ドクターズプライム 田 真茂|救急車のたらい回しを解決し、医師の働き方改革にも着手!医療業界の新鋭に迫る
目指すのは、一人ひとりの人生に寄り添う医療
救急医療の現場で深刻化する「救急車のたらい回し」問題など、医療業界の課題に挑む株式会社ドクターズプライム(以下、ドクターズプライム)。
同社は医師評価制度やインセンティブを活用した独自の仕組みで、患者・医師・病院・救急隊すべてに利益をもたらす「四方よし」のシステムを構築しました。さらに医師の働き方改革にも取り組むなど、常識にとらわれない独自のサービスで注目を浴びています。
そこで今回は代表の田 真茂氏を招き、起業までの経緯や同社の目指す将来像などを創業手帳の大久保がインタビュー。医療業界の新鋭に迫ります。
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株式会社ドクターズプライム 代表取締役社長
聖路加国際病院(東京都中央区)で初期研修を行ったのちに、同病院救命救急センターで、当直帯責任者として断らない救急を実践。2017年4月から現職。
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創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
ベースにあるのは人を助けたいという想い
大久保:起業の経緯をお伺いする前に、まずは医師を目指されたきっかけをお伺いできますか?
田:僕の場合は小さい頃から医師を目指してたわけじゃなかったんです。
学生の頃から海外で働くことに興味があって、当時の先生や友人に「国際協力に携わりたい」と相談したら、「それなら医療技術を持っていた方がより発展途上国の人を助けられるよ」というアドバイスが妙にしっくりきてしまい、医療の道に進むことにしました。
大久保:人を助けたいという想いがベースにあるんですね。
田:そうかもしれません。小さい頃から「日本にはこんなに食べ残しがあるのに、どうして世界には食糧難の国が多いのだろう。これを発展途上国に持っていけないだろうか」と考えることが多くて、その原因は当事者ではなく社会的背景にあると考え始めたんです。
もともと“なぜこうなっているのか?”と構造を深堀することが好きなので、どんどん関心が深まっていきました。
大久保:医学部に進学された後は、どのような活動をされていたのですか?
田:今振り返ると、学生のうちに経験できることは色々やってみよう!と勉強以外でも興味があることには積極的に活動していました。大学にストリートダンスサークルを立ち上げて、1,000人の医療系学生が参加するダンス公演を開催したり、自分が開催するダンスイベントの入場料の設定やステージ照明の調整をしたり、ゲストダンサーを呼ぶために新宿の大道芸人の方に声掛けさせてもらったり…。
と今思うとビジネス経験を積んでいたのかもしれません。
ライフドクターから得た、日本のより良い医療のかたち
田:学生時代のアルバイト経験も、起業につながっていると思います。Apple Storeでのアルバイトでは、テクノロジーの最先端に触れたことで、医療の現場とテクノロジーの対比について興味を持つようになりましたし、ディズニーでのアルバイトは、組織文化や人材育成の違いもとても参考になりました。
学生時代のアルバイトは、お金をもらいながら色んなことを学べる良い機会でした。
また台湾に医学留学をした際、日本と世界の医療現場の違いを目の当たりにして、「日本の医療はどうしてこうなっているのだろう」と考えていました。
大久保:特に欧米と日本では、医療制度は大きく異なりますよね。
田:日本は国民皆保険制度があるので、患者さんは病院へのアクセスが良いですし、逆に病院を構えるエリアを間違いさえしなければその地域の患者さんの需要にしたがって自然と増えていきます。
そのため患者さん視点に立って丁寧に対応するよりも、目の前の患者さんの診療をこなす状況になってしまう傾向があると思うんですよね。
社会保障としては一部負担のみで診療を受けられることが非常に優れている反面、患者さん視点の診療が提供されているかどうかについては疑問を抱きます。
