今さら聞けない扶養とは?基礎知識から2024年から始まる変更点までまとめました
扶養とは何かを知ってこれからの働き方を考えよう
扶養に入ることで税法上、社会保険上で様々なメリットがあります。
しかし、一定の年収を超えると税金や社会保険料の支払いが必要となるため、労働時間が増えているのに手元に残る金額が少なくなってしまうといった事態が起きてしまうかもしれません。
年収の壁を超えることで増える負担や制度の改正点を知って、どのような働き方が自分に合っているか考えてみてください。
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この記事の目次
扶養とはどのような意味?
「扶養者」や「扶養する」など、日常の様々な場面で扶養という言葉を耳にします。しかし、扶養の意味について考えたことがある人は少ないかもしれません。
扶養とはどのような意味なのか解説します。
扶養の定義とは
一般的な扶養は、自分の稼ぎだけでは生計を立てられない家族や親族に対して経済的に援助をする場合に使われます。
援助する、扶養している側のことを扶養者、援助を受ける側のことを被扶養者と呼びます。
扶養者の配偶者や子ども、両親などが被扶養者として扱われているケースが多いです。被扶養者を、扶養親族と呼ぶこともありますが、これは所得税上の名称です。
被扶養者といった場合には、社会保険上の名称に当たります。同じように扶養がつく言葉ではありますが、厳密には対象範囲も違うので使い分けなければいけません。
扶養親族とは
扶養親族は、配偶者以外で納税者に扶養されている親族を指す言葉です。所得税法上で扶養親族と認められるためには、いくつかの条件を満たさなければいけません。
年末調整では、扶養親族の有無を記載した扶養控除申告書を提出することで、扶養控除を受けられます。
扶養控除とは
扶養控除とは、納税者に控除対象となる扶養親族がいれば一定額の控除が適用される仕組みです。
扶養親族が16歳以上の場合、扶養控除が受けられます。配偶者は扶養控除の対象になりませんが、配偶者控除の対象です。
「所得税上」と「社会保険上」の扶養を理解しよう
共働きの場合や新しく仕事を始める場合に、話題に上がるのが扶養の問題です。
夫か妻が扶養に入ったままで働くのか、扶養から外れて働くのかによって目指す収入や働き方は大きく変わります。
扶養に入る、つまり被扶養者になることで、税金や社会保険といった面で恩恵が受けられることはよく知られています。
しかし、扶養には2種類あるため、それぞれについて正しく理解することが必要です。
2種類ある扶養について解説します。
所得税上の扶養
所得税上の扶養とは、所得税や住民税を算出する時に使われている扶養をいいます。扶養控除は、扶養親族の数に応じて一定の金額が所得税から控除される制度です。
扶養親族が受けられる所得税の控除には、配偶者を対象とする配偶者控除と配偶者特別控除、配偶者以外の親族が対象の扶養控除があります。
所得税上の扶養の対象となる扶養親族が多くなれば、一定の計算で税金が軽減されます。
所得税上で扶養となっていても、住民税の通知が届くことがあるかもしれません。
住民税は、前年の所得に関して課税されます。扶養に入っていても一定額以上で課税されるため、注意してください。
住民税は所得に応じて変わる所得割と、定額の負担となる均等割で構成されます。
所得割は、給与所得が100万円以下で他の所得がないか、合計所得が45万円以下の場合であればかかりません。
ただし、給与所得が100万円以下であっても市町村によっては均等割の住民税が発生することがあります。
配偶者が扶養となる条件
配偶者控除の対象となる条件は、以下の通りです。
(1)民法の規定による配偶者であること(内縁関係の人は該当しません。)。
(2)納税者と生計を一にしていること。
(3)年間の合計所得金額が48万円以下(令和元年分以前は38万円以下)であること。(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)
(4)青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないことまたは白色申告者の事業専従者でないこと。
引用『No.1191 配偶者控除』国税庁
配偶者特別控除は、上記の(3)を満たしておらず配偶者控除を受けられない場合に所得に応じて一定の所得控除を受けられる仕組みです。
