企業が社会保険料を滞納したらどうなる?支払えない時の対処法を解説

創業手帳

社会保険料の滞納は差し押さえのリスクあり!


会社を設立すると、基本的に健康保険や厚生年金などの社会保険の加入が必要です。
社会保険料は会社が半分負担し、もう半分は社員の給料から天引きして納めなければなりません。
社会保険料を滞納した際には、最悪差し押さえのリスクがあるので注意が必要です。

今回は、企業が社会保険料を滞納するリスクや支払えない時の対処法などについて紹介します。

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【時系列順】企業が社会保険料を滞納した時の8つのリスク


企業が社会保険料を滞納すると様々なリスクが生じます。主に8つのリスクを時系列で紹介します。

1.督促を受ける

社会保険料を滞納すると、支払いの督促を受けます。納付期限から1週間から1カ月程度経つと、電話がかかってきたり、督促状が送られてきたりします。
指定された期限までに支払えば、特に咎められることはありません。

しかし、督促後も滞納が続く場合、年金事務所などへの来所を求められるケースや、職員が会社に訪問してくるケースがあります。
滞納金を一括払いできなければ、納付指導に基づいて納付計画が立てられ、滞納を早期に解消することが求められます。
それでも支払いの見通しがつかない場合、処分の対象となることに注意が必要です。

2.延滞金がかかる

社会保険料の滞納によって、延滞金が発生するリスクがあります。延滞金は、納付期限翌日から実際に納付するまでの日数に応じて発生する滞納金の利息のようなものです。
保険料額に滞納日数に応じた一定の利率を掛けることで算出できます。

最初の3カ月は「年利7.3%」か「特例基準割合+1%」のどちらか低いほうで計算します。
3カ月が経つと「年利14.6%」、または「特例基準割合+7.3%」のどちらか低いほうで計算されることになり、延滞金が高くなることに注意してください。

延滞金が発生すると、本来よりも多額の社会保険料を支払わなければなりません。これを回避するためには、期限内に納付することが大切です。

3.財務調査の対象になる

督促状が届いた後も滞納を解消しなければ処分の対象となります。処分を行うために年金事務所などの職員による財務調査が実施されます。
財務調査で主に調査される内容は、会社の保有財産です。
職員が会社に訪問して聞き取り調査を行うほか、現金・預貯金の残高、取引業に対する売掛債権・不動産の有無などがチェックされます。

なお、財務調査はあくまで任意で行われるものです。財務調査で成果が出なかった場合、より強制力のある財務捜査に移る可能性があります。
捜査に切り替わると、個人事業主・代表者の自宅調査や取引金融機関の残高調査、取引先への訪問などが実施されます。

4.財産を差し押さえられる

財務調査や捜査で財産の所有が発覚すると、会社や個人の財産が差し押さえされます。
現金・預貯金・不動産など、延滞金分を合わせた社会保険料分の財産が差し押さえの対象となり、換価されます。

財産が差し押さえられる前には予告通知が届き、その時点で社会保険料と延滞金を完済できれば差し押さえを回避できるかもしれません。
しかし、通知を無視すると財産を失ったり、今後の企業経営に支障が生じたりすることに注意必要です。

5.罰則を受ける可能性がある

財務調査・捜査の実施によって、罰則を受ける可能性があります。
条件に該当していながら社員を社会保険に加入させておらず、それが極めて悪質と判断されれば罰則の対象です。
この場合、健康保険・厚生年金に未加入であれば6カ月以下の懲役か50万円以下の罰則が科せられます。
また、雇用保険未加入の場合、6カ月以下の懲役、もしくは30万円以下の罰則の支払いが必要です。

社会保険は保険料の滞納だけではなく、対象者が加入しているのかどうか適切に管理することも重要です。

6.社会的な信用を失う

社会保険料の滞納によって財産を差し押さえられると、社会的信用を失う点にも注意が必要です。
差し押さえの事実は、社員や取引金融機関、取引先など、多数の関係者に知られることになります。

社会保険料を払わず財産を差し押さえられた事実を社員が知れば、将来性に不安を感じて離職が多発する可能性が高いです。
また、取引先から取引きを中止される恐れがあります。さらに、世間に公表されればイメージダウンとなり、顧客離れも懸念されます。

7.金融機関の融資を受けられなくなる

社会保険料の滞納が発覚すると、金融機関から融資を受けられないリスクがあります。
社会保険料が支払えない状況として、会社の資金繰りが悪化しており、貸し倒れのリスクが高くなることが考えられます。
そのような企業に対して、金融機関はお金を貸したいと思わないかもしれません。新規融資や追加融資を断られてしまう可能性があることに注意が必要です。

また、融資だけではなく、信用情報に傷が入ることで、新しいクレジットカードの発行が難しくなる可能性もあります。

8.事業継続が困難になる

社会保険料を滞納すると、最終的には事業継続が難しくなる恐れがあります。
差し押さえの対象は、不動産や事業で使うための設備、運転資金となる預貯金など、いずれも事業継続には欠かせない財産です。

また、社員の離職増加や取引先・金融機関との取引き停止、顧客離れも業績の低下や経営継続が困難になるかもしれません。
事業の立て直しが困難な状況であれば、廃業・倒産を検討する必要も生じます。

企業が社会保険料を滞納してしまった時の対処法


売上げや資金繰りの悪化などで社会保険料を滞納した場合、早めに対処することが大切です。続いては、社会保険料滞納の対処法を解説します。

年金事務所や労働局に早めに相談する

社会保険料を滞納する可能性があるとわかった時点で、年金事務所や労働局に相談するのがおすすめです。
あらかじめ支払えない理由を伝えておくことで、提案・アドバイスを受けられる可能性があります。
事情を伝えず滞納してしまうケースよりも印象が良くなる点もメリットです。

