注目を浴びるリスキリングとは?企業が取り組むメリットや導入のポイント
リスキリングで新たなスキルを取得!注目されている理由や実施時の注意点
リスキリングは、近年注目を浴びている人材育成手法のひとつです。
新しい技術の登場や働き方の多様化などの影響もあって、リスキリングを取り入れる企業は増加しています。
しかし、リスキリングという言葉に馴染みがない経営者の中には、注目される理由や導入のメリットについて知りたい方も多いはずです。
そこで今回は、リスキリングの定義から注目される理由、実践での注意点まで解説します。
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この記事の目次
注目されるリスキリングとは?
リスキリングの意味は、再教育により新しい知識やスキルを身に付けることです。
経済産業省の定義は、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」となっています。
技術の革新やビジネスモデルの変化など、労働環境は目まぐるしく変化しています。
様々な変化に対応していくためにも、在籍する就業者に新しいスキルを身に付けてもらう考え方が広まっているのです。
リスキリングと他の概念との違い
人材育成に関する手法や概念はほかにも様々なものがあります。ここで、リスキリングとほかの概念との違いについてご紹介します。
アンラーニングとの違い
アンラーニングは、日本語で「学習棄却」という意味で、持っている知識やスキルから不要なものを捨て、新しいものを取り入れることを指す概念です。
ビジネスモデルの変化が激しい現代では、従来のやり方だけでは対応しきれない可能性があります。
そのため、アンラーニングではただ新しい知識やスキルを学び直すだけではなく、すでに有効でないスキルや価値観を適切に棄却することが重視されています。
一方、リスキリングは、必ずしも保有する知識・スキルを棄却する必要はありません。この点がアンラーニングとの違いです。
リカレント教育との違い
リカレントとは、「循環する」や「繰り返す」という意味があります。
個人が主体となって適切なタイミングで再度教育を受けて、就業に戻ることを繰り返す仕組みがリカレント教育です。
リカレント教育は、離職中など一度仕事から離れて、大学や専門学校など教育機関で再教育を受けることが想定されています。
また、個人の意思で学び直すことが主眼となっているのも大きな特徴です。
リスキリングは、企業が戦略の一環として、在籍する社員に新しいスキル獲得の機会を与えるものとなります。
基本的に就労しながら教育を受けるので、離職せずに新しいスキルの取得が可能です。
企業側の視点が強いこともリカレント教育と異なる特徴です。
OJTとの違い
OJTは、「On-the-Job Training」を省略した言葉で、職場内での教育訓練を意味します。
具体的には職場の上司や先輩が、部下・後輩に対して実務を通じて人材を育成することです。
OJTを通じて、社員はその職場(部署)での仕事のやり方や必要なスキルが身に付きます。
一方、リスキリングは将来手掛ける仕事をできるようにするために、在籍する社員を対象に必要な新しいスキルを身に付ける教育です。
企業がすでに保有する仕事のやり方やスキルを指導するOJTとは、学習内容が大きく異なります。
リスキリングの必要性が高まっている理由
リスキリングの必要性が高まり、導入する企業は増えています。
リスキリングが注目を浴びる理由には、「働き方や労働環境の変化」と「DXの推進」の2つが考えられます。
それぞれを詳しく解説します。
働き方や労働環境の変化
現在は様々なものがデジタル化しており、新しい業務や職種が誕生しています。
それに加えて、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、リモートワークやオンラインツールを用いた会議・商談なども一気に広まりました。
これらの影響で、働き方や労働環境は大きく変化しています。
働き方や労働環境の変化にともない、従来のやり方では難しい仕事も増えています。
新しい変化に対応していくためにも、企業は働き方の見直しや新しい知識・スキルの取得が求められています。
こうした背景から、リスキリング実施の重要性を考える企業が増えました。
DXの推進
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、簡単にいうと社内のデジタル化を進める取組みのことです。
デジタルツールを用いることで業務効率の改善や良質なサービスの提供などが可能になることから、DX化が推進されています。
企業がDXに対応していくためには、デジタルスキルを持つ人材の確保が必要不可欠です。
しかし、日本ではデジタル人材が不足している現状で、簡単に確保できる状況とはいえません。
そのため、社外から確保するのではなく、社内でDX人材を育てる動きが広まっているのです。
DX人材の育成を目的に、リスキリングを取り入れるケースも増えています。
リスキリングに取り組むメリット
リスキリングの実施には、様々なメリットがあります。主なメリットは4つあるので、詳しくご紹介します。
人材採用・育成のコストを削減できる
新規事業やDX推進など新しいことを始めるにあたり、必要な専門知識・スキルを持つ人材を確保しなければなりません。
そのために、人材の採用活動や入社後の教育・研修が必要となります。
採用活動や育成では、それなりのコストがかかります。人材を確保するまでの期間が長いと、その分、採用活動にかかるコストはかさむでしょう。
それなら、在籍する社員に学び直してもらうほうが、一からすべて育てる場合よりも低コストかつスムーズに人材を確保できます。
日本は労働人口が減少傾向にあり、また必要なスキルを持つ人材を確実に確保できるとは限りません。
リスキリングにより必要なスキルを身に付けておくことで、人手不足の状況でも業務に対応できる環境を構築できます。
企業の文化・社風を守りながら成長できる
リスキリングには、企業の文化や社風を継承しながら成長できるメリットもあります。
リスキリングは、在籍する社員が再教育の対象です。そのため、獲得したスキルを社内でどう使えばいいのか、イメージしながら学習できます。
