ドクターメイト 青柳 直樹|「カギは介護と医療の連携」「ドクターメイト」現役医師が診る介護業界の課題と将来
医師兼起業家である青柳氏に、介護施設運営成功のコツや「ドクターメイト」のサービスについてインタビュー
介護施設業界における課題は数あれど、ビジネスとしての課題と医療面における課題の両視点から、課題を分析できる人物はそういません。
医師であり、起業家でもあるドクターメイト株式会社の青柳直樹氏は、医師として臨床に従事していた際に感じた介護施設業界、ひいては日本の医療全体の課題を解決するために創業しました。そうした経緯を持つ青柳氏こそ、介護施設業界の課題をビジネス・医療両面から聞き出すのに相応しい存在です。
2021年7月にはVCなどから合計1.8億円の資金調達を成功させ、より一層の注目を集めている同氏に、ドクターメイトが解決する介護施設業界の課題や創業時に気をつけていたことなどについて、創業手帳の大久保が聞きました。
千葉大学医学部卒業後、千葉市内の病院で皮膚科医として臨床診察に従事。介護施設から受け入れた患者を診察する中で、介護施設によって、ケアの対応に大きくムラがある課題を見つける。課題解決のため、2017年12月にドクターメイト株式会社を設立。翌2018年8月には、介護施設のスタッフと医療従事者専用のコミュニケーションツール「ドクターメイト」を開始する。「CHIBAビジコン2019」では、ちば起業家大賞を受賞。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
ドクターメイトが介護施設の課題を解決する
大久保:本日はよろしくお願いします。青柳さんには以前にも一度インタビューさせていただきました。
青柳:ありがとうございます。今回もよろしくお願いします。
大久保:ドクターメイトのサービスについて、まずは簡単に教えてください。
青柳:ドクターメイトは、介護施設向けに2つのサービスを提供しています。日中帯に介護施設職員が、インターネット上で全診療科の医師に相談が出来る「医療相談」と、夜間帯に介護施設の夜勤スタッフが、ドクターメイトの医療チームに電話で相談することが出来るという「夜間オンコール代行」です。「医療相談」と「夜間オンコール代行」を合わせて、365日24時間、介護施設向けに医療的なサポートを行っています。
大久保:ドクターメイトを介護施設に導入すると、どのようなメリットがありますか。
青柳:今までの介護施設業界では考える必要はなかったかもしれませんが、介護施設利用者の方々も高齢化してきて、さまざまな病気をお持ちの方も増え、介護施設内での医療対応について考えなければならなくなりました。施設側できちんとした医療対応体制ができていなければ、利用者さんはもちろんのこと、施設内の介護士さんたちも疲弊してしまいます。そうなると、施設の介護士さんたちの退職率も上がってしまうでしょう。
大久保:なるほど。となると、ドクターメイトを導入することで、医療対応体制を整えられて介護士さんの離職率を下げることもできるわけですね。
青柳:はい。そういった面でドクターメイトは貢献できます。介護士さんが離職するとなると、その都度人材紹介会社や求人サイトを通じてリクルートする必要がありますよね。良い悪いというのはありませんが、実際問題として、人材紹介会社や求人サイトなどを通じて新しく介護士さんを採用するとなると、百万円単位の金額がかかります。ドクターメイトを導入することで離職率を下げることができれば、採用にかかる費用を節約できます。また、介護施設への看護師さんの採用は非常に難しいのですが、ドクターメイトを導入すれば看護師さんも安心できるので、採用もしやすくなります。
大久保:人材の定着や採用といった課題は、給与水準の低さや労働環境の過酷さから、介護業界の慢性的な課題ですよね。しかし、そうした課題もドクターメイトがあれば解決できる、ということですね。
青柳:そうですね。採用コスト・人件費の削減というのは、ドクターメイト導入の大きなメリットです。
大久保:ドクターメイト導入にはいくら程度費用がかかるんですか。
