株式会社から合同会社になるときの組織変更方法を解説
“身の丈に合う”法人になろう!
(2018/05/25更新)
株式会社で起業すると、会社の運営に手間がかかったり、会社設立や費用がかかりすぎることなど、会社を運営するための決まりごとに悩むことがあるかもしれません。何か身の丈に合わない感じがしたら、もっとシンプルな法人に切り替えるのも一つの手です。今回は株式会社を合同会社に組織変更する方法をざっくりおさらいします。
この記事の目次
なぜ今、合同会社なのか?
「合同会社って最近耳にするけど、実は何なのかピンとこない」と思っている方もいるのではないかと思いますが、安心してください。そういう方はきっと少なくないはずです。と言うのも、「合同会社」という制度は2006年の会社法で新たに作られたもので、まだ10年あまりの歴史しかないのです。
とはいえ、「合同会社」はシンプルな仕組みや設立費用が安いことなどから急速に増加し、登記されているその数はすでに5万社を超えました(2016年時点)。1年間に2万社以上が新規に登記されている状況です(2016年)。
また近年、著名な多国籍企業の子会社、日本法人が株式会社から合同会社に移行するケースが相次いで話題を集めました。
例えば、アマゾンジャパンは2016年に株式会社から合同会社に移行しました。ウォルマートの子会社となっている西友(スーパーマーケットなど)も、2009年に株式会社から移行して合同会社西友となっています。Apple Japanも合同会社です。
(もっとも、これらの多国籍企業の子会社が合同会社を採用する理由のひとつとして、国をまたいで税の取扱いなどのメリットがあるためと推測されています。しかし、日本国内で起業する場合は株式会社でも合同会社でも法人税率等の取扱いに違いはありません。)
新しい制度ですが、認知度も向上し定着してきている法人。それが「合同会社」だと言えます。
株式会社と合同会社の違い
会社法で定められている法人は大きく2つに分けられます。
ひとつは株式会社。もうひとつは持分会社と言われるもので、合同会社のほか、合資会社、合名会社が含まれています。
東京証券取引所などの株式市場をイメージしていただくと良いのですが、株式を公開している株式会社は誰でもその会社の株を売買することができ、株主が決議すれば誰でも(外部からでも)取締役や社長になることができます。
一方、合同会社等の持分会社はそもそも株式を発行しませんし、出資者でない人は経営者にはなれません。
議決権の分配方法の違い
株式会社の場合は、持っている株式の数に応じて一定量の決議権を行使できるようになりますので、多くの株を持つ株主(つまり多く出資した人)の意向が通りやすいことになります。
一方で、合同会社の出資者は出資額にかかわらず対等の議決権を持ちます(定款で変更することもできます)。
さらに利益を分配する場合も、株式会社は株数に応じて分配されますが、合同会社の場合は定款で定めて出資額に関わりなく分配することが可能です。
資金面の違い
費用の面では、合同会社の場合は公証人の定款認証が不要でその分の費用がかからない、登録免許税の最低額が株式会社の15万円に対し、合同会社は6万円であるなど、合同会社のほうが少ない費用から設立登記が可能となっています。
(もっとも、株式会社から合同会社への変更を考える方はすでに株式会社として設立済みでしょうから、「今さら合同会社のほうが安いと言われても…」というところですが。)
また、設立後の費用でも、株式会社の役員任期は2年以内(非公開会社の場合10年以内)とされていますので、同一人物が役員を継続する場合でも取締役等変更の登記費用(資本金1億円以下の場合は1件1万円、それ以上は3万円)が発生します。
しかし、合同会社の業務執行社員、代表社員には任期がないため、こうした登記費用は必要ありません。また、合同会社は決算公告が不要ですので、毎年の公告にかかわる費用(官報の掲載料など)も不要です。
もうひとつ、合同会社を選ぶメリットとして、他の持分会社(合資会社、合名会社)と異なり、株式会社同様に出資者全員が有限責任である点があります(合資会社は一部、合名会社は全部の社員が無限責任社員になります)。
つまり、会社が破綻などした場合、出資した金額以上の責任を負うことはないため、出資者には安心できる仕組みです。