配偶者特別控除の対象となる条件は以下の通りです。
(1)控除を受ける納税者本人のその年における合計所得金額が1,000万円以下であること。
(2)配偶者が、次の要件すべてに当てはまること。
イ 民法の規定による配偶者であること(内縁関係の人は該当しません)。
ロ 控除を受ける人と生計を一にしていること。
ハ その年に青色申告者の事業専従者としての給与の支払を受けていないことまたは白色申告者の事業専従者でないこと。
ニ 年間の合計所得金額が48万円超133万円以下(平成30年分から令和元年分までは38万円を超え123万円以下、平成29年分までは38万円を超え76万円未満)であること。
(3)配偶者が、配偶者特別控除を適用していないこと。
(4)配偶者が、給与所得者の扶養控除等申告書または従たる給与についての扶養控除等申告書に記載された源泉控除対象配偶者がある居住者として、源泉徴収されていないこと(配偶者が年末調整や確定申告で配偶者特別控除の適用を受けなかった場合等を除きます。)。
(5)配偶者が、公的年金等の受給者の扶養親族等申告書に記載された源泉控除対象配偶者がある居住者として、源泉徴収されていないこと(配偶者が年末調整や確定申告で配偶者特別控除の適用を受けなかった場合等を除きます。)。
引用『No.1195 配偶者特別控除』国税庁
配偶者以外が扶養控除を受ける場合
扶養親族に該当する人の範囲は以下の通りです。
(1)配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族をいいます。)または都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や市町村長から養護を委託された老人であること。
(2)納税者と生計を一にしていること。
(3)年間の合計所得金額が48万円以下(令和元年分以前は38万円以下)であること。(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)
(4)青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないことまたは白色申告者の事業専従者でないこと。
引用『No.1180 扶養控除』国税庁
扶養親族の範囲は、6親等内の血族と3親等内の婚姻によってできた親族までです。つまり、自分の兄弟や叔父や叔母、祖父母の兄弟なども含まれます。
税法上の扶養の対象となる年齢は、扶養者が年末調整を行った年の12月31日時点で16歳以上の親族だけです。
扶養の対象となる年齢に上限はありませんが、下限はあります。
以前は16歳未満であっても扶養の対象となっていましたが、2012年4月からは15歳以下の子どもは児童手当が支給されるようになり、15歳以下の扶養控除が廃止されました。
所得税上の扶養になるメリット・デメリット
税制面で扶養となるメリットは、控除を受けることで扶養する人の税金負担が少なくなる点です。
例えば、会社員が配偶者や親族を扶養とすることで配偶者控除や扶養控除を受けられるようになり、所得税負担が少なくなります。
また、税法上は扶養になることによるデメリットも特にありません。
社会保険上の扶養
社会保険上の扶養は、所得税の扶養とは範囲も条件もまったく違います。社会保険とは、健康保険、厚生年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険、以上の保険の総称です。
社会保険の扶養に入ることで、健康保険も厚生年金保険も自分で保険料を支払うことなく保険に加入できます。
例えば、会社員の妻や子どもが保険料を支払わなくても健康保険証を提示して医療サービスを受けられるのは、夫の扶養に入っているためです。
年収などの要件で扶養を外れた場合には、自分で保険に加入して保険料を支払わなくてはいけません。厚生年金保険の扶養も同様です。
国民年金は全国民に納税義務がありますが、扶養に入ることによって保険料の支払いが不要になります。
被扶養者となる範囲と条件
健康保険の運営主体には、健康保険組合と全国健康保険協会(協会けんぽ)があります。協会けんぽは、健康保険組合を設立していない中小企業が加入しています。
一方、健康保険組合は常時700人以上の従業員を雇用する会社が、組合を設立、運営している健康保険です。
