スタディスト 鈴木悟史|マニュアル作成ソフトやクラウド点検システムで業務効率化に貢献
周囲の反応を見て柔軟に事業内容をシフトさせることも時には重要

業務効率化のためのマニュアル作成・共有システム「Teachme Biz(ティーチミービズ)」を中心に、企業の生産性向上を実現するプロダクトやサービスを提供する株式会社スタディスト。「Teachme Biz」はクラウド上で誰でも簡単にマニュアルを作成・共有・管理できるサービスで、現在、人手不足が深刻な製造・小売・飲食業界などを中心に導入が進み、国内外での導入企業は2,300社超。マニュアル導入を通じ、企業全体の業務効率や生産性の向上に大きく寄与しています。
2025年10月には、製造業や飲食業などで使われている「点検表」のデジタル化事業に参入し、クラウド型チェックリストシステム「iCheckup!(アイ チェックアップ)」をローンチしました。マニュアル作成システムの提供を決めた理由や、新規事業に乗り出すきっかけなどについて、同社の社長である鈴木さんに伺いました。
株式会社スタディスト 代表取締役
明治大学大学院卒。株式会社インクス(現SOLIZE Holdings株式会社)にて、3DCADの機能仕様検討業務や設計システムの開発に従事し、製品開発プロセス改革のプロジェクトリーダーを歴任。その後、同社パートナー職を経て、2010年2月インクスを退社。同年3月に株式会社スタディストを設立。
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この記事の目次
作成しても使われないマニュアルに感じていた課題
鈴木:新卒で株式会社インクス(※)という会社に入り、製造業のお客様向けに業務改善のコンサルタントをしていました。お客様のところに常駐し、課題を抽出して解決するためのシステムを開発し、納品するということを10年間やっていたんです。2次元の設計が当たり前だった中、3DのCADがどんどん市場に入ってきた時代で、どのように3DのCADを使って設計するのがベストなのかを模索しながらシステムを開発し、パワーポイントやワード、エクセルでマニュアルを作って納品していました。
※金型製造や3D設計で事業を展開。現在は社名をSOLIZE Holdingsに変更
マニュアルの作成は必ず最後にしなければならない仕事で、当時は毎回大量のマニュアルを印刷して、何冊もの分厚いファイルにとじていました。そうすると見るのも大変ですし、見たいページをピンポイントで見つけることも難しい。ツールのアップデートがあると、マニュアル上の画面と実際の操作画面が変わってしまう問題もありました。結果的に、あまり使われなくなってマニュアルが形骸化していく様子を目の当たりにしてきたんです。
それでも順調にキャリアを積んでいた矢先、2008年にリーマンショックが起こり、会社の業績が悪化して民事再生を申請することになりました。ピンチのときこそ挑戦すべきだと思い、現在スタディストの副社長である庄司と一緒に新規事業の企画提案をしたのですが、当時の経営状況では新しい挑戦ができる状態ではなく。それなら自分たちで挑戦しようと考え、起業を決意したんです。
鈴木:起業を決めて最初にしたのは、事業内容を考えることではなく、ビジョンとミッションを定めることでした。当時はリーマンショックの直後で社会全体が暗かったため「もっと生き生きと働けるような社会にしたい」と一緒に起業を決めた庄司と話し合い、「知的活力みなぎる社会を作る」というビジョンが完成しました。
また、人間はいろんな人に手順や方法を教えられて成長し、仕事ができるようになっていきます。人に手順や方法を伝えることをより簡単にしたいと思い「伝えることを、もっと簡単に。」というミッションを決めました。
「そのミッションを実践するための手段とはなんだろう?」と考えたときに生まれたのが「Teachme Biz」です。「Teachme Biz」は撮影した写真を選んで画像を編集し、テキストを入力するという作業を繰り返すことで、簡単にマニュアルが作成できる仕組みになっています。
実は当初、起業家を支援するサービスの立ち上げを考えていたんです。ただ、周囲の人がいいと思わなければ成功する事業にはならないと考えていたので「第三者の意見も聞いてみよう」と庄司とお互いの奥さんに話してみたら反応が非常に悪く、ボツになりました。
ー会社員という立場を捨てて、起業することに不安はありませんでしたか。
私も庄司もコンサルタントをしていたせいか「なんとかなるでしょ」「死にそうになったら会社員に戻ればいいか」とポジティブに考えていました。今考えるとよく踏み出せたなと思いますが、勢いで起業したというのが正しいかもしれません。
スマートフォンでマニュアル作成が完結

