法人税を滞納すると?差し押さえを回避することは可能?
法人税の支払いが厳しい時は早めに税務署へ相談しよう
個人事業主が所得を得ると所得税が課されるのと同様に、法人が所得を得ても所得税が課せられます。
法人化したら、税務署に申告をし、法人税を支払うことは義務です。
法人税を順調に支払えていれば問題ありませんが、支払えずに滞納してしまうケースもあるかもしれません。
今回は法人税を滞納したらどうなるのか、また、その場合の相談先などについて紹介します。差し押さえを回避するための方法も解説するので、参考にしてみてください。
この記事の目次
そもそも法人税とは?
法人税は、法人化してから支払うものですが、その詳細をよく知らない人もいるのではないでしょうか。まずは、法人税がどのような税金なのかを解説します。
法人税=法人の所得に課せられる税
法人税は、法人が得た所得に課せられる税金です。税金には国へ納める国税と都道府県や市区町村に納める地方税の2種類があり、法人税は国税に分類されるものです。
法人に課せられる税金は法人税のほかに、地方税に分類される法人住民税と法人事業税もあります。
法人税・法人住民税・法人事業税の3つを合わせて「法人税等」と一般的には呼ばれます。
法人の所得金額は、益金から損金を差し引いた金額です。益金は売上げの収入や土地などの売却益など、損金は売上げの原価や販売費などが含まれます。
算出された所得金額に税率を掛け合わせ、税額控除額を差し引くと法人税の金額を算出できます。
益金や損金は、法人税法上の考え方です。そのため、企業の会計上の収益や経費とは金額が一致しなくても問題ありません。
普通法人に課せられる
法人は設立手続きを行うことで、法律で権利や義務の主体になることが認められています。そういった法人には、株式会社など様々な種類があります。
税法上で法人税が課せられることになっているのは、基本的に普通法人です。
普通法人に含まれるのは、以下のものです。
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- 株式会社
- 合同会社
- 合名会社
- 合資会社
- 有限会社
- 医療法人
- 相互会社
- 協業組合
また、協同組合・一般社団法人・NPO法人なども法人税が課されます。
一方、法人税が課せられない法人は、以下のとおりです。
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- 公益法人(社団法人・宗教法人・財団法人など)
- 公共法人(金融公庫・日本年金機構・日本中央競馬会など)
- 人格のない社団(マンションの管理組合・PTA・同窓会など)
法人税を滞納するとどうなる?
法人税を滞納してしまうと、多くのリスクを負うことになってしまいます。支払いがどうしても難しい場合も時にはあるかもしれません。
しかし、延滞税を課されたり、督促状が届いたりするため、滞納することは極力避けるべきです。
延滞税を課される
法人税を期限までの納付できなかった場合、利息にあたる延滞税が課されます。延滞税の金額は、法定納付期限の翌日から実施に納付した日の日数に応じて変わります。
2023年の延滞税は以下のとおりです。
・納付期限の翌日から2カ月が経過する日まで
年率7.3%、または、延滞税特例基準割合+1%のどちらか低いほう
・納付期限から2カ月経過する翌日以降
年率14.6%または延滞税特例基準割合+7.3%のどちらか低いほう
延滞税のほかにも、期限内の申告が行われないと無申告加算税も追徴課税されるので注意してください。
無申告加算税は15~20%と高い税率になっています。不正が発覚した時は、さらに35~40%の重加算税が追加となるので、正しく期日内に申告しなければいけません。
税務署から督促状が届く
納付期限を過ぎても未納状態が続いている場合は、税務署から督促状が届きます。
最初のうちはそこまで厳しく督促されないケースもありますが、滞納期間が長くなると対応が変化していきます。
場合にもよりますが、訪問による督促が行われる場合もあり、事態が深刻化してしまいかねません。
督促状は、国税と地方税で送付される日数が異なります。基本的には、国税の場合は納付期限から50日以内、地方税の場合は納付期限から20日以内に送られてきます。
ただし、50日や20日以内に督促状が発行されなかったとしても、納税義務がなくなるわけではありません。
また、納付期限から50日または20日以上経過してから発行された督促が無効になることもないので、支払いはしっかりと行ってください。
最終的には差し押さえられる
滞納した状態を放置してしまうと、最終的に差し押さえられてしまいます。滞納状態が長期化すると、税務署は国税滞納処分を行うことができます。
差し押さえが行われるのは、督促状が発行されてから10日以内にすべての税金を納めなかった場合です。
差し押さえの対象となる財産は、不動産・預金・給料・生命保険・自動車などです。
ただし、生命維持に必要なものは差し押さえできない仕組みになっています。例えば、給料の場合だと全額差し押さえ対象になるわけではありません。
手取りが44万円以下の場合は1/4、44万円以上の場合は33万円を超える金額とされています。
法人税を滞納してから差し押さえまでの流れは?