ここでは協会けんぽを例として紹介します。協会けんぽの被扶養者となるのは、以下の範囲です。
1.被保険者の直系尊属、配偶者(事実上婚姻関係と同様の人を含む)、子、孫、兄弟姉妹で、主として被保険者に生計を維持されている人
※これらの方は、必ずしも同居している必要はありません。
2.被保険者と同一の世帯で主として被保険者の収入により生計を維持されている次の人
※「同一の世帯」とは、同居して家計を共にしている状態をいいます。
①被保険者の三親等以内の親族(1.に該当する人を除く)
②被保険者の配偶者で、戸籍上婚姻の届出はしていないが事実上婚姻関係と同様の人の父母および子
③②の配偶者が亡くなった後における父母および子
※ただし、後期高齢者医療制度の被保険者等である人は、除きます。
引用 『被扶養者とは?』全国健康保険協会 協会けんぽ
社会保険の扶養収入基準は、所得税とは違います。扶養対象となる収入基準額は年間130万円未満、60歳以上の場合や障害がある場合は180万円未満です。
また、同一世帯の場合は上記の条件と被保険者の年収の2分の1未満であること、同一世帯でない場合には、被保険者からの援助による収入額より少ないことが条件となります。
ただし、月々の収入べースで判断されるため、年間130万円を月給で割って10万8,333円未満が扶養対象者です。
厚生年金保険の条件は、厚生年金に加入して保険料の納付を行っている第2号被保険者の配偶者で、20歳以上であり60歳未満の者(3号被保険者)でなければいけません。
さらに、年間収入130万円未満であることも条件です。
60歳以上や、障害厚生年金を受けている場合は、年間収入が180万円未満であることに加えて、同居をしている場合には収入が扶養者(被保険者)の収入の半分未満が条件となっています。
社会保険上の扶養となるメリット・デメリット
社会保険上の扶養になるメリットは、扶養になった人の社会保険料負担が不要になる点が挙げられます。
扶養になると、健康保険と国民年金保険の両方の保険料が不要になります。
ただし、社会保険上の扶養となる場合、健康保険で受けられる給付が制限されてしまいます。
ケガや病気で働けないときに支給される疾病手当金や、出産時の出産手当金は支給されません。
また、年金についても扶養に入る場合には注意が必要です。扶養に入ることで国民年金第三号被保険者となるので、国民年金を受け取れます。
しかし、金額で見ると厚生年金よりも低くなるため、扶養を外れて働いたほうが将来的な受給額は大きくなります。
年収の壁ってどういうこと?
よく聞く言葉に年収の壁があります。年収の壁があることで、働く時間を調整している人もいるでしょう。
しかし、年収の壁はひとつではありません。扶養に税法上の扶養と社会保険上の扶養があるように年収の壁も複数あります。
それぞれの年収の壁について知っておいてください。
年収103万円
年収103万円の壁は、アルバイトやパートといった給与所得を受ける人の所得税の課税に対する年収の壁です。
所得税の基礎控除48万円と給与所得控除55万円の合計が103万円で、他の所得控除がない場合、103万円を超えた額にたいして所得税がかかります。
つまり、年収が120万円であれば超えている17万円に所得税が課税される形です。また、年収103万円の壁は、扶養控除にも関係しています。
配偶者であれば配偶者控除が受けられなくなっても配偶者特別控除がありますが、それ以外の扶養親族は税法上の扶養から外れます。
そのため、扶養者の税金が上がってしまう点に注意しなければいけません。
年収106万円と130万円
年収106万円の壁と130万円の壁は、社会保険に関わる目安です。
年収が106万円を超えると、勤務先や雇用条件によっては、扶養から外れてしまうため、自分で社会保険を負担しなければいけません。
年収130万円を超えると、社会保険の扶養から外れて自分で社会保険を支払うことになります。
厚生年金に加入できるといったメリットはあるものの、負担は大きくなるため社会保険の壁を気にする人も多いです。
年収150万円
年収150万円の壁は配偶者特別控除を満額受けられる上限となる金額です。年収が103万円を超えていたとしても150万円までであれば、配偶者特別控除の適用を受けられます。
150万円を超えると控除額が段階的に引き下げられて、年収201.6万円以上で0円となります。
扶養制度はこれからどうなる?
