繰越控除とは?仕組み・期間・個人と法人の違い・申告方法など解説
将来の税負担を軽減できる「繰越控除」の基本を押さえよう

事業を行っていると、景気や投資のタイミングなどによって利益が出る年もあれば、赤字になる年もあります。
こうした収支の波による税負担を調整する仕組みの1つが「繰越控除」です。
繰越控除を活用すると、過去の赤字を将来の利益と相殺できるため、税負担を軽減できる可能性があります。
この記事では、繰越控除の基本的な仕組みや対象となるケース、個人事業主と法人の違いなどをわかりやすく解説します。
繰越控除についていまいち理解できていない人は、ぜひ参考にしてください。
この記事の目次
繰越控除とは?赤字や損失を翌年以降に繰り越す制度

繰越控除とは、損益通算をして残った赤字や損失を翌年以降に繰り越しできる制度で、青色申告で利用できます。
事業所得で赤字が出ても翌年以降の黒字と相殺できるので、所得税の負担軽減につながり、節税可能です。
ここでは、適用期間や繰戻還付との違いを解説します。
繰越控除が適用される期間
繰越控除は、青色申告で正しく手続きすることで利用できる制度です。個人事業主の場合、適用期間は赤字や損失が発生した年の翌年から最大3年間が原則となっています。
しかし、2023年4月1日以降、特定非常災害に関する被害で赤字や損失が生じた場合関しては、条件を満たせば最大5年間に延長されるケースもあります。
確定申告は、損失が発生した時から翌年以降も行う必要があり、怠ると繰越控除を利用できなくなるおそれがあるため注意が必要です。
繰戻還付との違い
繰戻還付は、赤字や損失が発生した年の前年以前に納めた法人税の還付を求める制度です。
繰越控除と同様に青色申告を行っている場合に利用できる制度で、対象となる損失は前年の所得範囲内が原則となっています。
繰越控除は、損失が生じた年の翌年以降に繰り越す制度になっているため、過去に遡るか未来に繰り越すかの違いがあります。
繰越控除は将来の税負担を軽減する目的で利用されることが多く、継続的な利益が見込まれる企業に適した制度です。
一方、繰戻還付は資金繰り対策として短期間で資金を調達したい場合や、前年が黒字で高い税率で法人税を納めていた場合などに適した制度です。
また、繰越控除は法人全般で利用できますが、繰戻還付は中小企業のみの適用となっています。
繰越控除の仕組み

繰越控除は、事業所得に変動があっても、複数年にわたり税金の負担を軽減できる仕組みとなっています。
ここからは、繰越控除の適用順序や繰り越すための条件などについて解説します。
損益通算後に繰り越せる赤字額が確定
繰越控除を利用するには、正しい青色申告手続きと書類の提出が必要です。
繰り越せる赤字の金額は、損益通算後に確定します。損益通算は、その年の利益と損失を相殺する手続きのことです。
損益通算できる所得は事業所得・不動産所得・譲渡所得・山林所得です。給与所得や退職所得・利子所得・配当所得・一時所得・雑所得などは原則として相殺できません。
ただし、株式の譲渡所得や先物取引関係の雑所得など、中には損益通算で相殺が可能なケースもあるので、事前に確認が必要です。
基本的には損益通算の対象は事業や投資に関係する所得となっており、これらの所得区分で赤字が生じた場合にはほかの所得区分と相殺できます。
繰越控除は、損益通算をしても赤字が相殺できない額を繰り越すことになります。
繰越控除の適用順序
損益通算の手続きを行って赤字額が確定したら、繰り越し可能な控除額を計算します。繰越控除の適用となる順序としては、税法上以下のようになっています。
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- 繰り越されてきた損失を最も古い年の順に差し引く
- 純損失から雑損失の順に差し引く
- 総所得から所得の種類に応じて差し引く
過去の年から繰り越されてきた損失がある場合は、最も古い年から順番に差し引くのが原則です。
純損失と雑損失(災害や盗難など、予期せぬ事由で被害を受けた際に発生する損失)がどちらもある場合には、純損失から差し引いていきます。
その後、総所得から山林所得・退職所得の順番に差し引きます。
赤字や損失が複数年続いて発生している場合は、最も古い年度分から差し引き、損失の種類や所得の種類に合わせて適切な順序で計算していかなければなりません。
赤字を繰り越すための条件
繰越控除は、青色申告をすることが条件です。確定申告で青色申告をするには、開業日から2カ月以内に「青色申告承認申請書」を税務署に提出する必要があります。
青色申告承認申請書を提出していなかった場合は、1年目は自動的に白色申告になってしまいます。
白色申告の場合、原則として赤字を繰り越すことはできません。
しかし、特例で赤字を翌年以降に繰り越せるケースもあります。特例は以下のとおりです。
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- 被災事業用資産の損失
- 変動所得の損失
被災事業用資産は、地震や火災、水害、風害などの被害を受けて生じた損失で、変動所得は著作権使用料や漁業収入といった変動しやすい所得の損失のことです。
繰越控除は個人事業主と法人でどう違う?

