ボンディッシュ 上形 秀一郎|5年で45拠点へ急成長!「キッチンレス社食」から世界一のケータリングを目指す、常識破りの事業ピボット

※このインタビュー内容は2026年10月に行われた取材時点のものです。

5年で5.6倍に急成長。「贅沢品」だった社員食堂を誰もが使えるサービスへ

ボンディッシュ上形氏
キッチンレス社食、法人向けケータリングをはじめ、スポーツ施設のVIPルームやキャラクターカフェの運営など、食を通じて人と人のつながりを生み出す多様な場をプロデュースしているボンディッシュ株式会社。社員食堂や社内カフェを”企業理念を浸透させる場所・空間”として再定義し、週1日から初期費用ゼロで社食を導入できる「週イチ社食」プランを2026年6月から展開しています。運営拠点数は、21年の8拠点から現在45拠点へと「5年で5.6倍」に。代表取締役社長である上形さんに、コロナ禍前後の事業のピボットや、止まらない物価高に対応する「食の福利厚生」へのニーズなどについて伺いました。

ボンディッシュ上形氏
上形 秀一郎(かみがた しゅういちろう)
ボンディッシュ株式会社 代表取締役社長

明治大学商学部に在学中、飲食店向けの販売促進支援事業で起業。「トーマツ イノベーション株式会社(現:株式会社ラーニングエージェンシー)」に入社し、事業部長を歴任。拠点立ち上げ・新規事業立ち上げ・営業組織責任者・セミナー講師・ベンチャー支援などを経験。「有限責任監査法人トーマツ」で、トーマツベンチャーサポート兼横浜事務所コンサルティングチームに在籍。地方拠点におけるコンサルチームの立ち上げ・地方上場企業の発掘・株式公開支援・人事コンサルティング・ベンチャー支援などを経験。SaaSの提供を通じて、店舗DXを促進するスタートアップ企業で取締役副社長を歴任。2018年7月、”食でココロつなげるセカイをつくる”フードコミュニケーションカンパニー「株式会社ノンピ」の取締役副社長に就任。その後、同社の代表取締役社長に就任。2026年1月、社名を「ボンディッシュ株式会社」へ刷新。”食のプラットフォーム企業”として、海外進出を視野に入れた新たな事業を展開。

フィロソフィーは組織の「法律」。ロジカルな意思決定で組織を動かす

ーボンディッシュ株式会社の事業内容について改めて教えてください。

上形:社員食堂やケータリングなど、法人向けに食の提供をしています。もともとレストランを運営しており、近くにあったグローバルIT企業のオフィスでケータリングの依頼を受けたことをきっかけに、オフィスでの食を通したコミュニケーションの重要性を感じ、現在の事業をスタートさせました。

また、キャラクターカフェやVIPルームなどのプロデュースと運営もしています。

ー上形様ご自身のこれまでのキャリアについてもお聞かせください。学生時代の起業から、コンサルティング、ベンチャー企業、そして「食」の事業へと進まれた経緯を教えてください。

上形:大学在学中に、飲食店でアルバイトをしていたのですが、当時は集客の方法が「ホットペッパー(飲食店の検索・予約サイト)」ぐらいしかなかったんです。他のやり方もあると考えたことと、飲食店が非常に好きだったので、在学中に飲食店支援のビジネスを立ち上げ、卒業後も続けていました。ただ、このまま続けていてもグロースは難しいと考え、一度組織の中で経験を積むためにトーマツグループに入社し、コンサルティングや新規事業の立ち上げなどを経験しました。30歳になるタイミングで、もう一度挑戦したいという思いからグルメメディアのスタートアップの立ち上げを経験。その後、個人でエンジェル投資をやっていたご縁で、出資先のひとつである株式会社ノンピ(現ボンディッシュ株式会社)に取締役副社長として就任しました。

ケータリングとコントラクトという非常に市場規模が大きい領域ながら、グローバルでなかなかプレゼンスが発揮できていないという点に着目し、このマーケットで挑戦していこうと考えました。その後、代表取締役社長に就任し、今に至ります。

ー様々な業界や立場を経験される中で、最終的に「食」の領域に大きな可能性を感じた理由は何だったのでしょうか。

上形:常々、自分自身が幸せだと感じられることを仕事にしたいと思っていたことがひとつですね。仲間や家族と食卓を囲む価値というのは、いくらAIやソフトウェアが進化しようが変わらないですし、同じ視点で産業としての食もなくならないと感じています。また、グローバルに見て日本食にはものすごいポテンシャルがあるということがもうひとつの理由です。

