一人社長は社会保険に未加入でも問題ない?未加入のリスクと加入方法を解説

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一人社長でも社会保険に加入する義務がある


会社を設立する時には、立ち上げにかかわる手続きや資金調達で多忙を極めます。
ついつい自分のことが後回しになって、社会保険の加入については忘れてしまうかもしれません。

ここでは、社会保険に加入しなかった場合にどうなるのか、加入手続きはどのように行うのかについての解説です。

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一人社長が社会保険未加入のままだとどうなる?


起業したばかりの事業者の中には、ビジネスで忙しくて社会保険の手続きまで手が回らないケースもあります。
また、一人社長だから社会保険の加入義務がないと思っている人もいるかもしれません。
しかし、健康保険法第3条と厚生年金保険法第9条では適用事務所で使用されているものは被保険者であるとされていて法人の代表者も含まれるため、一人社長も社会保険の加入義務があります

以下では、一人社長が社会保険未加入のままにしておくとどうなるのかをまとめました。

加入要請や警告文が届く

年金事務所では、国税庁の情報から給与の支払い実態から加入状況を把握しており、
社会保険が適用されていない事業所には、年金事務所から電話で加入要請が行われます。
さらに加入要請に応じない事業所には、警告文書や訪問指導で社会保険への加入が求められるようになります。

この段階で社会保険に加入すれば、加入してから保険料を納付すれば大きな問題になりません。しかし、警告文書を無視すると罰則を受ける可能性があります。

強制加入で保険料を徴収される

警告文が届いた後も未加入を続けていると、最終的には年金事務所が立ち入り検査に入ります。事業所には、受忍義務があり立ち入り検査を拒否できません。
質問や書類の検査は必ず対応する必要があります。健康保険や労働保険に関わるような書類や領収書のほか、賃金台帳や労働者名簿を求められます。

立ち入り検査で強制加入になった場合には、最大で2年間さかのぼり保険料を徴収されるのです。
納付期日までに支払わないと督促状が届き、さらに指定期日までに支払わないと延滞金も発生します。

懲役や罰則を受ける可能性がある

社会保険未加入である場合や、虚偽報告や無視といった対応をした場合、健康保険法第208条によって罰則を受ける可能性があります。
虚偽申告や複数回の無視といった悪質ケースでは、事業主に6カ月以下の懲役又は50万円以下の罰金が課される恐れもあります。

また、懲役や罰則の単純なペナルティだけが問題ではありません。懲役や罰則が報道されれば信用を失って取引先や顧客が離れる可能性があります。

助成金・補助金が受けられない

社会保険を未加入のままでいると、資金調達にも影響することがあります。事業主に対して雇用に関係する助成金、補助金は数多くあります。

雇用調整助成金や産業雇用安定助成金のように要件を満たすことで受給できる助成金は、返済不要のものもあり、資金調達手段として優秀です。
しかし、助成金や補助金の受給条件として雇用保険適用事業所であることが求められる場合があり、雇用保険に未加入のままでは受給できないかもしれません。
起業したてだと、店舗や仕入れにかかる資金を用意するのも大変です。助成金や補助金を受けられるかどうかによって、事業の成功に影響することもあります。

ハローワークに求人を出せない

ハローワークでの求人は、社会保険に加入することが前提となっています。つまり、社会保険未加入の事業所は、ハローワークに求人を出すことができません。
ハローワークは、無料で利用できる人材補修であり、ハローワークを経由することで受給できる助成金や補助金もあります。

ハローワークを使わずに人材採用する方法もありますが、それでも多くの求職者は社会保険加入を求めるでしょう。
社会保険に未加入のままだと、良い人材を採用できなくなってしまうのです。
事業の成長を促すには人材の補充が必要な時もあります。社会保険に未加入となることで、大切な人材を逃すことがないようにしてください。

一人社長の社会保険料はいくらぐらいか?