新規事業に新しい人材を確保し、配属しただけでは、これまで築いてきた企業のノウハウや企業精神が崩れてしまうかもしれません。
企業を熟知した社員であれば、企業の文化や社風を残しつつ、新しい事業の展開を目指すことが可能です。
スキルの取得で業務の効率化につながる
社員が新しいスキルを身に付けることで、業務効率が改善される可能性があります。例えば、データ活用のスキルを獲得することで、今まで調査や検討にかかった時間を短縮されるでしょう。
そうなれば他の業務に集中する時間が増え、長時間労働の回避や生産性の向上にも期待できます。
残業が減れば、残業代の削減となり企業にとってもメリットは大きいです。社員はワークライフバランスがとりやすくなり、満足感を高められます。
残業が少ない、仕事とプライベートを両立しやすい労働環境は就活する人にも魅力を感じ、今後の採用活動でも大きなメリットをもたらしてくれる可能性が高まります。
新しいアイデアの創出につながる
リスキリングを通じて新しい知識やスキルが身に付けば、今までにはない角度からの発想ができるようになる可能性があります。
新しいアイデアが生まれやすい環境であれば、変化が激しい時代でも新規事業の開拓、事業拡大による売上げアップ、既存事業の陳腐化を防止することが可能です。
時代に取り残されず、社内に新しい風を吹かせたい時にリスキリングはおすすめです。
リスキリング導入・実施のポイントや注意点
社内でリスキリングを実行するにあたり、意識したいポイントがあります。ここで導入・実施のポイントと注意点をご紹介します。
事業戦略をもとに必要なスキルを選定
リスキリングは、将来発生する仕事で必要となる知識やスキルを身に付けてもらうための手段であり、目的ではありません。
事業戦略と連動した人材戦略を考え、それを実現する上で必要となる人物像とスキルを明確にすることが大切です。
企業の特徴や目的によって、取得すべきスキルは異なります。業績や事業内容などのデータに基づき、社員に身に付けてもらいたいスキルを選ぶことが大切です。
社員のスキルの把握や声を聞くことも大事
リスキリングで身に付けるスキルや教材を選定する前に、社員が持つスキルを把握することが大事です。
保有するスキルを把握することで、自社に不足しているスキルが明確になり、スムーズに選定できます。
ほかにも、現在のスキルと取得するスキルにどれだけのギャップがあるのかも把握できるので、教育スケジュールの管理もしやすくなるメリットがあります。
社員のスキルは、スキルマップやデータベースを構築し、データ管理するのがおすすめです。社内で共有しやすい環境を整えることで、社員ごとに適切な配置が可能となります。
また、社員の意見を聞くことも大事です。リスキリングは会社側の要求で行われますが、社員自身に学ぶ意思がなければ成功しません。
現場に立つ社員が不要と感じるスキルを取らせても、不平不満につながる恐れがあります。
社員が業務内で困っていること、改善したいことを聞き出しましょう。そこから適切なスキルを導くことで、社員も納得のいくリスキリングを実現できます。
教材の開発が難しい場合はアウトソーシングを活用する
リスキリングを実行するには、教材が必要です。
教材は紙媒体のテキストやオンラインから閲覧できる教材・メディアなどがあるので、自社に適した運用方法を選ぶ必要があります。
また、日本の企業は教材や教育カリキュラムを自社開発しようと考える傾向にあります。
しかし、リスキリングで身に付けるスキルは学習内容で専門性を求められることも多く、社内での開発が難しいケースも多いです。
自社で教材の開発が難しい場合は、アウトソーシングの活用がおすすめです。
開発で時間がかかったり、完成しても質が低かったりすると、リスキリングを実施する前に断念せざるを得ない可能性があります。
外注で専門家に開発してもらえれば、費用と時間を節約してリスキリングに取り組むことができ、質の高い教育を提供できるメリットがあります。
リスキリングの実践にあたり、外部の専門家や教育コンテンツの利用を検討してみてください。
学習環境や社内のサポート体制を整える
リスキリングは就労しながら学習することが想定されるので、学習環境と整える必要があります。
リスキリング中は社員の負担が増えるので、特に学習時間の設定には注意が必要です。
例えば終業後や休日を学習時間に設定すると、実質的な残業となり社員から不満が出てしまいます。
そのため、就業時間内に取り組むのが望ましいです。社員の意見や要望も聞いて、実施時間を検討することが大事です。
普段から使っているアプリケーションから学習プログラムにアクセスできる仕組みであれば、学習に取りかかりやすくなります。
学習管理システムを導入し、一人ひとりの理解度や取得したスキルなど進捗管理をする体制を作ることも重要です。
さらに、社員のフォローアップも欠かせません。前向きに取り組んでもらえるように、社内のサポート体制も構築する必要があります。
例えば、資格手当やインセンティブの導入、気軽に質問や意見交換ができる専用コミュニティの構築などで、社員のモチベーションを維持できる工夫を検討してみてください。
習得スキルを実践できる場を提供する
学んだスキルを定着させるには、実践が重要となります。リスキリングは学ばせて終わりではなく、実際に実践できる場所を提供することも大切です。
リスキリングは、新しいスキルを使用できる業務を実施する前に行われるケースも多いです。
すぐに業務に取り入れられないスキルの場合は、今後立ち上げる事業をトライアルで実践するなど、実践に近い環境で経験を積める機会を用意しましょう。
また、実践後は結果に応じてフィードバックすると良いです。実践とフィードバックを繰り返すことで、身に付けたスキルを磨き上げていくことが可能です。
まとめ
働き方の多様化や新しい仕事の創出、人手不足など、労働環境の変化により既存の社員を新しい仕事ができる人材にバージョンアップさせることが重視されるようになりました。
社内に新しい風を吹かせるのに、リスキリングは最適な教育手法です。
社員を育てて企業をさらに成長させたい経営者は、専門家と相談しながらリスキリングの実施を検討してみてください。
(編集:創業手帳編集部)