産業雇用安定助成金|申請方法は?手続きの流れや必要書類を解説
出向元・出向先の適切なマッチング&綿密な計画がポイント!在籍型出向を活用して雇用を守る
産業雇用安定助成金は、雇用過剰となった企業と人手不足の企業との間で、雇用シェアを活用するといった出向形態である「在籍型出向」により、雇用を守る仕組みを提供するものです。
この記事では、産業雇用安定助成金の手続き・申請方法について解説します。
また、受給要件や助成対象となる費用についての知識が手続き内容の理解につながるので、
「産業雇用安定助成金|受給対象者や金額などをわかりやすく解説します」
とあわせてお読みください。
この記事の目次
産業雇用安定助成金の受給手続きの流れ
受給手続きの流れは、厚生労働省から以下のフローが示されています。
申請前に準備が必要な手続き
産業雇用安定助成金が対象とする在籍型出向(※)では、雇用調整を行いたい「出向元事業者」と、出向を受け入れたい「出向先事業者」のそれぞれに相手がいる(マッチングする)ことが前提となります。
さらに、資本や組織において関連性のない出向元・出向先事業者の間で、出向についての契約を結び、具体的な計画を明確にしておく必要があります。
また、出向元では「労働組合等との協定書」と「出向労働者本人の同意書」が必要です。以下でそれぞれについて詳しく見ていきましょう。
(※)在籍型出向とは、出向元と出向先における「出向契約」によって、労働者が出向元・出向先の企業の双方と雇用契約を結ぶこと。従来の「労働者派遣契約」よりも労働者の雇用機会が確保されている点に違いがあり、労働者派遣には該当しない。
出向元事業主と出向先事業主のマッチング
産業雇用安定助成金の施行にあわせて、在籍型出向の「送出ニーズと受入ニーズのマッチングをはかる」という役割を与えられているのが、(公益財団法人)産業雇用安定センターです。
産業雇用安定センターは、各都道府県に地方事務所が設置されており、出向に関する企業間のマッチングを無料で斡旋しています。
労働組合等との協定書
出向元事業所の提出書類となる「労働組合等との間の出向協定書」には、以下の内容を記載し、出向元が確認書類(1)として添付します。
- <労働組合等との間の出向協定書>
-
- 出向実施予定時期・期間
- 出向の形態・雇用関係
- 出向期間中の賃金
- 出向期間中の労働条件
- 出向期間中の雇用保険の適用
- 出向終了後の処遇
- 出向労働者の範囲及び人数
出向に係る本人同意書
産業雇用安定助成金は在籍型出向を対象とした助成金であり、出向労働者が出向に際して、不利な処遇を受けないように定めたものです。
本人同意書では、出向終了後に前職場へ復帰すること、出向指示への承諾、労働組合との協定書への同意等を確認します。
これらについては、所定のフォーマット[様式第5号]に記載します。申請書様式は、厚生労働省のホームーページからダウンロード可能です。
事業所の状況に関する書類
事業所の状況に関する書類として、出向元・出向先は以下を確認書類(2)として添付します。
- <事業所の状況に関する書類>
-
- 【出向元事業主のみ】
コロナ禍の影響による生産指標(売上や生産量)の減少を確認するための会計書類。
※「月次損益計算書」「総勘定元帳」「生産月報」等 - 【出向先事業主のみ】
派遣労働者を受け入れている場合のみ、「派遣先管理台帳」を添付する。 - 【出向元・出向先事業主】
所定の労働日や労働時間、賃金制度の規定を確認できる書類。
※「就業規則」「給与規定」「年間休日カレンダー」等 - 【出向元・出向先事業主】
事業所の概要と中小企業に該当するかを判断するための書類。
※「会社案内パンフレット」「登記事項証明書」等
- 【出向元事業主のみ】
出向元事業主と出向先事業主が結ぶ出向契約書
出向契約書には、以下の内容を記載します。
- <出向契約書>
-
- 出向労働者ごとの出向実施時期・期間
- 出向形態と雇用関係
- 出向期間中の賃金
- 出向期間中の労働条件
- 出向期間中の雇用保険の適用
- 出向元・出向先間での賃金の負担・補助
出向計画届に必要な書類
労働局またはハローワークに提出する際に、最初の手続きとなるのが「出向計画届」です。計画届には以下の書類が必要となります。
下記の書類のうち、「出向に係る本人同意書」「出向協定書」「事業所の状況に関する書類」「出向契約に関する書類」は、申請前の準備として解説したものです。
これらの申請書様式は、厚生労働省のホームーページからダウンロードできます。
当助成金に関する書類は多くあるため、詳細については厚生労働省のホームページの「記載例」をご確認の上、必要事項をご記載ください。
