ミスを防ぐためにできることをまとめました。
日々の記録を簡潔に残す
経費処理ミスを防ぐためには、日々の取引きをコツコツ記録します。領収書やレシートに日付・金額・支出目的を明記し、証憑整理を習慣化するようにしてください。
また、会計処理はため込まずに取引内容を会計ソフトやエクセルで即日入力することで、誤分類や漏れを防止できます。
出金伝票や経費精算書をデジタル化し、担当者間で共有することで処理の透明性を高めることも有効な手段です。
クラウド会計ソフトを活用する
会計に不安がある場合には、クラウド会計ソフトを導入します。クラウド会計ソフト自動仕訳機能により、銀行明細やクレジット情報を正確に反映できます。
クラウド会計ソフトには勘定科目機能があるので、初心者でも経費区分の判断ミスを予防可能です。
国税庁の電子帳簿保存法に対応したサービスを選べば、帳簿の法的要件も満たせます。
税理士・会計士への定期確認を習慣化
事業が忙しくなってきた時には、税理士や会計士の力を借りるタイミングかもしれません。
月次や四半期ごとに税理士へ帳簿を確認してもらうことで、早期に誤仕訳を修正可能です。
税制や法律は頻繁に変わります。税制改正や通達の更新に基づく最新の処理基準を、専門家を通じて反映させてください。
顧問契約を結ぶことで、税務署対応や修正申告も迅速に行える体制を整えられます。
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まとめ:経費処理の精度が経営の見える化につながる
正確な経費処理は税務リスクを回避するだけでなく、経営分析や資金計画の精度向上にも寄与します。
担当者に任せきりになっていると、透明性が保てずミスにも気づきにくいことがあるのです。
日々の記録・確認・修正を仕組み化し、属人的な判断に頼らない経理体制を整えることが重要です。
経費処理の正確さが企業の信頼性と持続的な成長の基盤になることを意識して取組んでください。
(編集:創業手帳編集部)