一方でアメリカは皆保険ではないので、民間の保険が力を持っています。医師は民間保険に選ばれたい、選ばれるためには他の医師よりも良いサービスを提供しようと考え、医療のクオリティが向上しやすい構造になっているのです。
大久保:アメリカで人気のあるラーメン屋さんが「病気になったら日本に帰る」と言っていました。それだけ日本の国民皆保険制度は優れているのですね。
田:素晴らしい制度ですが、その構造的な弊害もあると考えています。
欧米では何か症状が出たとき、いきなり大病院には行かず一旦先祖代々が信頼を置いているかかりつけ医に行く風習があります。ファミリードクター(家庭医)と呼ばれているのですが、些細なことでも気軽に相談できる存在です。
日本だと、信頼できるかかりつけ医がいない人がほとんどではないでしょうか。専門的な病院へのアクセスが良すぎるがゆえに、症状にあった専門的な医師を毎回選ぶため、信頼関係を構築できている医師がいない状況になっているのは課題だと考えています。
国民皆保険制度も素晴らしい制度だと思うので、そこにファミリードクターのような制度をプラスできればさらに良くなると思っています。
大久保:確かに、これだけ優れた制度がこれから先も続くとは限らないので、今のうちに合理化しておく必要がありますね。
起業前にスタートアップで働いて手法を学び、副業からの週末起業でスタート
大久保:その後の、医師としてのキャリアを教えてください。
田:聖路加国際病院(東京都中央区)で初期研修を受けた後に、同病院の救命救急センターで勤務していました。
聖路加国際病院は研修制度が充実していて、非常に優秀で素晴らしい人たちばかりだったのですが、勤務開始後、病院の文化にギャップを感じてしまい…。
医療行為に関しては治療ガイドラインがしっかりしているため手を抜いた処置を行うことはありませんが、医師は論文の実績で評価される文化があるため、実は患者さんの診療よりも論文と向き合わなければ…と焦る医師は多いのです。
大久保:実際の現場を見て、この文化を変える必要があると感じられたんですね。
田:はい、この文化はどこか特定の病院のみではなく、すべての病院で起こっている構造的な課題だなと感じました。医師を取り巻く構造的な問題なので、「論文よりも患者さんにもっと向き合おう」と声を上げたところで変えるのは難しいだろうと思い、構造自体を変えるために起業を決意しました。
大久保:そこから創業まではどのような道のりだったのですか?
田:ドクターズプライムの創業は2017年ですが、創業前のご縁で一度株式会社メドレー(以下、メドレー)に入社しています。ドクターズプライムは、私がメドレー在籍中に副業的な仕事から始めました。
大久保:報酬をもらいながらスタートアップのスピード感と人脈を作っていくという手法は非常に有効だと思います。
田:メドレーでの経験や環境は本当にありがたかったです。あの経験がなければ今のドクターズプライムはなかったのかなと。
そもそも医療現場での仕事は“目の前の診療をこなしていく”オペレーター業務がメインの仕事なので、目標設定などの概念がありませんでした。起業前にそういった視点を学べたことは、非常に大きかったと思います。
大久保:その後、週末起業から現在に至るまでの経緯を教えてください。
田:メドレー在籍中、副業で当直医を行うことを許可してもらっていて、その当直中に病院の課題を聞いたり営業をしていました。
救急車を受け入れる際「受け入れありがとうございます。今医師が不足していて、どなたか紹介してもらえませんか?」と聞かれるので、「私、今こういうサービスを提供していまして…」と、当直の空き時間に契約書を作ってサインをもらっていたりしました(笑)
サービスの着想からすぐに営業をかけ、翌日にはもう受注しているというスピード感で事業を進められる環境にあったのが良かったです。
大久保:良いアイデアがあってもなかなか一歩を踏み出せない人が多いですが、素晴らしい行動力です。
田:アイデアがあれば、とりあえず試してみることが大事だと思います。極端な話、モノがなくてもアイデアを売ってみて、売れてからニーズに合わせて具現化するプロセスも一案です。もちろん、それをきちんと商品にして提供することが前提ではありますが。
最初はインターン生のみで事業検証を実施。ミッションとビジネスのバランスを重視し黒字を継続
大久保:売上が順調に伸びていらっしゃいますが、具体的にはどのように進めてこられましたか?
