即戦力のエースで4番がいる営業チームが「太陽」なら、ベンチャーの営業チームはひっそりと咲く「月見草」
「エースで4番」抜きでも勝てる営業の成功事例を紹介します
前回、ベンチャーや中小企業では、なかなか本物の即戦力営業担当者は採用できないという話をした。野球で例えると、「エースで4番」は採用できないのである。
そこで、営業担当者の採用においては候補者が「『即』戦力か?」よりも「『何』戦力か?」を見極め、個人の力に頼らず、チームで勝つ営業体制をつくることが重要であることをお伝えした。
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今回は、引き続き具体的な例をあげて、エースで4番抜きでも勝てる営業チーム・営業体制づくり、あるいは営業戦略づくりについて話をしようと思う。
この記事の目次
【エピソード1】ベテランと若手の継投で勝利
売上増加で離職率半分以下に改善
ある営業会社の話をしよう。
A社は粗利率90%以上で商品知名度も高いという「良い」商材があった。だが、この商材の営業難易度は高く、前職で成果を挙げていた営業担当者を中途採用で大量に採用したものの、成果を出せたのはほんの一握りでしかなかった。
このため、営業は特定のスタープレイヤー、いわゆる「エースで4番」に依存するという体質であり、成果を残せない営業担当者の離職率が高かった。そこで「エースで4番」級の優秀な営業を大量に採用する戦略は諦め、営業フローの「仕組み化」の道を模索することになった。
まず、A社は自社の営業プロセスを整理・分解してみた。その結果、営業プロセスは、以下の5ステップに分解されることが判明した。
さらに、営業現場の現状を調査したところ、比較的若い営業担当者は行動力があり、「アポ獲得」「関係性構築」までは得意だったが、経験が少ないため、「事業課題抽出」や「自社商品での解決提案」が弱かった。
一方、中途採用者を含めベテラン年長者は、どうしても行動量が足りないなど、プロセスの前半段階でつまずいていることが多いことがわかった。
そこで1人で営業完結するのを辞め、若年者と年長者のセットで営業する仕組みにしたところ、営業成績が飛躍的に向上。同時に成果を残せる営業担当者が増えたことで、離職率を半分以下に下げることができた。
ベンチャー・中小だからこそ営業チームの仕組み化が重要
A社の場合は、若年者がアプローチから関係性構築までを行い、提案は年長者が行う。最後、クロージングは若さに任せて若年者が口説くという流れである。こうすることによって年長者だけでも若年者だけでも売れなかった顧客層を開拓することができるようになり、業績も安定させることができた。
上記は、仕組み化の第一歩を踏み出したという事例だが、仕組みが堅固であればあるほど、営業個人の資質に求める項目は少なくなる。
「営業はセンス」「売れる奴は売れるし売れない奴は売れない」などと言う言葉はよく耳にするが、営業の仕組み化ができていない状況ではそう見えるだけなのだ。
【エピソード2】戦力に見合った作戦を実行
縮小する印刷市場で新規顧客獲得に成功
続いて、印刷業界における中小企業の新規顧客開拓における営業改善事例を挙げよう。
エピソード1は、作戦を上手く実行するために戦力の配置転換を行って営業の課題を解決した例だった。これから紹介する事例は、逆の発想で、戦力に合わせて作戦を立て、新規顧客開拓に成功した事例である。
印刷業は価格競争が非常に激しい業界である。印刷業界は毎年5%程度縮小しており、小規模・零細印刷会社を中心に廃業も相次いでいる。また、一部を除き商品による差別化がほとんどできない状態である。
一方で、最近では、価格も激安ネット印刷が普及した結果、中小印刷会社がネット印刷に価格で対抗することは100%と言っていいほど不可能になってしまった。
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このような環境の中では、中小印刷会社が生き残るには、長く付き合える「価格にあまりなびかない良い顧客」をどれだけ確保できるかがポイントになってくる。
そこで必然的にそのような顧客を新規開拓する必要が出てくる。当然、各社自社顧客に対する囲い込みは激しく行うので入り込むことは簡単ではない。
「地域活性化ポータルサイト」で新規開拓営業の”口実”をつくる
このような外部環境下で、ある印刷会社B社が新規顧客開拓のために考えたアイデアが「地域活性ポータルサイト」を活用した2段階の営業戦略である。
まずB社は、県などを巻き込んで地域活性のためのポータルサイトを立ち上げた。そして、印刷会社に、地域活性化のためにポータルサイトへの参加・登録を呼びかけたのである。
ポータルサイトへの登録は無料。営業担当者が地域の印刷会社に訪問した。営業担当者は特別なスキルを習得する必要はなく「無料なので地域活性のための取り組みに協力してください」と各企業に声をかけ、その取組の活動を通して顧客と関係を構築するだけだ。
ポータルサイトに参加してもらった顧客を、その後の印刷営業の潜在顧客ととらえ、潜在顧客に印刷営業をおこなっていってのである。
印刷業界は、顧客との関係性が非常に密であり重要である。比較的容易なポータルサイトへの登録をきっかけとして、まず多数の地域顧客との関係を構築する。その後、既に関係性のある潜在顧客に、印刷営業をおこない、最終的に難易度の高い印刷の新規顧客を獲得したのだった。
営業 1st STEP
地域活性化ポータルサイトへの無料登録 → 比較的容易に多数の顧客と関係構築 → 印刷営業の潜在顧客化
営業 2nd STEP
潜在顧客へ印刷営業 → 印刷の新規顧客を多数獲得
これは、多数の印刷会社が苦労する「新規顧客開拓」を、営業力強化することなく戦略を大きく変えることで達成した事例である。
まとめ
繰り返すが、資本力に乏しいベンチャーや中小企業が、即戦力で何でも売ってくる営業パーソンを採用するのは難しい。「エースで4番」は「太陽」だ。ベンチャーが「太陽」が揃った華々しい営業チームを期待するのは現実的ではない。
ベンチャーや中小企業の営業チームは、ひっそりと咲く「月見草」である。太陽のような華々しさはないが、月見草には月見草なりの戦い方がある。目立たないからこそ知恵を絞り、営業フローを仕組み化、あるいは営業戦力にあわせて上手に作戦を立てれば、太陽に対抗するだけの成果をあげることができるはずだ。
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(監修: 本気ファクトリー代表 畠山 和也)
(編集:創業手帳編集部)