確定給付企業年金とは?メリットとデメリット、確定拠出年金との違いも解説
企業年金の制度をきちんと理解し、導入を検討しよう
確定給付業年金とは、企業年金制度の一つです。退職金制度の一つでもあり、自社の福利厚生を充実化させるうえで、有効な手段となります。
確定給付企業年金は、名称のとおり「給付」が「確定」している点が特徴です。従業員にとっては、自分が退職時に受給できる金額が確定しているため、資金計画を立てやすいというメリットがあります。
今回は、確定給付企業年金制度の特徴やメリット、企業型確定拠出年金との違いなどを解説します。企業年金制度の違いを理解し、自社に合った制度を導入し、従業員の満足度を高めていきましょう。
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この記事の目次
確定給付企業年金とは
日本の年金制度は、以下のように「3階建て」の構造になっています。
3階部分 | ・個人型拠出年金(iDeCo) ・確定給付企業年金(DB) ・確定拠出年金(企業型DC) ・年金払い退職給付(公務員) |
2階部分 | ・厚生年金(会社員・公務員) ・国民年金基金(自営業者) |
1階部分 | ・国民年金(基礎年金) |
確定給付企業年金は、3階部分にあたる企業年金制度の一つです。「確定給付」という名の通り、予定利率に基づいて運用され、事業主が従業員と給付の内容をあらかじめ約束する特徴があります。
なお、確定給付企業年金は「規約型確定給付企業年金」と「基金型確定給付企業年金」の二つがあります。
規約型確定給付企業年金 | 基金型確定給付企業年金 | |
実施主体 | 事業主が直接実施 | 別法人として設立された企業年金基金が実施 |
設立の人数要件 | なし | 原則として300人以上の加入者が必要 |
運営形態 | 事業主が年金規約に基づき運営 | 労使合意で設立した基金が運営 |
規約型では、事業主が生命保険会社や信託銀行と契約を結び、年金規約に基づいて運営します。基金型は、労使合意で設立した企業年金基金が運営を行うという違いがあります。
規約型には設立にあたって人数要件が設けられていないため、小規模な企業でも設立が可能です。
しかし、確定給付企業年金ではあらかじめ給付額が約束されており、運用成果が給付額に達しない場合は、企業が不足分を補填しなければなりません。
財務的な余裕がないと設立は現実的ではないため、自社に適しているかどうかをきちんと検討することが大切です。
確定給付企業年金の特徴
確定給付企業年金は福利厚生を充実化させるうえで、有効な手段の一つです。まずは、どのような特徴があるのかを見ていきましょう。
企業が拠出・運用・管理・給付まで責任を負う
確定給付企業年金は、給付額があらかじめ決まっているという特徴があります。企業が従業員のために掛金を拠出し、運用と資産の管理、給付までの責任を負います。
実際に運用するのは、規約型の場合は生命保険会社や信託会社など、基金型の場合は企業年金基金です。ただし、最終的な運用責任は企業が負うため、企業にとって責任が大きい制度といえるでしょう。
なお、確定給付企業年金の中には、加入を希望する従業員のみ加入できる「選択制」という仕組みがあります。選択制では、加入を希望する従業員が自分の給与から掛金を拠出するため、企業の負担を軽減できます。
加入対象者は役員を含む厚生年金保険の被保険者
確定給付企業年金の加入対象者は、原則として厚生年金保険の被保険者です。ただし、規約において加入対象者を以下のように定められます。
- 一定の職種に限定する
- 一定の勤続年数がある従業員に限定する
- 一定の年齢以上の従業員に限定する
- 正規雇用の従業員のみに限定する
なお、厚生年金被保険者であれば加入できるため、役員や経営者も加入対象です。
受取方法は「年金」「一時金」「年金と一時金の併用」などを決められる
確定給付企業年金の受取方法は、規約に定めれば「年金」「一時金」「年金と一時金の併用」から選択できます。従業員からすると、退職後の生活スタイルに合わせて、柔軟に受け取り方法を決められます。
加入者期間によって、異なる受取方法を決めることも可能です。
事業主から見た確定給付企業年金を導入するメリット
確定給付企業年金は、従業員の老後生活に向けた資産形成をサポートする福利厚生制度です。
福利厚生の充実化による人材確保のメリットや、掛金を拠出したときの税制メリットなどを見ていきましょう。
福利厚生を充実化させて人材確保・人材定着を図れる
日本は少子高齢化が進んでおり、今後社会保障制度を維持するためにも、給付の縮小が考えられます。公的年金だけで満足できる老後生活を送れるとは限らないため、公的年金の上乗せとなる確定給付企業年金制度を導入すれば、従業員の安心につながるでしょう。