繰越控除は、個人事業主と法人では控除期間や控除限度額に違いがあります。ここでは、個人・法人の違いを解説します。
控除期間の違い
個人事業主と法人とでは、繰越控除の控除期間に大きな違いがあります。
個人事業主の場合、繰越控除の適用期間は最大3年間で、特定非常災害に関する損失の場合は最大5年間となっています。一方、法人の場合の控除期間は最大10年間です。
しかし、法人でも2018年4月1日以前に開始した事業年度での損失は、繰越期限が9年間です。
現在は、税制改正で1年延長されたことで、最大10年間とされています。控除期間で控除できなかった金額は切り捨てとなります。
控除限度額の違い
控除限度額にも違いがあります。個人事業主や中小企業の場合、繰越控除の控除限度額の制限はありません。
中小企業は、資本金が1億円以下の企業で、資本金5億円を超える法人の子会社やグループ会社になっていない企業が対象です。
個人事業主や中小企業は、最大3年間は所得金額から保有する繰越金の控除が可能です。
それ以外の法人や、資本金5億円以上の法人の子会社の場合、控除限度額は所得金額の50%とされています。
所得金額の50%で控除しきれなかった分は、来年度以降に繰り越すことになります。
なお、控除限度額の50%は、平成30年4月1日以降に開始した事業年度より適用です。平成30年より前の事業年度については、国税庁のホームページから確認できます。
繰越控除のシミュレーション

ここでは、青色申告事業者(個人事業主)が3年間の繰越控除を行った場合の事例でシミュレーションしていきます。
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- 1年目:500万円の赤字(500万円繰り越し)
- 2年目:+100万円の黒字(400万円繰り越し)
- 3年目:+200万円の黒字(200万円繰り越し)
- 4年目:+600万円の黒字(600万円の黒字)
上記の事例の場合、事業開始1年目は赤字のみで所得税がかからないため、赤字額500万円を翌年以降に最大3年間繰り越すことになります。
2年目は+100万円の黒字のため、以下のような計算です。
100万円-500万円=-400万円
1年目からの繰り越し500万円から差し引き、残り400万円を翌年に繰り越します。ここでの所得税額は0円です。
3年目は+200万円の黒字のため、以下のように計算します。
200万円-400万円=-200万円
前年からの繰り越しを相殺し、残りの200万円は翌年に繰り越します。ここでも所得税の支払いは0円です。
4年目は600万円の黒字となり、前年に相殺しきれなかった200万円を相殺できます。以下のように計算します。
600万円-200万円=+400万円
4年目は600万円の黒字となっているため、前年からの繰り越しの200万円を相殺し、課税される所得は400万円です。
青色申告をしていれば、損失が発生しても繰越控除を利用して翌年以降に利益と繰越金額を相殺し、税負担を大幅に減らせます。
確定申告で繰越控除を適用させる書き方

