住信SBIネット銀行 円山 法昭|金融業界で「日本初」を生み出し続ける秘訣とは
大手銀行を飛び出して、新しいサービスを生み出し続ける
歴史のある大手銀行に所属し、2000年問題やバブル崩壊を乗り越えたにも関わらず、新しいサービスを生み出すことにチャレンジするために、ソフトバンクグループにジョイン。
2001年5月に日本初のモーゲージ(※1)バンクである「SBIモーゲージ」を創業、その後も、モーゲージブローカー、カードビジネス、完全オンラインファイナンスビジネスなど、次々と日本初となるサービスを生み出し続けているのが、住信SBIネット銀行の円山さんです。
そこで今回は、円山さんのこれまでの経歴や、日本初・世界初のサービスを次々と生み出すための秘訣について、創業手帳の大久保が聞きました。
※1:モーゲージ・・・不動産を担保にしたローン
住信SBIネット銀行株式会社 代表取締役社長(CEO)
1965年福井県生まれ。89年神戸大学卒業。東海銀行(現三菱UFJ銀行)を経て、2000年にイー・ローン(現SBIホールディングス)入社。SBIモーゲージ(現アルヒ)代表取締役社長執行役員CEO等を経て、14年4月より現職。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
東海銀行(現三菱UFJ銀行)を経てネットビジネスを立ち上げ
大久保:これまでのご経緯を教えていただけますか?
円山:平成元年、バブルの絶頂期に東海銀行に入社しました。
在籍期間は約11年間で、中小企業・ベンチャー企業の融資、それらの企業の代表との取引など、一通り経験してきました。
1998年に企画部に異動し、世界中の最先端の銀行について研究するプロジェクトに参加し、様々なビジネスモデルに触れました。
当時、西暦2000年になるとコンピュータが誤作動する可能性があると問題になった「2000年問題(以下、Y2K)」というものがあったかと思いますが、業務中にY2Kに影響がありそうなシステムを偶然見つけたことから、Y2Kへの対応を担当した経験もあります。
それが解決したころには、バブル崩壊後の銀行再編が起こっている時で、新しいことを始める雰囲気ではありませんでした。
大久保:その時期は大変でしたよね。
円山:非常に大変でしたが得たものも大きかったと思っています。ITを学び、世界中の最先端のビジネスモデルに触れてきた私としては、今すぐインターネットビジネスをやるべきだと確信を持っていたため、このタイミングでソフトバンクにジョインし、イー・ローンを立ち上げたのです。
当時のアメリカでは、モーゲージバンクが存在していましたが、日本には法律すら存在していなかったため、まずは広告業として立ち上げ、金融の比較サイトをアフィリエイトで実施する日本初の会社を誕生させました。
その後、外資系の金融機関にアイディアを受けながら、2001年5月に日本初のモーゲージバンクである「SBIモーゲージ」を創業しました。並行して、モーゲージブローカー、カードビジネス、完全オンラインファイナンスビジネスなど、4〜5社ほど日本初のビジネスを立ち上げてきました。
このように「日本初」、できれば「世界初」のビジネスを立ち上げたくてソフトバンクグループにジョインしたのですが、それは今でもできていると思っています。
周囲からの反対はあったが、大手銀行から当時無名のSBIへの転職に迷いはなかった
大久保:当時、大手銀行の地位は高かったと思います。逆にソフトバンク・ファイナンス(株)(現SBIホールディングス(株))はそこまで大きくなかったと思いますが、歴史のある銀行を離れる際に迷いはありませんでしたか?
円山:当時、営業企画部に所属していたのですが、企画部門から退職者が出るというのは東海銀行史上なかったようで、もちろん多くの上司や先輩から「勿体無い!」と引き留められました。ITがやりたいなら大手の通信会社を紹介する、とも。
私は、テクノロジーには興味がありますが、ただIT企業で働きたいのではなく、新しい事業を作りたい気持ちが強かったのです。
そのため「チャレンジできる環境があるか」が私にとっては大事でした。
そして、その先には「経営者になりたい」と考えていました。
そのため、ソフトバンクグループには「入社する」感覚ではなく、新規事業の立ち上げができるから「ジョインする」という意識で入りました。
入社3年後には独立して起業する予定でしたが、社内起業でやりたいことができる環境だったため、今でもSBIに残り、引き続き新規事業の立ち上げに携わっています。
反対されるビジネスこそ成功した時の価値が大きい
大久保:社内で新しい事業を提案する際には、反対意見が大半、ということも多いのではないでしょうか?