企業で独自の私的年金を用意すれば、従業員は老後生活における経済的な不安を軽減できます。基本的に勤続年数が長いほど多くの年金を受け取れるため、「長く働きたい」というモチベーションにもつながります。
福利厚生を充実化させ、従業員の満足度と安心感を高めることにより、人材採用や人材定着の点で有利になるでしょう。
拠出した掛金は損金扱いになり節税できる
企業が拠出した確定給付企業年金の掛金は損金扱いになり、課税所得を減らす効果があります。つまり、企業としては福利厚生を充実化させつつ節税できるのです。
掛金は原則として事業主が負担しますが、本人の同意を得た場合、2分の1を上回らない範囲で本人に負担させることも可能です。
「選択制」の場合は労使の社会保険料負担を軽減できる
「選択制」とは、加入を希望する従業員が、自分の給与から掛金を拠出する仕組みです。従業員が掛金として拠出した部分は、給与として取り扱いません。
そのため、確定給付企業年金に加入することにより、社会保険の標準報酬月額の等級が下がる可能性があります。社会保険の標準報酬月額の等級が下がれば、労使ともに社会保険料を軽減できるため、コストの軽減効果が期待できます。
他の年金制度との組み合わせも可能
確定給付企業年金そのものが柔軟な制度設計に対応していますが、他の年金制度とも併用して、さらに柔軟な退職金制度を構築することも可能です。
「確定給付企業年金+企業型確定拠出年金(企業型DC)」「確定給付企業年金+中小企業退職金共済(中退共)」のように、企業の状況に合わせて、複数の制度を組み合わせることができます。
制度を併用することにより、それぞれの制度のデメリットを補いつつ、手厚く従業員の将来に備えられるでしょう。
事業主から見た確定給付企業年金を導入するデメリット
確定給付企業年金を導入するメリットがある一方で、いくつか気を付けるべきデメリットもあります。
メリットだけでなくデメリットにも目を向けて、自社に合っているかどうかを判断しましょう。
運用責任を負い不足分は補填する必要がある
企業は予定利率に基づいて掛金を運用し、従業員の退職時には、あらかじめ約束したとおりの金額を支払う必要があります。もし運用結果が悪く、あらかじめ約束した金額を支払えない場合は、マイナス分を企業が補填しなければなりません。
つまり、企業としては運用リスクを負うため、財務的な基盤が強固でなければ導入が難しいかもしれません。
運用状況を開示しなければならない
確定給付企業年金は、老後資産を用意するための制度であり、リスクを抑えつつもリターンを求める運用を行う必要があります。長期投資や分散投資を通じて効率性を求めつつ、安定的な運用が求められます。
企業は、確定給付企業年金に係る業務の概況(掛金の納付状況・資産運用状況・財務状況など)について、少なくとも年の一度の頻度で加入者へ情報開示をしなければなりません。
従業員から見た確定給付企業年金に加入するメリット
従業員からすると、確定給付企業年金は「企業が自分のために老後資金を用意してくれる仕組み」です。
以下で、従業員から見た確定給付企業年金に加入するメリットを詳しく見ていきましょう。
いくら受給できるか決まっており運用リスクを負わない
確定給付企業年金では、給付内容があらかじめ決まっています。従業員は運用リスクを負わず、自分が将来受け取れる年金額が決まっているため、安心感がある制度といえます。
受け取れる年金額が決まっていれば、事前に退職後の老後設計を考えやすいでしょう。
転職・退職しても持ち運べる
確定給付企業年金の年金資産は、転職時と退職時に持ち運べます。昨今は雇用の流動化が進んでおり、転職する人が増えていますが、以下の制度に持ち運べるため安心です。
- 転職先の確定給付企業年金
- 転職先の企業型確定拠出年金
- 個人型確定拠出年金(iDeCo)
- 企業年金連合会の通算企業年金
ただし、退職事由や加入者期間によって移換できる条件が異なります。また、転職先の制度が年金資産の受け入れを認めているかどうかも確認する必要があります。
運用の手間や労力が発生しない
確定給付企業年金では運用リスクを企業が負い、運用状況が悪いときでも企業がマイナス分を補填してくれます。従業員自身で運用状況を確認したり、投資判断を下したりする必要が無いため、手間や労力が発生しません。
資産運用の経験がない人や投資のリスクを気にする従業員にとって、確定給付企業年金は安心できる仕組みといえるでしょう。
年金資金は保全される
確定給付企業年金には、法令で定める積立義務があります。
