個人事業主は労災保険の対象外?特別加入の対象や手続き方法を徹底解説!

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個人事業主は労働者ではないので労災保険の対象外だが特別加入はできる!2024年秋の制度改正前に把握しておこう!


労災保険は、雇用されている労働者が加入する保険です。個人事業主の場合は労働者の扱いにならないため、労災保険の対象外になります。
しかし、労災保険への特別加入は可能です。特別加入とはどのようなものか、知らない方は多いかもしれません。

また最新の情報だと、この労災保険の特別加入については、全業種が加入できる対象へと変更することが発表されており、2024年の秋頃の施行を目指して進められています。
そこで今回は、特別加入の対象や手続きの方法について詳しく解説していきます。個人事業主で労災保険の特別加入を考えている方は、目を通してみてください。

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そもそも労災保険とは


労災保険は、雇用されている方が仕事中や通勤中にケガや病気、障害を負ったり、死亡した場合に保険給付を行う制度で、正式名称は労働者災害補償保険です。
労災保険の対象となる労働者は正社員だけではなく、パートやアルバイトも含まれます。まずは、労災保険の対象となる災害や対象者について解説していきます。

労災保険の対象

労災保険の対象は、業務に原因があるとみなされる業務災害、通勤時に発生する通勤災害の2種類に分けられます。それぞれの具体的な内容は以下のとおりです。

業務災害

業務災害は、業務時間中や業務が原因となるケガや病気、障害、死亡などが含まれます。業務災害と認められるためには、以下2つの条件を満たす必要があります。

  • 業務中に起こったこと
  • 業務が事故の原因になったこと

対象は、作業中の事故や準備または後片付け中の事故、出張中の事故などです。
複数の就業先がある方に対する制度として、すべての就業先の負荷を総合的に判断し、労災の判定を行う「複数業務要因災害」が加わりました。
こちらは、2020年9月以降に発生した事故が対象となります。

通勤災害

通勤災害は、通勤中に起こったケガや病気、障害、死亡などが含まれます。通勤災害として認められるためには、以下の条件をすべて満たさなければいけません。

  • 仕事に向かう通勤中もしくは終了後の退勤時の移動であること
  • 自宅と職場、職場と次の職場、単身赴任先と帰省先との移動であること
  • 合理的な経路と移動であること(交通事情に鑑みた迂回路、子どもを保育所などに預けるための経路も含む)
  • 中断(通勤とは関係ない行為をすること)や逸脱(通勤とは無関係な目的のために経路を逸れること)をしていないこと

これらの条件を満たしていれば通勤災害と認められ、労災保険を利用できます。

労災保険加入の対象者

労災保険の対象となるのは、雇用されている労働者です。労働者は、会社に雇われている正社員だけではありません。
パートやアルバイトといった雇用形態の方も含まれています。

ケガや病気を対象とした社会保険として、健康保険を思い浮かべる方も多いかもしれません。
健康保険と似ていますが、労災保険はあくまでも業務中や通勤途中に起こったもののみが対象となります。
健康保険との大きな違いは、療養費の自己負担がなくなる点です。休業時の手当に関しても、健康保険の傷病手当より手厚い補償が受けられます。

個人事業主は労災保険の特別加入がおすすめ


個人事業主は、原則として労災保険への加入ができません。しかし、一部の業種に限り、特別加入が可能となっています。
続いては、労災保険の特別加入とはどのようなものか、対象者は誰になるのかを解説していきます。

労災保険の特別加入とは

労災保険の特別加入は、労働基準法の労働者ではないものの、労働者と同じように労災保険の対象にすべきであると認められた方が利用できる制度です。
実際の業務状況や労災の発生状況などを加味し、労災保険の対象として適当であるという考えに基づいて設けられている制度で、加入するかどうかは任意となっています。

特別加入の対象は4種類に分けられていて、個人事業主の労災保険加入対象範囲も決められています。
特別加入することでより手厚い補償が受けられる点は、個人事業主には大きなメリットです。
仕事をしている中でなんらかの事故が発生する可能性があるため、万が一に備えた加入を検討する価値はあります。

