スタートアップの出口戦略(イグジット)とは?種類ごとのメリット・デメリットを紹介
起業家を目指す人はIPOやM&AといったEXIT戦略を知るべき!ベンチャー設立のイメージがつかめます
スタートアップが成長を考える際には、資金調達として「出資」を考える場面もあるでしょう。出資をしてもらうためには「出口戦略(イグジット、EXIT)」をきちんと考えておく必要があります。出口戦略があるからこそ、出資を受けられ、スタートアップとしての起業が可能になるのです。
今回はそんなスタートアップの出口戦略について、流れや年数、方法ごとのメリット・デメリットなどを解説します。起業家になることに興味がある人は、ぜひ以下をお読みになり、これからのイメージを高めましょう。
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この記事の目次
スタートアップの出口戦略(イグジット)とは
スタートアップの出口戦略(イグジット)とは、出資者の利益を確定させ、スタートアップとしての活動に区切りをつける方法です。イグジットの後は、上場企業や大手企業の子会社などとして事業を続けたり、新しい事業に移行したりといった流れになります。
スタートアップは出資に始まり出口戦略に終わる
スタートアップの特徴は、資金の多くを出資によって集めることです。出資を受けるには、出資者が利益を得られる場を作る必要があります。その場こそがイグジット(EXIT)であり、スタートアップと出資者の関係における出口となります。
なお、スタートアップの出資者としては、主に以下の3つが挙げられます。
・ベンチャーキャピタル(VC)
・個人投資家(エンジェル投資家)
・株式投資型クラウドファンディング
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ベンチャーキャピタルには、一般企業の投資部門(CVC)もあります。またベンチャーキャピタルに投資する産業革新投資機構や中小企業基盤整備機構といった官民ファンドの存在も重要です。
以上のような組織や個人からの出資は、主に「株式の取得」という形で行われます。その株式を売却するとき、出資者に利益がもたらされるわけです。つまりスタートアップの出口戦略とは、出資者が株式を高値で手放せる機会を作ることとも言い換えられます。
イグジットまでの流れとかかる年数
スタートアップと出資者との関係は、「1. 出資を受ける→2. 経営支援を受ける→3. EXIT」という流れで進みます。
ベンチャーキャピタルは、出資に加えて、経営へ積極的に介入して会社を育てる「ハンズオン」という施策を取るのが一般的です。社外取締役やコンサルタントを派遣し、経営戦略・財務・営業・人事など、包括的な支援を行ってより良いイグジットを目指します。
個人投資家の場合、経営にどれだけ介入するかは人によりけりです。株式投資型クラウドファンディングでは、一人あたりの保有株数に上限があるため、出資者からの直接的な経営支援はありません。イグジットに向かって、経営者自身の腕で事業を成長させていくことになります。
出資を受けてからイグジットまでにかかる年数は、3〜5年が一般的です。民間VCの運用期間は10年※と言われているため、スタートアップでは遅くとも10年以内の出口戦略を考える必要があります。
ただし、大学の研究成果に基づいた事業を展開する研究開発型のスタートアップに関しては、10年超えの出口戦略がスタンダードです。研究開発型に投資する大学VCも、12〜15年で運用されています。
※参考:経済産業省「事務局説明資料(スタートアップについて)」, p.21
※運用期間とは出資からEXITまでにかかる期間のこと
ベンチャー企業とスタートアップの違い
スタートアップはベンチャー企業の一種です。ベンチャー企業とは、「Venture(冒険、危険)」から連想されるような挑戦的な事業を行う新興企業のことを指します。
そんなベンチャー企業のうち、とりわけ革新的な技術やビジネスモデルを使い、意欲的な成長を目指すのがスタートアップです。つまりスタートアップの特徴は「イノベーション」と「成長速度」だといえます。
スタートアップの急速なイノベーションを可能にするのが「出資」です。出資を受けるには、出資者への利益還元の場として出口戦略を考える必要があります。
参考:経済産業委員会調査室「我が国のベンチャー企業・スタートアップ支援等を振り返る~ 新しい資本主義を実現するスタートアップの創出に向けて ~」, p.2
出口戦略(イグジット)の種類
スタートアップが取り得る出口戦略は、主に「IPO」と「M&A」の2種類です。両者は、出資者が保有するスタートアップの株式をどこに売って利益を回収するかという点で異なります。
IPO
IPOとは、非公開だった株式を証券取引所で一般に売買できるようにすることです。「新規上場株式」ないし「新規公開株」などとも呼ばれます。
