LINDA PESA 山口亜祐|タンザニアでフィンテック事業!カオスな経理を公正化する
急成長&カオスのアフリカの地に公正な経理を!スモールビジネス向けの経営管理アプリで信用度アップを狙う
アフリカ・タンザニアの地で起業した起業家がいます。スモールビジネス向けフィンテック事業を展開する「LINDA PESA(リンダペサ)株式会社」の山口亜祐さんです。
同社のビジョンは「Opportunities for Everyone」。現地のスモールビジネスへ、経営管理用のアプリケーションサービスを届けています。タンザニアの現地ビジネスに感じた課題とそのソリューション、またアフリカマーケットの魅力について、創業手帳の大久保がお話を伺いました。
LINDA PESA株式会社 代表取締役CEO
税理士法人にて海外進出支援等に従事。2018年よりWASSHAにて財務経理部長として、2021年よりBaridi Baridiにて企画部長として、タンザニアに勤務。
2022年1月LINDA PESA創業。アフリカスモールビジネス経営のDX化と、ビジネスオーナーの金融市場へのアクセス実現を目指し、経営管理AppのLINDA PESAをタンザニア現地で開発・展開している。
中小企業診断士。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
バーで経理を担当したことをきっかけにその道へ
大久保:アフリカ・タンザニアで事業をするに至ったストーリーを聞かせてください。学生時代から海外に興味があったのでしょうか。
山口:いえ、むしろ学生時代は「落語家になりたい」なんて思っていました(笑)。中学生頃までは生徒会長を務めるなど、真面目な感じだったのですが、高校生の頃からぶらぶらしだして、大学時代はバーテンダーのアルバイトをしていました。接客業が向いていたのか、だんだんとそちらがメインになってしまい、大学を退学。それ以降、友人のバーを手伝ったり、日本科学未来館で案内係をしたり、色々な仕事をしました。バーで経理担当になったことから、簿記の楽しさに目覚め、仕事の傍ら勉強を続け簿記1級を取得。名古屋の税理士法人に就職しました。
大久保:オフィスワークに転職されたんですね。
山口:ええ、25歳の時です。新卒メンバー9人と一緒に入社したので、高校を卒業したばかりの18歳の同期と一緒に入社式に出ました。当時は「どうして人生こんなに遅れてしまったんだろう」と考えたこともありましたが、すぐ馴染みました。同期とは今でも連絡しあっており、その中の半分ぐらいは起業をしているんですよ。
海外部門のある税理士法人を選んだのは、特に新興国に興味があったからです。ベトナムやタイ、中国などに海外進出を目指す会社の支援や国際税務業務を含む法人担当として約5年携わりました。30歳の時に、もっと深く海外の事業に関わりたいと、未電化地域にLEDランタンを届けるスタートアップ「WASSHA(ワッシャ)」に、財務経理部長として転職。そこでタンザニアに渡航することになったんです。
その後は、ダイキン工業とWASSHAのジョイントベンチャーである「Baridi Baridi (バリディバリディ)」の企画部長として同地に駐在し、バックオフィス全般と経営の見える化を担当。完全な紙ベースのところから、できる限りすべてをオンライン上で管理できるようDXを行いました。当初は私と現地メンバー2人しかいませんでしたが、最終的には70人規模まで拡大。こうして、タンザニア駐在は約3年に及びました。
公正な経理が簡単にできるサービスをローンチ
大久保:いきなりタンザニアですか。旅行などで海外慣れはしていたのですか。
山口:そうでもありません。英語は苦手ですし、異文化に触れたこともほとんどない状態でした。ただ、性格的に「どうにかなるさ」精神で生きてきたので、そういう点でタンザニアのお国柄が合ったのかもしれません。ビジネスカルチャーでは、日本とのギャップに驚きましたが、日々の生活においては、大きなカルチャーショックは感じませんでした。
