Oxxx 黒瀬 優作|3年で300万食突破した冷凍幼児食。ヒットの裏側にある組織作りのポイントとは
マーケティングからECサイト運営、CSまで内製化!お客様の声を会社全体で共有する体制作り
販売開始から3年で300食を突破した冷凍幼児食「モグモ」。運営するのはECサイト運営代行も手掛ける株式会社Oxxxです。
「前例はあまりないけれど、潜在ニーズはあると考えていた」と話すのは、同社の代表である黒瀬さん。サービス開始から数ヶ月で在庫切れになるほどの注文が入ったといいます。
そこで今回は黒瀬さんに、起業して冷凍幼児食のサービスを始めた経緯や力を入れたプロモーション、2度目の資金調達で意識したポイントなどをお伺いしました。

株式会社Oxxx(オックス) 代表取締役CEO
1990年、東京都練馬区生まれ。
長野県の大学を卒業後、2012年株式会社Nexyz.に入社。 2014年にグループ会社である株式会社Brangistaに転籍しBtoB向けECサイトを運営する企業様支援を行うディレクターを従事。 2016年、美容系スタートアップの取締役として美容アプリ開発、美容機器の販売に従事。2021年に株式会社Oxxxを創業し、2022年5月5日に冷凍幼児食「モグモ」をローンチ。約3年で300万食を突破。
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この記事の目次
経験を積むためにスタートアップへ転職
黒瀬:大学卒業後は新卒でNexyz.という営業会社に入社しました。2年後グループ会社のBrangistaに転籍し、その2年後には創業間もないスタートアップへいきました。「いつか自分は起業するだろう」という思いがあったので、ゼロから何かを生み出す仕事をするための転職でしたね。
スタートアップには5年ほど在籍し、組織運営や給与の決定、事業の拡大、そして縮小など、経営者として幅広い経験を積ませてもらいました。そして起業したのが、2021年3月です。
黒瀬:就職したことで、自分は大きな組織に所属するのが向いていないと気づいたんです。例えば、「こうしたほうが良いのに」と思うことがあっても、新卒3年目の立場で変化を起こすのは難しい。そう感じるたびに、「自分で裁量を持ってやりたい」という気持ちが強くなっていきました。
黒瀬:起業にあたって決めていたことは2つです。ひとつは「基本的にストックビジネス以外はやらない」ということ。ホームページを作って100万円の報酬を得たとしても、翌月にはまた新しい案件を探さなければいけない。そのような事業はしないと決めていました。
もうひとつは、「“できること”と“やりたいこと”の両方をやる」ということ。起業してすぐにキャッシュを生み出すには、今の自分の“できること”を活かす必要がある。でも、新しいプロダクトである“やりたいこと”は、短期間ではお金にはなりにくい。だから、両方やるのだと決めて創業しました。
黒瀬:創業当初から今も続けている、ECサイトの運用代行事業です。ECサイトを持つ企業向けに、コンサルティングや制作業務をワンストップで提供しています。
歯磨き粉から幼児食へ方向転換
黒瀬:当初「やりたいこと」としてプロダクト開発を進めていたのが、磨き粉のパーソナライズ事業です。世の中に出回っている歯磨き粉は多すぎて、「自分に合う歯磨き粉がわからない」のが課題だと考えたからです。前職のスタートアップは、セルフホワイトニング機器の販売をする会社だったので、人一倍歯への興味が強かったんですよね。
そこで、個人の口内環境に合わせて成分を変えられる、パーソナライズされた歯磨き粉を思いつきました。ですので創業から半年間くらいは、歯磨き粉の開発に取り組んでいたんです。ところが、歯磨き粉の製造ロットはとても大きく、最低でも1万個は作らないといけないことがわかりまして。
黒瀬:しかもパーソナライズ版を作るためには、1万個では足りません。例えば9種類作るためには、在庫が9万個になります。
それには銀行からの借り入れがすべて吹き飛ぶほどのお金が必要でした。さすがに事業として成り立たせるのが難しいだろうと判断して、そのプロダクトは中止しました。