ー2018年に株式会社ノンピの取締役副社長に就任し、その後社長に就任されています。創業者ではない立場で経営を担うにあたり、どのような思いで会社と向き合ってこられたのでしょうか。

上形:やはり、創業者が持つある種の引力は強いと思っています。創業者が右と言えば右に行く、というような世界観ですね。それが自分にはない分、「なぜこちらに進むのか」という説明をしっかりすることを心がけています。ロジカルに説明するためには前提条件が大切になってくるので、会社としての前提条件を整理して、理念やビジョン、行動指針をしっかりと定め、それらに基づいてあらゆる意思決定をするようにしています。

秦の始皇帝として偉大な人物になる「政」の成長とその過程を描いた漫画『キングダム』でも、王政から法治国家に変わっていくところがありますが、国家にとっての法律と同じように、会社のフィロソフィー(大切にする価値や信念、考え方)をしっかりと定め、それに沿って意思決定していくことが大切だと考えています。

コロナ禍の危機とピボット。初期費用ゼロの「キッチンレス社食」で急成長を掴むまで

ー社員食堂やケータリングは、コロナ禍によって大きな影響を受けた事業だと思います。当時、会社としてはどのような状況にあり、どのような危機感を持たれていましたか。

上形:私自身、法人営業が得意なこともあって、コロナ禍の前はある程度ケータリングと社員食堂で伸びていくイメージは持てていました。私が出資したタイミングでは、実は債務超過の状態だったので、外からエクイティファイナンスで資金を集め、資産に厚みを持たせて債務超過を解消し、IPOして株主にリターンを渡すというストーリーを考えていたんですね。

2020年の2月末がそのシリーズAの着金で、その後すぐに緊急事態宣言が発表されました。資金調達をしたばかりだったので、選択肢としては2つありました。このまま事態が収束するのを待つか、新しい食事の形を作ることに挑戦するかの2つです。考えた末に後者を選択し、法人向けにオンライン飲み会に特化したフードデリバリーサービスを立ち上げました。これがけっこうヒットして、順調に売上も伸びていたんですが、どのぐらいオンライン飲み会のブームが続くのかという予測が難しく、ニーズに応えていくために物流システムに投資したところで、ブームが下火になってきてしまって。コロナが収束するタイミングでは残念ながら厳しい状況でしたね。

ーそのような環境の中で、事業をどのように見直し、現在の「キッチンレス社食」など新たなサービスへとつなげていったのでしょうか。転換のきっかけとなった出来事や意思決定を教えてください。

上形:実はコロナ前にBtoBの領域で社員食堂サービスを立ち上げていたんです。「おいしい一皿で絆をつなぐ」というのが我々のコンセプトなので、コロナ禍のオンライン飲み会のデリバリーサービスに関しても「オンラインでも食事しながらコミュニケーションを取りましょう」というメッセージをこめたもので、コロナの収束に合わせて既に立ち上げていた社員食堂事業に徐々に力を入れていきました。

ー週1日から、初期費用ゼロで導入できるという柔軟な仕組みは、従来の社員食堂の常識を変えるものだと感じます。こうしたサービス設計は、企業のどのような課題やニーズから生まれたのでしょうか。

上形:最初は普通の社員食堂だったんです。ただ、本格的な厨房設備を備えた社員食堂をオフィス内に設けるには、規模によって数千万円から数億円の投資が必要になるため、金銭面で難しいというお客様が多くいらっしゃいました。それなら、きちんとした食堂ではなくても、人が集まってコミュニケーションが取れて、美味しくて健康的な食事が出せないか?と思い、そこからキッチンがなくても食堂ができるような仕組みを作っていきました。

ボンディッシュ

キッチンが現地にないことで難しかったのは、どうしても料理が完成してから召し上がっていただくまでの時間がかかることです。やはり温かいものは温かく、冷たいものは冷たく提供することが美味しさの基本だと思っていますので、本当に美味しい状態で食事を提供するために、調理の仕方や運び方、現地での温度管理の方法はかなり試行錯誤して、最適と思われる方法を取っています。