というのも、タンザニアは40年くらい前まで「アフリカ型社会主義」的な政策を敷いていた歴史があります。ですから、いい面を言うと助け合いの精神が強く、悪い面を言うと、例えば「働かなくても助けてもらえばいいや」というようなところがあります。現地の人はよく「ポレポレ」と言うのですが、それは「のんびり・ゆっくり」という意味。東アフリカの中では少し独特な、ある種のんびりとした雰囲気があると思います。
大久保:なるほど。ビジネスのカルチャーショックはどのような点に感じられたのですか。
山口:特にスモールビジネスにおける経理の不透明さです。取引をしようとしても、ぐちゃぐちゃのレシートやなぐり書きの帳簿しか出てこないんです。これでは、外資の企業が来たら現地の企業は間違いなく負けてしまいますし、外資との連携もできません。
過去、その雑な経理がネックとなって、地元企業ではなく中国や中東などの企業を優先して取引せざるを得ないこともあり、利益を現地に還元できない状況に歯がゆい思いでいました。ですから、現地の企業の体制を整えることで信用を生み出し、彼らに有利な取引条件を引き出したり、資金を調達したりできるような変革が必要だと考えていたんです。そうしないと、いつまでもタンザニアの国力が上がっていかないと感じていました。
大久保:そこでLINDA PESAの事業を立ち上げたのですね。
山口:ええ。シンプルなPOSレジと会計ソフトが合体したようなサービスを提供しています。売上管理や在庫の数などを登録すると、売上と原価、経費や利益が分かり、商品の中でどれが人気でどれが収益を上げているのかなどを、グラフで見ることができます。簡易版のPLみたいなもので、簿記の知識どころか計算が苦手でも、ネット環境が悪くても、簡単に操作できることが強みです。データを効率的な経営につなげてほしいと思っています。またデータに基づいて与信のスコアリングをし、融資などのマイクロファイナンスもサービスにしています。DXツールであり金融サービスですね。
LINDA PESAはスワヒリ語で、LINDAがプロテクト、PESAがマネー、という意味です。「あなたのお金をきちんと守って次の投資につなげてほしい」という気持ちで名づけました。
タンザニアのカオスな日々
大久保:タンザニアに貴社のようなスタートアップは多いのでしょうか。
山口:スタートアップ黎明期といった感じでしょうか。いわゆるスタートアップエコシステムが形成されていないので、ベンチャーキャピタルもまだそこまで機能していないんですね。株式市場自体はあるのですが、ベンチャーが上場するような事例はほとんどなく、もちろん海外のマーケットに上場できる企業もあまりないので、結局お金が回っていないという印象です。
例えば仲良くさせてもらっているベンチャーキャピタルも、自社のコンサル資金を他に投資したり、海外から資金を得てそれを地元の企業に投資する形をとっています。起業家はアプリ制作などのエンジニア出身者が多い印象ですね。
大久保:タンザニアにIT人材は多いのですか。
山口:私は日本でエンジニア採用をしていなかったので正確な比較はできませんが、優秀な人はいます。ごく一部の超優秀なエンジニアは、海外から仕事を取ってきて外貨を稼いでいるようですね。一方、プロダクトマネジメントまでできる人材は、なかなかいない印象です。
大久保:新興国らしいカオスなエピソードはあるのでしょうか。
山口:例えば最初、レンタルオフィスで創業したのですが、3ヶ月ほど日本に帰国してからタンザニアに戻ると、シェアオフィスが黙って閉店していたことがありました。「せめて連絡してよ」と(笑)。今は専用のオフィスを借りています。
人間的にいい人は多いと思っています。しかし、悪気なく他人を騙すような面がある人がいることも否めません。信頼していた現地スタッフと連絡がつかなくなり、嫌がらせをされたこともあります。私は「こういうこともある」と割り切っていたのですが、一方で裏切りに激しいショックを受けた現地スタッフもいて、逆に私がみんなを励ますという状況になったことも。やはり「どの国だから」というわけではなく、色々な人がいますね。