社会保険と一言でまとめていますが、会社時設立時に加入することが義務付けられている社会保険には4種類あります。
まず、健康保険と厚生年金はすべての法人が加入します。労災保険と雇用保険は従業員が一人以上いる場合に加入しなければいけません。

一人社長の場合であれば、雇用保険と労災保険は加入しなくても、健康保険と厚生年金は必要です。
健康保険は、病気やケガをした時に医療費のサポートを受けられる公的な医療制度です。
厚生年金は、会社に勤務する場合に加入する年金で、厚生年金保険料に国民年金保険料が含まれます。

健康保険料は都道府県によって料率が違い、会社と個人での折半です。東京都では報酬の10%が料率で、会社と個人がそれぞれ負担します。
厚生年金は、報酬×18.3%で会社と個人の折半です。

健康保険料も厚生年金保険料も報酬によって金額が変わるので、ここでは報酬が30万円だった場合で計算します。
健康保険料は、健康保険料が30万円×10%で3万円で、それを折半して個人負担は15,000円です。厚生年金保険料は、30万円×18.3%で54,900円を折半して個人負担は27,450円です。
ただし、加入者が40歳以上だと、報酬×1,82%の介護保険料も発生します。
これも労使折半で2,730円です。これらを足すと、40歳以上の場合には会社負担と個人負担がそれぞれ45,180円です。

一人社長が社会保険に加入する際の手続き方法


社会保険は、健康保険、厚生年金保険、労働保険(労災保険と雇用保険)に大きく分けられます。加入するには、どのような手続きが必要になるのかまとめました。

健康保険や厚生年金保険に加入する際の手続き・必要書類

会社を設立してから、社会保険に加入するまでには加入手続き期限も設定されています。
社会保険の中でも、健康保険と厚生年金保険は、会社設立から5日間と短い点に注意してください。
健康保険と厚生年金保険は、まとめて手続きができます。
年金事務所に必要書類を持って出向いてください。介護保険の加入も健康保険への加入で完了します。

必要な書類は以下のものです。

  • 健康保険・厚生年金保険新規適用届
  • 健康保険・厚生年金保険被保険者取得届
  • 健康保険被扶養者(異動)届

上記に被扶養者各自の健康保険被保険者証を添付します。
書類はすべてダウンロード可能な上、窓口に持参する以外に郵送や電子申請も可能です。
書類の記載等不明点があれば窓口で尋ねることができますが、出向く時間がない時には郵送や電子申請も検討してください。

以下では、それぞれの必要書類について解説しています。

健康保険・厚生年金保険新規適用届

健康保険・厚生年金保険新規適用届は、健康保険と厚生年金に初めて加入する時に提出する書類です。
提出期限は会社設立日から5日以内と短いため、登記完了後すぐに手続きするようにしてください。

健康保険・厚生年金保険新規適用届は、90日以内に発行された会社の登記簿謄本の原本を添付しなければいけません。
登記した場所と会社の場所が違う時には、会社の所在地を確認できる書類も用意してください。

健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届

健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届は、従業員を採用して健康保険や年金保険の被保険者としての資格を取得するために必要な書類です。
健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届は、役員や従業員を含む被保険者となる人の全員分を提出しなければいけません。

社長が無報酬である場合などを除いて、一人社長でも提出しなければいけません。健康保険・厚生年金保険新規適用届とまとめて提出してください。

健康保険被扶養者(異動)届

健康保険被扶養者(異動)届は、社会保険に加入している従業員が、家族を扶養に入れる時などに提出する書類です。
一人社長が会社を設立して子どもや配偶者、父母などの家族を被扶養者にする時には、この書類を提出します。

健康保険被扶養者(異動)届には、扶養家族の続柄を確認するために、戸籍謄本か住民票(提出日から90日以内に発行したもの)の添付が必要です。
また、被扶養者の事情に応じて添付書類が求められることがあります。
被扶養者の追加や削除、氏名変更などがあった時にも、事実発生から5日以内に提出してください。

