3度目の資金調達を達成!新型コロナ対策の新サービスも開始 成長続けるコグニティの「今」を聞く
河野理愛代表に、事業拡大の進捗を聞きました
(2020/04/23更新)
AIを用いてセールストークやプレゼンテーションの内容を分析・採点するサービス「UpSighter(アップ・サイター)」を展開しているコグニティ株式会社。
2018年に、創業手帳は、コグニティの河野理愛代表に創業エピソードについてインタビューしました。同社はその後も着実にスケールし、2020年1月には3回目の資金調達を達成。そして、3月には新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の影響を受けて「集合しない新人研修サービス」の提供も開始しています。
新型コロナによる事業への影響・変化や、資金調達後の経営進捗について、河野代表に、改めて話を聞きました。
1982年生まれ、徳島県出身。慶應義塾大学総合政策学部卒業。大学在学中の2001年にNPO法人を設立、代表として経営を行う。 2005年にソニー株式会社入社、カメラ事業を中心に、 経営戦略・商品企画に従事。2011年に株式会社ディー・ エヌ・エー入社。 2013年コグニティ株式会社を設立。
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この記事の目次
集合研修実施に悩む企業ニーズを先読みして、新サービスを開発
河野:前回「女性起業家インタビュー」として取材いただいたのは、2回目の資金調達で1.5億円を調達して約半年のところでした。先日、3回目の資金調達で2.2億円を調達して累積資金調達額は5億円を超えました。
主力サービス「UpSighter(アップ・サイター)」は大手企業からの引き合いも多く、現在約120社で導入いただいております。最近では、集合しない新人研修サービス「リモトレAI(リモトレ・エーアイ)」や、金融業界特化型やプレゼン専用のSaaSモデルも開発しましたので、中小企業や大企業の部署単位でもご利用いただきやすくなりました。
2018年当時5,000件程度だったデータ蓄積数も今や16,000件を超え、サービスの質もより高くなり、企業としても力を蓄えたことは間違いありません。
河野:今回のコロナショックによって、新卒などの集合研修の中止・延期や運営方法自体を見直す動きが活発になり、同時に遠隔による研修を導入する事例も増え始めています。そして、UpSighterに興味を持ってもらっていた企業様と商談している際、「新型コロナの影響で集合できなくなった」とコメントされることが多くなりました。そのため、弊社としても、ニーズをサポートできる商品を作れないかと考え始めました。
商品知識などの座学研修はeラーニングで代替できますが、営業などのトークスキルを高めるためのロールプレイ研修は対面で指導しなければ難しいと考える企業も多いでしょう。そこで、ロールプレイ研修がオンラインで完結する「リモトレAI」を開発しました。
河野:「リモトレAI」は、社員一人ひとりが自宅やオフィスなど、それぞれの場所で営業トークの練習を実施し、レポートによりフィードバックを受けられるサービスです。
商品説明やロールプレイなどの音声データを、専用アプリで録音し、アップロードするだけで、自身の営業トークの傾向を、数値やグラフで「見える化」することができます。さらに、他のメンバー全員の平均値を示したサマリーレポートや、弊社が無償で提供しているモデルトークのレポートと比較することで、自分自身のトークを振り返ることができます。
これにより、研修対象者は会社などに集合せずとも営業トークを自己研鑽でき、研修指導者は「見える化」されたデータを元に、遠隔でも偏りのない指導・育成を実現できるのです。
新入社員の戦力化の遅れは、営業機会の損失に直結します。これが多くの企業で発生すれば、長期的な経済低迷にも繋がっていくでしょう。コロナショックの今、私達の役割は新入社員の戦力化を遅延させることなく、いつでも100%の営業体制に戻ることができるよう、企業をサポートすることだと考えています。
河野:私たちは
- 従業員数が多い
- 拠点が各地に散らばっている
といった要因から「営業スキルの標準化」に悩む大手企業向けに、ロールプレイ研修や各拠点でのOJTでの活用をご提案してきました。
今回、新型コロナの影響により、遠隔による指導・研修方法を選択する企業が増えたことで、中小企業でも研修の成果を確認したり、自己鍛錬したりするための「遠隔フィードバック」のニーズが高まっています。
そこで、我々のサービスを中小企業の皆さまにもご利用いただけるよう、1解析単位で、少額(5,000円~)から利用できる「リモトレAI」をリリースしたわけです。「リモートでできることは益々増えてくる。研修も例外ではない」と、世間的な認知が広がり始めたことで、私達もリモート前提の提案や開発を進めていく必要性を感じています。
