契約書作成でリーガルチェックが必要な理由とは
契約書のリーガルチェックの必要性とは?起こりえるリスクとチェックの方法を検証
契約書のリーガルチェックは、事業を営む上で自社を守るための大切な役割を持つ手順です。
リーガルチェックは、取引先から提示された書類のチェックだけでなく、自社で作成した契約書も含めて必要となります。
発生しうる契約書トラブルを回避し、取引先と対等で健全な関係を築くために、リーガルチェックの重要性を認識しましょう。
リーガルチェックが必要な書類の種類、リーガルチェックを怠った時のリスクなど、契約書のリーガルチェックの必要性を解説します。
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この記事の目次
起業家が必要になる主な契約書とは
起業家にとってリーガルチェックが必要となるのは、取引先と今後の売買や業務委託などの重要な契約を締結する時です。
ビジネスでやり取りする契約書には様々なものがありますが、煩雑な事務処理の過程で契約書のチェックがおざなりにならないように注意が必要となります。
起業家が主に関わることになる契約書にはどのようなものがあるか、知っておきましょう。
秘密保持契約(NDA)書
秘密保持契約書とは、自社の持っている情報を他社に提供する際に、相手がそれ以外の企業に情報を漏洩したり勝手に利用したりするのを防ぐために取り交わす契約書です。
他社との共同開発や、外部の工場に新製品の試作品の製造を依頼する時などに使われます。基本的には自社の情報を開示する前に締結します。
秘密保持契約の目的は、自社の大切な情報を守ることです。
自社独自の新製品や新サービスを開発した場合やその情報を特許申請しようとしていた場合など、第三者に知られるのは自社の利益に重大な不利益をもたらします。
こうした不利益を防ぐことが、秘密保持契約書の役割です。
売買契約書
売買契約書は、商品やサービスの取引きに関する取り決めについて記載し、どのような条件で売買されたかを証明する書類です。
売買契約は、基本的に契約書を取り交わさなくても成立するものですが、売買後や契約期間の途中でトラブルが発生した場合に役立ちます。
契約書はその内容を双方で合意した証拠となるものです。トラブル発生の際の対処方法なども定めておき、有事の際には契約書に従って処理することになります。
特に大きな金額の売買契約の際には、代金未払いのリスクが大きくなるため、契約を交わすことが多いものです。
また、代金未払いの他にも、災害での損害についての免責(責任を負わない)事項や損害賠償の上限なども定めます。
業務委託契約書
業務委託契約書は、請負契約や委任契約の際に、発注者と受託者が交わす書類です。業務委託では、雇用契約ではなくある業務を外部に任せて、遂行してもらいます。
契約書を交わすのは、受託者側は委託した業務を滞りなく行い、発注者側は正しく対価を払うという約束のためです。
売買契約と同じく、書類なしでも契約は成立しますが、後々のトラブルを防ぎ、契約内容を明確にするために作成することが多くなります。
雇用契約書
雇用契約書は、労働者と雇用主が交わす契約書です。
労働者は従業員として働くことを約束し、雇用主はその労働に対して対価を支払うことを約束します。
雇用契約も、書面がなくても契約自体は成立しますが、雇用後の労働条件のトラブルなどを避けるために作成することが多いものです。
消費貸借契約書
消費貸借契約書とは、同じものを返還することを約束して、貸主から借主が金銭を受け取る契約の際に使用します。
主にお金の貸し借りで用い、それを金銭消費貸借契約と言います。
金銭消費貸借契約書は、個人の住宅ローンから法人間の借入れでも必要です。返済期日や返済方法、利息、保証人や抵当権など、重要な事項が定められ、記載されます。
リーガルチェックの重要性
起業家や企業は、取引きに際して様々な契約書類を取り扱っています。これらの書類は利益や権利を守り、リスクを回避するために重要なものばかりです。
リーガルチェックを行う必要があると言われるのは、これらの契約書について以下のような効果が期待できるためです。
契約書の有効性が高まる
リーガルチェックを行うことで、契約書が正しい内容になり、有効性が高まります。
