ベジタブルテック 岩崎 真宏|栄養学とテクノロジーが融合した「粉野菜」で野菜を身近に

創業手帳
※このインタビュー内容は2022年05月に行われた取材時点のものです。

「食べる・保存・購入の手間」という野菜が抱える全ての課題を解決する「粉野菜」の可能性


医学・栄養学の観点から、野菜をもっと簡単に食べられるようにして、健康な人を増やす。そして、野菜を食べる人が増えるから農業が活性化するという未来を創造しているのがベジタブルテックの岩崎さんです。

粉野菜の魅力や可能性について、創業手帳代表の大久保が聞きました。

岩崎 真宏(いわさき まさひろ)
ベジタブルテック株式会社 代表取締役
医学研究者、病院管理栄養士として国内外での研究・論文発表、学会賞受賞など多くの実績を持つ。健康管理や疾病予防、スポーツのための栄養サポートを提案し、多くの医療従事者や運動指導者と協力して質の高いヘルスケアサービスの開発と普及に取り組む。栄養を切り口とした多業種連携を行う。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。

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起業する人が少ない医療業界から「ベジタブルテック」を創業

大久保:ベジタブルテックさんの概要を教えてください。

岩崎ベジタブルテックを2015年に私と宇土の2名で創業しました。両者とも医療従事者からの独立です。

私は臨床現場で管理栄養士として患者の方々に対する食事療法を行っていました。しかし、栄養学は食べ物ごとの栄養の情報を伝えることが主な役割で、具体的に患者の食事療法を手助けできるアクションが少ないと感じていました。

野菜は体に良いとわかっているのに十分な量を食べている人は多くありません。さらに、健康に不可欠な野菜を生産する農家の方々も、予防医療という観点から見ると、医療チームの一員なのにもかかわらず、医療と農業の連携が進んでいません。このような課題を解決し、野菜で人々を健康にするためにベジタブルテックの創業に至りました。

ベジタブルテックは「栄養学とテクノロジー」を使い、もっと野菜が身近になることを目指しています。野菜が身近になればなるほど、人々は心身ともに健康になります。

野菜の必要性を理解する人が増えて、野菜を食べる人が増えれば、廃棄する野菜の量も少なくなり、生産者の方々の収入も上がります。この流れが実現すれば、食糧安全保障や環境問題の改善にも繋がると考えています。

粉野菜でヘルスケアと農業の連携を目指す

岩崎:最新の栄養研究では、今まで注目されていたビタミンやミネラルだけでなく、トマトのリコピンぶどうのポリフェノールなどの「フィトケミカル(※)」と呼ばれる栄養素にも注目が集まっています。

※フィトケミカル(phytochemical):野菜、果物、豆類、いも類、海藻などの植物に含まれる化学成分。具体的には、植物が紫外線や有害物質、害虫などの害から身を守るために体内で合成した色素や香り、アク、辛味などの成分。

野菜を食べることの健康効果は次々と証明されていますが、生野菜は調理や保存に手間がかかってしまうため、野菜を十分に食べられている人が増えていません。

あらゆる面で便利になった現代ですが、野菜の摂取に関しては「生野菜を食べる」ことが主流なままで改善の余地があると考えています。試行錯誤を繰り返した結果、ベジタブルテックでは「野菜の粉末化」に着目しました。

一般的な野菜の粉末化技術では、冷凍、加熱、乾燥などの処理を行うことが多く、食物繊維が失われたり、温度変化で栄養成分が失われたりする可能性があります。

しかし、ベジタブルテックでは野菜が持つ栄養成分、色素、香り、旨味のすべてを維持する粉末化の特許技術を構築しました。野菜の生産過程で農薬を使うと、農薬の成分も維持してしまうため、粉野菜の原材料には無農薬の野菜しか使いません

私たちは野菜を食べて健康な人が増えれば、それに連動して農業も活性化すると考えています。ヘルスケアと農業が連携して野菜の更なる循環を目指しています。

予防医療として栄養学に基づく野菜の可能性

大久保:岩崎さんは医学博士という肩書きがありますが、医師ということでしょうか?

岩崎:医師ではないです。医学研究で病気が発症する機序を解明したり、新規治療法の開発をして、医学界に研究結果を提供する役割でした。

大久保:医学博士であれば起業以外にも様々な選択肢があったと思いますが、なぜ起業の道を選ばれたのでしょうか?

