片づけコンサルタント 近藤麻理恵|起業家こそ片づけよう! 近藤麻理恵が説く「片づけとビジネスの関係」【後編】
仕事場、人脈、それに名刺も? 見過ごされがちなビジネスにおいての片づけの効用とは
自らも片づけマニアで、「世界を片づけで変えていきたい」と語るこんまりこと近藤麻理恵さん。アメリカで著書が発売されると、その反響の大きさから次々といろいろな言語に翻訳され、今では40か国で合計1300万部を超える世界的ベストセラーになりました。
起業家でもある近藤さんは、ビジネスにおいて、物理的な片づけだけではなく、頭の中や活動にも片づけが必要だと話します。片づけをすることで、目的意識などがはっきりしてビジネスにも好影響を及ぼすという近藤さんのお話を、創業手帳の大久保が、詳しくお聞きしてきました。
片づけコンサルタント
5歳から『ESSE』などの主婦雑誌を愛読。中学生のときに本格的に片づけの研究をスタート。大学在学中の19歳で片づけコンサルティング業務を開始し、独自の片づけ法「こんまり®メソッド」を編み出す。
2010年に出版した『人生がときめく片づけの魔法』は世界40カ国以上で翻訳され、シリーズ累計1,300万部を超える世界的大ベストセラーに。
2015年に米『TIME』誌の「世界で最も影響力のある100人」に選出。
2019年よりNetflixにてスタートした冠番組『KonMari—人生がときめく片づけの魔法—』が190カ国で放映され、エミー賞2部門にノミネート。
2021年に公開された新シリーズ『KonMari〜“もっと“人生がときめく片づけの魔法〜』はエミー賞を受賞<デイタイム・エミー賞>。片づけとときめきをテーマにしたゲーム『KonMari Spark Joy!』も全世界で発売中。最新刊『おしゃべりな部屋』(川村元気氏との共著)は、物語を通じて片づけの方法を学びながらモチベーションを維持できる不思議な小説として大好評を博している。現在は3人の子どもを育てながら、「片づけ×ときめく生活」をテーマに発信をしている。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
起業家にとっての片づけの効用とは
大久保:前回は近藤さんの今までのキャリアについてお聞きしましたが、今回は「起業家にとっての片づけ」というテーマでお聞きしていきたいと思います。起業家にもやはり片づけは必要なんでしょうか?
こんまり:そうですね。まず、家の片づけをすることによって、自分がどういうものを大事にしているのか、興味があるのかがわかります。例えば趣味の道具が出てきて、やっぱり自分はこういうことが好きなんだなということに気づき、事業のアイディアにつながるかもしれません。片づけをすることによって自分の嗜好や強みがクリアになるので、大前提としておすすめです。
家の片づけを終わらせると、仕事場の片づけもしたくなるんですよ。例えば顧客情報やパソコンの中、仕事の資料、領収書など。仕事場が散らかっていると、気が散ってストレスを感じたり、判断力が落ちてしまいます。仕事場を片づけることは、そういった理由からビジネスに非常に役立ちます。
大久保:起業家って時間も人手も足りないので、ついつい片づけは「いつでもできるタスク」として後回しにしてしまいがちですよね。
こんまり:創業期って本当に大変なので気持ちはわかります。でもそういうときこそ片づけをしていただきたいですね。ビジョンが明確になりますし、思考や環境が整理されると、実作業も確実に進みやすくなるんです。
大久保:ITベンチャーで、全社員で朝絶対に片づけをするという会社がたまにあると聞いています。合理的な経営者の方は「片づけをすると業績がよくなる」と言いますが、本当にそうなのでしょうか?
こんまり:片づけは物理的なものだけではないんです。頭の中や活動においても片づけは必要で、活動の散らかりを生み出してしまう罠は3つあります。それは「成果を求めすぎてしまうこと」「重要性ではなく緊急性を優先させてしまうこと」「複数の作業を同時にこなす、マルチタスク」です。
「ときめきを感じる活動に時間を割き、そうではない活動の時間を減らそう」ということです。そのためには「本当にやりたいことは何なのか?」「自分はどんな人間なのか?」ということをしっかり心にとどめておくことが必要で、これによって目指すところが明確になります。
これまで多くの経営者の方の片づけをお手伝いしてきたことがありますが、物理的な片づけをすることで作業効率がよくなり、その後メールやデータの片づけ、時間の使い方の片づけを進めることで、事業においても「本当にやるべきこと」に注力できるようになり、結果として業績がよくなった、という声はほんとうによく聞くんです。
人脈や名刺も整理が必要! あなたの人脈、ときめきにあふれていますか?