黒瀬:新しいプロダクトのヒントがほしくて、共働きの妻に「いま困ってることって何?」と聞いてみたところ、「ご飯」と返ってきたんです。「どういうこと?」と掘り下げていくと、「大人用とは別に、2歳の娘用のメニューを作ること」がとにかく大変なのだとわかりました。
出来合いがないかとスーパーで探してみても、離乳食はたくさんあるのに、娘が食べられるような幼児食は見当たりません。さらに、娘は過食気味だったので、栄養バランスの偏りも気になっていました。それらを解決するためにはどうしたらいいだろうか、と考え始めたのが始まりですね。
そして生まれたのが、毎月宅配で冷凍の幼児食をお届けするサービス「モグモ」です。
想像以上の注文数に在庫がなくなるトラブルが発生
黒瀬:約7ヶ月くらいですね。妻の言葉から、プロダクトのアイデアを思いついたのが2021年10月ごろで、正式にローンチしたのが2022年5月5日でした。
黒瀬:ありがたいことにサービス開始から約3ヶ月で想像以上の反響をいただきました。ただ、在庫よりもたくさんの注文がきたため、定期配送なのに配送が滞って、お客様にご迷惑をおかけしてしまいました。そのうえ在庫を増やしたくても、そのための資金が足りなくて。
そこで、資金調達に踏み切りました。創業当初はVCなどからの資金調達(エクイティファイナンス)はあまり考えていませんでしたが、銀行からの追加の借り入れも難しかったためです。
コロナ禍で工場が小ロットの注文も受けてくれるように
黒瀬:いいえ、製造面では工場を探すのが大変でしたし、今も苦労しています。そもそも工場側に、「幼児食とは何か」「離乳食と何が違うのか」を知っている人が少ない。もちろん、幼児食を作ったことがある工場も少ないですから、引き受けてもらうまでのハードルが高いんですよね。
ですがサービスのローンチがコロナ禍に重なったことで、製造を請け負ってもらう工場を増やすことができました。コロナの影響でBtoBの外食産業が主な取引先だった工場は、ほとんどの生産がストップしている状態だったからです。
黒瀬:コロナ前の外食産業向けの工場では、例えばホテルや施設向けの食品を、何十キロや何百キロの大ロットで納品するのが主流でした。しかし、コロナ禍で一気に市場が縮小し、大口の注文が激減した結果、工場側も「小ロット・小回りの利く仕事もしなければ」と意識が変わっていたんです。
それでも、小分け対応や個包装、手作業の工程が発生する私たちの商品に対応してもらうハードルは高かったですね。「どうかやってくれませんか」とお願いをしても、断られることがほとんどでした。
黒瀬:現在は16カ所の工場と提携しています。私たちのサービスは、「8食」「12食」「18食」などの定期プランから、毎月好きな商品をお客様に選んでもらってお届けする仕組みです。食育的な観点からも、子どもたちには多様な食体験をしてもらうことを意識して、商品数もどんどん増やしています。
ただ、工場にも料理の得意不得意があります。カレーのような煮込み系が得意なところ、揚げ物が得意なところ、中華が得意、和食が得意などそれぞれ専門分野を持っているんです。だから、よりおいしいものを提供するため16カ所の工場に、それぞれが得意なメニューを作ってもらっています。
初期のプロモーションに起用したインフルエンサー
黒瀬:特に力を入れていた意識はありませんが、初期に一番反響が大きかったのは、いわゆる「ママインフルエンサー」と呼ばれるインフルエンサーを起用した施策です。数人のインフルエンサーの方にお願いしたのですが、お一人で300人近くのユーザーを獲得してくださった方もいました。
黒瀬:私たちのサービスはあまり前例がありません。でも、幼児食は潜在的に課題を抱えている方が多いだろうと予想していました。声に出しにくい苦しみ、当事者にしか分からない痛みのようなものがあるはずだと考えていたんです。そういった方々に届けるには、インフルエンサーの方の宣伝が有効ではないかと起用しました。
成功の理由は「内製化によるスピード感と連携力」
黒瀬:これまで伸びてきていない市場に出ていくにあたって、私たちが一番意識してきたのは、「サプライチェーンを内製化して、コントロールすること」です。
