税務調査におけるAI活用とは?事業者が取るべき対策を解説

税務調査におけるAI活用が本格稼働


AIは調査対象を絞り込むための分析手段の1つであり、AIだけで税務調査が自動的に決まるわけではありません。
そのため、税務調査を避ける方法を探すのではなく、税務調査が来ても説明できる状態にしておくことがポイントです。

国税庁では2021年度から税務調査にAIを活用しており、年々その精度も上がってきました。
さらに2026年9月には基幹システムとして「KSK2(次世代国税総合管理システム)」を本格的に導入することも発表されています。
税務調査でどのような影響を与えるのか、調査選定で何かしらの傾向から判断されるようになるのかなど、不安に感じている人もいるでしょう。

ここでは、税務調査においてのAI活用が持つ意味に加えて、事業者が取るべき対策についても解説します。

AI活用の影響?所得税の追徴税額は過去最多を記録


国税庁は2021年度から税務調査でAIの導入を本格的に開始しています。
効率的な調査を目的としていますが、2024年6月までの1年間で申告漏れ所得金額の総額および追徴課税額が過去最高を記録したことがわかっています。
2024年6月までの1年間で所得税の申告漏れによる指摘後、追徴課税となった額は全国で1,398億円となり、過去最多の額になりました。

このような結果から、AI導入によって審査基準が変わったのではないかと考えるかもしれません。
しかし、実際には調査先の選定でAIを活用したことで効率化が図れたという結論に至っています。
過去の申告漏れなどのデータを学習させたことで、申告漏れの可能性が高い納税者がある程度判定できていると考えられます。

税務署はどのようにAIを活用する?


税務行政のDX化を推進している国税庁では、2026年9月から基幹システム「KSK2(次世代国税総合管理システム)」に全面移行すると計画しています。
今後どのようにAI活用を進めていくのでしょうか。

申告データの分析・異常値の検出

現在国税庁が活用している「KSK」システムは、確定申告などの金融情報を中心として総合的な判断を取ります。

異常値を発見後、問題があった場合のみ調査先に選定する方法を採っていました。
しかし、今後「KSK2」への移行により、政府の共通インフラとなる「GSS」や税目横断の情報を統合すると、個人と法人の関連情報一元化により調査制度が高まります。
このような環境では、従業員の経費処理時に誤った申請などを行ってもAIで検知されるかもしれません。

金額の大きさに関係なく、経理処理時のミスでも申告データの異常値を検出することも可能です。

リスクスコアの判定

AIにおいて、リスクスコアの判定は(現在は相続税の調査選定などで)過去の調査から申告漏れが生じている情報や内容から、申告が起こりやすい傾向を分析して判定します。
AIのリスクスコアは「0」から「1」の間を細かく分け、スコア付けされたデータを管轄の国税局などに一度戻し、税務職員がスコア付けされた申告書データから分析を行って税務調査の必要性について検討します。
過去の調査で申告漏れについて把握し、法定調書のような情報がある財産はAIリスクも高くなるので注意してください。

調査対象の選定

これまで、税務関係の調査対象は申告漏れなどの可能性が高い人物が中心でした。
2025年の日経新聞では、相続税の税務調査において人工知能を活用すること、申告書や財産状況が把握できる資料をAIで分析し、申告漏れの可能性が高い部分から調査対象者を選定するとしています。

AIによって税務調査の対象になりやすいケース


税務署では申告した人すべてを目視で確認しているわけではありませんでした。しかし、AIの導入によって効率的に税務調査対象を決められるようになりました。
そこで、気になるのが「税務調査の対象」に関する疑問です。AIが普及したことで、税務調査の対象者は増えるのか解説します。

売上や利益率が同業他社と比べて不自然

国税庁のAIは、それぞれの業種による平均的な数値を学習しています。
例えば、同業他社と比較して利益率が著しく低い、あるいは経費率が極端に高いなど、業種の相場から大きくかけ離れた申告は、異常値として判断されやすくなります。

目安となる利益率や経費率は業種によって異なるため、自身の数値が同業種の一般的な水準から外れていないか確認しておくことが大切です。
特に、経費率が同業種の平均と比べて著しく高い場合は、架空の経費計上が疑われる可能性もあります。

電子決済と現金決済の比率がいつもと異なっている

国税庁では、AIにすべてを任せるのではなく、各業界で漏れやミスが多くなりがちな項目をチェックして学習させています。
例えば飲食店や小売業では、現金売上の計上漏れやキャッシュレス化に伴って電子決済に関係するデータもチェックしています。
同じ業種内で、平均的な電子決済と現金決済の比率が通常の割合から離れている場合、統計的な異常値としてピックアップされる可能性が高く、さらに平均値との比較によって不自然な申告が浮き彫りになりやすいです。