青柳:定員数によって変わります。また、日中と夜間でも変わりますが、10万円もしない程度です。24時間365日対応できる看護師や医師を採用するとなると莫大な費用がかかります。ドクターメイトを導入すれば実質看護師や医師を採用したようなものですが、費用は非常に安く済みます。
大久保:他にもメリットはありますか。
青柳:はい。ドクターメイトを導入すれば、利用者さんの状態を高い頻度でケアできるので、通院数・入院数を減らすことができます。「一度診察をして一ヶ月後に再び診察すると、病状が悪化していた」などということが病院ではよくあるのですが、ドクターメイトがあれば通院と通院の間にも介護施設利用者のケアができるので、そのようなケースが減ります。結果として通院や入院の回数が減る、ということです。
大久保:介護施設にとっては大きなメリットですね。
青柳:そうです。病状が悪化して「入院する」となると、空床ができてしまい介護施設としては収益が下がる結果にもなってしまいます。ドクターメイトを導入する費用はかかりますが、利用者さんの解約リスクや、それに伴う新規の利用者さんの獲得コストを考えれば、やはりドクターメイトを導入した方がお得なのではないでしょうか。夜間に導入すると夜間の救急搬送も減ります。
大久保:利用者さんが健康になると施設側もコスト削減ができる、ということですね。
青柳:はい。利用者さんにとっても当然メリットがあります。いつでも医師に相談できることで、いざ何か医療行為が必要になった時でも安心だということです。例えば、施設の中に看護師さんがいたとしても、医師がいなければやはり不安が残ります。介護士さんしか施設にいない状況などではなおさらです。そのような場合でもドクターメイトがあれば、利用者さんも、介護士さんも安心できます。また、当然ながら利用者さんのご家族の方も安心できるはずです。
大久保:すごく良いですね。
青柳:今までであれば、地域の病院の医師や、施設の嘱託の医師が介護施設から通院・入院する患者の診療をしており、利用者兼患者にアプローチできる医師のリソースは限られていました。それがドクターメイトを使うことで、具合の悪い施設利用者のケアに対して全国の医師がアドバイスできるようになりました。
大久保:医師といっても、さまざまな専門分野を持った医師がいますよね。
青柳:おっしゃる通りです。医師も専門外のことを聞かれても困ってしまいます。ドクターメイトを使えば、特定の症状を診療するのに最適な医師を日本全国からアサインできます。チャットを使って写真や動画も見せられるので、リアルタイムで適切な医療相談を最適な医師にすることが可能です。
医療・介護業界の社会課題
大久保:青柳さんの視点から、マクロな視点での医療・介護業界の課題について教えてください。
青柳一つはやはり高齢化です。高齢化で多くの介護施設利用者さんの疾患リスクが高まっています。疾患リスクが高いと、施設利用者さんが通院・入院することも増え、国全体の医療費・介護費は増加していきます。
大久保:そうですよね。特に創業手帳を読まれているような、これから起業する、あるいは現在進行形で経営している世代にとってみれば、社会の高齢化のために支払う税金や保険料の増加は大きな社会課題ですよね。
青柳:おっしゃる通りです。現時点で国家予算に占める医療費は約40兆円、介護費は約10兆円となっています。国家予算に占める医療費・介護費の割合がこれからもどんどん増えていくことは見えていて、それを抑制できると日本全体にとっても、日本のこれからを担っていく現役世代にとってもメリットがあります。私としては、ここ20年間日本の国家予算に占める教育費の割合がずっと変わらずにいることを気持ち悪く感じています。ドクターメイトを導入する施設を増やし、日本の国家予算に占める医療費・介護費の割合を減らして、その分を教育費にまわしてもらいたい、というのが我々ドクターメイトの願いでもあります。
大久保:他にもありますか。
青柳:医師不足の問題です。臨床現場は非常に逼迫しているのにもかかわらず、高齢化もあって軽い病状で来院する患者さんはどこの病院でも増えています。そこでドクターメイトのサービスを介護施設に導入していただければ、病院への来院者数が減って病院の医師たちにも余裕ができます。
