Beatrust 原 邦雄/久米 雅人|人材可視化エンジンでイノベーションを促進
人材の可視化で「個」が活躍する組織へ。日本企業のイノベーション体質への変化をサポート。
社内に埋もれている社員の才能やスキルを可視化するサービスを提供するBeatrust。
大企業の多くは、業務が細分化され過ぎていて社員同士のスキルの掛け合わせや化学反応が起きにくく、イノベーションの足かせになっています。
この課題を解決するBeatrustの人材可視化エンジンを活用することで実現できる、優秀な「個」を伸ばせる組織作りや、イノベーションの導き方について、創業手帳代表の大久保が聞きました。
Beatrust株式会社 Co-Founder & CEO
住友商事や初期のソフトバンク及びシリコングラフィックスに参画。二度の創業を経て、直近では日本マイクロソフト、及びグーグル日本法人で執行役員を歴任した後、2020 年 Beatrust を共同創業。
Beatrust株式会社 Co-Founder
アサツー ディ・ケイを経て、2011 年よりグーグル日本法人に入社。デジタルマーケティングの実行支援及びスタートアップ投資やパートナーシップ業務を担当後、2020 年 Beatrust を共同創業。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。
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この記事の目次
グーグルを経て、Beatrustを共同創業
大久保:まずはお2人の自己紹介をお願いします。
原:2020年3月に久米とともにBeatrustを共同創業しました。
私のバックグラウンドとしては、まずは住友商事からキャリアをスタートしました。次に創業初期(上場前)のソフトバンクに入社して、そこからはずっとITキャリアを進んでいます。
拠点をアメリカに移したのは1996年で、シリコンバレーにあるシリコングラフィックスというコンピュータのハードウェア企業に転職しました。そこから10年間はいわゆるネットバブル時代をシリコンバレーで過ごしました。
最初の起業として、2000年にシリコンバレーでコンサル会社を立ち上げて、シリコンバレーにあるスタートアップ企業のグローバル化支援を6年ほど行っていました。
2006年には日本に帰国して、アフィリエイトマーケティングを日本でいち早く行うベンチャー企業を立ち上げて、この会社は最終的に日本のメディア企業に事業譲渡できました。
その後、2009年にマイクロソフトの日本法人に移って任されたのが、広告営業とオンラインサービスの日本の責任者です。
そして、2012年にグーグルと出会い、2020年3月までの約7年半をグーグルで過ごしました。前半の5年は広告営業本部長として日本企業のデジタルマーケティングを推進しておりまして、後半の2年半は、スタートアップ支援、オリンピック、大企業向けのイノベーション支援等の戦略的プロジェクトを担っておりました。特に大企業向けのイノベーション支援業務が今回の起業に直結する経験となりました。
久米:私は2006年に大学を卒業して、アサツー ディ・ケイという広告代理店に5年ほど勤務して、2011年3月にグーグル日本法人に入りました。グーグルでの前半は日本企業に向けたデジタルマーケティングの実行支援を行って、最後の2年半は原と同じチームで、スタートアップ支援やアクセラレータープログラムの運営などを行いました。
イノベーションが起こせる環境作りをサポート
大久保:お2人で起業した背景を教えて頂けますか?
原:グーグルで久米と同じチームで働いていた時に、日本の大企業幹部の方々とお話した際に「シリコンバレーの大手IT企業の皆さんは大きな組織なのにも関わらず、スタートアップ企業のように、次々とイノベーションや新しいアイディアが出てくるように見えるのはなぜか?」と何度も尋ねられました。
このようなご質問に対しては、当時出版されてよく知られるようになっていたグーグル流のコミュニケーションや目標設定に関するノウハウをお伝えしていたのですが、「大変勉強になりましたが、御社のような環境があればこその話であって、私たちには到底真似できないような気がします。」という反応が多かったんです。
そこから考えていくうちに、日本の大企業は、イノベーションが起こせないのではなく、イノベーションを起こす環境を整えていくことが重要なのではないかという仮説を立てました。
特に外資IT企業では、様々なデジタルインフラを活用し、切磋琢磨できる風土や環境作りが進められています。
このようなデジタルインフラの提供を通じて、日本の大企業がイノベーションを起こせる環境作りに貢献できるのではないかと思い、Beatrustを創業しました。
大久保:大手外資IT企業のようにイノベーションを起こしやすい環境を、どの会社でも作れるようにするために起業したということでしょうか?
