「来週から3ヶ月休むから」でも仕事が回る!?スウェーデン男性の育児休暇取得率と生産性の関係
スウェーデン男性の育児休暇から見える働き方のヒント
(2017/11/23更新)
日本で「イクメン」という言葉が使われ始めて、どのくらい経過したでしょうか?
「イクメン」は、2007年ごろから女性誌や育児雑誌に取り上げられるようになり、2010年に流行語大賞のトップ10に入っています。そうすると、かれこれ10年ぐらいですね。
今では若い人たちの間で、少しずつ浸透してきています。ですが、男性の育児参加は世界に比べると、日本はかなり遅れているようです。
北欧の小国スウェーデンは、男女ともに育児休暇の取得率が高く、福祉国家としても知られています。しかし、実はそれだけではありません。
スウェーデンは、日本よりも一人当たりのGDP(国内総生産)やGNI(国民総所得)が高く、国際競争力の高さでも目を見張るものがあります。
スウェーデンの人口は約1000万人。日本の10分の1以下なのに、日本よりも生産性が高いのはなぜでしょうか?そして、それが男性の育児休暇とどのように関わっているのでしょうか?今回はその理由をご紹介します。
この記事の目次
スウェーデン男性の育児休暇は平均3ヶ月以上!
厚生労働省によると、2016年度の日本における男性の育児休暇取得率は3.16%。そして、取得期間で最も多いのは「5日未満」で56.9%だそうです。
つまり、日本の男性は育児休暇をほぼ取得しない。「取得した」といっても1週間以内の短期間ということです。
では、スウェーデンではどうなのか気になりますよね?
スウェーデンの育児休暇は、最大480日(会社休日除く)取得する権利があり、そのうちの390日は給料の80%が支払われます。
スウェーデン男性の育児休暇取得率は約9割、さらに、取得期間は平均3ヶ月以上にもなっています。
これは、国の法律で、父親が3ヶ月は取得しないと、その分の休みは消滅するという決まりがあるからなんです。つまり、育児休暇の全日数を母親だけで使うことが認められておらず、そのうちの3ヶ月は父親に割り当てられています。これって、なかなか斬新なアイデアですよね!
ですが、初めからこのように進んでいたわけではありません。
スウェーデンも、かつては日本と同じように男性が働いて、女性は家で家事をするという社会でした。
しかし、1974年、スウェーデンは世界で初めて、「マタニティーリーブ」という女性のための育児休暇を、「ペアレンタルリーブ」という“両親のため”の育児休暇に変更しました。
今では半強制的に男性も数か月間とるような「法的措置」を組み入れたことで、制度の利用が加速していきました。
多くの男性が当然の権利として使うため、誰もが育児休暇を取りやすい雰囲気ができていますし、サポート体制もしっかりしています。
「僕、来週から3ヶ月休むから」で仕事が回る理由
筆者がスウェーデンで働いていた時は、同僚の男性が育児休暇で長期に休むということはしょっちゅうありました。
たまに廊下で出会うと、「僕来週から育児休暇で3ヶ月休むから」というような会話も日常茶飯事でした。
日本で、3ヶ月の育児休暇と聞くと「えっ、そんなに?」と、無意識にネガティブなイメージが出てしまいそうです。ですが、スウェーデンではそんなことは全くありませんし、「育児休暇をとったから」と言って、その後のキャリアに響くというようなこともありません。
社員が長期休暇を取れる一番大きな理由は、日頃から「誰かが数ヶ月休んでも仕事が回るような体制」を作っていることです。
育児休暇は介護と違って、ある程度「いつ」取得するかが予測できます。会社側も早めに情報を得ることができるので、その間どのように仕事を回すか、前もって計画を立てることができます。
日頃から仕事の見える化を図ったり、社員の能力向上のための機会を設けたり、マニュアルの整備や自動化を図るなどが大切なポイントになります。
私たちは、目前の仕事をこなすことに一生懸命で、長期的な視点で仕事のやり方を考える・実行することを後回しにしがちです。ですがこれらの中長期的なテーマについても「考える時間」を設けることが必要かもしれませんね。
子供が病気になってもVab (バブ)制度でカバー、子育て優先!
