ラクーンホールディングス 小方功|企業間取引の新しいインフラ創造者!企業活動を効率化し便利にするための改革

創業手帳
※このインタビュー内容は2023年07月に行われた取材時点のものです。

より良い日本社会の構築へ。20年以上前から持続可能な社会の実現を目指すプロフェッショナルの提言


古くからアパレル業界をはじめとするメーカーや小売業を悩ませてきた在庫問題。さらに新型コロナウイルスの影響で、生産時や発注時に見込んでいた販売ができずに大量の在庫を抱えるケースが多発し、大きな課題として取り上げられてきました。

こうした在庫問題に苦しむメーカー・小売店の救世主として、長年高い評価を得ているのがラクーンホールディングスです。

同社はEC事業・決済事業・保証事業を展開し、メーカーと事業者が利用する卸・仕入れサイト「スーパーデリバリー」、請求業務の手間と未回収リスクをゼロにする企業間の後払い決済サービス「Paid(ペイド)」、ネット完結型の売掛保証「URIHO(ウリホ)」などのサービスを提供しています。

今回は代表取締役社長を務める小方さんの起業までの経緯をはじめ、ラクーンホールディングスの成功の秘訣や事業運営の心構えについて、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。

小方 功(おがた いさお)
株式会社ラクーンホールディングス 代表取締役社長
1963年札幌生まれ。北海道大学卒業後、パシフィックコンサルタンツ株式会社に入社。独立準備のために29歳で会社を辞め、1年間中国に留学。帰国後、お金・人脈・経験もないところから100万円でラクーン創業。大赤字や倒産の危機を何度か切り抜け、02年には主力事業となるメーカーと小売店が利用する卸・仕入れサイト「スーパーデリバリー」をスタート。06年にマザーズ上場、16年に東証一部(現:東証プライム)に上場。現在は企業間取引を効率化するためのサービス「スーパーデリバリー」「SD export」「COREC」「Paid」「URIHO」「家賃債務保証」を提供している。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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起業家に不可欠な「知のファスティング」を経て、学生時代から目指した起業を実現

大久保:小方さんは北海道札幌市生まれで、北海道大学工学部のご出身と伺っています。もともと起業家を目指していたのでしょうか?

小方:学生時代から「将来的に起業したい」と考えていて、一番最初に経営者への憧れを抱いたのは中学生の頃でした。母方の親戚に4人兄弟がいて、そのうち2人が経営者。彼らから良い影響を受けたことが大きな理由です。

大久保:「経営者になりたい」という夢を抱かせてくださる素晴らしい方々だったんですね。

小方:まさにおっしゃる通りで、私にとって叔父にあたる彼らはいつも面白くて気前がよく、人生を快活に生きている“憧れの大人”でした。

経営者2人と公務員2人という対象的な兄弟で、事業を営んでいる叔父たちのほうが年上にもかかわらず若く見えることも印象に残っています。

大久保:叔父様方のおかげで、先々の目標を持ちながら学生時代を過ごされたんですね。大学ご卒業後、すぐに起業されたのではなく、まずは企業に属してキャリア構築されたそうですね。

小方:1988年に設計コンサルタント会社のパシフィックコンサルタンツに入社し、都市計画のエンジニアとして4年半経験を積みました。1992年に退社し、1年間中国へ留学しています。

大久保:起業前に留学された理由についてお聞かせください。

小方本格的に起業の準備を進めたかったからです。

なにしろサラリーマン時代は多忙すぎて、毎日夜遅くまで仕事をするのが当たり前で、土曜日も出社する生活を送っていました。事業を始めたくてもなにも準備ができず、「起業とはどういうものか?」すらもわからない状態だったんです。

しかも交友関係が広かったので毎日友人から電話がかかってきたり、親戚との付き合いもありました。それで「このままでは駄目だ。とにかく一度日本を離れよう」と海外留学を決めました。

大久保:なぜ中国を選んだのでしょうか?