採用で言うと、求職者は多いので、例えばインターンの募集をすると数百件応募が来て、選考が大変なほど。しかし、会社のカルチャーにフィットし、自らモチベーションを上げてコミットしてくれる人材を見つけるのは、なかなか難しいです。そこからさらにマネジメント層に上がってきてくれる人となると、稀有な存在ですね。
それでも、経験のないところから自分で課題を見つけ、才覚を表す人もいます。そういった人にはどんどん責任ある仕事を任ってもらいます。今では右腕的な存在になってくれている人もいるので、そういった成長に立ち会えることはすごく嬉しいです。
大久保:面白いですね。治安やインフラなど、生活面に関してはどうなんでしょうか。
水は週1回ぐらい止まりますし、電気もあまり安定しておらず、最近は丸1日停電することも。タンザニアは、アフリカの中では比較的安全だと言われていますが、それでもタクシードライバーやバイクによる強盗、ひったくり事件などはよく聞きますし、昼間でも外を歩くことはあまり推奨していません。
私の住むダルエスサラームの気温は常時30~35℃前後ぐらいで、雨季はあるものの、四季の変動がない分過ごしやすいと感じています。
若さと活気があるアフリカとともに発展を
大久保:これからは他のアフリカの国にも進出していくのですか。
山口:もちろん他国への展開は見据えていますが、ランダムに他国に展開していってもあまり意味はないと考えています。
アフリカでの事業で日本との違いを強く意識させられる点は、オペレーション作りに非常に骨が折れることです。アプリが完成しても、それで完結ではありません。「メンバー育成」と言うと一言ですが、カスタマーサービスや営業のクオリティ一つとっても、その標準化が大変なんですね。その手間が参入障壁であり、楽しいところでもあります。このオペレーションをきちんと作りきらないと、別の国に持って行ってもうまく機能しないと思うので、まず数年かけてタンザニアである程度、面を取った上で、他国進出も考えていきたいと思っています。
大久保:アフリカのマーケットは、やはり独特な魅力があるのですね。
山口:タンザニアの平均年齢は20歳を切ります。若さと活気があり「この世界はよくなる」「未来は明るい」と、皆が思っている印象です。ですから事業を拡大していくイメージも湧きやすいですし、課題が多い分解決策も多いのが、非常に面白い点です。
また、進化の途中段階を飛び越して、一気に最先端の技術に到達してしまう、いわゆる「リープフロッグ現象」があります。電話がないところから固定電話を飛ばしていきなりスマホになる、銀行口座のないところから突然モバイルマネーになる、そこも面白い部分ですね。
思うに、私が起業できたのも、私がアイデアマンであったからではないんです。アフリカで経理のシステムを整えるということは、少なくとも今後100年は必要な事業であり、価値があることが分かっていたから成し得たことです。なぜなら、将来的にタンザニアでも納税のシステムが整っていくことは自明ですし、正しく公正な経理でビジネスの信用を強化していくとなるとある程度の時間はかかるからです。ですから、起業の先が想像しやすいといった点で、経営者として面白く感じる人も多いのではないかと思います。
今タンザニアには個人事業者を含め、中小企業など300万の中小ビジネスがあると言われています。一つひとつの会社に帳簿を届けることで皆がビジネスを効率的に回し、かつ信用を得られるような国にしたいと思っています。
大久保:最後に起業家に向けてのメッセージをお願いします。
山口:私は覚悟を決めて起業したタイプではなく、むしろ「勢いで起業しちゃったけどどうしよう」いう感じだったのですが、大先輩の起業家さんから「起業おめでとう」と言ってもらった時、非常に嬉しかったことを覚えています。その時「起業という、次に踏み出す決断をしたことは称えられていいことなんだ、素晴らしいことなんだ」と、気持ちが切り替わりました。ですから、起業という決断をできた人なら、苦しいことがあってもきっと続けられると思っています。私も決意を心に刻み、初心を忘れずに頑張っていこうと思います。
(取材協力:
LINDA PESA株式会社 代表取締役CEO 山口亜祐)
(編集: 創業手帳編集部)