重要な意思決定までにかかるスピードの違い
株式会社は株主総会の招集が法律に定められていますが、合同会社にはありません(定款で社員総会を定めることはできます)。ですので、重要な意思決定が早くできることも合同会社のメリットとしてあげられます。
また、株式会社には業務を執行する取締役が法律に定められていますが、合同会社の場合は「社員(出資者)=業務を執行する人」であり、特に業務を執行する社員(業務執行社員)や代表社員を定めるかどうかは、会社の事情にあわせて決めることができます。もし業務執行社員を定めた場合には、社員(出資者)が「出資だけの人」と「出資して業務執行もする人」に分かれることになります。
肩書きの違い
合同会社には「取締役」が存在しませんので「代表取締役」という肩書も存在しません。代表は「代表社員」となりますが、制度ができて10年あまりの今の時点では、“いかにも社長!”な「代表取締役」という肩書きに比べると、知名度ではまだまだかもしれません。
合同会社が向いている業種とは
一方、事業の面では株式会社が行う事業で「合同会社のほうが有利」あるいは「合同会社でないとできない」という事業はありません。
法人税等、消費税などの取扱いや社会保険等なども同じです。
合同会社は株式上場できない
合同会社に株式はありませんので、株式上場はできません。上場を目指すなら、いずれは株式会社に組織変更が必要になりますし、ベンチャーキャピタルのように株式上場などによる利益を狙う投資家にとって、合同会社は魅力的な投資先になりません。そのほか、新株発行、転換社債型新株予約権付社債(いわゆる転換社債)など、株の仕組みを使った資金調達を考えるならば株式会社にしておく必要があります。ちなみに、合同会社も一般的な社債の発行は可能です。
株式会社と合同会社の違いまとめ
株式会社と合同会社の違いをざっと下の表にまとめました。
株式会社と比べて合同会社は「定款自治」と言われるように組織運営の制約が少ないので、例えば、
- 株式会社で起業したけれど、株主は自分と家族、親族だけなので堅苦しいのはイマイチ
- 関連会社を株式会社で作ったが、株主総会など二度手間で面倒
- 相続など事業承継するにあたって、身軽な組織に作り直したい
- 決算を公告したくない事情が発生した
- 自分の技術と友人の資金で株式会社を作ったが、利益の分配に不満がある。(もっとも、この場合は大株主である友人が組織変更に同意するかどうかが問題ですが。)
そのほか、何か株式会社の組織運営にしっくりしないことがある場合は、合同会社に変更するとメリットがあるかもしれません。
株式会社 | 合同会社 | |
出資者の責任 | 有限責任 | 有限責任 |
議決権 | 株数に応じる | 出資額にかかわらず対等(定款で別に定めることができる) |
利益の分配 | 株数に応じる | 定款で定めることができる |
決算公告 | 必要 | 不要 |
法律上必要な組織・役員 | 株主総会・取締役 | 定款に別段の定めがなければ社員(出資者)が業務を執行する |
役員の任期 | 2年(非公開会社の場合10年)以内 | なし |
株式による資金調達 | できる | できない(株式を発行しない) |
株式会社から合同会社に組織変更する際に必要な手続き
現在、株式会社である法人を合同会社に組織変更する場合に必要な手続きをみていきましょう。
前提として、すでに株式会社として営業している以上、株主はもとより金融機関、債権者などの利害関係者の理解や同意を得て進める必要があります。言うまでもありませんが、組織変更することで現在負っている債務を免れることはできませんし、「債権者の保護」は手続き上も重要なポイントです。
(1)組織変更計画
最初に以下のような事項を含む「組織変更計画」を作成します。
組織変更後の商号(会社名)
最低限現社名の「株式会社」を「合同会社」に差し替える変更が必要になります。まったく別の社名に変更することも可能です。
組織変更後の目的
同時に事業目的を変えることも可能です。
組織変更後の社員(出資者)の氏名、住所、出資額
これらは合同会社の定款に記載が必要な事項でもあります。
組織変更後の定款で定める事項