投資ラウンドごとに、解決しなければならない経営課題が変化していった
河野:最初の資金調達後は、まだまだ弊社のAIアプローチに対する理解を得難い、という苦労が大きかったです。
2回目の資金調達の後 成し遂げたかったことの一つに「経営陣の強化・組織化」がありました。しかし、資金調達活動を実施するタイミングで組織変更が余儀なくされることがあり、それまでの話し合いが0に戻ってしまうこともありました。
また、海外のイベント(SanFranciscoで開かれた2018年のTechCrunch Disrupt)でもAwardを受賞するなど、数々のプログラムに参加し手応えを掴んだことから、海外展開のために外国人の人材も採用しました。しかし、うまく定着してもらうことができず、仕掛り状態のままになっている課題がたくさんあります。
河野:「資金調達の各ラウンドによって、会社の成長について求められることが異なる」とわかりました。逆に言えば、それぞれのステージで超えなくてはいけないハードル・投資家との約束が明確に存在していて、それを一つ一つクリアするために資金を調達してきた実感があります。
我々のエンジェルラウンドは非常に長く、創業から3年間は、知人や親戚を中心に助けてもらいました。海外でよく言われる「FFF(ファミリー フレンド フールの頭文字)ラウンド」ですね。
2016年のシリーズAラウンドは「売れるものが成立した時」に訪れました。それまでは、こちらからサービスの提案をする際に、「面白いね」とは言われても、お金を払ってもらう段階には至りませんでした。
売れるものは、多くの場合「代替品がイメージしやすい」ものです。例えば、我々のサービスそのままだと新しいもの過ぎて競合がおらず、利用イメージが付きにくいものです。しかしテープ起こしサービスを導入している企業にとって、その代替ともなりえます。このように、「お金を払っても良い」と思われるようなモノ・サービスを持っていないと、シードより先の資金調達は難しいと感じます。
2回目のVCからの資金調達以降、我々のシリーズBは、「UpSighterのPoC顧客(全社全面展開ではないが、部署単位で導入する顧客)が増えてくる中で、どのようなパッケージ・商品性でスケールさせるべきか」を模索している段階でした。その意味では、他のラウンドよりも、投資家に対して少し低いハードル・約束の目標設定になってしまっていたのかもしれません。
本来は2018年から2019年のはじめに、シリーズBの調達に移れるよう動いていましたが、前述のように、2回目の資金調達の際に「経営陣の強化・組織化」がうまく進まなかったこともあり、今回の資金調達を行うタイミングで、プレBのツケが回ってきたかのように感じました。
それでも資金調達を達成できた理由は、前回ラウンドで課題となっていたことの一つである、PMF※の点である程度の成績を残せたことにあると考えています。2019年は、取引先の大手企業のいくつかが、導入してから2年目・3年目を迎え、リピートユーザーとして年間予算を確保してくれる状況に至りました。
※PMF・・・プロダクトマーケットフィット。自社のプロダクトが、顧客の課題を解決し、市場に受け入れられている状態のこと。
資金調達・成長には、事業への強い意志だけでなく「ニーズに耳を傾ける力」が必要
河野:今回の資金調達は、「事業拡大」「組織体制強化」「R&D(研究開発)促進」という3つの軸を中心の計画で確保したものです。特に事業拡大の点については、前半で述べた「リモトレAI」や「UpSighter for Finance/プレゼン!」のように、これまでの蓄積データや現場のニーズを踏まえた形で、初期開発が要らないサービスとして開発されたものや、SaaS型の月額課金などで使えるものを展開していくことを意味しています。
これまで大企業向けの、初期開発費用ありきでしか提供できなかったUpSighterを、より広いターゲットまで使えるものに変えていきます。
河野:前述のように、資金調達はそのフェーズごとに求められるハードルが異なります。その意味では、最終的なゴールをどこに据えているかによって、何を選び、どのハードルを選ぶかが変わってきます。私自身も、VCから1度目の資金調達をするまでは知らなかったことがたくさんあり、また、2回目・3回目に至ったからこそ見えてくる(知らされる)次のハードルもありました。
長期的なゴールがあったとしても、まずは目の前のハードルを意識して、それを達成する。その際に、次のゴールを周囲に聞きながら進めるのが良いと思います。Startupはいつの段階でも、「強い自分の意志」に加えて「周囲(顧客・投資家)から求められること」に耳を傾けながらでないと、独りよがりになって行き詰まってしまうからです。
(取材協力:
コグニティ株式会社/河野理愛 代表取締役)
(編集: 創業手帳編集部)