テレワークでも社員の「メンタルヘルス」を保つために、経営者がやるべきこと
株式会社メンタルヘルステクノロジーズの刀禰真之介代表に、アフターコロナを見据えた健康経営について聞きました
(2020/06/01更新)
新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の影響で、テレワークの推進が社会全体に広がりました。テレワークが長期化する中で、見落とされがちなのが「従業員のメンタルヘルス対策」です。健康経営に欠かせない従業員の心の健康を、働く環境が変わっても維持していくためには、どのようなポイントに気をつけなければならないのでしょうか。
企業のメンタルセルフケア事業を展開している、株式会社メンタルヘルステクノロジーズ
の刀禰真之介代表に、新型コロナによって、企業のメンタルヘルスケア対応にどんな変化が起きたのか、アフターコロナに向けて、経営者が取り組むべき課題などについて話を聞きました。
デロイトトーマツコンサルティング株式会社(現アビームコンサルティング)、UFJつばさ証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)株式会社、株式会社環境エネルギー投資などを経て、株式会社Miew(現メンタルヘルステクノロジーズ)を設立し、代表取締役に就任。主な著書に『部下の心が折れる前に読む本「社員がやめない会社」をつくる5つのステップ』(幻冬舎)
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この記事の目次
刀禰:企業のメンタルヘルスケアのサービスを、クラウドで展開しています。
厚生労働省が、事業におけるメンタルヘルスケアについて、以下のポイントを掲げています。
- ストレスマネジメントに、従業員が個人で取り組む
- 管理監督者が従業員のメンタルの変化に気づく
- 産業医・衛生管理者など、事業場内の専門家に相談できる環境を整える
- 事業場以外の機関・専門家など、外部の相談ルートを作る
これらを総称して「4つのケア」といいます。
これまで、企業のメンタルヘルスケアは、現場での研修や、外部の専門家が電話で対応するなど、アナログな取り組みが主流でした。メンタルヘルステクノロジーズでは、全国で300人以上の産業医と提携して、eラーニングやウェビナー、チャットでの対応など、オンラインでメンタルヘルスケアを行えるサービスを提供しています。オンラインだと、アイドルタイム(待ち時間や、一次休業時間のこと)がなくなるため、効率的かつ安価にケアを提供できます。
社員の不調をきっかけに、メンタルヘルス領域に舵を切った
刀禰:大学生の時に、医学部に進学した弟と「将来2人で医療系のビジネスをやろう!」とはなしたのが始まりです。弟は、緩和ケアの領域に進むと決め、私は30歳になってから医療分野で起業しました。
医療領域の事業は、まず協力してくれるお医者さんを集めることが大事ということで、最初は学会向けのサービスを提供していました。そこから紆余曲折をへてメンタルヘルスケア領域に舵を切ったわけですが、きっかけのひとつに、自社の社員がメンタルを患ったことがありました。
その社員は、仕事ではなく家庭の問題で精神疾患になりました。精神科医に診てもらったところ、最初の薬より強い薬を処方されたのち、立つことも億劫になったと聞いて、驚きました。もともと持っていた精神的な病の治療へのイメージと、実際の治療との間に大きなギャップを感じたのです。
精神科医をやっている弟の妻に話を聞いてみたところ、「精神科医の対応としては順当」と言われました。この時、従業員のメンタルヘルスケアは、精神科医の先生に診てもらうよりも、もっと早い段階で手を打つ必要があると思いました。
企業のメンタルヘルスケアについて、当時も概念自体はありましたが、「4つのケア」をトータルで提供している企業はほとんどありませんでした。事業化するための具体的なアプローチを、手探りで詰めていき、2016年からメンタルヘルスケア事業をはじめました。現在、グループ全体の売上の8割がメンタルヘルス領域になっています。
新型コロナで、健康経営維持にどんな変化が生まれたか
刀禰:まずは、オフィス環境の感染症対策ですね。工場などでは、もともと徹底した衛生管理が行われてきましたが、オフィス環境に関しては十分な対応をしている企業が少ない現状があります。これから、オフィスでもソーシャルディスタンスを確保するなど、感染症対策が必須になってくるので、オフィスのあり方や配置が変わっていくと予想されます。
続いて、在宅勤務など、テレワークで働く従業員のメンタルヘルスケア対応です。一般的に、フィジカルが崩れると、メンタルも崩れると言われています。例えば、在宅勤務でソファなどに座って業務に取り組んでいると、腰や肩に負担がかかりますよね。こうした、体の不調が、メンタルヘルスにも影響してきます。対面とテレワークでは、コミュニケーションが変化することもポイントです。企業はこれから、テレワークでもメンタルヘルスを維持できるよう、これまで以上にしっかり体制を設計する必要が出てくるでしょう。