お客様の注文を受け、製造した商品をお届けし、フィードバックをいただいて改善する。食品サービスでは、このサイクルをいかに早く正確に回せるかが、何より重要だと考えました。
黒瀬:製造や保管部分は工場や倉庫へ委託していますが、それ以外のマーケティング、デザイン、ECサイトの開発・運営、CS(カスタマーサポート)などはすべて内製しています。そうすることで、お客様からの声に対して即座に改善を加えることができています。
黒瀬:ただ、お客様の声をそのまま反映すれば良い商品になるとは限りません。期待以上の体験を提供するためには、新しい発想や社会的なトレンドも取り入れる必要があります。その点も、社員の7~8割が子育て中なので、日々の生活で得た気づきが商品開発に活かされていると感じています。
例えば、スーパーで購入した冷凍食品が子どもに好評だったら、裏面の製造工場をチェックし、「うちの商品の製造もお願いできないですか?」と連絡していたり。こうした日常の発見を大切にするチームワークこそ、私たちの強みだと思います。
購入者と消費者が違うため「8割以上完食」が商品化の条件
黒瀬:ざっくりですが、毎月30〜50種類くらいの試作を行って、その中で製品化されるのは1品あるかないかです。
黒瀬:子どもアンバサダー制度に登録してくれたユーザーのお子さんに食べていただき、「8割以上が完食したものしか商品化しない」というルールも設けていますから、おのずと少なくなりますね。
私たちのビジネスモデルは「継続してもらうこと」が基本なので、子どもたちが食べてくれなければ成り立ちません。そのため創業当初から、子どもたちに実際に食べてもらって、その結果で製品化するかを判断してきました。
地域に根ざした資金調達を実施
黒瀬:投資家さんに投資をしていただくには、「この会社は伸びる」と期待してもらわなければなりません。 ですので、「私たちの会社は伸びます」と、ロジカルに説明できるかどうかがカギとなります。
私たちは、会員数や解約率、1人あたりの広告費、継続率、食数など、かなり細かく数字を追っています。それらを開示したうえで、「だからこのように会社が伸びるんです」と伝え、「他社との差別化はこうしていきます」という見通しまでお話ししました。
黒瀬:今回リードを取ってくださったのは、ふくおかフィナンシャルグループのベンチャーキャピタル(株式会社FFGベンチャービジネスパートナーズ)さんでした。福岡に拠点がある以上、福岡の産業を盛り上げて、将来的には九州を代表するような会社になれるよう成長していきたいと考えています。その想いに共感いただけたことが、今回の資金調達につながったのではないかと思っています。
黒瀬:一つは、実店舗での販売です。これまではネット販売のみでしたが、今年4月から実店舗での販売も始めています。今後はリアルで購入できる場所を増やして行く予定です。
もう一つは、今の対象年齢よりも少し上の層にも対応した商品開発です。実は、「子どもがたくさん食べるようになり、量が足りなくなったのでやめます」といった理由の退会が少なくありません。それは、お客様にとっても私たちにとっても残念なことだなと。
黒瀬:ですから、今は5〜6歳くらいのお子さんにも満足していただけるような商品を開発しています。将来的には、 小学生以降でも続けていただけるようなラインも作るつもりです。
黒瀬:創業当初を振り返ってみて思うのは、「思い通りにいくことなんてほとんどない」ということです。だからこそ、諦めずにやり続けることが重要ではないでしょうか。
そして、もう一つ大切なのは「誠実であること」です。どれだけお金を稼げても、誠実でなければ応援してくれる人は増えません。例え短期的にはうまくいったように見えても、結局は衰退してしまうと思います。ですから私自身もあらためて、自分にも、助けてくれる人にも、お客様にも、誠実に向き合っていきたいですね。
(編集:創業手帳編集部)
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(取材協力:
株式会社Oxxx 代表取締役 黒瀬優作)
(編集: 創業手帳編集部)