鈴木:新入社員や中途社員が入ってきたり、扱う道具やツールが変わったりと、仕事の中で「人が人に手順や方法を伝えるシーン」は必ずあります。そういった場面で、今まではOJTやエクセル、パワーポイントで苦労して伝えていたことが、スマートフォンで写真や動画を撮るという簡単な動作を基本にマニュアルが作成できる。この手軽さが多くの方に受け入れられたのではないかと思っています。
鈴木:前職ではマニュアルをエクセルやパワーポイントで作っていたので、例えば製造現場のマニュアルを作成するために現場を訪れ、写真を撮ってエクセルやパワーポイントに貼りつけていました。ただ撮り忘れなどもあるため、外部の人間よりも内部のメンバーが写真を撮る方が手間がかからないですし、動作や操作に関しては動画の方が分かりやすいだろうということは当時から思っていました。
当時はデジタルカメラで写真を撮っていましたが、その後スマートフォンが市場に出てきました。わたしはガジェットやiPhoneが好きで、iPhoneが初めて日本で発売された2008年7月11日初日にiPhone3Gを購入したぐらいです。「写真も動画も撮れて文字が入力できて、インターネットにつながる」というスマートフォンの特徴を活用し、手のひらの上でマニュアルが作成できるように設計しました。
鈴木:プログラマーではなかったので人に頼むことも考えたのですが、事業というのはだいたい失敗するものと思っていたので、失敗しても実装技術が残る方がいいと思い、自分で「Objective-C」という開発言語を学んだんです。秋葉原に行って技術書を40冊買ってきて、全部断裁してiPadに入れました。ひたすら本の真似をしてコードを書くというのをやっていたら作れたという感じです。

鈴木:1年弱ぐらいですね。前職の民事再生が発表されてから起業を決意し、そこから1年経たずに独立しました。
鈴木:現場から乖離しないことですね。例えば工場などで働くお客様の中には、暑さや寒さ、大きな音など過酷な環境の中で働いている人もいます。そういった人の気持ちが分からなければいいプロダクトは作れないと思っていますので、営業チームだけでなくエンジニアチームもお客様のところに行くようにしています。
鈴木:最初は日本語と英語のみ対応していましたが、日本企業の現地法人に使っていただける例が増え、2018年にタイで合弁会社を設立しました。実はその時点ではタイ語に対応しておらず、後から対応したんです。日本国内でも外国籍の人材が増えているため、多言語対応に需要があると判断した時点で行いました。
資金調達では事業に共感してもらえることが大事
鈴木:最初は前職の仲間に声をかけ、10人程度の規模になってからは外部の人材サービスを使うようになりましたね。現在のバリューのひとつが「With the customer(お客様と共に事業を育てていこう)」なのですが、創業当初からずっとお客様重視でやってきていて、そこに共感してメンバーが集まってきてくれています。
鈴木:はじめは自己資金でやっていましたが、やはりそれだけでは足りず、日本政策金融公庫と千代田区の創業支援を利用しました。約1,200万円の融資を受けることができ、初期メンバーを集めることができました。2年目から経常利益が出たので、そこからはほぼ資金調達はしていません。
鈴木:社会的な意義ですね。日本の労働人口は今後確実に減っていき、人の奪い合いが激しくなっていくことは明白です。実際、既に海外から多くの外国籍の労働者が来日しています。こういった変化により、労働現場で生まれる社会的な課題を解決していくのが我々の事業だということを丁寧に説明しています。
鈴木:まずは事業に共感していただけることが大事だと考えています。また、資本政策はきちんと考えておき、株式を外部に出し過ぎないようにしておくことも重要です。オーナーがある程度の持ち株比率を保っていないと、意思決定の際に困ることにもなりかねません。
初期の頃に、「自分が事業を伸ばしてあげますよ」というような甘い言葉で接触してくる投資家の方もいましたが、「世の中にそんなにうまい話はない」というのが私の持論なので、そういった話は聞かないようにしてきました。
オペレーションからお客様の働き方と未来を変えていく