テレワークでも社員のメンタルヘルスを維持するために必要なアプローチ
刀禰:メンタルヘルスが悪化する原因は、業務の中で生じる「不信・不安・不満」にあります。従業員同士のコミュニケーションや、情報の管理など、会社に対する不信・不安・不満を産まないような経営体制づくりが大切です。
まずは、就業規則などの基本的な環境の整備が必要です。例えばテレワークで利用するWi-Fiの費用は誰が負担するのか、パソコンの持ち帰りルールはどうするのかといった、労働環境が変化した時のルールが不透明だと、従業員の不信を生みやすくなります。
つづいて、コミュニケーションのルールづくりの徹底です。テレワークは、対面のときよりも、やり取りできる情報が少なくなります。だからこそ、細かくルールを設定したり、必要に応じて新たなツールを導入したりするなどして、コミュニケーションを円滑に行える体制を整える必要があります。
従業員のメンタル面でのケアも考えなくてはなりません。テレワークは、業務の相談をしにくくなったり、在宅勤務をしている人と会社に出勤している人との間に情報格差が生まれたりします。従業員が、孤独を感じやすい環境です。「毎週の1on1ミーティング(上司と部下が一対一で行う対話)」を行うなどして、メンタル面もしっかりケアすることをおすすめします。
従業員のマネジメントについては、行動と結果を細かく数値化することが有効です。テレワークは、個人が見えないので、今までと同じやり方だとパフォーマンスが下がる可能性が高いのです。従って、売上や、作業時間など、業務の細かな部分まで数値化すると把握・管理がしやすくなります。パソコンでの作業内容を自動で記録するサービスなど、必要に応じて新たなテクノロジーを導入して、業務の効率が落ちないよう工夫しましょう。
経営者自身のメンタルヘルス維持に必要な意識
刀禰:経営者にとっては、最悪のリスクを想定しながら経営を黒字にすることが、何よりもメンタルの安定につながると考えます。
経営が悪化するなどの要因で、メンタル部分のコントロールが難しい場合は、素直に精神科に相談してみてはいかがでしょうか。実際、私には、「よい精神科医がいないか」と経営者から相談を受けるケースもあります。聞いてみると、ご自身の不調から精神科医に診てもらいたい、とのことでした。一般的に、仕事と家庭とプライベートのうち、2つが上手く行かないと、メンタルが崩れやすくなると言われています。どこに重きを置いているかは、人によって異なると思いますが、「自分自身のメンタルが折れてしまわないこと」を何よりも優先して、バランスを取っていくことが大事です。
今、新型コロナの影響で飲食店・ホテルなど苦境に立たされている事業者が非常に増えています。これは経営やサービスが悪いわけではなくて、社会的な問題が起きている以上、ある種どうしようもない状況ですよね。事業は失敗してもネクストチャレンジができます。やむをえず事業が手詰まりになったら、一度事業を精算して、次のチャレンジに重点をおくというのも一つの手だと思います。
これからの健康経営維持は、テレワークを前提とした対策を
刀禰:今後、多くの事業でソーシャルディスタンスがテーマになります。さまざまな業務のデジタル化がいっそう進むと思いますので、我々も可能な限りサービスをデジタル化することが一つの目標です。
社会へのインパクトについては、「医療従事者と社会の通訳者」になることが自社のビジョンです。新型コロナが社会的な問題になる中で、医療関係者とマスコミ、社会のコミュニケーションが上手く噛み合っていないことを痛感しました。これから先、新型コロナよりもさらに強力で危険な感染症が出てきた時、医療の現場の情報を速やかに社会全体に共有できるかどうかが重要になってきます。
メンタルヘルスの領域でも、医療の現場と社会との間に大きなギャップがあります。弊社は、医療の現場と社会との間に立ち、通訳者としての影響力を高めていきたいです。
刀禰:新型コロナで、働く環境のあり方がスイッチされました。特にテレワークの導入は、社会的に戻れない価値観になったと思います。テレワークの環境を整えていない会社は、採用力を失っていくことになるので、今後企業の対応は必須と言えるでしょう。
テレワークの実施に取り組むと、今回話したような、メンタル・フィジカルの問題が必ず出てきます。経営者は、今まで以上に社員のフィジカル・メンタルのケアに力を入れる必要に迫られると思います。
必要に応じて、外部のサービスも活用しつつ、テレワークでも社員のパフォーマンスを落とさずに、メンタル・フィジカルともに安定した経営を維持する体制を整えることを意識すると良いでしょう。
(編集:創業手帳編集部)
(取材協力:
株式会社メンタルヘルステクノロジーズ/刀禰真之介 代表取締役)
(編集: 創業手帳編集部)