岩崎:私は野球をやっていたこともあり体力に自信があったので、最初にキャリアを考えた時は消防士が良いと思っていました。しかし、火事になってから手助けをするのでは、手遅れだと思うようになり他の道を探しました。次に、消防士と同じく人の命を救う医療というキャリアを考えたのですが、医療も病気になってからしか手助けができません。

この考えから「予防」が大切だという考えに至り、病気の予防に必要なスキルが「栄養学」でした。薬は病気にならないと手に入らないので、日常的にできる健康維持の対策は「食事」と「運動」だけです。

運動を毎日する人は少ないですが、誰でも食事は毎日摂ります。そこで食習慣を変えられれば、人々の健康は揺るがないはずだと考え、予防のために栄養学の研究に注力しました。

栄養コンシェルジュ協会を立ち上げフィットネスジムと連携

岩崎:医療業界から野菜分野で創業した当初は、生の野菜を売ろうとしていましたが全く理解してもらえませんでした。

そこで、まずは「一般社団法人日本栄養コンシェルジュ協会」を立ち上げて、健康意識の高い人たちとの関わりが多いトレーナーの方々と協業することにしました。

トレーナーの方々はトレーニングの知識はあっても栄養や医学の知識が少なく、栄養補給の選択肢としてプロテインやサプリメントが主流になる場合が多い現状があります。そこで、まずはトレーナーの方々からお客様に、正しい栄養の知識を提供できるように栄養教育の仕組みを作りました。

現在、日本栄養コンシェルジュ協会が連携するフィットネスジムは全国に約500店舗で、トレーナーは約2000人です。

大久保:広島県で創業された理由を教えていただけますか?

岩崎:共同創業の宇土が住んでいた場所が広島県であり、広島県神石高原町に野菜の無農薬栽培をしている方々がいたので、広島県で創業することになりました。

しかし、広島県神石高原町では無農薬野菜を使用した野菜ジュースやふりかけなど商品開発を行いましたが、無農薬野菜の確保や粉末加工も困難でした。そのとき、トレーナーを養成する専門学校が通信制農業高校を新設することと、無農薬野菜の農家の方々もいることもあり、宮城県に開発拠点を移しました。

粉野菜で緑黄色野菜をもっと手軽に食べられる仕組みを作る

大久保:多くの方々が野菜を摂る大切さは理解していても、調理や保存の手間が面倒で野菜を十分に食べていないという課題を、ベジタブルテックは粉野菜で解決するということでしょうか?

岩崎:普段から野菜を食べているという方でも、大抵はレタスやキャベツが中心ですので、緑黄色野菜をもっと手軽に食べられる仕組みが必要だと考えています。

大久保:野菜を食べる習慣を広めることで人々の健康問題も解決できる上に、今までは売れ残っていた規格外野菜なども粉野菜にして販売できるため、農家の方々の所得の向上にも繋がるという仕組みでしょうか?

岩崎粉野菜の賞味期限は2年以上あるため、生野菜よりも販路拡大に取り組みやすくなる上に、より高い付加価値をつけられる可能性も高まります。

食べ物以外の販路で考えられることは、化粧品や染料としての使い道です。

化粧品の多くは金属をベースとする化学成分が中心ですし、衣服を染めている染料も化学成分が中心です。そこで、より自然にも人体にも優しい方法として野菜が持つ色素を生かして、化粧品を作ったり、着物を染めることも可能です。

生野菜にはない粉野菜のメリット

大久保:粉野菜ということは保存食としての役割も担えますか?

岩崎:近年は災害も増えており、避難所での食事の栄養バランスに課題も出てきており、健康面での二次災害とも言われ始めています。

そこで、その地域の野菜で作った粉野菜をその地域の自治体が保存食として保管しておけば、避難所でも栄養バランスの取れた食事を提供できるようになります。

大久保:粉野菜を日常生活で気軽に摂取するにはどういう方法が良いですか?

岩崎:即席スープなどに入れてもらうだけでも本当に美味しくなります。他には粉野菜を水と混ぜるだけで野菜ジュースになります。それだけでもとても美味しいです。カプセルタイプであればどこへでも野菜を持ち運び、食べることができます。

大久保:ベジタブルテックさんの粉野菜はどの経路での販売が多いですか?

岩崎:インターネット経由の直販を高めていこうと思っています。BtoBの引き合いも多く、そのまま扱いたいという商社や、食品加工品の原料に使いたいという製造メーカーからの問い合わせも増えています。

また、営業時間に限界があるフィットネスや整骨院などの業態との相性も良いと考えており、そのような店頭で販売しているサプリメントや栄養食品に加えて、粉野菜を新たな選択肢として提案することも進めています。

ベジタブルテックが作る「農業の新しい形」

大久保:「農業×テクノロジー」という分野であれば、地方での雇用創出にも繋がりますか?