労災保険特別加入の対象者

労災保険に特別加入できる対象者は決まっています。労災保険特別加入の対象者は以下のとおりです。加入を検討している方は参考にしてみてください。
※2024年秋頃には全業種対象になる予定

中小事業主等

中小事業主は、以下の条件を満たしている場合に該当します。

特定人数以下の労働者を常時雇用している事業主 金融業・保険業・不動産業・小売業は50人以下
卸売業・サービス業は100人以下
その他の業種は300人以下
労働者以外で上記の事業主による事業を行っている方 事業主の家族従事者
代表者以外の役員

常時雇用は、年間100日以上使用していることを指します。通年雇用していない場合でも、年間100日以上であれば条件を満たしていることになるため、注意が必要です。

一人親方等

一人親方は、単独で事業運営を行う事業者(貨物の運送事業や土木業、建築業など)を指します。
労働者を雇用せず、自分自身も会社に雇用されているわけではないため、労災保険の対象になりません。
また、労働者を雇用していても年間100日未満に収まり、労働者ではなく生計を共にする家族だけで働いているケースもあります。

一人親方は事業主ですが、自分自身も現場に出て働くことが多くあります。そのため、現場で働く方は、労働災害に遭う可能性も高いといえます。
労働者と同じようなリスクを負っているため、特別加入制度の利用が認められているのです。

特定作業従事者

特定作業従事者は、指定された様々な業務に取り組んでいる方を指します。以下の条件に当てはまる方が該当者となります。

  • 特定農作業従事者
  • 指定農業機械作業従事者
  • 国もしくは地方公共団体が行っている訓練従事者
  • 家内労働者やその補助者・労働組合等の常勤役員
  • 介護作業従事者もしくは家事支援従事者
  • 芸能関係作業従事者
  • アニメーション制作作業従事者
  • ITフリーランス
  • 柔道整復師
  • 創業支援等措置に基づいた事業を行う方

このような業務に携わっている場合は労災保険の特別加入が利用できるため、対象となる方はぜひ検討してみてください。

海外派遣者

海外派遣者は、国内の事業主から海外の事業へ労働者、または事業主として派遣されたり、発展途上地域への協力事業で派遣されたりする方を指します。
このような場合も、労災保険の特別加入の対象になりますが、留学目的や現地採用といったケースは該当しないため注意が必要です。

国際協力団体から海外に派遣されて、現地で支援活動を行う方も労災保険の特別加入を利用できます。
開発途上地域に対する技術協力事業は、JICAなどの国際協力団体が行う事業が当てはまります。

個人事業主の労災保険加入対象範囲

労災保険加入対象範囲は、2021年4月1日から広がりました。新たな加入対象は、以下のような方です。

芸能関係作業従事者 ・俳優
・舞踊家
・演芸家
・スタント
・監督
・照明
・衣装
・大道具制作 など
アニメーション制作作業従事者 声優以外のアニメーション制作に従事する方
柔道整復師 ・労働者以外の者で、労働者を雇用することなく事業を行うことを常態とする方
・労働者以外の者で、前述した事業に常に従事する方
創業支援等措置に基づいた事業を行う方 創業支援等措置を取り入れ、以下の条件を満たした場合
・労働者以外の者で、労働者を雇用することなく事業を行うことを常態とする方
・労働者以外の者で、前述した事業に常に従事する方

個人事業主が利用できる労災保険特別加入制度の補償範囲


労災保険の特別加入制度は個人事業主でも利用可能です。利用する前に知っておきたいことのひとつとして、保証の範囲があります。
次は、個人事業主が利用できる労災保険の特別加入制度の補償範囲について解説していきます。

・補償の内容
特別労災保険で補償される主な内容は以下の4つです。

  • 労災事故によって発生した治療費
  • 労災事故によって必要になった休業補償
  • 後遺障害に対する補償
  • 労災事故が原因となって死亡した場合の遺族給付

