雛形でチェックする業務委託契約書作成のポイント
雛形で学ぶ!業務委託契約書入門
(2015/03/05 更新)
比較的多くのベンチャー企業が目にすることになる契約といえば業務委託契約だろう。業務委託契約書はよく目にするので、なんとなくわかっているようで、実際はよくわからないというベンチャー経営者も多いのが現状だ。
今回はそんな業務委託契約書のチェックポイントについて説明をしていこう。
1. 業務委託契約とはどのような契約か?
2. 業務委託契約書の受託側のチェックポイント
3. 業務委託契約書の委託側のチェックポイント
4. その他の業務委託契約書のチェックポイント
5. 業務委託契約書作成のポイントのまとめ
業務委託契約とはどのような契約か?
そもそも、業務委託契約とはどのような契約だろうか。法律に定められているわけではない。言葉の意味からして、自社で行うべき「業務」を、他社に「委託」する契約である。自社でやろうと思えばできる業務を外注にアウトソーシングする契約は、およそ全て業務委託契約ともいえるため、様々な内容の業務委託契約が存在する。
そのため、同じように「業務委託契約書」という名前が付けられた契約書であっても、法的効果が大きく異なることがあるので、注意が必要である。
業務委託契約書の受託側のチェックポイント
ベンチャー企業の場合、大手の取引先から業務委託契約により業務を受託することも多いと思われる。
そこで、業務委託を受ける側になった場合の、チェックポイントとして特に紛争となりがちなポイントを、業務委託契約書の雛形サンプルを実際に見ながらチェックしていこう。
※下記リンクから業務委託契約書の雛形をダウンロードしてください。
受託する業務の内容を明確にすること
業務委託の受託側で、クレームをつけられる可能性が高い場面として、「依頼した仕事をしてくれていない」と言われて、代金を支払ってもらえない場面があげられる。そもそも、どの範囲の業務を委託したのかという点について、契約書上で明確になっていないため、委託側と受託側の間に、認識のずれが生じることがあるのだ。
代金を支払ってくれなかったため、やむをえず、裁判になった場合、具体的にどのような仕事を完成させたということは、自社側で立証しなければならない。
そのためにも、あらかじめ契約書で、自社が行うべき業務内容を出来る限り特定しておくべきである。
具体的には、業務委託契約書のサンプル雛形では第1条にあたる部分だ。
1.甲は、乙に対して、以下に定める業務(以下「本業務」という)を委託し、乙はこれを受託する。
(1)甲が指定する商品のPR活動
委託側からすると、より具体的に「1ヶ月に一回」「東京でイベントを行う」というような具体的な業務内容を記載した方が良い。
1.甲は、乙に対して、以下に定める業務(以下「本業務」という)を委託し、乙はこれを受託する。
(中略)
(3)前各号に定める業務に付随する業務
付随する細かな業務について列挙しきれない場合には、「前各号に定める業務に付随する業務」のような条項を入れておくのが良いだろう。
(中略)
(4)その他、甲乙間で別途合意した業務
契約当初には想定していなかった業務を追加したい場合に備えて「その他、甲乙間で別途合意した業務」のような条項を入れておくと良いだろう。
業務委託契約終了後のやりとりを明確にしておくこと
業務委託の委託側ともめて契約が解除された場合等に問題となるのが、受託した業務の後始末である。業務の引き継ぎであったり、資料の返還等が契約で定められていると、契約解除後も相手方から様々な請求をされるおそれがある。
なお、これは相手方と円満に契約終了となった場合でも、問題となりうるところである。
そのため、業務委託契約が終わる際にどのような義務を負わされることになるのかも注意しておくのがよい。
具体的には、業務委託契約書のサンプル雛形では第8条にあたる部分である。
(中略)
2.期間満了により、本契約が終了する場合には、甲乙協議のうえ、本業務に関する清算業務を行う。
期間満了により、円満に終了した場合のみ清算業務を行うという内容にしている。委託業務の内容により適宜修正をするとよい。
業務委託契約書の委託側のチェックポイント
ベンチャー企業でも、取引先と業務委託契約書を結んで業務を委託する場合もあるだろう。続いて、業務委託を委託する側になった場合の、チェックポイントとして特に紛争となりがちなポイントを挙げていこう。
委託する業務の内容を明確にすること
業務委託の委託側になった場合でも、仕事の内容が明確になっていることは大事である。受託側の章で述べたが、逆の立場で委託する場合には、業務委託契約書で仕事の内容が明確になっていないと、相手方の業務遂行が不十分だとして是正を求めるのは困難だろう。
業務委託契約期間の途中での契約解消を可能にしておくこと