出口戦略としてIPOを選択する場合、出資者は持株を証券市場に売ることで売却益を得ます。また経営者は、株式投資家が新規発行株を取得することで資金を調達できます。
M&A
M&Aとは、自社が他の企業に買収されることです。「Mergers and Acquisition(合併と買収)」を略してそう呼ばれます。
M&Aの手法はいくつかありますが、スタートアップの出口戦略としては「株式譲渡」が一般的です。M&A(株式譲渡)のイグジットでは、出資者は買い手の企業に持株を売って利益を回収します。ちなみに買い手の経営陣自らが株式を取得するM&Aを「MBO」と呼びます。
なお、M&Aには事業自体を売る「事業譲渡」という手法もあります。ただし、事業譲渡は株式の移転を目的としたものではないため、出資者(株主)が利益を回収できません。そのため、出口戦略としてのM&Aでは、株式譲渡のほうが主流です。
例外として、大企業が出資元で、スタートアップの技術や商品などをグループに取り込む場合などは、事業譲渡もあり得るでしょう。
出口戦略(イグジット)のメリット・デメリット
スタートアップの出口戦略、IPOとM&Aにはそれぞれ固有のメリット・デメリットがあります。以下で両者の良し悪しを比較し、自分が起業する場合、どちらのほうが好ましいかを考えてみてください。
IPOのメリット
出口戦略としてIPOを選択する場合、経営者は以下のようなメリットを得られます。
経営者のままでいられる
IPOは、経営権の譲渡を伴う出口戦略ではないため、上場後も引き続き経営者として事業を続けられます。そのため、手腕や体力に自信があり、自らの力で会社をさらに発展させたい人に向いています。
IPOによってベンチャーキャピタルなど出資家との関係が精算され、本当の意味で「自分の経営」が始まるとも言えるでしょう。ただし、IPO後は経営について株主から厳しい追求を受ける可能性が生じます。株主との関係については、「IPOのデメリット;株主を気にしなければならない」として次項で詳しく解説します。
資金調達がしやすくなる
IPOで株式を公開すると、株式市場から直接資金を調達できるようになります。株式での資金調達には返済義務がなく、担保や保証人も不要なので、財務体質の改善にもつなげることが可能です。
さらに上場企業になることで社会的な信用がアップし、銀行からも融資が受けやすくなります。出資に頼らなくても資金を集めやすくなるという意味で、経営の自由度も高まるでしょう。
取引やリクルートにも好影響がある
新規上場を果たすと、会社の知名度が上がり、一定の社会的信用も得られます。よって、新規取引先の開拓や既存取引先との関係強化もしやすくなります。
また知名度および信頼度が上がることで、リクルートの質も向上するでしょう。求人に対して多くの応募が集まるようになり、優秀な人材を採用しやすくなると考えられます。
IPOのデメリット
一方、IPOを出口戦略にする場合、経営者は以下のデメリットを受け入れる必要があります。
時間と手間がかかる
証券取引所による厳しい審査を通過し、IPOを実現するには、審査準備に3〜5年かかると言われています。その過程で、監査法人や主幹事証券会社を選んだり、中間審査を受けたりと、さまざまな労力を費やさなくてはなりません。
ちなみにIPO後に時価総額1,000億円に達するスタートアップは、創業から平均8.3年でIPOに至るというデータもあります。
参考:経済産業省「令和4年度産業経済研究委託事業 スタートアップ企業の上場後の成長に関する実態調査報告書」, p.45
成功率が高くない
上場申請をしたスタートアップのうち、実際にIPOを実現できるのは一部だけです。IPOの成功確率は1〜2割程度と言われることもあり、審査に落ちるリスクもあります。
なお、上場審査を受けるには、上場審査料として200〜400万円、その他準備にも数百〜数千万円が必要です。そのため、IPOに失敗すれば、多額の損失が出てしまいます。
株主を気にしなければならない
IPO後は、株主への説明責任が生じるため、100%経営者の自由に経営ができるわけではありません。わかりやすい結果を出さなければ厳しい追求を受ける可能性もあるため、短期的な利益を求めた経営に偏ってしまう会社もあります。
また株式を大量に取得され、株主総会での議決権および経営権を握られてしまう敵対的買収のリスクも想定されます。
M&Aのメリット
さて、出口戦略としてのM&Aには、IPOにはない以下のようなメリットがあります。
最短1ヶ月ほどで実現に至れる
M&Aは、当事者間で合意を形成すれば成立するため、IPOに比べて実現までにかかる時間が圧倒的に早いです。スタートアップの出口戦略として主流である株式譲渡によるM&Aの方法であれば、着手から最短1ヶ月ほどで完了します。
またIPOのように管理体制を整えたり、審査を受けたりする必要がないため、準備にかかる手間や費用も抑えられます。
成功率が高く、再チャレンジもしやすい
M&Aが成功する確率は36%というデータがあり、IPOより高確率で成功させられる点もメリットです。