経費計上でミスをしている

国税庁のAIは、平均的な経費率についても学習済みです。
経費は、事業に対して関連性があるか、業種で必要な経費額で問題はないか、継続的な経費として発生しているかなどで判断されます。
また、「なぜこれを経費に含めたのか」などの質問に対してきちんと説明できない場合は、厳しい判断を迫られる可能性があるので注意してください。

SNSやブログなどの情報から矛盾が発覚した

国税庁のAIはただ学習しているのではなく、統計的な乖離が起こっていないかを探す際にも活躍しています。
まれに会社の経費として「交際費」や「旅費交通費」などの勘定科目で私的な支出を含めるケースがありますが、これらも税務職員が調査を行ったことで嘘が発覚するケースがあります。
SNSやブログの内容を参照することで、SNSで家族旅行の写真を複数枚投稿しているが、同じ日程で会社の経費を使って宿泊費などを計上していた場合は架空の経費であることが確認することが可能です。

消費税や副業などを申告し忘れている

消費税や副業などの費用を申告していない場合も税務調査の対象になりやすいです。
本来であれば、本業の他に副業をしている場合はそこで得た収入に関しても申告が必要になります。

会社員の場合、会社側が原則として年末調整を行うので各自確定申告は必要ありませんが、副業の場合は一定の利益を超えると申告が必要です。

不動産収入、YouTube運用、メルカリなどで収入を得ている場合は、プラットフォーム事業者から支払調書が提出されています。
収入があるはずなのに申告に反映されていないというパターンはAIが認識しやすくなっています。

AIを取り入れた税務調査に備えるための対策


AIを取り入れている税務調査に引っかかってしまった場合、調査までにどのような備えや対策を講じるべきでしょうか。

帳簿・証憑管理を徹底する

次世代国税総合管理システムが本格的に稼働し始めると、アクセスできる情報量が多くなるので全体的な精度も高まります。
また、これまでとは異なった視点からも申告内容を確認するケースがあるので、企業や個人事業主にとっては不安に感じやすいかもしれません。

そのために意識したいのは、帳簿や証憑管理を徹底することです。調査官が直接システムにアクセスできるため、事業者側にもその場で説明できるかが求められます。
領収書、請求書などは迅速に確認できるようにし、適切な申告がされているかを再確認すると安心です。

デジタル化を推進させ、管理体制を構築する

次世代国税総合管理システムになることで、紙で提出された情報についてもすべてデジタル化され、データとして残る仕組みに変わります。
事業者には、今まで以上にデジタル化への対応が求められます。
しかし、申告する時だけでなく日頃からクラウド会計システムの利用、請求書などのデータ管理について体制を整えておくと体制が整いやすいです。

特に税務調査では、「なぜこの金額になっているのか」などの質問に対して、根拠がわかるようにすれば問題ありません。
必要な時に確認できる管理体制を構築することを意識してください。

AIの指摘にも反論できる根拠を用意する

調査が入った時に、何かを指摘されても必要以上に恐れる心配はありません。
AIが判断した統計はあくまで平均的な数値などであり、必ずその事情に該当するとは限らないためです。

データ上では異常値に見えても、その時期に起こったことなどで一時的に数値が変動する可能性があり、これらの事情に対して理論的な説明を行うことで反論できます。
このような指摘を受けた場合でも、根拠を用意しておくと安心です。

税理士に相談し、チェック体制を整える

税務調査を安心して乗り切るには、事前に税理士に相談してチェック体制を整えるのもおすすめです。
税のスペシャリストなので、税目が適正かどうかに加え、申告に対するアドバイスももらえる場合があります。
事前に税金に対する適正な環境に整えておくことも、税務調査で指摘を受けないための1つの方法です。

個人事業主・副業者と法人で見られやすいポイントは異なる


AIを活用した税務調査では、過去の申告状況などから不自然な点や申告漏れの可能性があると指摘されますが、個人事業主や副業者、法人で内容が異なります。
法人では、役員関連費用や交際費、外注費、人件費、在庫や売上計上時期など、会社特有の処理が重点的に確認される傾向です。