上記のとおり、出来る限り委託する業務の内容を明確にしても、委託業務の成果物が明確に定めることが出来ないような契約の場合(例えば、PR活動をしてもらうような場合)、受託側の業務遂行の質が悪いというような問題が生じる場合がある。このとき明確な契約の不履行がないため、契約を解消するのが困難な場合がある。
このような場合、受託側の業務に不満を持ちながらも、契約期間の満了まで委託料の支払を強いられるおそれがある。そこで、契約期間中であっても、契約を解消出来る内容を以下のように盛り込んでおくべきである。
(中略)
3.甲は、第1項の規定に関わらず、2ヶ月前までに乙に対して書面により通知することにより、本契約を解約することが出来る。
なお、契約期間中に業務委託契約を解消するというのは相手方にとって大きな不利益となる可能性がある。また、相手方との業務委託関係が長期に及んでいる場合等には、契約書に上記のような中途解約の記載があっても、契約の解消が制限される場合もある。
そのため、業務委託契約を解消する場合には、事前に弁護士に相談するのがよいだろう。
その他の業務委託契約書のチェックポイント
再委託の禁止
乙は、甲に事前に通知することなしに、本業務の全部または一部を第三者(以下「再委託先」という)に再委託してはならない。
委託側は通常、受託側のみで委託業務を遂行してもらうことを期待しているため、このような条項が入るのが一般的である。もっとも、業務の内容によっては、そもそも再委託が想定されている場合もあるので、その場合には適宜修正する必要がある。
秘密保持契約(NDA)
(中略)
1.乙は、本業務の履行過程において甲より受領するあらゆる情報を秘密情報として厳にその機密を保持し、本業務遂行の目的のみに使用する。
別途秘密保持契約(NDA)を締結する場合には、業務委託契約書には無くても問題はない。秘密保持について事細かに決めておきたい場合も、秘密保持の取決めを、別途秘密保持契約書にわけて締結するのがよいだろう。
なお、通常、委託側が秘密情報を受託側に開示するので、受託側だけに秘密保持義務を課すケースが多い。
契約の解除
1.甲または乙は、他の当事者が次の各号の1つに該当したときは、催告なしに直ちに、本契約の全部または一部を解除することが出来る
(1)本契約に違反し、相当の期間を定めて相手方に対して、その是正を求めたにも関わらず、相手方がその違反を是正しないとき
(2)相手方の信用、名誉または相互の信頼関係を傷つける行為をしたとき
(3)破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、その他倒産手続開始の申立があったとき
(4)差押え、仮差押え、仮処分、競売の申立、租税滞納処分その他これに準ずる手続があったとき
(5)支払停止もしくは支払不能に陥ったとき、または、手形または小切手が不渡りとなり、手形交換所より銀行取引停止処分を受けたとき
(6)合併、解散、清算、事業の全部もしくはその他重要な事業の一部を第三者へ譲渡し、またはしようとしたとき
(7)その他前各号に類する事情が存するとき
受託側の場合は、軽微な契約違反で、直ちに契約が解除されてしまうのは好ましくないことから、1項のように「相当の期間を定めて相手方に対して、その是正を求めたにも関わらず、相手方がその違反を是正しないとき」などのような内容を盛り込むのが一般的である。
反社会的勢力との取引排除
1.甲及び乙は、次に定める事項を表明し、保証する。
(1)自己及び自己の役員・株主(以下「関係者」という)が、暴力団、暴力団関係企業もしくはこれらに準ずる者又はその構成員(以下総称して「反社会的勢力」といいます)でないこと
(2)自己及び自己の関係者が、反社会的勢力を利用しないこと
(3)自己及び自己の関係者が、反社会的勢力に資金等の提供、便宜の供給等、反社会的勢力の維持運営に協力又は関与しないこと
(4)自己及び自己の関係者が、反社会的勢力と関係を有しないこと
(5)自己が自ら又は第三者を利用して、相手方に対し、暴力的行為、詐術、脅迫的言辞を用いず、相手方の名誉や信用を毀損せず、また、相手方の業務を妨害しないこと
各地方自治体で定められている暴力団排除条例等で要請されている内容を盛り込んでおこう。
業務委託契約書作成のポイントのまとめ
これまで述べてきたように、業務委託契約書は、委託側、あるいは受託側の観点から自社が不利にならないように、それぞれでチェックすべきポイントが異なる。
今回参考にした業務委託契約書のひな形は、「ビズ商事株式会社」が自社商品のPR活動を「ベンチャー株式会社」に委託した場合を想定して作成したシンプルな業務委託契約書の書式だ。よって、委託する業務の内容により、ひな形の書式をかなり修正する必要があるが、基本的なポイントを網羅した業務委託契約書のひな型として活用していただければ幸いである。
(監修:田中尚幸 弁護士)
(編集:創業手帳編集部)
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