またM&Aは、着手のハードルが低いことから、一度失敗したとしても比較的容易に再チャレンジできます。実際、失敗してから1〜2年後に再度着手し、M&Aが成立するケースがあります。
買収企業とのシナジー効果を得られる
買い手企業とのシナジー効果(相乗効果)により、さまざまな点で事業が進めやすくなる点もメリットです。具体的には買い手のサプライチェーンが利用できるようになるほか、資金や知名度といった点でも恩恵を受けられます。
とくにオープンイノベーションの一環として、大企業の傘下に入る場合などには、好影響が大きいでしょう。
M&Aのデメリット
一方、出口戦略としてM&Aを選ぶ場合、スタートアップの経営者には以下のようなデメリットがあります。
経営者でなくなってしまう
スタートアップの出口戦略で一般的な株式譲渡のM&Aでは、買収先に経営権を譲り渡す形となり、経営者の権利や地位を失います。買い手の意向により、事業から引退する流れになることも少なくありません。
一方、買い手の希望や交渉によって、事業責任者などとして引き続き事業に深く関与できる場合もあります。M&A後も自ら事業を推進していきたい場合は、その方針で交渉を進めるのが良いでしょう。
またM&Aで経営権や事業を譲ってしまって、自らは新事業に着手するという選択もあります。
従業員や取引先への影響がある
M&Aによる企業文化の変化によって、従業員のモチベーションに悪影響を及ぼす可能性も考えられます。買収が好意的に捉えられなければ、優秀な人材の流出を招く恐れもあるでしょう。
また経営方針の変更により、取引先が不利益をこうむることになれば、取引停止もあり得ます。そのため、M&Aによって事業をさらに発展させるためには、利害関係者への悪影響が極力ないように交渉を進めることが大切です。
売却益はIPOに劣ることが多い
M&AはIPOよりも早期に実現することから、事業の価値を高める時間が短く、イグジットの利益が少なくなりがちです。
しかし、ロックアップ※によって売却を制限されるIPOと違い、M&Aには全額をすぐに現金化できるというメリットがあります。またM&Aのほうが創業からの実現が早く、準備にかかるコストが少ないため、IPOより割が良いという見方もできるでしょう。
さらに事業に高い革新性や専門性があったり、買収後の成長見込みが大きかったりする場合、M&Aでも高額の買値がつきます。
※ロックアップ:VCをはじめとする株式公開前の株主が、公開後の一定期間、持株を売らないと確約する制度のこと。同制度により、VCは公開と同時に全ての株を売却することはできない。
スタートアップが今後選択すべき出口戦略
スタートアップがIPOとM&A、どちらの出口戦略を選択すべきかは、一概には断定できません。しかし、ハードルが低いという意味で、より多くの起業家にマッチするのはM&Aのほうです。
また従来、日系スタートアップの出口戦略はIPOが主流でしたが、今後は日本にM&A全盛の時代がやってくるかもしれません。少なくともオープンイノベーション促進税制※の拡充で、事業会社とスタートアップのM&Aが増えることは間違いないといえます。
さらにIPOとM&Aを両方行うハイブリッド型の出口戦略を取ることも可能です。ハイブリッド型では、早期に事業会社や投資会社とのM&Aを成立させます。そして、買い手の会社からの経営支援やシナジー効果により、事業価値を高め、IPOの実現可能性を上げていくのです。
※オープンイノベーション促進税制:国内の事業会社がスタートアップの新規発行株式(IPO)を一定以上取得する場合、法人税の控除を受けられる制度。2023年以降の税制改正で、既存株式の取得(M&A)の控除の対象に。
スタートアップを起こしたい人へ
スタートアップを起こすには、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家などから出資を受けることが大前提となります。出資を得るには、革新的な事業(アイデア)と出口戦略も含めた実現可能な事業計画が必要です。
出資者とのコネクションを作る方法には、知人からの紹介、起業家向けのイベント参加、マッチングサイトの活用などがあります。現状、出資を受ける当てがなくても、自ら積極的に行動すれば、スタートアップの経営者になることは可能です。
なお、出資ではなく、金融機関からの融資や補助金・助成金などを活用し、一般の中小企業を設立する選択肢もあります。その辺りの向き・不向きや良し悪しも含めて、一度専門家に相談してみるのも良いでしょう。創業手帳の「起業家個別相談「創業コンサルティング」【無料】」もご活用いただけます。
まとめ
2023年以降、スタートアップの出口戦略は、税制改正の後押しもあってM&Aが増えていくと考えられます。M&AはIPOに比べて実現しやすいため、起業家がチャレンジしやすい時代がやってくると言って良いでしょう。
スタートアップの起業に関心のある人は、これを機会にぜひ、具体的かつ前向きに行動してみてください。