鈴木:我々はマニュアル作成のソフトウェアを提供していますが、それに付帯してマニュアル作成の代行や端末の貸し出しなども行っています。ソフトウェアの会社というよりは、製造業や小売業などのお客様が抱える課題を解決するために、必要なプロダクトを組み合わせて提案している会社です。
プロダクトがお客様の役に立っているかどうかを見たいという思いから、導入していただいたお客様の労働現場に年に10社程度行き、改善点や課題、もっと我々が役に立てることはないかということをお聞きしています。お客様の会社を訪問すると「こんな仕事があるんだ」「こんな環境で働いているんだ」と、大人の社会科見学のようで非常に面白いですし学びがあるんですよ。

そういったヒアリングの中で、マニュアルを作成した次の課題として「マニュアルの手順に沿ってきちんと作業ができているか点検したい」というニーズがあることが分かってきました。そのニーズに対して、これまで紙だった点検表などのチェックリストの作成や管理をデジタルでスムーズに行い、誰でも簡単で確実に点検できるプロダクトをリリースしたという経緯があります。
鈴木:2023年に国立社会保障・人口問題研究所が発表した「日本の将来推計人口」では、日本の総人口は現在の約1億2,000万人から、2070年には8,700万人にまで減少すると予想されています。マレーシアの現在の人口が3,000万人ぐらいなので、日本の中からマレーシアというひとつの国の人口がなくなるぐらいのインパクトですね。仕事量を減らさない限り、将来は10人でやっていた仕事を6人でこなすことになるわけです。企業としては、人が少ない状態でいかに生産性を上げていくかを模索する必要があります。
マニュアルの作成だけでは、お客様の課題の一部しか解決できないため、より総合的にオペレーションからお客様の働き方と未来を変えていく「リーンオペレーション(ムダがなく均整の取れた“筋肉質な”業務オペレーション)」の実現を目標に掲げています。
「リーンオペレーション」を実現するために必要な活動の全体像(フレームワーク)を設計し、それを完成させるために新規事業に取り組んでいます。「iCheckup!(アイ チェックアップ)」はその第一弾という位置づけです。まだ未発表のプロダクトもありますが、少しずつ形にしていければと思っています。
鈴木:まずは日本でできるだけ多くのお客様の「リーンオペレーション」を実現することが最優先事項です。現在、日本とタイ、ベトナム、シンガポール、マレーシア、インドネシアで2,300社のお客様がいますが、「まだ2,300社」と私は感じています。今後、日本の人口が4割減っていき、各地で課題に直面する企業が増えていくはずです。その際にきちんとお役に立てるよう、より規模を拡大する必要があると考え、各地に拠点を作ることが決定しています。2025年8月に大阪へ進出し、2026年には中部と九州、海外に新たな支社を設立する予定です。
鈴木:仲間の起業家に言われて心に残っているのが「最初のユーザーは自分」という言葉です。自分が本当に欲しいと思えるものを作った方が、成功の確率は上がりますし、継続もしやすくなります。自分が全く興味がないもので起業して、うまくいかなかったらたぶん続かないですよね。事業ってうまくいかないことの方が多いので。
あともう一つ、変わり身は早い方がいいと思っています。現在の「Teachme Biz」は、当初は個人でもビジネスでも使えるサービス「Teachme」としてスタートしたのですが、なかなか結果が出ませんでした。そこで思い切ってターゲットを絞り、ビジネス向けサービス「Teachme Biz」としてかじを切り直したことで、少しずつ認知されるようになっていきました。ピボットを恐れず、周囲の反応に柔軟に対応していくことが大事ですね。
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(取材協力:
株式会社スタディスト 代表取締役 鈴木悟史)
(編集: 創業手帳編集部)






