開業届を出しても失業手当はもらえる!条件と注意点を解説

元ハローワーク職員が開業届と失業手当の関係を解説

開業届を出しても失業手当はもらえる!
「開業届を出すと失業手当は受け取れない」という説明は、正確ではありません。結論からお伝えすると、再就職の意思があり求職活動を続けていれば、開業届を出していても失業手当を受給できます。

筆者がハローワーク職員として窓口にいた当時も、開業届を出したまま失業給付の受給を認めていたケースは多くありました。分かれ目は書類の有無ではなく、自営の準備に専念しているかどうかです。

合同会社 柴田人事労務オフィス 代表社員 柴田 充輝(しばた みつき)
日本大学文理学部卒業後、厚生労働省や不動産業界、保険業界で実務経験を積む。ハローワークで10年間の勤務経験があり、求職者・求人者双方の相談業務やマッチング支援を行う。ハローワークでの実務経験を活かして、社会保険や人事労務などの分野を中心に、これまで1200記事以上の執筆・監修実績あり。保有資格は1級ファイナンシャル・プランニング技能士(FP1級)、社会保険労務士、行政書士、宅地建物取引主任士など。金融財政事情研究会会員。noteでも情報発信中。

失業手当の受給要件


失業手当(雇用保険の基本手当)は、働く意思と能力がある人を次の仕事が見つかるまで支える給付です。開業届との関係を理解するため、まず支給の土台となる要件を押さえましょう。

受給の基本条件

基本手当を受け取るには、次の2つを満たす必要があります。

  • ・離職日以前2年間に、被保険者期間が通算12か月以上あること(倒産や解雇などの場合は、離職日以前1年間に通算6か月以上)
  • ・ハローワークで求職の申込みを行い、「失業の状態」にあること

失業の状態とは、就職しようとする積極的な意思といつでも就職できる能力がありながら、職業に就けない状態を指します。注目したいのは、要件が「就職の意思と能力」で組み立てられている点です。開業届の有無は条件に登場しません。

出典:ハローワークインターネットサービス 「基本手当について」

結論:条件次第で開業届を出していても失業手当は受け取れる


開業届を出しているだけで、失業手当が一律に打ち切られるわけではありません。ハローワークが見ているのは実態で、「自営の準備に専念しているか」「職業紹介に応じられるか」が重要な判断材料です。

雇用保険の判断基準

厚生労働省の「雇用保険に関する業務取扱要領」には、次のように記載されています。

内職、自営及び任意的な就労等の非雇用労働へ就くことのみを希望している者については、労働の意思を有するものとして扱うことはできない。

ただし、求職活動と並行して創業の準備・検討を行う場合にあっては、その者が自営の準備に専念するものではなく、安定所の職業紹介に応じられる場合には、受給資格決定を行うことが可能となるので留意すること。

ここで、自営業の開業に先行する準備行為であって事務所の設営等開業に向けた継続的性質を有するものを開始した場合は、原則として、自営の準備に専念しているものと取り扱うこと。

一方で、事業許可取得のための申請手続、事務所賃借のための契約手続等の諸手続(当該諸手続のための書類の作成等の事実行為を含む。)を行っているに過ぎないような場合は、その行為が求職活動の継続と両立しないようなものでないかどうかについて、個別具体的な事情を勘案して判断すること。

出典:厚生労働省 「雇用保険に関する業務取扱要領」
読み取れるのは、開業届を出している状態でも、要件を満たせば受給できるという事実です。求職活動と並行して創業を検討する段階なら、受給資格の決定が可能です。

再就職の意思が鍵

失業手当を受給できるかどうかを判断するにあたって、最も重要なのは「再就職の意思が本物かどうか」です。次のような状態なら、開業届を出していても受給の対象になり得ます。

  • ・平日の日中に面接へ行ける
  • ・紹介された求人に応募できる状態である
  • ・事業に専念している状況ではない

逆に「もう就職するつもりはない」と話してしまえば、労働の意思がないと判断されます。

求職活動も必須

求職活動の意思だけでなく、行動の実績も求められます。副業の規模にとどめて再就職を目指すなら受給できますが、開業に向けた準備などに専念している場合は対象外です。

状況ごとに受給の有無をまとめると、以下のとおりです。

あなたの状態 受給の可否
副業規模で事業を続けつつ、本業として再就職を目指す 受給できる可能性が高い
事務所の設営など、開業へ向けた継続的な準備に専念している 原則として受給できない
許認可の申請や契約手続きを行っているだけ 個別の事情を勘案して判断される

失業手当の手続きで注意すべきケース


開業届を出していても失業手当が受給できる一方で、以下のようなケースの場合は受給が難しくなる可能性もあります。判断を誤ると不正受給を疑われるため、相談の多い3つのパターンを解説します。