税金や社会保険の負担は決して軽微ではありません。可能であれば負担を増やすことなく働きたいと考える人も多いかもしれません。
近年では扶養制度そのものが変更になったり、なくなったりするのではとささやかれています。ここでは、扶養制度の近年の改正や今後の見通しについて解説しています。
2022年10月からは社会保険制度が改正で適用対象が拡大
2020年5月、「年金制度機能強化のための国民年金法等の一部改正をする法律」(年金制度改正法)が成立し、社会保険の適用拡大が決定しました。
この改正で、2022年10月からの社会保険の適用拡大、2024年10月からはさらに適用範囲の拡大が決定しています。
まず2022年10月からの社会保険適用拡大について説明します。2022年の社会保険適用拡大で対象となる可能性があるのは、以下の要件をすべて満たす人です。
1.週の所定労働時間が20時間以上あること
2.雇用期間が2カ月以上見込まれること
3.賃金月額が8.8万円以上(年収106万円以上)であること
4.学生でないこと
確認するべきは週の所定労働時間です。契約上の所定労働時間によって判定される部分で、急な残業や休日出勤等は含まれません。
以前は勤務期間が1年以上となっていた部分も改正によって2カ月以上に短縮されました。
2022年10月からは上記の条件を満たして、かつ保険加入対象の従業員が101人以上いる企業で働く場合は保険加入適用です。
2024年10月からは適用範囲が広がり、同従業員が51人以上いる企業で働く場合は保険加入適用になります。
条件は法人番号ごとにカウントされるため、事務所が小規模の場合でも全事業者をまとめた人数でカウントされます。
この改正によって、新しく社会保険加入対象となる人は増加する可能性があります。
社会保険へ加入しない人は、上記の条件を満たさないようにしてください。
ただし、従業員数が少ない企業を選んだとしても、事業拡大で社員が増えて社会保険の加入対象になってしまうケースも発生します。
雇用契約前には所定労働時間などを確認して、社会保険に加入するかどうかを判断するようにしましょう。
適用対象が拡大したことによるメリット
社会保険が適用拡大されることで、労働者が受けられる補償が増えることがメリットとして挙げられます。
健康保険の給付のほか、厚生年金の補償が受けられるため、将来的な年金受給額が増加します。
社会保険適用拡大は、企業に与える影響も少なくありません。社会保険は労使折半となるため、保険加入対象となる人材を採用することで負担する社会保険料が増加します。
社会保険の対象者が増えることで人件費の差が生まれにくくなるので、社会保険料負担を理由にして働き方の選択を狭めることが少なくなるといわれています。
社会保険の扶養は廃止になる?
社会保険上の扶養廃止については、長年議論されています。2023年10月現在、扶養廃止は決定していませんが、すべての労働者に社会保険適用する案は検討されているようです。
寿命が延びて少子高齢化が進むことによって、社会保険制度は逼迫すると予想されています。
社会保険制度を維持するために、労働者の社会保険加入が必須になるかもしれません。
同じ働き方をしていても社会保険料が天引きされるため、手取りは少なくなります。
今の働き方で社会保険制度に加入する場合の負担を計算して、これからどのような働き方をすればいいのか考えてみてください。
まとめ
扶養には2種類あり、税法上の扶養と社会保険上の扶養があります。社会保険上の扶養は、近年の改正で対象となる範囲が広がりました。
今後、財源を確保するため、扶養の範囲が狭まる可能性もあります。扶養制度が変わることによる影響を考えて、自分に合った働き方を選択してください。
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(編集:創業手帳編集部)