小方:私の場合は慌ただしさから解放されて考える時間が必要でしたので、「なるべくゆっくりできる国はどこだろう?」と模索した結果です。当時の中国には「緩やかな時の流れに身を置いてアイデアを巡らすことができそうだ」というイメージがあったんですね。

渡航前の想像以上に、中国留学は私に貴重な経験をもたらしてくれました。その後の人生を大きく変えてくれた恩師とも呼べる人物との出会いや、あえてあらゆる情報のインプットを断ち切る重要性にも気づくことができたんです。

大久保:確かに現代人、特に起業家や独立を目指す方々は交流やインターネットへの接触が当然となってしまっていて、情報過多な毎日を過ごしていますよね。

小方:24時間食べ続けていると内臓に過度な負担をかけてしまうように、オンライン・オフライン問わず情報インプットも同様なんですよ。常にスマホに触れ、雑誌を買い、新聞を読み、セミナーに行き、人の話を聞いていたら、自ら考える力すら失ってしまいます。

ファスティングは意図的に空腹時間をつくって内臓をしっかりと休ませることで、内臓機能を高めて免疫力をアップさせたり、細胞の壊死を食い止めるので老化を遅くする効果を発揮しますよね。

同じように、ひたすらインプットばかり続けている習慣を一度バサッと断ち切るんです。ずっと遮断してしまうと無知なだけの人間になってしまうので、1週間のうち1日というようにね。

そうすると自分自身で考えながら行動する力が養われるようになります。世の中や市場全体を見極めながら仮説を立て、ひとつずつ地道に実践しながらさらに分析を行い精度を高めていくという、起業家にとって不可欠な能力が鍛えられるんです。

あえて名前をつけるなら「知のファスティング」ですね。

大久保:素晴らしいですね。ぜひ起業家の方々に取り入れていただきたいです。その後、中国留学を経て起業されたんですよね。

小方:はい。帰国後の1993年9月にラクーントレイドサービスを創業し、健康食品や雑貨の輸入事業を始めました。

1995年9月に有限会社ラクーントレイドサービスを設立し、1996年5月には株式会社に組織変更して社名をラクーンに改めています。持ち株会社体制へ移行したのは2018年11月で、同時にラクーンホールディングスに社名変更しました。

アパレル業界をはじめとする在庫問題を解決する「スーパーデリバリー」の成功

大久保:御社は現在、EC事業・決済事業・保証事業でそれぞれサービスを展開されていらっしゃいますよね。事業が大きく軌道に乗ったのはいつ頃だったのでしょうか?

小方:アパレル・雑貨を中心とするメーカーと、小売店や飲食店・美容室などの事業者が利用する卸・仕入れサイトの「スーパーデリバリー」が市場へ浸透した時期です。

大久保:当初は貿易商としてスタートされ、その当時のご経験が「スーパーデリバリー」の事業アイデア創出につながっていると伺っています。詳しくお聞かせください。

小方:貿易商は中間流通業と非常によく似ていて、メーカーの製品を小売業に販売する役割を担います。このとき「なんとかしなければならない」と痛感したのが、生産したものの売れずに廃棄する製品が想像以上に多いということでした。

なかでも最も難しく、「もったいないことをしている」と驚いたのがアパレルです。

アパレル製品は性別・サイズ・色・季節・流行の5つのファクターが絡んでくるのですが、このうちのわずかでも見込みが外れただけで玉突き衝突を起こすかのように在庫の山となってしまいます。

そしてこうした状況が長年、業界内で悩ましい問題となっている一方で、最初から売れ残る前提で値段を付けているんです。具体的な課題の解決策がなかなか見つからないため、倍額近くの値付けが当然となっている業界なんですね。

私はもともと理系ですので、調査・分析・仮説構築は得意分野です。さらに私自身、健康食品の輸入事業で大量の在庫を抱えて非常に苦労しました。

身をもって経験しているからこそ、なおさらこの問題に直面した瞬間、「課題を解決できるサービスを提供したい」と本腰を入れるようになりました。

大久保:そこから「スーパーデリバリー」のローンチにつながったんですね。

小方:実際にサイト開設までは悪戦苦闘の連続で、大変なことだらけでしたけれどね(笑)。

まず当事者たちの現状を正確に把握したかったので、メーカーの本音を伺ったところ「なるべく在庫を持たないために、小売店に予約してもらってその分だけ生産したい」とのこと。一方の小売店はというと「売れるかどうかわからない製品を在庫として持ちたくないので、豊富な在庫を持つメーカーからひとつずつ買えるようにしたい」。

どちらも「自分の言い分を実現したい!」という状態なんですよ(笑)。でも、これはある意味ものすごいヒントだなと。

アパレル業界は10兆円産業です。にもかかわらず、全体最適について考えている人が見当たらない。「都市計画のエンジニアだった私の出番だ!」と確信しました。

大久保:なるほど、小方さんが新しい設計図を作成されたんですね。

小方:その通りです。「製品を廃棄処分しないためにはどうしたらいいか?みんなが幸せになれる方法はないか?」と朝から晩まで悩み続けながら試行錯誤した結果、誕生したのが「スーパーデリバリー」でした。