田:最初は正社員を雇わずに、インターン生に協力してもらい事業検証をしていました。
2018年にメドレーを退職してから約1年でARR1億円を達成した時は、正社員1名とインターン生30名だけで運営していて、実質インターン生が何千万円も売上を上げてくれていました。
大久保:非常に特徴的な戦法だと思います。
田:「医師と接する仕事なので、学生には任せられないよ」と仰る人もいますが、私は「本当にそうなの?」と疑うことから入るタイプで、とりあえず一度挑戦して本当にダメかどうかを検証しようとこの戦法を選択しました。
既存の方法を継承するだけでなく、本当に良い売り方を徹底的に試して自分の目で確認したいんです。なので今後も効率が良い方法があれば、積極的に挑戦していきたいです。
大久保:医師出身の方で事業を立ち上げられる場合、事業内容は良いのに売上がついてこない…というケースも多い中、御社は黒字続きで経営を続けられていて、バランスが素晴らしいと思います。
田:ありがとうございます。弊社はミッションとビジネスのバランスを大事にしています。
デザイン思考の考え方かもしれませんが、事業を作るときは人(ニーズ・情緒的価値)とテクノロジー(実現可能性)とビジネス(持続可能性)という3つの要素のバランスが大切だと思ってます。
人の部分が充実していてもビジネスとテクノロジーが成り立たないと慈善事業になってしまいます。かといって売上を追っているだけでも良くない。まさにバランスが重要です。
事業成功の秘訣は組織力
大久保:起業してから現在に至るまで、何か苦労したことはありますか?
田:組織づくりですね。組織が上手く機能していなかった時期がありました。これはもうシンプルに私のリーダーシップ不足が原因だと振り返って思っています。
現場を見て積極的に挑戦していきたいタイプと、しっかり考えてから進めていきたいタイプ、というふうに社内が二極化してしまったんです。コロナ禍でリモートになったこともあり、意思決定がスムーズに進まなくなってしまいました。
チームワークを高めるために、業務の進め方のルールを統一したり、リモートではなく出社にしてコミュニケーションの量とハードルを下げるなどしましたが、組織の変革には結局2年ほどかかってしまいました。
大久保:やはり組織として統一することが大事なんですね。
田:そうですね。当時、リモート前提で入社したメンバー達に後出しでリモートを廃止しますと伝えることになってしまい、本当に申し訳なかったです。私の判断の遅さが招いた出来事でした。
大久保:苦い思いも経験されたということですが、今企業が順調に推移されているのを見ると、変革は良い結果につながったのではないでしょうか。
田:はい。組織変革を支えてくれたメンバーたちがいて今があるので、感謝しています。
大久保:他にこれまでの事業経営を振り返って、印象的なエピソードや後悔している点はありますか?
田:エクイティはもう少し早く入れておいても良かったかなと思います。エクイティを入れていなかった理由は、社内の意思決定が乱れるのではないかという不安があったからです。なおかつ黒字経営が続いていたことも理由です。
しかし今振り返ってみると、支えてくれるVCの方がいれば組織変革の際も「もう少し早く進めないとダメだよ」と背中を押してくれていたのではないかなと、近道できたこともあったのかなと思います。
初めての起業でわからないことだらけだったので、客観的に組織を見てくれる第三者やアドバイザーがいれば心強かったなと。
大久保:第三者の存在は必要だということですね。
田:当時、VCの方はリターンのために早く上場させたがる人が多いという噂も聞いていましたし、私はどちらかというと上場よりもミッションを実現させたい想いの方が強かったので、そういった意味で社内で意思決定を完結させるスタンスを維持してしまいました。
しかし信頼できる第三者がいれば社内で問題提起もしやすいだろうし、今ではメリットも多いと考えています。
3つの基盤事業で、医療の民主化を目指す
大久保:改めて御社が運営する3つの事業について教えてください。
田:まず、弊社の収益の柱となっているのが「Work事業」です。病院に医師を紹介して救急車のたらい回しを解決します。
病院は救急車の受け入れを増やせば売上が上がり、患者さんは早く病院に行くことができ、さらに医師は頑張った分だけインセンティブが得られるため、win-win-win-winな仕組みだと思っています。当直医の評価制度を導入することで、医療のクオリティを担保しています。
2つ目は、医師の診療スキル向上のための動画コンテンツを配信している「Academia事業」です。毎月500〜600本の医師向け動画を配信している日本最大のプラットフォームです。
これは救急車を受け入れたいけどスキルがないために受け入れができない、という状況を回避する支援制度から始まり、今では診療・手技・趣味など様々なコンテンツを提供しています。
3つ目がこれから始動する「LifeDoctor事業」で、患者さんと医師をマッチングするプラットフォームです。欧米で主流なファミリードクターを持つためのサブスクリプションサービスと思ってもらえれば、わかりやすいと思います。各医師ごとにプランが用意されていて、ニーズに合わせて患者さんがプランを選ぶ仕組みを考えています。
大久保:海外で御社のようなサービスを提供している事例はあるのでしょうか?