労災保険に加入する際の手続き・必要書類

労災保険は、雇用している従業員が業務上や通勤途中でケガをした時、病気や死亡の時に保険給付を行う制度です。
正式名称は、「労働者災害補償保険」といって、従業員や残された家族を守る役割があります。

一人社長の場合には、労災保険に加入する必要はなく、従業員を雇用してから届け出ます。
しかし、業務災害が心配されるようなケースでは労災保険に特別加入が可能です。

労災の特別加入は、実際に業務に従事していて業務災害に遭うリスクがある一人親方などのが対象です。
特別加入制度の詳細については厚生労働省のホームページをチェックしてください。

保険関係成立届

労働保険(雇用保険と労災保険)の適用事業所になった場合には、保険関係成立届を提出します。提出先は、労働基準監督署または公共職業安定所です。
この届け出は、保険関係が成立した日の翌日から10日以内におこなってください。添付書類として法人の登記事項証明書の原本が必要です。

労働保険概算保険料申告書

保険関係成立届を提出した場合、提出年度分の労働保険料を概算保険料として納付することになります。その時の申告書が労働保険概算保険料申告書です。
この書類は、保険関係が成立した日の翌日から50日以内に提出して、概算保険料を納付します。

労災保険料の計算は、賃金に労災保険料率を乗じて計算します。
事業主別に労災保険料率が違うので、事業種別の労災保険料率は厚生労働省作成の労災保険料率表で確認してください。

雇用保険に加入する際の手続き・必要書類

雇用保険は、労働者の雇用安定や再就職の促進のために、失業者への給付を行う制度です。雇用保険の届け出は、会社所在地を管轄している公共職業安定所に提出します。
雇用保険の対象になる従業員は、以下の条件を満たした従業員です。

  • 1週間の所定労働時間が20時間以上
  • 31日以上の雇用見込があること

以上の条件を満たしていれば、パートやアルバイトであっても雇用保険に加入することになります。
雇用保険の適用事務所になるための雇用保険適用事務所設置届と雇用した従業員が雇用保険に加入するための雇用保険被保険者資格届出が必要です。

雇用保険適用事務所設置届

会社を設立してから、雇用保険の対象となる従業員を雇った時には雇用保険適用事務所となって雇用保険に加入させる義務が生じます
添付書類として、労働基準監督署受理済みの労働保険保険関係成立届の事業所控えと労働者の雇用実態、賃金支払いの実態を証明する書類が必要です。
労働者名簿や雇用開始から現在までの賃金台帳、雇用から現在までの出勤状況がわかるもの、雇用契約書なども求められるので準備しておいてください。

雇用保険被保険者資格取得届

雇用保険に加入すべき従業員がいる時には、雇用保険適用事務所設置届を提出します。
これは、資格取得日の翌月10日までに公共職業安定所に提出してください。雇用保険被保険者資格取得届を提出すると雇用保険資格取得等確認通知書が交付されます。

一人社長で社会保険への加入が不要なケース


社会保険の中で、労働保険は従業員がいなければ必要ありません。
また、健康保険や厚生年金保険も法人ではなく個人の事業者の場合には、常時雇用の従業員が5人未満であれば任意です。
法人の場合には健康保険と厚生年金に強制加入となりますが、それでも役員報酬が0円の場合には加入できません
この場合には、役員報酬の支払いが発生したタイミングで届け出ることになります。

一人社長でも会社を設立するなら早めに社会保険に加入しよう

一人社長であっても、原則として健康保険と厚生年金に加入しなければいけません。社会保険にかかる費用負担が気になってしまう事業者もいるでしょう。

しかし、社会保険に加入することによって万が一の備えになったり、家族を扶養に入れられたりとメリットがあります。
加入が義務付けられている社会保険に加入しないままでいればペナルティを受けることもあります。
会社を設立する時には、社会保険の手続きのスケジュールも確認してください。

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(編集:創業手帳編集部)

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