原:特に今の日本の大企業には「人材の可視化エンジン」が必要だと思っています。例えば、社内で良いアイディアを思いついた社員がいても、それを社内の誰と壁打ちしたら良いのかがすぐにわからないと、イノベーションのタネは広がっていきません。
しかし、外資系の大手IT企業では、社員のスキルや経験を検索できるシステムを自社で構築しており、良いアイディアを思いついた社員は、すぐに検索して、その分野に詳しい社員に相談できるような環境が作られている会社も多くあります。
そうしたIT企業ではイノベーションを起こす環境作りとして、「多様な人材による自律的な協業」を進めているところが多くあります。トップダウンではなく、社員同士が自律的に協業するために、そうしたデジタルインフラが活用されているのです。
そこでBeatrustでは、この人材の可視化エンジンを日本企業に提供し、イノベーションを起こす環境作りをサポートするサービスを提供しています。
Beatrustの人材可視化エンジンのメリット
大久保:Beatrustのサービスを導入すると、企業としてはどのようなメリットがありますか?
原:特に最初に導入いただくケースで多いのが、1つ目は研究開発組織、2つ目が営業組織、3つ目が新規事業開発組織です。
大きくこの3つのカテゴリーの部門の皆様にメリットを感じていただくケースが増えてきています。
例えばそのひとつである研究開発領域での導入事例をご紹介すると、日本の研究開発本部では、専門性が多岐にわたるため、細分化されています。
イノベーションには異なる専門分野のコラボレーション、さらにはコラボレーションのためには頻繁なコミュニケーションが必要ですが、昨今の社会情勢もあり、リモートでの作業が増え、コミュニケーションが取りづらいのも事実です。
結果的にイノベーションのための化学反応が起きにくくなります。こうした状況を打破するために、現在いくつかの企業では研究開発部門を起点にして導入していただくことも多くなっています。
大久保:埋もれている社員のスキルや才能を可視化し、イノベーションのための科学反応を起こしやすい環境を作ることが、Beatrustを導入する企業にとってのメリットになりますか?
久米:Beatrustの人材可視化エンジンを導入するメリットは3つあります。
1つ目のメリットは、社内での人材探しを効率化できることです。
Beatrustのサービスを導入した企業に対して実施したアンケートによると、今までは社内で特定のスキルや専門知識を持った人材を探すのに1〜2週間かかっていたのが、Beatrustを導入した結果30秒で見つかったという事例もあります。
2つ目のメリットは、社内の社員同士をマッチングできることです。何か専門知識やスキルが必要になった際に、外注せずとも社内で的確な人材を見つけ、マッチングが可能になります。
3つ目のメリットとして、業務を細分化しすぎた結果、希薄化していた社員同士の横の繋がりを増やして、新しい関係性ができたと評価を頂いています。
イノベーションを起こすには「個」を伸ばす必要がある
大久保:かつて日本企業が世界の最先端だった時代もありますが、それが衰退した理由は何だと思いますか?
原:その当時の日本企業では、新卒採用から終身雇用までが主流で、これは当時の組織論としては良い部分もありました。しかし、時代の変化が早くなり「個人単位で変化に対応しながら動いていく必要性が増した時代」に突入した現代においては、徐々に今までの組織論では対応できなくなってしまいました。
今、イノベーションを起こしている企業では、優れた個のスキルを伸ばして、組織を成長させるのが主流の考え方になっています。個を伸ばすことで、企業としてもイノベーションが生まれやすくなりますし、社員の満足度やより良いアウトプットに繋がっています。
日本の企業にも優秀な社員は大勢いますが、その個性をより伸ばせる環境を作っていくことで、企業そのものの成長にも繋がっていくのではないでしょうか。
またコロナ禍で密なコミュニケーションが取りにくくなり、若い人材ほど先が見通せなくなり、退職する傾向が強まっているというのも耳にします。
個のスキルが生かせる組織になり、それが組織の成長に繋がれば、退職者も減り、企業の更なる成長にも繋がります。それをBeatrustのツールで解決したいと思います。
大久保:日本でもMBAを取得して成長した社員ほど、今の組織に満足できなくなり、やめていく現実についてご意見頂けませんか?
久米:少し前の時代だと、優秀で尖っている社員が組織内で浮いた存在になることもありましたが、今は優秀な社員ほど新規事業を任されるなど、個を中心に組織を組み立てる必要性が増していると思います。
この優秀な社員が活躍できる環境作りが今の経営者には求められていると感じます。
Beatrustが日本企業にもたらす変化
大久保:企業がBeatrustのサービスを活用することで、社員の生産性が上がったり、イノベーションが起きやすい環境作りに繋がるのですね。その結果、社員の待遇が改善したり報酬が上がるなど、社員にとってのメリットはありますか?