ー2021年の8拠点から現在45拠点へと拡大されています。急成長を実現できた要因を、経営者としてどのように分析されていますか。

上形:例えば自分の父親が若い頃は、オフィスにクーラーがあるというのは珍しいことで、一部の儲かっている会社だけだったらしいんです。でも今や無い会社なんて考えられませんよね。その話のように、我々の成長は、かつての贅沢品が一般的なものになってきたプロセスに近いと思っています。

もともと本質的なニーズはあった「会社に社員食堂やカフェがある」という“贅沢品”を、あらゆる人に手に取ってもらえるような形に変えていったのが、急成長を実現できた要因だったと考えています。

採用・定着・理念浸透に。物価高時代に効く「食の福利厚生」

ーリモートワークの普及を経て、「なぜ会社に出社するのか」という問いそのものが変わってきています。現在、社員食堂や社内カフェにはどのような価値が求められているとお考えですか。

上形:会社の経営者に求められている役割は、最近どんどん増えていると思うんです。昔は利益を出して株主に還元し、雇用を創出して税金を払うことでした。今はそれに加えて、社員の健康問題や幸福度、地球環境まで気にしないといけないというのがグローバルスタンダードになっていますよね。そういった経営者や会社に求められている役割を果たすためのアウトプットの場所として、社員食堂は最適だと思っているんです。例えば社員食堂などから出るコーヒーかすや食品残渣を堆肥として活用し、栽培されたサスティナブルなお米や野菜を再び当社の運営する社員食堂で食事として提供しています。また、社員食堂で健康的な食事を提供することで、会社が社員の健康を意識しているというメッセージにもなります。「WELL認証(※)」を取る企業も多いですね。

※WELL認証:建物やオフィス空間が「そこで過ごす人の健康やウェルビーイング(心身の健康と幸福な状態)」にどれだけ貢献しているかを評価・認証する国際的な制度

ボンディッシュ

コロナ禍が落ち着いた2026年現在、組織の生産性を上げるには、社員が出社をしてお互いにコミュニケーションを取ることが重要という流れになっています。その上で、社員が出社したくなる福利厚生として、社員食堂や社内カフェの価値は高いと思います。Z世代の就活トレンドでも、福利厚生が整っているかどうかはかなりシビアに見られているところなので、食に関する職場環境を整えたいという声は企業の方からもよく聞きますね。

ー単に食事を提供するだけでなく、「企業理念を浸透させる場所・空間」として社食やカフェを再定義されています。この考えに至った背景と、実際にどのような場づくりを目指しているのか教えてください。

上形:おいしいものを囲むことで気持ちがほぐれ、会話が前向きになったり、コミュニケーションが生まれやすくなったりします。だからこそ、社員食堂でおいしい食事を囲みながら企業のメッセージや理念を伝えることで、社員にもより前向きに受け止めてもらいやすくなると考えています。

つまり社員食堂で美味しいご飯が出ている時に、企業メッセージや会社からの理念を発信すると、柔軟に受け止めてもらえる傾向があることはお客様ともよく話していて、食を介して自然と人が集まり、コミュニケーションを取る場づくりというのはずっと追求し続けている部分ですね。

ボンディッシュ

ー物価高や働き方の多様化が進む中、企業にとって「食の福利厚生」は今後どのように変化していくと考えていますか。

上形:今後、どんどん手厚くなっていくのは間違いないと思っています。近年は物価高の影響で、手取りを増やす政策が選挙の争点になっているぐらい注目されているトピックですが、例えばランチ補助なども、社員の可処分所得を実質的に増やすことにつながるので社員にとってはうれしい福利厚生ですよね。

現状、食の福利厚生については外資系企業が圧倒的に手厚いので、日本企業が今後そういった企業と人材獲得競争をしていく上で注力すべき部分ではないかと考えています。

ーコロナ禍を経て大きく事業を変化させ、さらに拠点数も急速に増やしていく中で、組織づくりではどのようなことを大切にしてきましたか。

上形:「売上は全てを癒す」という有名な言葉がありますが、会社の規模を拡大し、その過程で様々な選択肢を取るためにも、会社の業績を伸ばしていくことにプライオリティを置き、その手段として人事制度や組織づくりに力を入れてきました。