[様式第1号]出向実施計画(変更)届(出向元事業主)
出向実施計画(変更)届(出向元事業主)[様式第1号]という書類は、出向元事業主が記入する書類です。以下の内容を記載します。
- <様式第1号>
-
- 出向元事業所の名称
- 所在地
- 産業分類
- 資本金
- 常時雇用する労働者数
- 事務担当者
- 他の助成金の受給の有無
- 出向の対象期間
[様式第1号別紙2]出向初期経費に係る計画届(出向元事業所)
出向初期経費に係る計画届(出向元事業所)[様式第1号別紙2]は、出向先となる事業所について以下の内容を記載します。
- <様式第1号の別紙1>
-
- 出向先となる事業所の名称や所在地
- 出向労働者の氏名と出向の期間
- 支給申請のサイクル(何カ月ごとに支給申請を行うか)
- 賃金類型(賃金を出向元と出向先でどのように負担するか)
[様式第1号別紙2]出向初期経費に係る計画届(出向元事業所)
様式第1号の別紙2は、出向元事業所の「出向初期経費の内容」を記載する書類です。
出向初期経費が以下のどれにあたるかを選択します。
- <様式第1号の別紙2>
-
- 職場見学・業務説明会の実施に要する経費
- 労働条件・スケジュールの調整に要する経費
- 就業規則等の整備・改正に要する経費
- 出向契約書の作成・締結に要する経費
- 教育訓練に要する経費
- 出向労働者の転居に要する経費
- その他
上記の経費のうち、他の助成金と併給調整されるものがあれば、他の助成金名と経費の内容を記載します。
[様式第2号]出向実施計画(変更)届(出向先事業所)
様式第2号は、出向先事業所が作成する書類です。
その後に、出向元事業所に提出し、出向元事業所がまとめて労働局やハローワークに提出します。記載内容は以下のとおりです。
- <様式第2号>
-
- 出向先事業所の名称
- 所在地
- 産業分類
- 資本金
- 常時雇用する労働者数
- 出向受け入れ前6カ月間の解雇等の有無
- 当助成金の対象となる出向の有無
- 本助成金の目的の確認
- 出向元との独立性の確認
- 出向期間
[様式第2号別紙]出向初期経費に係る計画届(出向先事業所)
様式第2号の別紙は、出向先事業所の「出向初期経費の内容」を記載する書類です。
出向初期経費が以下のどれにあたるかを選択します。
- <様式第2号の別紙>
-
- 出向労働者に係る什器、OA環境整備費用、被服費等の初度調弁費用
- 職場見学・業務説明会の実施に関する経費
- 労働条件・スケジュールの調整に要する経費
- 就業規則等の整備・改正に要する経費
- 出向契約書の作成・締結に要する経費
- 教育訓練に要する経費
- 出向労働者の転居に要する経費
- その他
[様式第3号]出向元事業所の事業活動の状況に関する申出書及び確認書類
様式第3号は、出向元の受給要件として、生産要件(売上や生産高がコロナ禍により5%以上減少していること)に当てはまるかを確認するために月間売上高を記入します。
加えて、その原因が新型コロナウイルス感染症によるものであることを確認します。
[様式第4号]出向先事業所の雇用指標の状況に関する申出書及び確認書類
様式第4号は、出向先の受給要件として、雇用量要件の数値を記入します。雇用量要件とは、労働者の雇用に関して以下を満たしていることです。
- 【出向先事業所の雇用量要件】
-
- 出向開始日の前日から起算して6カ月前から、助成対象期間の末日までの間に、
事業主都合による解雇を行っていないこと
- 出向開始日の前日から起算して6カ月前から、助成対象期間の末日までの間に、
さらに、雇用指標の最近3カ月間の月平均値が前年同期に比べて、以下の要件を満たす必要があります。
- 大企業の場合:5%超、かつ、6人以上の減少がないこと
- 中小企業の場合:10%超、かつ、4人以上の減少がないこと
出向先事業所の自社の雇用保険被保険者の数と、(派遣労働者の受入がある場合は)派遣労働者数の合計で、出向計画届提出直前の3カ月と前年同期の労働者数の数値を比較します。
支給申請に必要な書類
出向の対象となる期間は、1カ月以上2年以内です。
出向開始後、賃金類型(※1)により、出向元または出向先どちらかの賃金締日に合わせて、1カ月~6カ月(※2)ごとに支給申請に必要な書類を、労働局またはハローワークに提出します。
提出書類に基づき労働局で審査が行われ、出向元・出向先のそれぞれに助成金が振り込まれます。
その際、支給申請書類に関して、出向元・出向先のどちらかが支給要件を満たさなかった場合は、双方の助成金が不支給となってしまうので注意が必要です。