原:今後は組織を跨いだ、プロジェクト単位での働き方がさらに増えてくると思います。どこか1つだけの組織に属しているのではなく、色々な組織の、色々なプロジェクトに参加する人が徐々に増えてきています。
その時に、マルチな働き方をする人材が、活躍できる組織やスキルや経験を生かせるプロジェクトを可視化できるサービスはまだないので、Beatrustは将来的に組織を跨いだ人材の可視化エンジンを目指しています。
これが実現すれば、社員の働き方もより多様になり、働き手の満足度や収入の向上にも繋がると思います。これを目指して、まずは既存のお客様から様々なフィードバックをいただきながら、ブラッシュアップを繰り返しています。
大久保:Beatrustのサービスは、大企業特有の「非効率な組織体制」の改善にも効果がありますか?
原:多くの大企業で人的資本経営を掲げていますが、これを実現するためには、まず自社の社員のことをよく知る必要があります。
しかし、組織が大きくなればなるほど、才能が埋もれやすくなり、社員のスキルや強みを把握することが難しくなる傾向にあります。
さらに日本の大企業には、グループ会社や海外拠点を含めると、本社以外にもかなりの数の拠点があり、社員の才能を把握するのがより困難になっています。
多くの大企業では役職定年制度を導入していますが、人材の可視化が進むと、ベテラン社員のスキルや経験を生かせる場所が増えたり、一緒に働く若手社員もそのスキルや経験に助けられるケースも多々見られると思います。
やる気溢れる若手社員や経験豊富なベテラン社員、さらにはグループ会社や海外拠点など、組織全体の人材の可視化を進めることで、より効率的な組織体制に変化していくことも可能だと思います。
大久保:Beatrustのシステムは社内で生まれたイノベーションのアイディアを膨らませる際にも活用できますか?
原:すでに多くの企業では、社内で各社員の役職が公開されています。面談依頼を申請すれば、誰でも面談を受けられる仕組みはありますが、まだ活発的な活用が進んでいないということを聞きます。
たとえばグーグルには「20%ルール」という有名なルールがあります。それは社員の勤務時間の20%は、すぐに見返りがなくても将来的に大きなチャンスになり得るプロジェクトの探索や取り組みに使えるというルールです。
今の自分の役割では発揮できないスキルやアイディアでも、20%ルール内で他のプロジェクトに参加することで生かせることも多々あります。
Beatrustのシステムを活用することで、より自由な風土を形成したいと思った際にどの企業でも取り入れやすくなり、小さなアイディアからイノベーションが起きやすくなる環境に繋がると思います。
Beatrustが進める「タレントコラボレーション」とは?
大久保:Beatrustのサービスを広めるのに苦労した点はありますか?
原:現状、多くの企業が導入しているビジネスツールは、チャットツールや人事管理業務ツールが中心で、Beatrustが提供する部門を越えたタレントコラボレーション(※)に特化したツールは、今後より求められていく新しい分野であると考えています。
※タレントコラボレーション:Beatrustの造語で、分散した人材情報・コラボレーションのためのスキル・経験・経歴を構造化し、協業を促進させること
そのため、Beatrustのサービスを企業に提案をする時に、話をすべき担当部署もわからず、この分野にクライアントがお金を払うのかもわからなかったので、最初は苦労しました。
大久保:現状ある人材マネジメントサービスとは違うってことですよね?
久米:Beatrustはあくまでも「従業員向けのツール」ということを徹底しています。
既存の多くのタレントマネジメントツールはマネージャーや人事部門による社員管理を効率化するツールとなっていてそれ自体は素晴らしいのですが、特にBeatrustでは社員のスキルや経験を自分の業務のために可視化して、自らの仕事に生かしてもらうということを重要視しています。
社員を管理や分析するのではなく、社員同士の才能のコラボレーションを促進するためのツールを目指したいと考えています。
シニア起業にはデジタルツールへの対応が必要
大久保:50〜60代で今後起業する方に向けてアドバイスなど頂けませんか?
原:シニア起業をする方にとって、体力や気力を維持し続けることももちろん必要ですが、何より最先端のデジタルツールを使いこなすことに抵抗を持たないということが必要だと思います。
年齢はあまり気にせず、最新のビジネストレンドやデジタルツールにも対応しつつ、自分の経験や人脈を生かすことを考えると良いかもしれませんね。
今の60代の方々はまだまだ元気なので、やり残したことや今後やってみたいことがある方も多いと思います。
ただし、それを1人で進めるのは大変だと思うので、思いに共感してくれる若い人を巻き込んで起業するシニア起業家が増えていくのかもしれませんね。
(取材協力:
Beatrust株式会社 Co-Founder & CEO 原 邦雄/Co-Founder 久米 雅人)
(編集: 創業手帳編集部)