法人税を滞納しても、すぐに差し押さえられてしまうわけではありません。一連の手順が行われた上で、最終的に差し押さえが実行されることになります。
具体的にどのような流れになっているのかをご紹介します。
1.法人税を滞納する
法人税を支払わなければいけないタイミングになったのに、お金を用意できなければ滞納することになってしまいます。
滞納の理由は様々ですが、どのような場合でも滞納はいけないことです。納付期限までに正しく支払わなければ、滞納の扱いになります。
税金の納付期限は、法人税・法人住民税・消費税は決算から2カ月以内、従業員の給料から天引きされる源泉徴収税は毎月10日(納付特例に該当する場合は、7月10日と1月20日)です。
当然ですが、この期限から何日以内に納付しないと滞納になるわけではなく、1日でも過ぎれば滞納となります。
支払わなければいけない税金の納付期限をしっかりと把握し、滞納しないように気を付けることが何よりも需要です。
2.督促状が届く
納付期限を過ぎても未納となっている場合は、税務署から督促状が送られてきます。督促状は、税金の支払いを促すための書面です。
差し押さえを実行する前に送られてくるので、もし督促状が届いたら早急に支払うようにしてください。
管轄している税務署や滞納金額によって異なりますが、納付期間から約1カ月(原則として50日以内)の滞納が続くと督促状が送付されます。
督促状が届いたら、差し押さえの時期が迫っていると考え、滞納分の納付などの対策を講じる必要が出てきます。
それでも支払いが難しいケースもないとは言い切れません。そのような場合は、督促状から次の段階へ進んでいきます。
3.電話・書面・訪問で勧告される
督促状を送付しても税金が納付されないと、電話・書面・訪問で勧告されるようになっていきます。
電話や書面で督促を行うのが一般的です。しかし、滞納者が経営する会社へ、税務署の担当者が直接足を運ぶ場合もあります。
督促状の送付以外に、税務署が勧告することは義務化されているわけではありません。しかし、法人税の滞納分を納付してもらうための実務として実行しています。
そうしなければ、滞納者が支払いをする確率がさらに低くなってしまうためです。
ただし、税務署が行う勧告の回数はまちまちです。ほかの事例と一概に比較できないので、状況によって異なります。
4.税務署が税務調査を実施する
法人税の督促や勧告と並行し、税務署は税務調査などを実施します。差し押さえに向けた準備を行うためです。
税務署では、独自の情報網を駆使し、法人名義の預貯金をはじめ、株式・不動産・備品などの財産に関する情報を手に入れられます。
税務調査を行う目的は様々ですが、滞納処分のための調査も含まれています。
差し押さえをするためには財産がなければいけないため、どのような財産を保有しているかを確認しなければいけません。無申告が疑われる場合にも実施されます。
税務調査に関する疑問や不安は税理士に相談するのがおすすめで、顧問税理士がいる場合はそちらに相談してみてください。
専門家に相談することにより、調査後の対応などもスムーズにできます。
5.差し押さえが実行される
督促状の送付や勧告を経ても滞納している法人税を支払わないと、差し押さえが実行されます。
国税徴収法47条1項では、税務署が督促状を発行した日から10日経過した段階で滞納分が完納されないと差し押さえの手続きを税務署が行えることになっています。
つまり、10日以上経過しているならいつ差し押さえされてもおかしくありません。
差し押さえの対象になるのは、法人が所有しているすべての財産です。
個人の場合は前述したように給料なども含まれますが、法人の場合は預貯金や不動産などを差し押さえられる確率が高くなります。
預貯金を差し押さえられてしまった場合、ほかの支払いができずに事業が立ち行かなくなることも考えられるため、注意しなければいけません。