繰越控除の適用となるには、損益通算の記載や損失額の記入などでポイントがあります。
ここでは、繰越控除を適用される書き方や注意すべきポイントを解説します。
損益通算の記載箇所
繰越控除を利用したい場合は、確定申告書の第一表と第二表に加えて、損失申告用の第四表(一)(二)の作成が必要です。
書類は複写式になっているので、筆圧をかけてボールペンでしっかりと記入しなければなりません。申告書は、該当する項目はすべて記入しなければなりません。
所得の種類ごとに順序に沿って通算し、「経常所得」「譲渡・一時」「退職」の欄に記入します。控除しきれない赤字額は、△を付けて記入してください。
損失を種類ごとに通算した上で、最終的な赤字額と所得を算出し、1次通算から3時通算まで順番に赤字と黒字を差し引きながら記入します。
通算後は、「損失額又は所得金額」の欄に最終的な金額を記載します。
特定非常災害の被害があった場合は、雑損失の繰越控除の特例または純損失の繰越控除の特例の適用を受けるため、「所得税及び復興特別所得税の○○申告書(損失申告用)付表(特定非常災害の被災者の方用)」も提出しなければなりません。
繰り越せる損失額の記入
損益通算の記載の後は、繰り越せる損失額の記入に移ります。繰り越せる損失額は、第四表(二)で記載しなければなりません。
ここでは、「翌年以後に繰り越す損失額」や「繰越損失を差し引く計算」の記入が必要です。
種類ごとに繰り越しの対象となる損失を分け、正しく転記してください。損益通算後の赤字額に特定損失額に該当する純損失がある場合には、△を付けて金額を記入します。
複数年で繰り越している場合は、古い順で差し引くのが原則となっています。あらかじめ決められた順序を守って差し引きした上で損失額を記入してください。
注意すべきポイント
確定申告で繰越控除を適用する際は、赤字が発生している年にも確定申告を行っていることが重要です。
申告をしていないと翌年以降に損失を繰り越せなくなるので、赤字でも必ず申告するようにしてください。
また、繰越控除を適用する場合、翌年以降も継続して確定申告を行う必要があります。途中で申告をしない年があると、繰越控除が適用されなくなる可能性が高いです。
ほかにも、申告書には損失額や繰越控除額を正しく記載し、必要な明細書を添付する必要があります。記載漏れや計算ミスがあると適用されなくなるので注意してください。
繰越控除に関するよくある質問

繰越控除は税負担を軽減できる便利な制度ですが、実際の申告となると細かなルールに疑問を持つこともあるかもしれません。
ここでは、繰越控除に関するよくある質問とその回答を紹介します。
同じ年に異なる所得から黒字・赤字が出たらどうなる?
同じ年に複数の所得があり、一部が黒字でもう一部が赤字になっていた場合、原則としてその年の所得同士でまずは損益通算が行われます。
例えば、事業所得で赤字だったとしても、不動産所得で黒字を出していれば、事業所得分を不動産所得分で相殺することが可能です。
その結果、相殺しきれなかった赤字がある場合に限り、翌年以降の繰越控除につながります。
ただし、所得の種類によっては損益通算が認められないケースもあるため、制度の条件を確認することが重要です。
繰越控除は期限後申告でも適用される?
赤字が出ていて繰越控除を適用させたいものの、期限後申告になってしまったため、適用されないのではないかと不安に感じる人もいるかもしれません。
しかし、青色申告の要件を満たしていれば、期限後申告や更正の請求を活用して過去に遡り、繰越控除の適用を受けられます。
ただし、青色申告の期限を連続して遅れてしまった場合は、青色申告自体を取り消される可能性があるため、注意が必要です。
廃業した場合はどうなる?
廃業してしまった場合、その年の利益が赤字であれば、将来の所得と相殺して所得税を軽減することは可能です。
また、青色申告を行った人は純損失を前年に繰り戻すことができ、前年が黒字で所得税を納めていた場合は、所得税の減額とその分の還付を受けられます。
まとめ・繰越控除を活用して将来の税負担を軽減しよう
繰越控除は、赤字が出た年の損失を翌年以降の利益と相殺できる制度です。
年度ごとに利益が安定するとは限らないため、繰越控除を活用することで資金繰りや長期的な経営計画にも大きなメリットを生み出せます。
制度を正しく理解し、適切に申告することで税負担を抑えることが可能です。
繰越控除の仕組みを活用しながら、将来の税負担を見据えて計画的な事業運営を心がけましょう。
(編集:創業手帳編集部)
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