TRULY 二宮 未摩子|更年期をタブーからチャンスに。未開拓市場を切り拓くカギはユーザーの「生の声」

※このインタビュー内容は2026年05月に行われた取材時点のものです。

AIやウェブでは出てこない一次情報を積み上げることで拓けた、新たな市場

更年期は長らく「個人の悩み」として、ビジネスの文脈では語られてきませんでした。その空白地帯に、あえて踏み込んだのが株式会社TRULY代表の二宮未摩子さんです。

博報堂で培った事業開発の視点と、自身の原体験から見えた「生の声」を武器に、タブー視されてきた市場を切り拓いてきました。

未開拓だからこそ勝機がある。そんな逆転の発想で描くビジネスの軌跡を伺いました。

二宮 未摩子(にのみや みまこ)
株式会社TRULY 代表取締役CEO
博報堂にて営業、プロデューサー業務などを歴任。社内の開発部門を経て、女性向けの商品開発プロジェクトを立ち上げ、2019年に社内ベンチャー企画への採択をきっかけに、スピンアウトする形で株式会社TRULYを設立。更年期に特化した法人向けヘルスケアサービス「TRULY for Business」を展開するほか、メディア運営やデータを活用した企業との協業を推進している。

「ロールモデルがいない時代」の出産・復帰が事業の原点に

ーまずはこれまでのご経歴を教えてください。博報堂ではどのようなキャリアを歩まれたのでしょうか。

二宮:大学卒業後、博報堂に入社し、2年目で結婚、3年目で妊娠・出産しました。当時は女性が子育てしながら現場でキャリアを継続していくという風土自体がなく、社内にもロールモデルになるような女性社員はほとんどいませんでしたし、出産を機に退職する方が多い時代でした。

つわりもひどく、長めに産休・育休を取ったのですが、復帰後にちゃんと現場に戻れるのか不安でした。ただ、私のように早くに出産する社員が出てきたことで、人事も「なんとかしなくては」と考えてくれました。制度がまだ整っていない中で、個別に配慮してもらえたのはありがたかったです。

ー復帰後はどのような業務を担当されたんですか?

二宮:最初は営業開発の部署に配属されました。特定のクライアントを持ってフロントに立つのではなく、休眠クライアントの掘り起こしや新規開拓をするような、内勤寄りの業務です。ちょうど新しく組織ができたタイミングでもあって、子育てとも両立しやすかったですね。

そこで3年間勤務した後、さらにマネジメントに近い内部の開発部門に配属されました。現場の第一線からは離れたものの、社内全体を俯瞰して見れるポジションだったので、経営に近いところを学ぶ機会にもなりました。振り返ると、この6年間は遠回りに見えて、とても大きな糧になっています。

ーその後、クリエイティブ部門に異動されたのですね。

二宮復帰から6年経って「やっぱり本当に好きなこともやりたい」という想いが強くなっていたんです。もともとテレビCMやグラフィック広告を作るようなクリエイティブの制作営業に携わっていたこともあり、異動願いを出しました。

配属先は、クリエイターたちが広告賞を取るための制作や商品開発、新規事業開発を推進する部署でした。その中で私は、クライアントの新規事業開発を支援するプロデューサー業務を担当するようになりました。

「更年期」というタブーの裏に隠された、大きな社会課題

ーTRULYの構想は、その部署で生まれたのですね。

二宮:あるクライアントと、シニア市場をターゲットにした新規事業の話が持ち上がったんです。私はもともと美容・健康系のクライアントを多く担当していたため「美容健康系のテーマで何か事業アイデアを考えてほしい」とお声がけいただきました。

そこで着目したのが「ホルモン」。自分自身が妊娠・出産を通じて、ホルモンの変化がいかに心身に影響を与えるかを痛感していたこともあり、高齢化社会が進む日本でこそ向き合うべき課題だと感じたんです。そこで提案した更年期を軸にした企画が、今のTRULYの原型です。

ー当時は更年期をタブー視する流れも強かったと思いますが、どのように事業化を進められたのですか?

二宮当時は「フェムケア」という言葉すら一般的でなく、更年期に特化したサービスはありませんでした。正直に言うと、マネタイズ戦略まで明確に描けていたわけではない中、まずはメディアサイトを立ち上げ、ユーザーを増やすところからスタートしましたね。

限られた資金の中で、toCのユーザーを広告で獲得していくのはコスト面でも現実的ではなかったため、より多くのエンドユーザーに届けるには企業を通すのが一番良い手段だと考えたんです。

そこで、働く世代の心身の不調やホルモンバランスの悩みをサポートする法人向けのヘルスケアサービス「TRULY for Business」をスタートさせました。

ーtoBサービスを通して、どんなニーズが見つかりましたか?

二宮:実際に企業の人事担当者と話をしていると、妊娠・出産に対する支援制度はあっても、それ以降のミドル世代の社員へのケアがまったくできていないということが分かってきました。

人事自身も、その世代の従業員がどんな悩みを抱えているか把握できていなかったんです。データや情報も少なく、顕在化していない課題に向き合う中で、日々仮説と検証をひたすら繰り返していましたね。

突然余儀なくされた法人化。想定外の展開に直面して覚悟が決まった

ーもともとはジョイントベンチャーとして進んでいたプロジェクトだったとのことですが、独立を決意された経緯を教えてください。

二宮:私にはもともと起業家への野望があったわけではありません。私自身「まさか独立して起業するなんて」という感じでしたね(笑)。

ただ、事業をやり続けるなら法人化して外部資本を入れるしかないという局面になり、そこで会社に「出資できない」という最終判断を下されたんです。正直、想定外の展開に戸惑いはかなりありました。この前提が最初から分かっていたら、チャレンジの仕方は違っていたかもしれません。

でも、サービスを運営する中でどんどん愛着が増していたし、ユーザーの声も続々と届いていました。最終的な話をされた時にはもう後には引けなかったですね。「やるしかない」と腹を括り、独立を視野に動き出しました。

ーお一人で起業されたとのことですが、資金調達などはどのようにされたのですか?