年金資産は企業の外部に積み立てられ、企業の財産とは分離されているため、企業が倒産しても年金資産は保全されるのです。また、企業の債権者に差し押さえられることもありません。
基金型の場合は、企業とは別法人が年金資産を運用します。企業が倒産したときは基金が解散され、残余資産を受給者や加入者に分配される仕組みとなっています。
従業員から見た確定給付企業年金に加入するデメリット
すべての従業員にとって、確定給付企業年金は合っている企業年金制度とは限りません。
以下で、従業員から見た確定給付企業年金に加入するデメリットを見てみましょう。
積極的な運用ができない
確定給付企業年金では運用責任が企業にあるため、従業員自身で積極的な運用ができません。
例えば、「リスクを取って株式を中心としたポートフォリオで運用したい」と考えていても、自分の希望通りに運用できない点は確定給付企業年金のデメリットです。
昇給や仕事の成果に影響を受けることがある
企業によっては、確定給付企業年金の支給額を計算する際に「ポイント制」という仕組みを設けています。
「ポイント制」とは勤続年数に応じた基本的なポイントに加えて、昇進や仕事の成果を反映する「役割部分のポイント」に分け、成果や貢献度を退職金に反映させる仕組みです。
もし昇給が遅かったり仕事での貢献度が低いと評価されると、同期よりも受け取れる退職金が少なくなる可能性があります。
確定給付企業年金と企業型確定拠出年金の違い
企業年金制度は、確定給付企業年金と企業型確定拠出年金に大別されます。それぞれの違いをまとめました。
確定給付企業年金 | 企業型確定拠出年金 | |
受給額 | あらかじめ決まっている | 運用成績により変動する |
運用責任・運用主体 | 企業 | 従業員 |
運用の自由度 | 企業または基金が運用 | 従業員が運用商品を選択 |
加入対象 | 役員も加入可(厚生年金保険被保険者) | 役員も加入可(厚生年金保険被保険者) |
掛金負担 | 原則として事業主が負担(一部従業員負担も可能) | 原則として事業主が負担(一部従業員負担も可能) |
退職・転職時の持ち運び(ポータビリティ) | 他の年金制度へ移行可能 | 他の年金制度へ移行可能 |
確定給付企業年金は企業が運用リスクを負い、従業員への給付を保障しなければなりません。一方で、企業型確定拠出年金は従業員自身が運用リスクを負い、受け取れる金額は運用成績によって決まります。
財務的な責任を限定したい場合は、掛金を拠出すれば責任を果たせる企業型確定拠出年金のほうが向いているかもしれません。また、企業型確定拠出年金には加入を希望する従業員のみが加入する「選択制企業型確定拠出年金」もあります。
確定給付企業年金とキャッシュバランスプランの違い
キャッシュバランスプランとは、確定給付企業年金において採用できる給付設計のひとつです。「確定給付型」と「確定拠出型」の特徴を併せ持った制度として、以下のような違いがあります。
確定給付企業年金 | キャッシュバランスプラン | |
受給額 | あらかじめ決まっている | 仮想個人勘定を用いて企業が利息を付与する |
利息の付与方法 | 予定利率に基づいて確定 | 市場金利連動型または固定利率型など、一定の指標や上下限を設定する(最低保証率あり) |
運用責任・運用主体 | 企業 | 企業 |
運用の自由度 | 企業または基金が運用 | 企業(ただし、利息の付与率により負担が変動) |
退職・転職時の持ち運び(ポータビリティ) | 他の年金制度へ移行可能 | 他の年金制度へ移行可能 |
キャッシュバランスプランは、予定利率を固定するのではなく、実勢の利回りを参考にしながら利息を付与する仕組みです。運用に柔軟性を設けて、積立不足を回避できるメリットがあります。
指標に対する不足額が発生した場合は、事業主がマイナス分を補填する必要があります。一方で、指標が予定利率を下回るリスクは、加入者である従業員が負います。
つまり、キャッシュバランスプランは「運用のリスクを労使の双方が分け合う仕組み」といえるでしょう。
まとめ
確定給付企業年金は、従業員へ支給する退職金(年金)があらかじめ決まっている企業年金制度です。
企業にとっては福利厚生を充実化させて人材確保につなげられ、従業員にとっては老後資金を計画的に用意できるメリットがあります。ただし、給付するときに不足額が発生したときは企業が補填する必要があるため、負担が大きくなりやすい点を理解しましょう。
企業年金制度には、確定給付企業年金以外にも企業型確定拠出年金もあります。退職金制度の導入を検討している事業主の方は、自社に合っている制度を慎重に検討しましょう。
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(編集:創業手帳編集部)