一方、個人事業主や副業者の場合は、売上の申告漏れや経費の私的利用、消費税の申告漏れなどです。
ここでは、それぞれの区分と確認内容などを説明します。

区分 指摘の可能性がある項目 確認したい内容
法人 役員関連費 過大役員給与になっていないか、個人支出などが適切に処理されているか
交際費 取引先との会食、贈与品などが業務に伴っているか
外注費・人件費 給与との区分、源泉徴収、請求書や契約書の保存に問題点がないか
消費税 仕入税額控除、インボイス、課税売上などに問題がないか
在庫・売上計上時期 売上時期の相違、計上漏れがないか
個人事業主・副業者 売上の申告漏れ 副業、ネット販売、配信収入、アフィリエイト収入などが正しく申告しているか
売上除外 現金、電子決済、振込での入金、ECサイト経由の売上を反映しているか
経費の私的利用 家賃、通信費、交際費、車両費など事業と私的な部分を分けているか
消費税の申告漏れ 課税事業者であるものの消費税を正しく申告しているか

個人事業主と副業者はプライベートの支出と事業経費が混ざりやすいため、経費計上の理由を明確に説明できるようにしておく必要があります。
法人の場合も、会社の資金と役員個人のお金を明確に区別しなくてはなりません。

AIによる分析が進めば、これまでの申告内容や同業他社との比較を通して、不自然な増減や申告漏れなどが見つかりやすくなると考えられます。
そのため、個人事業主や副業者、法人は日頃から帳簿と証憑を整理し、申告内容について説明できる状態にしておくことが大切です。

税務調査対策として経理業務にAIを活用する方法


経理業務にAIを活用した場合、どのような作業において変化が起こるのでしょうか。ここで、経理業務にAIを活用する方法について解説します。

領収書・請求書などの自動読み取り

スキャンで紙の情報を読み込めるAI-OCRは領収書や請求書の文字認識ができます。
その精度は95%~99%以上と高く、領収書や請求書の撮影だけで入力完了となり、一つひとつ手で入力する手間がかかりません。

自動仕訳

これまで紙で受け取っていた請求書などは、発注書などと合っているか照合してから他の業務に回すなど、その場で完結することがありませんでした。
AIの活用により、請求書の読み取りで発注書を自動でマッチさせてくれたり、帳票類や仕訳データなども自動で分類や抽出ができたりします。

財務レポートの自動作成

帳簿のデータ、取引履歴など様々なデータを集計し、損益計算書や賃借対照表、キャッシュフローなども自動生成できます。
リアルタイムでのレポートも共有できるので、財務関連の業務を大幅に軽減できるのがポイントです。

エラーの検出・修正対応

人間の目で確認することも大切ですが、それでも手作業でチェックしたことがきっかけで見逃してしまうケースもあります。
取引の重複、金額の入力ミスなどもAIによって検知可能になっています。
過去の学習データを元に通常と異なる仕訳金額を表示して通知する機能もあり、ここで修正点も簡単に完了できるのです。

AIを安全に活用するためのコツ


AIはとても便利である一方で、正しく使うにはいくつか注意したい部分もあります。ここでは、安全に活用できるコツについて解説します。

生成AIに個人情報・企業の機密情報を入力しない

AIに仕事を任せる際には、個人情報の取扱いにも注意してください。
そもそもAIの仕組みは、入力情報を元にサーバーで処理した結果を返すものなので、基本的にはサービスを提供する会社のサーバーを経由します。
そこに個人情報、企業機密、顧客情報などをそのまま入力してしまうと、意図せず外部流出の可能性もあります。
社外秘のデータ、社員の独自判断での使用などはリスクが高いので注意してください。

ハルシネーションに注意する

生成AIのハルシネーションには最大限の注意が必要です。
ハルシネーションは、もっともらしい嘘を意味する言葉であり、ChatGPTなどの生成AIでは事実ではない不正確な情報を本物のように生成することがあります。
AIは完全に正しいのではなく、サポートであることを忘れずにいなければなりません。
特に税制は複雑なため、AIの回答を鵜呑みにするのではなく、最終的な確認や判断は自分で行うことが大切です。

まとめ・税務調査対策から経理業務の効率化までAIを活用しよう

税務調査におけるAI活用が本格的になったことで、AIのパターンに合わない場合は税務調査を受ける可能性が高くなります。
税務調査を受けた場合の対策やAIとの付き合い方について、再確認の必要があるでしょう。
AIが様々な場面で導入されたことで利便性が高まる部分もあれば、注意する部分も増えてきました。
AIについての特徴を知っておくことでデメリットを感じにくく、上手に活用できます。

このような税務調査や必要な対策、ポイントなどは、創業手帳(冊子版)で知ることもできます。個人事業主や企業で税務調査について知りたい場合は、ぜひ参考にしてください。

(編集:創業手帳編集部)