 

・休業補償給付の金額
個人事業主が休業してしまうと収入がなくなるため、休業補償を受けられる点は大きなメリットです。
補償金額は、特別労災加入時に16段階の給付基礎日額の中から決定されます。
給付基礎日額が低くなるほど毎月の保険料が安くなり、給費額が多ければ保険料が高くなります。

休業補償の金額は、特別労災保険を加入する時に決めた給付基礎日額の8割となり、それを加味した上で決定することが重要です。
個人事業主は、会社員のように毎月決まった給料が支払われるわけではないため、このような制度になっています。

個人事業主が労災保険に特別加入するメリット


個人事業主が労災保険に特別加入することで、大きなメリットを得られます。医療費の自己負担がないこと、事故・災害後も補償が受けられることなどです。
ここでは、3つのメリットをピックアップしてご紹介します。

医療費の自己負担がない

労災保険に加入すると、万が一業務災害が起こってケガをしても医療費はかかりません。
業務中や通勤中の災害であると認定された場合に、治療費が全額保証されるためで、大きなメリットといえます。
ケガの具合により、しばらく治療のために病院へ通わなければいけない場合があるかもしれません。
労災保険が使えないと医療費がかさんでしまい、大きな負担に感じてしまう可能性もあるため、加入により大きなメリットがあります。

事故・災害後も補償が受けられる

仕事上の事故で働けない期間があると、収入が得られなくなってしまいます。
個人事業主の場合は一馬力で事業を行っているため、収入がしばらくゼロになってしまうこともあります。
そのような場合にも保証を受けられることもメリットです。

休業を余儀なくされてしまった場合は、休業してから4日目以降から休業給付が受けられます。
そのため、休業期間中の収入を心配せずに済むというメリットも享受できるのです。
後遺障害が残った時も障害の程度に応じて一時金や年金が給付されたり、死亡した場合は遺族に対する補償があるため、もしもの備えができます。

仕事の受注に影響が出ない

建設や工事の現場では、労災保険の加入証明書の提出を求められるケースが増えています。
加入証明書を提出できなければ、現場から撤退しなければいけないことがあります。
元請会社の労働者と同じ仕事をしていても、一人親方であれば元請会社の労災保険には加入できません。
元請会社には安全配慮義務があるため、万が一のことを想定して労災保険の加入証明書の提出を求めます。仕事の受注を減らさないためにも加入しておくと安心です。

個人事業主が労災保険に特別加入する方法


個人事業主が労災保険に特別加入するためには、2つの方法があります。どのような方法で加入するのか解説していきます。

特別加入団体を立ち上げて申請する方法

まずは、新しく特別加入団体を立ち上げて申請する方法です。この方法では、都道府県の労働局長に申請し、承認を得る必要があります。
特別加入団体として認められるには、以下のような条件を満たさなければいけません。

  • 相当数の一人親方等で構成されている1つの団体であること
  • 団体の運営方針が整備されていること
  • 労働保険事務の処理ができる事務体制や財務体制が整っていること など

要件を満たして承認された場合、特別加入団体の立ち上げが完了します。

既存の特別加入団体を通じて申請する方法

次に、既存の特別加入団体を通じて申請する方法です。特別加入団体として都道府県労働局長の承認を受けている団体もあります。

このような団体に加入した場合、新たに立ち上げる必要はありません。
組合が「特別加入に関する変更届」を都道府県労働局長に提出すれば加入できます。
既存の団体に加入することにより、新たな団体を作らずに済むことは大きなメリットです。
既存の団体にはどのようなところがあるのか調べ、加入に関する相談をしてみてください。

まとめ

個人事業主は労働者とみなされないため、多くの場合は労災保険に加入できません。しかし、特別加入という制度により、条件を満たしていれば加入できることもあります。
特別加入するためには該当する事業を行っていたり、特別加入団体を立ち上げたりしなければいけないため、条件を把握した上で加入申し込みをする必要があります。

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(編集:創業手帳編集部)

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