なお、相談先は社会保険の種類によって異なります。健康保険・介護保険・厚生年金であれば社会保険、労災保険・雇用保険であれば労働局に相談してください。

納付猶予を申請する

社会保険料を滞納しそうな場合、納付猶予を申請できる可能性があります。納付猶予とは、期間中に新たに発生する社会保険料が全額もしくは一部が免除される制度です。
期限は納付期限から1年以内、最長2年となっています。

社会保険料が免除され、滞納を増やさずに済むことがメリットです。ただし、納付猶予を利用するためには、正当な事由が必要になります。

  • 災害や盗難などによる被害に遭った
  • 事業が停止・休業となった
  • 前年利益の半分以上の赤字が発生した
  • 個人事業主や家計をともにする親族が病気・負傷した など

上記のような事由によって支払えない場合、納付猶予を利用することが可能です。

社会保険料を分納で支払う

納付猶予が認められると、その期間中に社会保険料の分納が可能です。分納の場合、毎月社会保険料を分割して支払います。

ただし、分納が認められるかどうかは、財産や収支状況によって判断されます。
分納を認めてもらうためには、収支・財産の情報をまとめた財産収支状況書を作成して提出しなければなりません。
書類作成に不安があれば、弁護士などの専門家に相談して作成するのがおすすめです。

ファクタリングで資金を確保する

社会保険料の資金を確保する手段として、ファクタリングの活用があります。ファクタリングとは、売掛債権を売却して現金化できるサービスです。
商取引では、商品・サービスを販売して取引先から入金されるまでの期間が1~2カ月先になるケースがあります。
入金日まで収入がなければ、資金繰りを悪化させる要因になります。

一方、ファクタリングによって売掛金を売却できれば、社会保険料を支払う分の利益を確保できるかもしれません。
ファクタリングは売掛先の信用力で審査を行うため、社会保険料を滞納している場合でも利用できます。
滞納している社会保険料を支払えるようであれば、利用を検討してみてください。

弁護士や税理士などの専門家に相談する

社会保険料を滞納するリスクがあれば、弁護士や税理士などの専門家に相談するのもひとつの手段です。
特に、年金事務所に相談しても解決が難しい場合に適しています。

財務や事業継続に詳しい専門家であれば、資金繰りの悪化や滞納の対策などを専門的な観点からアドバイスを受けられるでしょう。
資金繰り悪化の解消や経営再建には専門知識が求められるため、専門家のサポートを受けながら取り組むことで効率良く解消できます。

破産申請を検討する

社会保険料の支払いや事業存続が厳しい場合、破産申請を検討してみてください。解散・倒産によって法人格が消滅すると、社会保険料の支払いから解放されます。
債務がなくなり、今まで滞納していた社会保険料を支払う必要もありません。

破産方法には、法人破産と自己破産の2種類があります。
法人破産は株式会社が利用できる破産手続きです。
手続きが完了すると、社会保険料を含む法人が抱える債務がすべて消滅する代わりに、法人格の消滅によって経営を続けられなくなります。

一方の自己破産は、主に個人事業主本人など個人を対象にした破産手続きです。手続きが完了するとすべての債務が免除され、支払いが不要になります。
ただし、社会保険料をはじめとした租税債権は対象外となるため、申請後も滞納した分を支払わなければなりません。
社会保険料の支払い義務がなくなるわけではないことに注意してください。

社会保険料の支払期限と時効


社会保険料の滞納を回避するためには、支払期限を把握し、それまでに必要な資金を確保して納めることが大切です。
また、滞納が発生する際には時効の有無をチェックすることもおすすめします。
最後に、社会保険料の支払期限と時効について紹介します。

社会保険料納入告知書が届いた翌月末日

社会保険料の支払期限は、「社会保険料納入告知書」が届いた翌月末日までです。事業所に届出を提出すると、毎日10日頃に支払う社会保険料が確定します。
毎月20日頃に日本年金機構から事業者のもとに告知書が届くので、翌月の期限内までに社会保険料を納付してください。

納付期限が休日であれば、翌日以降の営業日が納付期限となります。なお、払い忘れの防止として、指定した金融機関で口座振替をするのもおすすめです。
口座振替で支払いたい場合は、事前に日本年金機構に納付申請書を提出してください。

時効は滞納から2年

社会保険料の滞納には、時効が存在します。健康保険法第193条によると、社会保険料の滞納分は2年間で時効を迎え、支払義務が消失する旨が記載されています。
ただし、基本的に時効は成立しないものと考えてください。

督促が行われるタイミングで時効も更新され、督促を受け続ける限り時効は成立しません。
ほかにも、滞納している企業に対して納付誓約書などの書類にサインを求められたり、資産を差し押さえられたりすることで、時効によって回収できない状態ができます。
法律上は時効が存在してもほとんど成立することはないため、滞納は回避してください。

まとめ・企業が社会保険料を滞納しそうな時は早めに対応しよう

社会保険料を滞納すると、督促から始まり、最終的には財産の差し押さえや社会的信用を失うなどのリスクがあります。
財産の差し押さえによって経営の継続が難しくなり、廃業・倒産を考えなければならないケースが生じます。
資金繰りの悪化や払い忘れに注意して、社会保険料を滞納しないようにすることが大切です。
支払えない場合には、速やかに年金事務所や労務局、弁護士・税理士などの専門家に相談して対策の提案やアドバイスを受けることがおすすめです。

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(編集:創業手帳編集部)

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