大久保:ドクターメイトに登録する医師の方も、集めやすいのではないでしょうか。
青柳:はい。私が創業時に感じていた医療現場の逼迫の問題は、現在進行形で多くの医師の方々も感じていらっしゃるので、ドクターメイトに協力いただく医師の方は見つけやすいです。また、特に女性の医師の方の場合には、出産・育児があって一時的にフルタイムで働けない方も多く、そうした先生方であってもオンライン相談であれば、ご自宅にいながらでも働けて負担も軽く参画しやすい、という事情もあります。
大久保:なるほど。病院でフルタイム勤務となると激務で難しいけれども、ドクターメイトのオンライン相談であればそこまで負担にもならない、と。
青柳:そういうことですね。医師の方々のキャリアもより多様になっていくと思います。もう一つあるのが、医師の偏在の問題ですよね。都市部に医師が集中していて、地方に医師がいないという問題。この問題も非常に根強い問題ですが、オンライン診療という領域がより広がっていくと、どの地域にいても最適な医師にリーチできる、という状況になっていきます。
大久保:ドクターメイトを導入する事業者さんが増えると、日本の国家レベルの課題も解決できるということですね。
青柳:それは言い過ぎかもしれませんが(笑)、ビジョンとしてはそれくらいのことを考えています!
大久保:どちらかというと世界全体というより、日本の課題解決を意識して創っているサービスということですよね。
青柳:現在はそうかもしれませんが、将来的には世界展開も見据えています。というのも、先進諸国に先駆けて日本の高齢化が進んでいるので、日本でドクターメイトのモデルが成功すれば、後追いで高齢化する韓国や中国にもこのモデルを輸出したいと考えています。
大久保:なるほど。ますます期待が持てますね。
コロナ禍で介護業界の課題がより深刻に
大久保:2020年にも一度インタビューさせていただきました。前回から変わったことはありましたか。
青柳:コロナ禍があって弊社の事業については追い風が吹きました。コロナ禍で社会全体のDX(※)が進みましたが、その流れの中でドクターメイトの導入を検討される介護施設事業者様が増えたためです。コロナ禍で施設利用者さんも病院に行くことができないために、介護施設内で医師にオンライン相談できるドクターメイトの需要が高まりました。
大久保:病院にとっても、介護施設にドクターメイトが導入されると、負担が減るということはありますよね。
青柳:おっしゃる通りです。そもそも私がドクターメイトを創業したきっかけが、私が臨床現場で感じた課題でした。まず感じたのが、わざわざ介護施設から病院に来てまで診察を受ける必要がない程度の症状にもかかわらず、来院される方がかなりの数いらしたこと。これは病院側の話にはなりますが、全国的に医師不足とも言われる状況の中で、医師の負担になっていると感じました。もう一つ感じたのが、もっと早い段階で来院すべきだったのに、手遅れになってから介護施設から来院される方も多いこと。これらの課題を解決するために、ドクターメイトを創業しました。
大久保:無駄も多かったということですよね。
青柳:本当に多かったです。多くの医師が同じことを感じていたと思います。であれば、当然この課題に取り組んでいるベンチャー企業もあるのだろうなと思い、探してみたのですが、課題解決に取り組んでいる既存の企業はありませんでした。「何でこんなに課題が大きいのに誰もやっていないのだろう」とその時に思ったんです。以前、医師の先輩がベンチャー企業を立ち上げたのを手伝っていた経験が自分にはあったので、「それなら自分で起業してサービスを作ってしまおう」となりました。創業手帳は先輩の起業を手伝っていた際に読んでいましたね。
大久保:ありがとうございます。それでは、創業のきっかけともなっていた課題に、コロナ禍で多くの介護施設事業者が気付かされた、ということですかね。