6.公売などで換価され、税金への充当が行われる
差し押さえられた財産は、滞納している法人税の支払いに充当されます。換価が必要な財産に関しては、国税徴収法89条以下の規定に基づいた換価が行われます。
換価した後の代金は、滞納分の法人税に充当され、残りは法人に変換されるという仕組みです。
換価は、画一的に実施されるのではなく、滞納者の状況に合わせて行われます。また、適正性を確保するため、法律の規定に基づいた手続きが行われます。
また、できるだけ高く売れる必要もあるので、公売には多くの人が参加できるような環境を整えることも重要視されている項目のひとつです。
法人税滞納による差し押さえを回避するには
法人税を滞納したまま放置してしまうと、差し押さえのリスクが高くなると前述しました。
最悪の事態ともいえる差し押さえを回避するためには、押さえておきたいポイントが3つあります。
1.税務署へ相談する
期限内に法人税を納付できなかった場合は、できるだけ早く税務署に相談してください。
国税を期限内に納付できない場合、換価の猶予や納税の猶予といった1年間の猶予措置を利用できることもあります。
換価の猶予は会社が持つ財産の換価処分を待ってもらうことができ、納税の猶予は法人税の納付期限を延ばしてもらえる措置です。
新型コロナウイルスの影響で、法人税の納税が難しくなってしまったケースは特例の対象になり、無担保かつ延滞税なしで法人税の納付を1年間猶予してもらえる特例措置があります。
いずれの猶予措置も、税務署の窓口で手続きにより申し込める可能性があります。差し押さえを避けるためにも、できるだけ早く相談に行くのが大切です。
2.税理士など専門家に相談する
税理士や弁護士などの専門家に相談するという方法もあります。専門家に相談することで、状況に合わせた適切なアドバイスをしてもらえます。
顧問税理士がいる場合は顧問税理士に相談してください。財務状況からどうするのがベストか導き出してくれます。
顧問税理士がいない会社であれば、商工会議所などが行っている無料相談を活用するのも有益な方法です。
法人税を滞納している会社は、借金などがかさんでいるケースも少なくありません。そのような場合は、弁護士に相談して借金問題から根本的に解決することが先決です。
そして、法人を存続させながら任意整理や民事再生といった債務整理できる方法などを検討することになります。
専門家に相談することで活路が見えてくる可能性は大いにあります。支払いが難しいとなったら、早めに相談するのが得策です。
3.源泉徴収税と消費税は先に支払う
法人が支払わなければいけない税金には、法人税・固定資産税・事業税などたくさんあります。
どれかひとつが支払えないといった状況になってしまう場合もあるかもしれませんが、税金を滞納することになったとしても、源泉徴収税と消費税は先に払うようにしてください。
なぜなら、法人が消費者や従業員から預かっておき、後から納付する源泉徴収税と消費税は差し押さえにつながりやすいといわれているからです。
差し押さえのリスクを少しでも軽減するため、源泉徴収税と消費税はできるだけ早い段階で支払うことをおすすめします。
しかし、ほかの税金を滞納して良いというわけではありません。どの税金も、期限内に支払うことが鉄則です。
まとめ
法人税は、普通法人に課される税金のひとつです。税金の支払いを怠ってしまうと、延滞税などのペナルティが発生したり、最悪の場合は差し押さえられたりします。
そうなると事業を円滑に進められなくなってしまうので、滞納を避けるのが最も重要です。
しかし、何らかの事情で支払いが難しくなる場合もあります。
そのような時は、税務署に早めに相談するほか、税理士や弁護士などの専門家に相談し、適切な対策を講じるようにしてください。
(編集:創業手帳編集部)