有効性の高い契約書は、後々のトラブルの際にも第三者からきちんと効果が認められ、自社を守ってくれるでしょう。
契約書類は、あらかじめテンプレートを作成してあることも多いですが、個々の契約内容は異なり、テンプレートの範囲内ではカバーしきれないこともあるものです。
そのため、独自に作成してチェックを怠ると、抜けや漏れ、誤りが生じる恐れがあります。
誤りの多い契約書では、相手方の不信にもつながりますし、トラブルの際に相手に言い逃れや責任転嫁のスキを作りかねません。
契約に問題がないかわかる
リーガルチェックを行うことは、契約に様々な問題がないことを契約前に知る機会となります。
取引きでは相手方に誤解を与えない、様々な解釈の余地を与えないことが大切です。そこでリ、ーガルチェックを行い誤解の元になるような問題を防ぎます。
不利な言い回しを事前に指摘
リーガルチェックでは、自社に不利な言い回しになっていないか確認、指摘してもらい、自社の権利を守る文言であるか確認してもらうことができます。
表現一つでもいろいろな解釈ができる場合があり、考え方によっては不利になるかもしれません。
そこで、リーガルチェックを受け、不利な条件に捉えられる言い回しを直します。
不備によるトラブルを未然に回避
契約書の不備によるトラブルは取引先との関係を悪くしかねないリスクです。信頼を損ない、トラブルの対応に多くの労力や時間、費用を割かれます。
リーガルチェックを契約前に行っておくと、それらのリスクをすべて排除して、長く良好な関係を取引先と保つことができます。
大手とも対等な契約を結べる
スタートアップ企業や中小企業では、大企業との取引きの際に立場的に相手方の契約書に注文をつけにくいと感じることも多いものです。
しかし、普段からリーガルチェックを行う習慣があることを伝えておけば、自然に自社でもチェックや交渉を行うことができます。
企業の規模に関わらず、契約書の効力は平等です。リーガルチェックで大手に対しても対等で合理的な契約を結びましょう。
リーガルチェックをしなかった場合のリスク
リーガルチェックは事業を進める様々な契約シーンで重要な役割を果たしています。
では、リーガルチェックを行わずに契約を交わした場合、どのようなリスクが起こりえるのでしょう。具体的な事例とともに考えうるリスクを紹介します。
重要法令への対応ミスが発生する
リーガルチェックを行わずに契約を進めた場合には、特定商取引法など重要法令への対応がされていないことに気付かないリスクが起こる可能性があります。
重要法令への対応が抜けた契約書では、その契約自体が無効になったり、行政処分を受けたりと自社にとって非常に不利な状態になりかねません。
事例
・顧客の自宅で契約したリフォーム契約で、特定商取引法で定められた記載がなかったケース
本来であれば、特定商取引法の訪問販売の規制が適用となり、契約書に記載する必要があります。
その記載がなかったため、顧客側はいつでもクーリングオフして代金の返金を求められるようになってしまいました。
・下請事業者との契約で下請法で禁止されている記載をしたケース
下請法では、著しく低い金額で発注する買いたたきは禁止されています。
それなのに、下請事業者との契約書に通常の対価と比べて非常に低い価格を設定して、行政からの指導が入ってしまいました。
自社に不利な契約内容を受け入れてしまう
リーガルチェックを怠ったがために、自社に不利な契約を受け入れてしまい大きな損失を生む恐れもあります。
トラブルが起こった際に相手先の責任を問えなくなり、損害を自社で被るリスクを高めます。
事例
・取引先からの契約書をそのまま捺印したケース
取引先から送られてきた契約書を十分に確認せずに捺印して送り返してしまうと、内容がどうであれ成立してしまいます。
あとで確認したら、契約書には損害賠償について取引先の責任を逃れると取れる文言があり、製品トラブルの自社のリスクが高くなってしまいました。
・無料サービスと思ったが自動更新されたケース
求人広告会社から電話で勧誘を受け、1カ月無料で掲載できるサービスを利用することにした事例です。
これだけでは何も問題はありませんが、契約内容をよく見ずに申し込みをしたところ、無料期間が終了後も契約が自動更新されていて、後日高額な料金を請求されました。
リーガルチェックの手法2種
リーガルチェックは非常に重要で、怠ると大きなリスクにつながることが分かりました。