「Mission(使命)」「Vision(目指す姿)」「Value(価値観・行動指針)」の3つはしっかりと定め、特にバリューと人事評価はつながるようにしていて、バリューをしっかり実行していれば個々の成果が上がり、会社の売上が伸びていくような設計にしています。半期に一度、MVP表彰もしていますが、実は経営メッセージの伝達手段としても有効だと思っています。というのは、例えば営業の会社だったら一番営業成績が良かった社員にMVPを贈ると、「会社は売上を上げる人を評価します」というメッセージになりますよね。うちの会社の場合は、新しい価値を作っていくことと、全員が営業利益にこだわっていこうというプロフィット経営の2つをテーマにしています。

新しい価値作りでお手本になるようなアクションを起こした人と、利益ベースの貢献度が高かった人、そういう仕組みを作った人をMVPとして表彰することで、該当者を賞賛しつつ、この2つが会社にとって大事だというメッセージを全社に伝えています。

「食のプラットフォーム」で世界へ。挑戦を支えるエクイティファイナンス活用術

ー上形様は新規事業の立ち上げや営業組織の責任者、ベンチャー支援など幅広い経験をされています。これまでの経験の中で、現在の経営に最も生きているものは何でしょうか。

上形:スキル面ですと、法人営業の経験が資金調達や銀行との交渉などでも生きてくるので、BtoBの営業は本当にやっておいてよかったなと思いますね。

また、トーマツ時代に幹部の方と関わる機会を多くいただいたのですが、食事の席などでも「資本主義社会の中で、企業経営を通して日本を豊かにしていく」という話が頻繁に出ることに驚きました。当時、私は仕事とはお金を稼ぐことだと思っていたので、民間企業で働きつつも、真剣に日本経済のことを考えている方々がいることで視座が高まり、自分自身もスキルや趣味のベクトルを生かしつつ、日本の発展に貢献していきたいと考えるようになりました。

ー2026年には社名を「ボンディッシュ株式会社」へ刷新され、「食のプラットフォーム企業」として新たな展開を掲げています。どのような思いを込めて社名変更をされたのでしょうか。

上形:社名というのはマーケティングツールとしても組織作りのツールとしても、非常に重要だと思っています。お客様や従業員、投資家などのステークホルダーにとって、何をしたい会社なのかというメッセージが伝わるものでありたいという思いがありました。

「絆を作る一皿」という意味で「ボンド」と「ディッシュ」を組み合わせて「ボンディッシュ」という社名で、我々が目指したい世界観を表現しています。

ー今後、国内だけでなく海外進出も視野に入れているとのことですが、ボンディッシュ株式会社を将来的にどのような会社へ成長させていきたいとお考えですか。

上形:コントラクト業界で日本一、ケータリングにおいては世界一を目指すということをビジョンに掲げています。コントラクト業界で我々が取り組んでいるところですと、例えば赤字経営が多い病院の給食ですとか、周囲に飲食店が少なくなってきている地方の工場の給食ですとか、東京の物価高によるランチ難民ですとか、様々な社会課題があります。課題というのは裏返せばニーズでもあるので、そういった課題に真剣に向き合い、我々のフィロソフィーを大切にしながら事業を拡大していきたいと考えています。

ケータリングにおいては、もともと発祥の地である欧米と違って日本国内だとまだ産業として定義されていない現状があるので、まずはケータリング業界をきちんと整備して、その先に和食という素晴らしい日本の財産を武器にしてグローバルに挑戦していけるような会社にしていきたいと思っています。

ー最後に、事業環境が大きく変化する中で新たな挑戦や事業転換を考えている経営者・起業家に向けて、これまでのご経験から伝えたいことをお願いします。

上形:創業間もない会社において資金調達を考える際に、銀行からの借り入れだけではなくて、株式を使ったエクイティファイナンスをうまく使っていくことをおすすめしたいです。我々も、実はもう借り入れができないような状態で新しいことを始めるためにエクイティファイナンスを利用した資金調達を行ってきました。やはり財務の厚みがないと新しいことに挑戦することは難しいと思っています。

最近は日本のスタートアップの出口戦略において、かつての「IPO一辺倒」の時代が終わり、M&AがIPOの件数を大幅に上回っています。個人のエンジェル投資家も増えていますし、出口もM&Aで間口が広がってきているので、これから事業を大きくしたい、挑戦したいと考えている経営者の方々は、株を交えた資金調達を選択肢のひとつとして検討するのも良いと思います。

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