事業を本格開始した

事業を実際に稼働させ、再就職が現実的に難しい場合は「失業の状態」と認められない可能性があります。就職したのと同じ状態だと評価されるためです。

ただし、事業はあくまでも副業的な立ち位置で、本業として別に就職先を探す場合は受給できる可能性があります。

判断には運用の幅があり、「週の稼働時間が一定以上なら専念しているとみなす」といった目安を設けるハローワークもあります。全国一律の数値基準はないため、窓口での確認が欠かせません。

また、認定日(失業状態であることを確認する日)に提出する「失業認定申告書」の稼働日(働いた日)が多いと、個別に事情を確認される場合もあります。

無収入でも事業に専念している

収入がゼロでも、事業に専念していれば失業状態とは認められません。基準は収入の多寡ではなく、労働の意思と職業紹介に応じられるかどうかです。

事務所を借りて設営を進めている段階でも、要領では原則として自営の準備に専念していると扱われます。この点は判断しにくく個別事情も加味される部分なので、迷ったら窓口へ相談してください。

待期期間中・給付制限期間中に開業した

開業のタイミングによっては、再就職手当を受け取れません。再就職手当とは、雇用保険の基本手当(失業手当)の受給資格がある人が、所定給付日数を一定以上残して安定した職業に就いた場合や、事業を開始した場合に支給される給付金です。

待期期間中・給付制限期間中に開業した場合、再就職手当の対象外です。給付制限がある場合はさらに、「待期期間の満了の認定後かつ給付制限期間の初めの1か月間を経過した自営開始日であること」が必要とされています。

期間 内容 開業した場合
待期期間(7日間) 受給資格決定日から失業状態の日が通算7日経過するまで。すべての受給者に共通 再就職手当の対象外。基本手当も支給されない
給付制限期間 自己都合退職などの場合、待期期間満了後に設けられる期間(原則1か月) 最初の1か月を経過してからの開業でなければ対象外
給付制限期間の1か月経過後 給付制限期間の残りの期間 開業により再就職手当の対象となり得る

出典:岡山労働局「~自営開始を予定している方へ~」
なお、自己都合離職の給付制限は2025年4月1日から原則1か月へ短縮されました。ただし、5年間で3回以上の自己都合離職がある場合は3か月です。

また、同じ2025年4月の改正で、教育訓練の受講による給付制限の解除も始まりました。離職日前1年以内に対象の教育訓練を修了している場合や、離職後に受講している場合は給付制限が解除され、待期期間の7日間が終われば支給が始まります。

開業届は先か後か?タイミング別の受給ルールを徹底解説


開業届と失業手当の申請は、どちらが先かで手続きの流れが変わります。ただし判断の軸は同じで、自営に専念するのか再就職を目指すのかという実態で決まります。

【ケース1】開業届を出している状態で失業手当の申請をした

在職中から副業をしており、すでに開業届を提出しているケースです。この場合でも受給資格の決定を受けられ、判断は次のように分かれます。

  • ・自営に専念するつもりなら、労働の意思がないと判断され受給できない
  • ・副業の規模で継続しつつ、本業として再就職を目指すなら受給できる

窓口で聞かれるのは、事業の稼働状況と再就職の希望条件です。稼働時間や探している求人を具体的に答えられるよう、事前に整理しておきましょう。

【ケース2】失業手当の申請後に開業届を提出した

受給中に開業届を出した場合も、その後の姿勢によって扱いが変わります。

開業後の姿勢 失業手当の扱い
引き続き再就職を目指す そのまま受け取れる
自営に専念する 専念し始めた日の前日分までが支給され、以降は停止。要件を満たせば再就職手当を申請できる

大切なのは、開業届を出した事実をハローワークへ申告することです。申告を怠ると、不正受給と判断されるおそれがあります。

(補足)開業で「再就職手当」がもらえるチャンスも

早期に開業すると、再就職手当を受け取れる可能性があります。自営業を開始した場合の主な要件を整理しました。

要件 内容
支給残日数 所定給付日数の3分の1以上を残していること
待期 待期満了日以降の事業開始であること
給付制限 給付制限がある場合は、初めの1か月を経過した後の開始日であること
事業の実態 事業により自立できると認められること
過去の受給 就職日前3年以内に再就職手当等を受けていないこと

なお、申請期限は自営開始日の翌日から1か月以内です(過ぎても受理してもらえる可能性があります)。「自分の事業に専念する日」を就職日として扱い、その前日に就職の手続きをする必要があります。

就職の手続きの際に、再就職手当の申請に必要な書類を案内されます。営業許可証や賃貸借契約書、業務委託契約書などが実態を示す資料になるため、このタイミングで確認しておきましょう。

トラブルなく失業手当の手続きを進める方法


失業手当に関連する手続きで大切なのは、隠さず正確に伝えることです。不正受給と判断されたときのペナルティは重く、隠すメリットはありません。

必ず窓口で相談する

開業届を出す前後は、自己判断せずハローワークへ相談してください。

受給の手続きで記入する「調査書」にも、開業届を提出しているかを確認する項目があります。相談時には次の内容を伝えましょう。

  • ・開業届を出した日、または出す予定の時期
  • ・事業の内容と、1週間あたりの稼働時間
  • ・売上や収入の見込み
  • ・希望する就職先の条件と求職活動の状況