しかし、実際にリーガルチェックをするにはどのような方法を採ったら良いのでしょう。
リーガルチェックには2種類の方法があり、それぞれにはメリットデメリットがあります。どちらの方法が良いか、詳しくチェックしていきます。
弁護士への依頼
リーガルチェックは、弁護士に依頼することが可能です。専門知識や法的事例、最新情報に詳しい専門家に、直接契約書をチェックしてもらえます。
契約書の内容を、隅々まで確認してもらい、あいまいな表現や誤解を与える文言を修正し、リスクにつながる内容を排除した契約書を作成できるでしょう。
弁護士との関係性ができる
弁護士にリーガルチェックを依頼することは、弁護士との関係性を作るためにも役立ちます。
大手企業であれば、法務担当者や専門部署を持ち外部の顧問弁護士がいることもありますが、スタートアップや中小企業ではそれが難しいことも多いかもしれません。
しかし、リーガルチェックを依頼することで、自社を知る弁護士を作ることができ、いざという時に相談に乗ってもらいやすくなります。
リーガルチェックの依頼は、顧問料とは別の料金形態を採っている事務所もあるため、まずはリーガルチェックで弁護士の様子を見てみるという手もあります。
コストと時間がかかる
弁護士にリーガルチェックを依頼するにはコストがかかりますが、一般的には、契約1件あたりの相場は数万円~10万円程度です。
また、人の手で行うチェックなので、時間もそれ相当にかかることが予想されます。チェックに出したらいつ返却されるか分からないのでは、取引相手との関係や契約スピードにも支障が出るかもしれません。
希望が反映されないこともある
リーガルチェックを依頼する弁護士は、法律と契約ルールをよく知る専門家ですが、企業側の人間ではありません。
自社の都合や希望はある程度相談で反映させることはできますが、希望がすべて反映されないこともあります。
どうしても盛り込みたい内容については、あらかじめしっかりと伝えておくことで、大きな齟齬を防ぐことは可能です。
原案とビジネスプラン、できれば自社の事業を説明する資料も添えるとより効果的です。
AIなどのツール活用
リーガルチェックは弁護士ではなく、AIなどのチェックツールを使って行うこともできます。
チェックツールは、インターネット上で使えるサービスで、書類をアップロードして利用します。
全てを機械が行うのではなく、最終判断は人が入っているサービスもあります。
弁護士ほどの精度は期待できないまでも、必要最低限の契約書チェックでよい場合には便利です。
低コストでスピーディー
AIなどのツールを使うリーガルチェックは、弁護士に依頼するよりもコストも時間もかかりません。
弁護士にリーガルチェックを依頼すると費用も時間もかかり、資金力に余裕のない企業にとっては大きな痛手となります。
しかし、チェックツールであれば低コストのため、資金力のないスタートアップ企業や中小企業にも安心して利用できます。
また、フィードバックも早いため、スピーディーな契約を望む場合にも快適です。
特殊な契約や前例の少ない契約には不向き
AIなどのチェックツールは、一般的な契約書には快適な使い勝手が期待できますが、特殊な契約や前例の少ない契約には向いていません。
AIが元々、前例やデータとして登録された情報を元に判断をする仕組みであるため、一般的ではない契約の場合には正しい判断が難しくなります。
また、AIは契約書自体の正誤をチェックすることはできますが、柔軟に取引先との関係や自社で盛り込みたい内容を理解することはできません。
そのため、一般的なチェックで済む契約書以外は特に、最終的には人的なチェックが必要となり、専門性の高い担当者が最終チェックをした方が安心できるでしょう。
まとめ
リーガルチェックは、様々な契約書で必要となります。
事業を営むにあたっては多くの契約書を扱うこととなりますが、契約内容に誤りや落ち度があると事業に大きな損害を与えることもあります。
そのため、ビジネス上の契約ではリーガルチェックは欠かせない工程となるでしょう。
リーガルチェックの方法には、弁護士によるものとAIによるものがあります。どちらもメリットとデメリット、向き不向きがあるため、契約書の内容によってどちらが良いか厳選しなければいけません。
(編集:創業手帳編集部)