青柳:そうですね。コロナ禍でより医師不足が逼迫し、施設利用者さんもあまり外出ができなくなったので、ドクターメイトがそこの需要に上手くハマった、という印象です。オンラインで営業ができるようになったことも追い風となり、多くの介護施設事業者の方にドクターメイトを導入いただきました。社員数も前回インタビューを受けた際から2倍程度の30名弱まで増えました。それに伴い、2021年7月には農林中金イノベーション投資事業有限責任組、みずほ銀行、商工中金から合計1.8億円の資金調達を実施しました。
大久保:私の周囲の起業家や投資家の間でも、「ドクターメイト、最近アツいよね」という話が最近よく出ています。
青柳:ありがとうございます。皆様のご期待に応えられるよう頑張ってまいります。
(※)DXとは…デジタルトランスフォーメーションの略称。業務のデジタル化のこと。デジタルテクノロジーを用いて業務改善をするケースや、デジタルならではの新規ビジネスを創出するケースなどさまざまな方法がある。
医師兼起業家が創業時に気をつけていたこと
大久保:創業時に気をつけたことはありますか。
青柳:結果としてではありますが、「ありものでやっていく」ということですかね。我々のこれからの課題でもあるのですが、ドクターメイトには自社開発プロダクトがあるわけではなく、市場にあるチャットツールなどを組み合わせることでサービスを成り立たせています。
大久保:それは意外でしたね。最初はノーコードでいくのが大切ですよね。
青柳:はい。最近は我々も自社開発を進めていますが、最初はありもので大丈夫かと思います。
大久保:青柳さんは、医師と起業家を経験した日本でも稀有な存在だと思いますが、両者の職業の違いを教えてください。
青柳:起業家・ビジネスパーソンに必要で、医師としては求められなかったことは、「売ること」ですね。営業です。それがビジネスには一番必要なことですが、医師には求められないものです。私も創業時には営業を最重要と捉え、一番最初に有能な営業の方をリクルートすることから始めました。最近はヘルスケア領域のベンチャーも増えてきていますが、「営業が重要」ということを意識した方がビジネスの成功率は上がるでしょう。
大久保:医療でもビジネスでも高いプロフェッショナリズムを求められるのは同様ですが、確かに医師の方に営業は必要ありませんもんね。
青柳:はい。その点については、医師で起業を視野に入れている方は気をつけた方が良いかもしれません。
大久保:起業された時点で、青柳さんがまだ若かったというのも、営業がやりやすかったポイントかもしれませんね。
青柳:そうですね。起業時点ではまだ29歳でしたから、柔軟に対応できたというのもあると思います。
ドクターメイトの今後
大久保:ドクターメイトはどのような施設で導入されているのですか。
青柳:小さなところでは個人経営の施設から、上場企業が運営する施設まで、約180の施設に導入していただいています。介護事業所は日本全国に23.3万施設ほどあり、市場規模は250億円程度のマーケットなので、これからますます利用施設が増えていくことを見込んでいます。
大久保:どのようにサービスを広げていくことを考えていますか。
青柳:医療という領域なので、自治体や学会と組んでエビデンスを取るなど、公的な領域から広げていこうと考えています。特に、ドクターメイトを導入すれば、実際に医療費・介護費のコスト削減ができる、というエビデンスを作っていきたいですね。医師なので、その強みを活かしたアプローチができるかな、と考えています。今まではデジタル化に障壁があったのですが、そこの部分の障壁はコロナ禍もあったので、なくなってきています。
大久保:なるほど。創業手帳でもお手伝いができそうです。
青柳:ぜひお願いします。
大久保:最後に、介護施設を経営している方や、これから創業する方に向けて、メッセージをお願いします。
青柳:やはり、「医療と介護の連携」です。介護施設と医療現場を近くすることで、介護施設経営にもさまざまなメリットがあります。ドクターメイトの導入がそれをお手伝いできれば幸いです。
大久保:本日は医師兼起業家という輝かしい経歴をお持ちの青柳さんらしい、視野の広いお話を伺えました。これからのドクターメイトの活躍にも目が離せません。青柳さん、本当にありがとうございました。
(取材協力:
ドクターメイト株式会社 青柳直樹)
(編集: 創業手帳編集部)