円山:おっしゃる通りです。
これまで日本初のサービスをたくさん立ち上げてきましたが、まさにそこがポイントで、みんなが「良いね」と賛同するものは上手くいかず、逆に「絶対できるわけがない」「うまくいくわけがない」と言われるものは成功するという確信があります。
この確信は、自身のいくつもの成功体験に基づいています。
銀行員時代にも似たような経験があり、今までの担当者が獲得できなかったお客さまに違うアプローチをとって獲得したら、それがブレイクスルーとなり、まるでヒーローのようでした。
つまり、みんなが不可能だと思うことを成功させた時ほど、価値が大きくなるのです。
逆にみんなが良いと思うことは、同じことをやろうとする人が多くいるため、レッドオーシャンになります。
ルールや規制があるからこそビジネスチャンスがある
大久保:私は起業前に金融業界にいたことがあり、サービスを作るにも金融庁の許可を取るのが大変だと思った経験があるのですが、そのあたりはどのように乗り越えられていますか?
円山:私はむしろ逆ですね。金融業界に対する当局の規制が厳しいからこそ、新しいビジネスを行うのに都合が良いと考えています。
ビジネスは様々な制約条件がある中で、いかに成功させるかというゲームです。ルールが厳しいと、ゲームのプレーヤーも減っていきます。でもそのルールに則って賢くやれば、成功する確率は格段に高まります。
逆にルールがないと、喧嘩と同じで、どこから敵が来るかわからない、どんな攻め方をしてくるかもわからない、という状況になってしまうため、やりにくいのです。
つまり、規制があるところにこそ、ビジネスチャンスがあると考えていて、他社と差別化することもできるということです。
大久保:その考え方は全く新しいですね。
円山:法律が厳しいということは、社会的に重要な産業だということです。
つまり、絶対に潰れてはいけない業界ということなので、国民や社会、お客さまにとって良いことをするのであれば、当局も背中を押してくれることが多いです。
大久保:規制で厳しいのは、他社に対しても同じで、競争率が低いように思えますね。
円山:「テクノロジーと公正の精神で、豊かさが循環する社会を創っていく」というのが当社のコーポレートスローガンです。
我々銀行は、正しいことをしなければいけません。
お客さま、投資家、取引先、そして従業員にとって、全てにおいてフェアで正しいことをしていきます。
このコーポレートスローガンは、私の人生観そのものです。
「ジョイントベンチャー」を立ち上げるメリットとデメリット
大久保:複数のジョイントベンチャー(※2)を立ち上げた経験があるとお聞きしました。ジョイントベンチャーは複雑なイメージがあるのですが、いかがでしたか?
円山:本当に色々な苦労がありますし、自分で会社を立ち上げた方が正直言って楽だと思います。
しかし、もちろん良いこともあります。
ステークホルダーが複数いるため、合理的で正しいことをしなければ賛成されず進めることが出来ません。
逆に、正しいことであれば、両者が納得する落としどころを作ることができます。
大久保:利害関係者が複数いるからこそ、間違ったことは議論した際に淘汰されてしまいます。そのため、結果的に合理的な判断が残りやすいということですね。
円山:その議論が入ってしまうためスピード感はどうしても鈍くなってしまいますが、市場から評価されやすい傾向にあるのも良い点ですね。
※2:ジョイントベンチャー・・・複数の企業がお互いに出資して会社を立ち上げて、新しい事業を行うこと
今後の金融業界は「テクノロジー」をベースとした新しい流れが強まる
大久保:金融の動きで注目している所はありますか?
円山:SBIに来てからは「テクノロジー」が全てだと思っています。
まずは、人口動態を含め、社会全体がどう変化していくかを見ています。
とはいえ、産業発展の歴史は技術革新なので、テクノロジーがどうインパクトを与えるか、という点にフォーカスしています。
時流に乗っていること、インターネットを活用することは、ベースとして当たり前なので、今はブロックチェーン(※3)のテクノロジーをベースとした、新しいビジネスモデルには注目しています。
AIも良いのですが、ツールとして良いのであって、AIだけでのビジネスは成り立ちません。
これからの銀行を成功に導くために5つのキーとなるテクノロジーは、①クラウド、②モバイル、③オープンAPI、④AI、⑤ブロックチェーン、というのを今は考えています。
※3:ブロックチェーン・・・取引履歴を暗号技術を使って鎖(チェーン)のように連結させて、正確な取引履歴を維持するための仕組み
現代では情報開示をすることが「信用獲得」に大きく影響する
大久保:金融は信用や与信と密接に関わっていると思いますが、起業家も信用が重要だと思っています。そのあたりでお考えがあれば、お聞かせいただけますか?