失業認定申告書は正確に記入する

認定日に提出する失業認定申告書では、働いた日を必ず申告します。申告の区分は労働時間で分かれます。

  • ・1日4時間以上の仕事:「就職または就労」としてカレンダー欄に〇印を記入
  • ・1日4時間未満の仕事:「内職または手伝い」としてカレンダー欄に×印を記入

収入があった日は、基本手当が減額または不支給になります。不支給分(「〇」で申告した日)は受給期間内なら繰り越されるため、申告で権利が消えるわけではありません。

出典:東京労働局 「失業認定申告書(様式第14号)」

正直に申告する

虚偽の申告は不正受給に該当します。雇用保険法10条の4により、政府は不正受給額の返還を命じ、さらにその2倍以下の額の納付を命じることができます。

つまり、最大で受給額の3倍を支払う事態になり得るのです。いわゆる「3倍返し」で、加えて以後の給付も停止されます。

開業届と失業手当に関連するよくある質問


最後に、窓口で質問の多かった論点を、元職員の視点でまとめます。

再就職手当の目安はいくら?

支給額は「基本手当日額×支給残日数×給付率」で計算します。給付率は、所定給付日数の3分の2以上を残して開業すれば70%、3分の1以上なら60%です。

例えば、基本手当日額が5,000円で所定給付日数90日の人が、60日を残して開業した場合で考えてみましょう。この場合、「5,000円 × 60日 × 70% = 210,000円」です。

基本手当日額には上限があり、離職時の年齢が60歳未満なら6,570円、60歳以上65歳未満なら5,310円です。所定給付日数90日、基本手当日額6,000円の人が残日数60日で開業すれば、25万2,000円になります。

開業届を出したらハローワークにバレますか?

ハローワークには調査と照会の仕組みがあり、発覚する可能性は十分にあります。主な発覚経路は次のとおりです。

  • ・失業認定申告書と実態の食い違いを窓口で確認される
  • ・再就職手当の審査で、事業実態の調査が行われる
  • ・取引先や雇用先への照会で稼働が判明する
  • ・第三者からの通報

不正受給と判断されれば、返還命令に加えて最大2倍の納付命令が科されます。正しく申告すれば受給できる制度なので、まずは窓口で説明してください。

受給期間の特例とは何か?

開業後に事業をやめた場合、基本手当の受給期間を延ばせる特例があります。受給期間は原則として離職日の翌日から1年間ですが、特例により事業を行っていた期間を最大3年間まで算入しないで済みます。

なお、主な要件は次のとおりです。

  • ・事業の実施期間が30日以上であること
  • ・事業開始日等から30日を経過する日が、受給期間の末日以前であること
  • ・その事業について再就職手当等の支給を受けていないこと
  • ・事業により自立できないと認められる事業ではないこと
  • ・離職日の翌日以後に開始した事業であること

申請期限は事業を開始した日などの翌日から2か月以内で、住居所を管轄するハローワークへ申請書と開業届の写しなどを提出します。

出典:厚生労働省 「離職後に事業を開始等した場合の雇用保険受給期間の特例」

求職活動実績はどのように作ればよい?

求職活動実績とは、失業の認定を受けるために必要な活動の記録で、原則として認定対象期間ごとに2回以上が求められます(なお、初回の認定対象期間は期間が短いため、求職活動実績は1回以上で足ります)。

なお、実績として認められる主な活動は次のとおりです。

  • ・求人への応募(書類の送付や面接を含む)
  • ・ハローワークでの職業相談や職業紹介
  • ・ハローワークが実施するセミナーや講習の受講
  • ・許可・届出のある民間職業紹介事業者での相談や応募
  • ・国家試験や検定などの資格試験の受験

出典:ハローワークインターネットサービス 「基本手当の受給手続き」

個人事業主を廃業したら失業手当をもらえる?

原則として受け取れません。個人事業主は雇用保険の被保険者ではなく、廃業しても失業手当の対象にならないからです。ただし例外もあります。

  • ・会社員時代の受給資格が残っている場合:離職日の翌日から1年以内であれば、残りの受給期間で基本手当を受けられる可能性がある
  • ・受給期間の特例を申請していた場合:事業を行った期間が受給期間に算入されないため、廃業後に受給できる

特例は後から遡って申請できません。起業の予定があるなら、離職の段階で検討しておきましょう。

まとめ

開業届を出していても、再就職の意思と求職活動があれば失業手当は受給できます。判断されるのは書類の有無ではなく、自営の準備に専念しているかどうかという実態です。

事業に専念する状態になれば支給は停止しますが、要件を満たせば再就職手当を受け取れます。待期期間中や給付制限期間の初めの1か月間の開業は対象外となるため、タイミングにも注意が必要です。

ただし、運用には幅があります。自己判断せずハローワークの窓口へ相談し、開業届の提出や稼働状況を正確に申告してください。

(編集:創業手帳編集部)