合同会社の役員にあたる「業務執行社員」「代表社員」などの規定や、社員(出資者)の加入・退社の定め、「社員の全部が有限責任社員とすること」など、合同会社特有の事項があります。
既存の株式、新株予約権にかわり交付するものについて
合同会社に株式はありませんので、合同会社の持分に置き換えますが、持分以外の金銭や財産、社債などを交付する場合はその金額や算定方法などを決定します。
効力発生日
手続きが完了すればこの日付で組織変更となります。合同会社としての組織変更が有効となる日です。
(2)計画書などの備え置きと開示、官報による公告
組織変更計画や債務履行の見込み、貸借対照表などを本社に備え置いて株主会社の時の株主などが閲覧等できるようにし、官報で公告します。この公告には一定の期間中(1カ月を下回らない期間)に債権者が組織変更に異議を申し立てることができることを明記する必要があります。
なお、定款で公告方法を日刊新聞や電子公告と定めている場合でも、組織変更の場合は官報で公告が必要です。
(3)債権者に個別の催告
各債権者には個別に通知し、異議があれば申し出るように求めます。定款で公告方法を日刊新聞や電子公告と定めている場合は、(2)の官報による公告に加えて定款で定めている方法で公告することで、個別の催告を省略することができます。
ただし、定款で定める公告方法がもともと官報の場合は省略できませんので個別の催告が必要になります。
債権者から異議の申し出があった場合は、債務の弁済(借入金なら返済)などの対応が必要になる場合があります。
(4)株券等提出公告
合同会社には株式がありませんので、株券等を発行している場合は、効力発生日(合同会社としての組織変更が有効となる日。以下同)の1カ月前より以前に株券等の提出公告と各株主への通知が必要です(株券を発行していない場合は不要です)。
新株予約権を発行している場合は、効力発生日の20日前までに個別に通知するか、定款に定める方法で公告する必要があります。新株予約権を持っている人は、会社に新株予約権の買い取りを請求できます(したがって、新株予約権を発行している場合は、この買い取り費用も見込んでおく必要があります)。
(5)総株主の同意
効力発生日の前日までに株主全員の同意を得なくてはなりません。同意書を取りつける、または株主総会を開催して株主全員の同意を得てその旨の議事録を作成するなどの記録が必要です。
(6)効力発生
組織変更計画に定めた日に効力が発生します。
(7)組織変更の登記
効力発生日から2週間以内に新しい合同会社の設立登記と株式会社の解散の登記を同時に行います。
組織変更による設立の登録免許税は資本金の0.15%(3万円に満たない場合は3万円)、株式会社の解散登記の登録免許税は3万円ですので、最低6万円が必要です。
設立・解散それぞれの登記申請書、定款、「登記すべき事項」などのほか、以下のような書類が必要です。
- 株主リスト
- 組織変更計画書
- 総株主の同意書または株主総会議事録
- 公告および催告をしたことを証する書面(債権者への催告書、承諾書など)
- 株券等提出公告を行ったことを証する書類、または株券を発行していないことを証する書類
- 組織変更直前の資産及び負債の額、組織変更直前の株主に交付する財産の価額を証明する書類
組織変更の具体的スケジュール
前述の(1)~(7)の手続きは順調に進んでも2カ月程度はかかります。特に官報の公告については、原稿の提出から掲載されるまでの日数に加え、異議申立期間1カ月が必要ですので、遅くても効力発生日の1カ月半前頃までに申込みが必要です。また、株券を発行している場合の株券等提出公告なども期日が決められていますので、計画的に進める必要があります。
万一、効力発生日までに手続きを完了できない場合は前日までに公告して変更できますが、十分余裕を持って計画するとともに、不備なく手続き完了できるように専門家(法務局の相談窓口や弁護士、司法書士など)に相談することをおすすめします。
まとめ
合同会社は新しい制度だけに組織や運営の柔軟さを備えた特長ある法人形態ですが、すでに株式会社として営業していて、合同会社への組織変更を考える場合は事業、資金調達、利害関係など全体を見渡してメリット・デメリットを判断しましょう。
(編集:創業手帳編集部)