円山:銀行の立場としては、信用というのはその人の実績です。
そのため、ある程度のトラックレコードが必要となります。
具体的には、事業を立ち上げて、継続して何年やってきたか、売り上げや利益はどう伸びているかという点になります。
これまでの銀行融資、特に事業性融資は、お客さまに融資してよいか信用力を確認するために、代表者と面談したり、複数期分の決算書をもらったりして、実績を確認してきました。
しかしながら、低金利が続いている中では、少額・小規模の融資というのはビジネスとして成り立たなくなってしまう。
創業間もない会社に融資がしづらい理由はそこにあります。
大久保:であれば、今後はどうなる流れでしょうか?
円山:それを解決するのが、我々が提供しているオンラインレンディング(※4)、「事業性融資dayta」の仕組みです。
日々の入出金含めた取引履歴がデジタル上で確認できれば、書類の準備や面談の必要がなく最短当日の借入を可能とします。
ところが、お客さまが様々な銀行を使われていて、取引データがバラバラに存在している場合は、実績が少ないと判断し、融資額も小さくなる上、金利も高くなってしまいます。
全てのデータを開示することが信用に繋がるとは、そういうことなのです。
実績があります、と言葉で言うだけではなく、数字として見せることが大事です。
私自身、本当にピンチになった時は、信頼関係がないと助けてもらえないことを学んだため、今では定期的に関係する方々とコンタクトを取って、実績を報告するようにしています。
実績報告は特に、私から積極的に情報開示して信頼獲得に努めています。
大久保:情報開示することで、逆に何か言われるかもしれないと、怖い部分があると思いますが、積極的に行っていくことが大事なのですね。
円山:当然結果は出さなければいけませんが、この人はやると言ったことはやってくれる人だ、と信頼してくれるようになります。
これは、事前に言っておくことがとても大事で、「有言実行」が信頼につながります。
大久保:たまたまのホームランではなく、予告ホームランを狙っていくということですね。
※4:オンラインレンディング・・・従来の対面での面談や書類の提出を必要とせず、データ分析の結果を元に条件を算出し、オンラインで融資手続きを完結させる金融サービス
「3日、3週間、3ヶ月、3年」
大久保:起業すると、リーマンショックなど不可抗力な出来事などはあると思います。そういった時の対応方法や考え方があれば、教えていただけますでしょうか?
円山:打ち手を決めて、即行動することが重要になってきます。「問題が起きたときの現状」と「数ヶ月以内に起きること」を一瞬で把握することが大事です。
これが少しでも遅れると、対処できなくなるということを、何度か経験しました。
守るにしても、攻めるにしても、スピードが大事になってきます。
大久保:具体的に行っている考え方の工夫はありますでしょうか?
円山:私は昔から「3日、3週間、3ヶ月、3年」という決め事をしています。
転職しようが、新しい事業を始めようが、3日で仕事内容を把握する。
3週間経ったら会社の代表になるくらい、全部を把握する。
そして、3ヶ月経ったら、会社を完璧に変える。
さらに3年経ったら業界のトップになる。
このくらいのスピード感を、逆算してやっていかないと、勝てないと思っています。
大久保:3ヶ月もすると、新興勢力に負けてしまいますよね。
データとテクノロジーの変化を捉え、ぜひ起業へのチャレンジを
大久保:今後、金融業界に起きる変化や、起業家や経営者への影響について教えてください。
円山:銀行はこれからデータビジネスになっていき、テクノロジービジネスに近づいていくと考えているため、データの活用で勝ち残らないと、銀行は生きていけなくなります。そのため、データの質と量が重要になります。
一方、起業家・経営者側としては、現状、資金調達や支払い業務に追われているところが多く、それらをデジタル化することで、いつでもファイナンスを受けられる状況を作っておくべきだと思います。多少、金利が高いかもしれませんが、ビジネスを成長させることが重要だと考えています。
そして、ある程度会社としても人員が揃ってくれば、最も条件の良い銀行を選べば良いのです。
大久保:最後に、起業家に向けてのメッセージをいただいてもよろしいでしょうか?
円山:起業とは大変勇気が必要なことだと思います。
ですが、それがなければ、日本が発展していかないため、ぜひチャレンジしてほしいと思いますし、世の中を変えるビジネスを立ち上げてください。
起業することで雇用が生まれるという大きな意味もあります。
そして上手くいったら、2つ、3つとどんどん挑戦してもらい、後継者も作ってほしいと思います。
私も負けないように頑張りたいと思います。
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