子育てに重点をおいているスウェーデンでは、もう一つとても心強い制度があります。
それは、Vab (バブ)制度と呼ばれるもので、日本でいう子供の看護休暇のようなものです。
ただし、この制度は日本と比べ物にならないほど手厚いです。
日本では、通常小学校就学前までの児童に対して年間5日間の看護休暇が認められています。ですが、ほとんどの会社は欠勤扱い(無給)での取得です。
対して、スウェーデンの場合は8歳までの児童に対して年間最大120日取得することができます。しかも、60日までは給与の約80%の金額が支給されます。
ですから、子供が突然熱を出して保育園に預けることができない、または発熱で保育園から帰される場合などにとても助かります。
これらの制度も、育児休暇同様、男女問わずフルに活用しています。
何しろ「子供が一番、家族が一番」という考え方のもと、ライフスタイルを確立しているので、本人だけではなく周囲もそれをサポートする姿勢があります。
もちろん、実際には家から仕事をしたり、子供が寝付いてから仕事をしたりと、周りに与える影響を最小限にとどめるような努力もします。(それでも難しいときは、上司に相談し、サポートを依頼します。)
これは、テレワークやフレックスの制度がすでに確立していて、どこからでも仕事ができる体制が整っているからできることでもありますよね。
日本では、テレワークに対してまだまだ懐疑的な面もあります。ですが、メールの返信や資料の作成など、家でも効率的にできる仕事はたくさんあります。
その人のライフスタイルに合わせて柔軟に働けるような環境が整うと、全ての人の力をフル活用することができます。そうなるとまさに「一億人総活躍社会」です!
スウェーデンに「イクメン」という言葉は存在しない
そもそも、スウェーデンには「イクメン」にあたる言葉は存在しません。
というより、そんな必要はないのです。逆にそのような言葉を作ろうものなら、「差別だ!」とクレームが飛んで来ることでしょう。
なぜなら、スウェーデンでは、男女平等の考え方がとても進んでいるからです。
そのような言葉をつくらなくても、既に男性も育児に参加していますし、多くの男性が育児休暇を取得しています。
スウェーデンで育児休暇を取る男性は、自分が「妻を助けている」という意識はありません。それを自分の役割として、当然のことと捉えているのです。
パパ友との情報交換から生まれるイノベーション
スウェーデンでは共働きの家庭がほとんどですから、現在パパになった30代・40代の男性の大半はそのような家庭で育ってきています。
ですから、パパ達は誰かが食事を作ってくれるのを「待っている」ということはありません。料理や掃除なども自分たちでやってきているので、育児休暇になっても「家事のやり方がわからない!」ということはほとんどありません。
そして、困った時は「パパ友」と情報交換です。
平日昼間の公園では、パパ友同士がベビーカーを片手に話をしているのを良く見かけます。
このような情報交換の場を持つことで、子育てに関することはもちろんですが、その他さまざまな情報に接することができます。数ヶ月仕事を休んだとしても、そこでの経験がクリエイティブなアイデアにつながっているのかもしれませんね。
スウェーデンは世界第2位のイノベーション大国です。「会社」と「家」という2つの世界だけではなく、いろいろな環境・経験を得ることができます。これが相乗効果を起こして、ビジネスを発展させる要因となっていると感じました。
家事や育児が「クリエイティブ」な発想をもたらすかもしれない、そう思うとちょっと挑戦してみたくなりませんか?
スウェーデンの働き方を、良い会社づくりの参考にしてください!
今回は、スウェーデンの男性がどのように育児に関わっているかをご紹介しました。
日本とスウェーデンでは、制度や環境なども大きく異なります。
このようなライフスタイルにしようとすると、やはり柔軟な仕事環境と周りの理解が欠かせません。
日本では、会社を定時で退出するような「残業削減」の動きが高まっていますが、それだけではなく、もっといろいろな働き方が必要となってくるのではないでしょうか?
これから起業をする方も、会社と個人がよりWi-Winの関係を築いていける環境づくりを心がけていってほしいと思います。
(監修:ソルローズ株式会社 正木 美奈子 )
(編集:創業手帳編集部)