「スーパーデリバリー」はメーカーと小売店や事業者の直接取引を実現しただけでなく、メーカーに代わって代金回収まで行っています。メーカー側は与信管理の手間が省け、代金未回収のリスクを回避できるため、これまで接点のなかった地方の中小企業をはじめとする幅広い小売店・事業者との取引が可能になりました。

都市計画のエンジニアとして抱いた公共事業への疑問が現在の価値観を醸成

大久保:近年サスティナブルやSDGsが盛んに提唱されていますが、小方さんは20年以上も前から在庫・廃棄問題に取り組んでこられたことに感服しています。ようやく時代が御社の事業や小方さんご自身の価値観に追いついたといえますね。

小方:ありがとうございます。私の価値観は、実はサラリーマン時代の経験が影響しています。都市計画のエンジニアとして、自然を大量破壊しながら必要以上のダムや空港などのインフラ施設を建設する国の方針に対し、当時大きな疑問を感じていました。

もちろんインフラ施設は重要ですが、不必要に、まして森林などを伐採してまで建てるのでは本末転倒です。

公共事業は政治家と大手ゼネコンの思惑や利益が優先されがちで、当然のことながら多額の税金も投入されています。その結果、美しい自然を失い、古くから愛されてきた景観を台無しにする施設ができあがるという悪循環でした。

大久保:当時のご経験を通して、いち早く“持続可能な社会”の実現への意識が高まったんですね。

小方:はい、「きちんとした知識をもっと正しい方向に使いたい」「世の中の役に立つ仕事がしたい」という想いが強くなりました。「自分の持っている力で、困っている人たちを助けることができないだろうか?」というのが創業時からの私の理念です。

そしてこうした理念が真ん中にないと、優秀な若い人材は集まりません。「高い金を払うぞ!」と大声で呼びかけても、2番目に優秀な人しか来ないんですね。「私たちは世のため、人のためにがんばっているよ!」と訴えかけないと、1番優秀な人は見向きもしないと実感しています。

大久保:「スーパーデリバリー」はある意味、究極の“THE商流”というイメージもありますが、サービスが発展すればするほど世の中をより良くしたり社会貢献につながるというのが素晴らしいですね。小方さんのお話を伺っていると、あらためて「儲け優先」という在り方では日本経済や社会は成長するどころか停滞が続くのではないかと感じます。

小方:おっしゃる通り、市場の流行に乗ってボリュームやパワーだけで儲かっているような方向性では、いつまで経っても日本全体を覆っている閉塞感はなくならないでしょうね。

私は個人的に、もっと一人ひとりが自分の人生に自信を持って暮らしたり、気の合った仲間とユニークな事業を起こして楽しむような生き方をする人が増えたほうが良くなっていくのではないかなと思っています。

日本は欧米の先進諸国と比較すると、いまだに「大卒のホワイトカラーは優秀」という固定観念が強すぎる傾向がありますよね。そろそろ本気で「優秀の定義」を変えるべきではないでしょうか。

大卒のホワイトカラーと同じように、たとえば漁師や農家、料理人や大工、それから歌が上手な人やスポーツが得意な人も、誰もがみんな優秀だと認められ、潤沢な稼ぎを得ながら伸び伸びと幸せに生きられる社会を構築していくべきです。もっと産業のバリエーションを横に広げていったほうがいいと思いますね。

起業家に願う「誰かの役に立つ仕事」や「世の中に必要とされる事業」の継続

大久保:最後に、起業家に向けてメッセージをいただけますか。

小方:昔は「良い大学を出ていたり、一流企業所属の人間は信用がおける」という価値観が存在しましたが、昨今ではなくなりつつあります。

私が常に感じているのは、起業家はどんなに儲かっていようが有名になろうが、多くの方々に「正しい」と思ってもらえる事業を行っていなければ人として幸せにはなれないということです。

だからこそ、その「正しさ」を必ずど真ん中に置く。この信念がぶれなければ自然と市場や世間が応援してくれますので、強い意志とともに実践し続けることが大切だと思っています。

昭和の時代には「月曜から金曜まで働き、週末に寄付をしに施設に足を運ぶ」という経営者がたくさんいました。でもそうではなく、ソーシャルアントレプレナーとして事業そのもので社会問題を解決することが重要ではないかなと。

ぜひ起業家の皆さんには「誰かの役に立つ仕事をしよう」「世の中に必要とされる事業を続けよう」と邁進していただけたらと願っています。私自身もさらなる研鑽に励み、社会の発展に貢献していきたいです。

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(取材協力: 株式会社ラクーンホールディングス 代表取締役社長 小方 功
(編集: 創業手帳編集部)



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