田:先ほどお話ししたアメリカのファミリードクターがまさにそうです。
例えば家族に医師がいる人は、専門医を紹介することが比較的簡単にできるので、セカンドオピニオンなどをスムーズに受けることができます。
しかし、一般的に家族に医師がいる家庭はほとんどないですよね。そこで、セカンドオピニオンサービス「LifeDoctor」を新たに展開します。
簡単に言うと、家族みたいなかかりつけ医がほしい患者さんと自分のスキルで稼ぎたい医師をマッチングするプラットフォームです。
大久保:在籍する医師には、どういった方が多いのでしょうか?
田:勤務医の方が多いですね。病院勤務は待機時間が少なくないため、LifeDoctor事業はそういった空き時間をうまく活用してもらえる仕組みだと思います。また将来的に開業する予定があって、勤務医のうちに患者さんを増やしておきたい医師にもおすすめです。
大久保:今後が楽しみですね。他に検討している展望はありますか?
田:今あるサービスやデータを活用して、将来的にはセルフメディケーションを推進する事業に挑戦していきたいと考えています。例えばコンビニで自分の電子カルテを読み込むと、その日に最適かつ必要な栄養素情報やサプリが表示され、おすすめの商品が提案される…といったプロアクティブな健康習慣を提案する仕組みです。
病院での実績だけでなくウェアラブルな情報を入れていくことで、実現できるのではないかと考えています。
大久保:今すでに何らかの病気を患っている人だけではなく、健康な人にも良さそうな仕組みですね。
田:まさにその思考が大事なんです。病気は見えないところで知らないうちに進行します。また病気というのは診断名が付くだけのこと。例えば数値60以上なら病気、という基準があったとして、じゃあ数値59の人は大丈夫かというと、そうではないですよね。
最近増えている命に関わる病気も生活習慣病から進行しているものが多いので、本当に予防が大事です。ただ様々な情報が飛び交う中で正しい情報を選択することも難しいと思います。そのために、医療の民主化を進めていきたいです。
大久保:最後に、起業を考えている方や読者の方にメッセージをお願いします。
田:これから起業を検討していて、なおかつ医療業界に興味のある人はぜひドクターズプライムへお越しください。様々な経験や実績を体験してもらえると思います。ぜひお待ちしています!
大久保の感想
(取材協力:
株式会社ドクターズプライム 代表取締役社長 田 真茂)
(編集: 創業手帳編集部)
1)スタートアップで働くことで給料を得ながら学ぶ
2)早い段階でリアルに売ることでニーズや改善点を知る
というのは田さんの成功例でも分かる通り良い方法だと思います。実は自分が創業手帳を起業する際もこの2つを実践し有効だったので、おすすめしたい方法です。
スタートアップを志す人は、ドクターズプライムのような「手頃なサイズ」(創業者の動きや成長が生で感じられる規模)のスタートアップで社員やインターンとして働いてみるのは最良の起業の修行ではないでしょうか。
また、日本では「善意を当たり前のものとして個人に犠牲を強いることでなりたっている社会制度」も多いのが現状です。サービス残業や医療の過酷な現場は、その最たるものかもしれない。ドクターズプライムのようにwin-win-winの仕組みで社会問題を解決するサービスが今後より広がると日本はもっと良くなるかもしれないと思いました。