岩崎:農家さんから「農業は、汚い、かっこ悪い、稼げないの3Kと言われています。」と聴いたときショックでした。しかし最近では、農業ロボットやAI技術の導入で、農業の労力はかなり改善されています。

農家をすることで経済的にも時間的にも、自由や余裕を得られる仕組みを作れたら、音楽や芸術、アスリートなど才能や可能性があるにもかかわらず、生活費のために夢を諦めざるを得なかった人たちの新たなライフスタイルとなる可能性もあると考えています。

大久保:新規就農する方々の課題を教えていただけますか?

岩崎農業で最も難しい課題は「出口」の確保です。一般市場では大きさや形などが規格外と判断されると、生産した作物の全量を販売することはできません。インターネットを活用して直販をしようにも、農家の方々は「野菜生産の専門家」であるため、販売やマーケティングやプロモーションを苦手としている方々が多いです。

そこで、ベジタブルテックでは農業の出口の部分を包括してサポートする計画をしています。現在は粉野菜が中心ですが、将来的には生野菜の販売やカット野菜などの加工品の対応も増やしていく予定です。

野菜から栄養を摂取することの重要性

大久保:市販の野菜ジュースは栄養成分が失われているのでしょうか?

岩崎:一般的な市販の野菜ジュースに関しては、野菜をあまり食べない方であれば、飲んだ方が良いと思います。しかし、市販の野菜ジュースには果汁や果糖ブドウ糖液の割合が多く糖分が高い場合が多いです。

野菜ジュースを飲む目的が手軽に野菜を摂取したいということであれば、粉野菜をカプセルに入れて飲んだり、普段の食事に粉野菜を混ぜることをおすすめしたいです。

大久保:人工のサプリメントからも栄養素を摂取できると思いますが、野菜から栄養素を摂取する方がより望ましいのでしょうか?

岩崎:例えば、レモン1000個分のビタミンCが摂取できる商品と聞くと魅力的に感じるかもしれませんが、レモンにはビタミンC以外にも様々な栄養素がありますし、野菜や果物にはまだ発見されていない未知の成分もあります。

ごぼうを食べるとアルツハイマーの予防に効果があるという研究結果が出ていますが、ごぼうのどの成分に具体的な効果があるのかまでは明確にわかっていません。
自然物には特定の成分以外にも栄養素があったり、未知の栄養素が隠されているという相乗効果がありますが、これが人工物にはない自然物の魅力です。

また、1日分の栄養素を1回で摂取しても体には残りにくいです。

例えば、人間は1日に2リットルの水を飲む必要があると言われています。そこで、朝起きてすぐに2リットルの水を一気に飲んでも、排泄することで水分が失われてしまい、1日分を十分に保持することはできません。

これと同じで、野菜や果物から摂る栄養素も1日分を1回で摂取しても、すぐに排泄されてしまい、栄養が足りなくなることがあります。そのため、1回に摂取する量は多くなくて良いので、習慣化して野菜を毎食食べることが大事なのです。

粉野菜で普段の食事を簡単にアップグレードできる食習慣を作る

大久保:今後の展望について教えていただけますか?

岩崎:私は現在の食習慣を大きく変えずに、人々を健康にできるはずだと考えています。食生活の中心がコンビニだという方々は多いですが、その食事を全てヘルシーなものに変えるというのは困難です。

しかし、粉野菜を使うことで、コンビニのご飯を簡単にアップグレードできるようになれば、満遍なく健康になる人たちが増えると思います。

粉野菜には全ての栄養素も農薬もそのまま残るため、原料となる野菜は無農薬野菜にこだわる必要があります。

無農薬で野菜を栽培することはかなり大変ですが、農薬を使って大量生産をしなくても、必ず全量買い取ってもらえると約束できれば、農家の方々も思い切って無農薬栽培に挑戦できると思います。

この流れができれば、自然と無農薬栽培の農家が増えて、身近に流通している野菜も無農薬が当たり前になると考えられます。今は無農薬野菜は割高ですが、手軽に買える無農薬野菜を増やすことにも挑戦したいと思っています。

諦めない限りはいつか成果に繋がる

大久保:読者の方へのメッセージをお願いします。

岩崎:私は医療業界という一般的に創業をする人が少ない領域からベジタブルテックを創業しました。

創業すると安定的な収入がなくなるなど様々なハードルがありますが、自分のやりたいことを実現できたり、多くのご縁に恵まれたり、諦めない限りはいずれ成果が出ると思っています。

我々も創業から数年間全く売り上げがなく、収入がありませんでした。それでも色々な農家の方々や手を差し伸べてくれる方々が少しずつ増えて、商品化を実現することができました。

創業することはとても面白いことが多いため、今後創業する方ともぜひどこかでコラボレーションする機会があると嬉しいです。

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