大久保:日常のタスクや活動にも片づけが必要なんですね。ほかに起業家が片づけにおいて気をつけたい点はなんでしょうか。
こんまり:人脈は広がれば広がるほどいいと思いがちですが、必ずしもそうではありません。わたしは会社を辞めて、片づけコンサルタントとして独立したばかりの頃、人脈づくりに精を出していました。自分のビジネスをより多くの人に知ってもらおうと、セミナーや異業種交流会に参加し、たくさんの人と名刺交換したものの、次第に違和感を覚え始めたんです。
知り合いが増えれば増えるほど、イベントやパーティ、飲み会のお誘いが増え、スケジュールがいっぱいになって、本当にやりたいことに時間が使えなくなってしまったからです。思い切って一度人間関係をリセットし、一時期はLINEの連絡先が家族を除いて10人になるまでに減らしました。
実際にやってみて心がとても軽くなりましたし、残した人をより大切にできるようになりました。
人間が管理できる有意義なつながりは、150が限界と言われているんです。多くの人と薄く関わるより、少ない人ひとりひとりに対して、感謝を持って大切に関わる方が、結局はビジネスにおいてもいい結果をもたらします。
大久保:150ですか。言われてみれば、確かに連絡を密に取る人は自然と決まってきますね。
こんまり:名刺に関しても同じです。そもそも今の時代、本当に全ての名刺をずっととっておく必要があるでしょうか。ある経営者の方は、4,000枚近くもの名刺をお持ちでしたが、片づけを始めてから一度連絡をとった人はメールの履歴が残っていることや、SNSでのつながりがあることに気づき、必要な名刺についてはスキャンしてデータで残し、あとは憧れの人など、ときめく名刺を選んで10枚ほどに減らすという方法を取られていました。
もう何年も連絡を取っていない人、これからも取ることがないと思われる人の名刺については、もちろん個人情報には注意して、処分するとすっきりするのでおすすめです。自分がときめくと感じた名刺については、大切にとっておきましょう。
わたしは最近名刺を整理して、たった1枚、自分の父親の名刺だけを残すことに決めました。
楽しいと思わないと続かないから、メンタルを大切にしよう
大久保:片づけというのは合理的で左脳的な行動だと思っていたんですが、Netflixのこんまりさんの番組を見ていると、「家に感謝しましょう」「手放すものにありがとうと伝えましょう」というメッセージなど、メンタルの部分をすごく大切にされていますよね。
こんまり:今までたくさんの方々の片づけを見てきて、左脳的な基準だけで片づけをすると失敗するとわかったんです。わたしはときめきと言っていますが、要するに前向きな気持ちや、楽しいと感じること、自分がどんな自分になりたいのか、というゴールがないと片づけもビジネスも続けることは難しいんですね。
自分がなりたい自分に近づくために、前向きに取り組むことができるビジネスだからこそ結果が出せると思いますし、そのためには左脳だけではなく右脳も使って、わくわくする気持ちやパッションを感じながら継続することが必要だと考えています。
大久保:近藤さんは3人のお子さんの母親でいらっしゃいますが、自分は片づけを頑張っているのに、子どもや部下が片づけをしなくて困っている、という悩みについてはどう答えますか。
こんまり:まずはご自身が片づけをできる姿を見せることです。わたしは洋服をたたむときなど、楽しそうに片づけをすることを心がけています。そういった姿を見せればきっと、周囲の人も変わるはずです。
また、片づけができない人はやり方がわかっていない場合もあります。基本は定位置を決める、使ったら戻すことです。とにかく戻すことを徹底しましょう。わたしの著書には漫画版もあるので、少し大きなお子さんだったら渡してみるのもいいかもしれませんね。
大久保:女性起業家として素晴らしい成功をおさめている近藤さんですが、最後に女性起業家にメッセージをいただけますか。
こんまり:女性はプライベートで状況がいろいろと変わるので、起業したいと思ったらなるべく早く行動にうつすことをおすすめします。子どもが産まれたり、介護が始まることも考えられますよね。
体調的に無理しない方がいい時期もありますし、ご自分の体と相談して、リズムや波を大切にしてください。もちろん、今はその時だと決めたら全力で取り組むことも必要です。メリハリが大事ですね。
自分の強みを明確にして、どんな状況でも人に求められるサービスができる自分でいることが大切だと思っています。女性はいろいろと大変な面もありますが、お互いに頑張りましょうとお伝えしたいです。
近藤麻理恵が片づけてきた1000以上の部屋にまつわる実話を基に、川村元気が紡ぐ7つの部屋の物語。ストーリーに乗せてつむがれるものと人との関係、また片づけを通して変化する人と人の関係が興味深く、ときおりはさまれる片づけテクニックも読んでいてすっと心に入ってきます。気軽に読めて、片づけの真髄が学べる1冊。
(取材協力:
片づけコンサルタント 近藤麻理恵)
(編集: 創業手帳編集部)