二宮:起業するということ自体が未知の世界で、右も左も分からない状態でした。そのため、創業手帳さんにも相談しましたし、融資や補助金など、様々な方法を検討しました。

そんななか最終的に行き着いたのは、事業に共感してもらえるベンチャーキャピタルを地道に探し続けること。紹介してもらった先でまた紹介をもらう、ということを繰り返し、数十社と面談しました。

ー更年期というテーマへの理解を得ることに難しさはありましたか?

二宮:正直、厳しい指摘は多かったです。社会的意義についての理解は得られても、ビジネスとして成立するのかという点ではシビアに見られましたね。当時はまだ事業としての解像度も高くなく、ビジョンを伝えることくらいしかできませんでした。

ですが、逆にビジョンをしっかりと訴えることで、1年かけて共感してくれるベンチャーキャピタルと出会えたんです。これは、シード段階だからこそできたことだと思いますね。

ユーザーを想い行動し続けることで得られた「唯一無二」の資産

ー法人向けサービス「TRULY for Business」のその後の展開について教えてください。

二宮:toBでマネタイズしていくという方針はVCも期待してくれていたんですが、正直、思っていたよりも伸び悩みました。利用者数という観点で言うと、導入を決めてくれた企業の人事と「社内にどうすれば浸透するか」を一緒に考えながら進めるしかありません。ただ導入するだけではサービスを利用してもらえないため、実証実験を通じて実態を把握して、ビフォーアフターを計測し続けました。ここに関してはまだ課題も多く残っています。

ー事業を加速させた転換点はどこにあったんですか?

二宮:まず、更年期に特化しているというポジションの優位性です。競合がほとんどいないので、この領域で「TRULY」という名前がしっかり認知されるようになりましたね。

また、toBの事業と並行して公式メディアでの情報発信を続けたことが大きいと思います。短期的な収益化よりも、信頼性の高い情報発信とユーザー基盤の構築を優先したことで、結果的にオーガニックで会員数が伸び、お金をかけなくても認知が広がっていきました。

その結果、更年期世代のリアルな声がサービスに寄せられるようになり、AIやウェブ検索では出てこない一次情報が蓄積されるようになったんです。

ーどんな情報でも簡単に手に入ってしまうAIの時代に、TRULYにしかない「情報」に勝ち筋を見出されたのですね。

二宮:症状や悩みに個人差の大きい更年期だからこそ、リアル世代の生の声、これまで顕在化していなかったデータを持っているということが、私たちの一番の強みです。このデータを、メーカーや製薬会社との商品開発に活かしたり、マーケティングの協業に応用したり、会員基盤を活用して「本音のデータ」を提供し、企業と一緒に未来を作り上げていくというビジネスモデルが確立されました。

「更年期離職」は経営リスク。ミドル世代の不調に企業が向き合うべき理由

ー更年期は「個人の問題」ではなく「経営課題」として捉えるべきだと考えていらっしゃる理由を教えてください。

二宮:社会的にも健康経営が謳われるようになりましたが、更年期はずっと個人の悩みや課題として扱われてきました。しかし、ミドル世代の生産性が下がる、いわゆる「更年期ロス」は企業にとって大きな損失です。

なぜなら、企業の管理職の多くはちょうど更年期世代だから。「更年期ロス」を食い止めることができれば、経営者自身のパフォーマンス向上にもつながると私たちは考えています。労働人口減少が叫ばれる今こそ、出産・育児世代だけでなく、更年期世代のケアもスタンダードになっていくべきなんです。

ー二宮さんは、ホルモンケアに対する社会の認識にも課題を感じておられるんですよね。

二宮:ホルモンケアって、「不調を解決」するもの、つまりマイナスをゼロに戻すものだと思われがちなんです。でも本来は、コンディションを整えてゼロからプラスに持っていくもの。ホルモンバランスを整えることは、美容にも健康にもつながります。その理解をもっと広げていきたいですね。

「更年期を、いい変化のチャンスに」焦らず、原点を見失わず、市場を育てていく

ーTRULYが5年後、10年後に実現したい未来像を教えてください。

二宮:目指すのは、人生の転機でもある更年期を社会全体で支えられる土壌を作ること。そのためには、民間企業だけでなく産官学を巻き込んだ取り組みを加速させていきたいです。

「更年期を、いい変化のチャンスに」という当社の掲げているビジョンは創業からずっと変わっていません。事業の成長だけを追いかけると、派手なマーケティングや表面的なソリューションに引っ張られてしまいますが、それで原点を見失ってしまっては本末転倒です。

これまで地道に、実直にやり続けたからこそ今のTRULYがある。だからこそ、「誰の、どんな痛みに寄り添うのか」その問いを常に原点に置いておきたいと思っています。

ー最後に、創業手帳の読者である起業家の方々へメッセージをお願いします。

二宮:社会にはまだ見て見ぬふりをされたままの課題は多くあります。社会課題の解決とビジネスの両立は簡単ではありませんが、「生の声」を軸に据えることで成り立つと私は感じています。

「誰かが必要としているものを作れているか」「世の中に魅力的なものを増やせているか」日々それらを追求していけるのが起業の醍醐味だと思いますし、それらに魅力を感じる方に、ぜひ起業という選択肢をとっていただきたいと考えています。

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