(※1)出向元・出向先の賃金の負担・支払いに関する7つのパターン
(※2)計画届の出向先事業所別調書で選択した頻度によるもの
支給申請に必要な書類は、以下のとおりです。
[様式第6号(1)]産業雇用安定助成金 支給申請書
様式第6号の(1)は、以下の内容を出向元・出向先ともに記載します。
- <様式第6号(1)>
-
- 支給対象期間中の「出向初期経費」と「出向運営経費」の合計額
- 出向労働者の数
- 該当する産業分類の大分類
- 出向元と出向先の独立性の確認
- 交換出向がないことの確認
[様式第6号別紙]産業雇用安定助成金 出向初期経費報告書(共通)
様式第6号の別紙は、計画届で記載した「出向初期経費の種類」について、出向労働者ごとに計画通り措置されたかを確認する書類です。
[様式第6号(2)(3)]出向元(出向先)事業所賃金補填額・負担額等調書
様式第6号の(2)(3)は、以下の金額を出向元・出向先ともに記載します。
- <様式第6号の(2)(3)>
-
- 出向元と出向先が出向労働者に支払う賃金
- 出向元と出向先それぞれの出向運営経費
- 出向元と出向先それぞれの出向初期経費
- 出向元と出向先の双方が相手に対して補助した金額
なお当助成金では、出向元・出向先が支払う賃金と補助の拠出のパターンが7つの賃金類型に分類されるため、出向契約で定めた負担・拠出の割合に従って金額を記載してください。
[様式第6号(4)]支給対象者別支給額算定調書(共通)
様式第6号の(4)は、[様式第6号(2)(3)]に記入した出向元・出向先それぞれの賃金補填額・負担額等調書の金額をもとに、支給申請額を算出する書類です。
計画届の申請書様式と同じく、支給申請関係の様式も厚生労働省のホームページからダウンロードできます。
様式第6号(4)はエクセル形式のファイルになっており、賃金補填額・負担額等調書で記入した金額を入力すると、支給申請金額が自動的に計算されます。
[様式第6号(5)]支給要件確認申立書(産業雇用安定助成金)
様式第6号の(5)は、支給要件のうち、助成金関連の不正受給や労働保険料の滞納、労働法令の違反等がないかを確認する書類です。
10項目の不支給要件に該当しないかの確認と、役員の署名が求められます。
[様式第7号(1)]雇用維持事業主申告書
様式第7号の(1)は、過去6カ月間の「雇用保険の被保険者数」と「派遣労働者の数」を記載します。
出向先の雇用量要件の他に、出向元・出向先ともに過去6カ月の間に解雇等を行っていない場合、以下の表のように助成率が上乗せされます。
[様式第7号(2)]労働者派遣契約に係る契約期間遵守証明書
様式第7号(1)と同じく、派遣労働者に対し解雇等を行っていないことを確認する書類です。
派遣労働者の人数と、過去6カ月間に派遣を終了した者の人数、その理由を記載します。
[確認書類(4)]出向の実績に関する書類
所定の様式以外に「出向の実態を確認する書類」として、以下の提出が求められます。
- <出向の実態を確認する書類>
-
- 出向の事実、出向の時期、出向労働者の人数、出向の形態と雇用関係及び雇用保険被保険者資格の確認のための書類。
※「労働者名簿」「出勤簿」「タイムカード」「出向労働者台帳」など - 出向労働者の賃金の支払い状況等の確認のための書類。
※出向元・出向先それぞれの「賃金台帳」など - 出向実施期間の出向労働者への賃金が、出向前の賃金額に相当することを確認できる書類。
※出向前の期間の「就業規則」「賃金台帳」など - 賃金以外の出向運営経費を確認できる書類。
※「Off-Jt実施の経費」「会場・施設設備の借上費」「振込通知書」など
- 出向の事実、出向の時期、出向労働者の人数、出向の形態と雇用関係及び雇用保険被保険者資格の確認のための書類。
ここまで解説したそれぞれの書類の記入方法や記入例は、「産業雇用安定助成金ガイドブック」に記載されています。詳細はガイドブックをご参照ください。
まとめ
産業雇用安定助成金は、雇用調整のための出向について、従来の雇用調整助成金よりも利用者にとってメリットが大きい新制度です。
一方で、手続きのための書類が多いことに加え、出向対象期間ごとに支給申請を行わなければならないなど、事務処理の負荷が大きくなることは避けられません。
とくに、出向労働者の賃金を含む「出向運営経費の負担割合」は7つのパターンがあるため、出向契約を結ぶ段階で、支給申請まで視野に入れた出向計画届を作成することがポイントとなってきます。
当助成金の申請受付は、2021年2月5日から開始しています。
(編集:創業手帳編集部)