インフォマート 中島健|BtoB・DX領域のパイオニアとして日本の全業界を変える

創業手帳
※このインタビュー内容は2023年05月に行われた取材時点のものです。

DXのニーズが急拡大。超追い風に乗りインフォマートは次のステップへ。


新型コロナウイルスによってビジネスのDXが飛躍的に推し進められ、社会全体としてもDXの大きな潮流が顕在化しています。

諸外国では企業間商取引のデジタル化が義務付けられた国もあるなど、世界のスタンダードはすでにデジタルに変化しつつあります。

日本でも世界の潮流に乗りDXが推進されていますが、株式会社インフォマートは潮流が現れる遥か以前である創業時の1998年から、企業間商取引のデジタル化を推し進めていました。

インフォマートが歩んで来た道のりや勝ち残った理由などについて、代表取締役社長を務める中島さんに創業手帳の大久保が聞きました。

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中島 健(なかじま けん)
株式会社インフォマート 代表取締役社長
1966年生まれ、東京都出身。早稲田大学教育学部卒業。1988年三和銀行(現三菱UFJ銀行)へ入行。
その後、1991年加州三和銀行、2009年三菱総合研究所へ出向。
2010年株式会社インフォマートに入社し、人事制度等の組織作りや請求書事業の立ち上げに携わる。
取締役兼経営企画本部長、常務取締役を経て、2022年1月より代表取締役社長に就任し現在に至る。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

銀行業界を経てインフォマートに入社


大久保:これまでの経歴などについて教えてください。

中島:私は今57歳なのですが、ビジネスマン人生35年のうち、銀行員として22年間、インフォマートに入社して13年になります。

学生時代はラグビーをずっとやっていたのですが、ラグビーの経験は今現在まで活きています。

ビジネスとラグビーは同じ部分があると思っていて、それは痛みを乗り越えた先に達成感と成長があることです。

私はこの2つを追い求める性格で、とにかく達成感と成長が大好きな人間なんです。

大久保:インフォマートとの出会いはどのような経緯でしたか。

中島:インフォマートに出会ったのは2000年です。

当時はeマーケットプレイスの黎明期で、銀行の新規事業担当者としてeマーケットプレイスを営む300社ほどのベンチャー企業に直接話を聞いて回っている中、インフォマートに初めて出会いました。

銀行員として一緒に仕事をしていく中で、「面白い会社だな」・「(当時の社長であった)村上社長はすごく魅力的な人だな」と思うようになりました。

そこから村上社長自らが声をかけてくれたこともあり、2010年、44歳の時にインフォマートに転職しました。

転職を決めた最大の理由は「世の中を変えるという達成感を味わえる可能性が銀行の何倍も大きい」と感じたからでしたね。

大久保:インフォマートに入社してからはどのようなことを担当されましたか。

中島:最初は組織作りを行っていました。私が入社した当時は200名規模の会社だったのですが、組織として全然整っていなかったため、人事制度をはじめ組織を作るということに数年間注力していました。

2014年からは、それまでフード事業を手掛けていた会社が初めて他業界向けに請求書事業を立ち上げるという場面にリーダーとして参加しました。

その後、請求書事業を大きく育て、1年前からは社長を務めています。

信用力・営業力が差を生み出す

大久保:インフォマートが淘汰されずに生き残った理由などはありますか。

中島:当時同じようなビジネスモデルを持つ会社が300社ほどある中で、インフォマートが頭ひとつ飛び抜けた理由が2つありまして、1つは信用を上手に味方につけたことですね。

大手企業などからの信用というのはもちろんそうなのですが、創業当時のインフォマートがすごかったのは、村上社長が一般社団法人日本フードサービス協会に直接営業をかけ、協会からの信頼を得たことです。

クラウドという言葉も浸透していない状況の中で、日本フードサービス協会の公認で営業できたことは非常に大きいことでした。

もう1つの理由は、村上社長のセンス抜群の営業力と、「圧倒的な本気レベル」ですね。

村上社長を側で見ていて、「営業うまいな〜この人は」や「本気で世の中を変えようとしているな」と当時よく思いました。

この2つの理由があって、インフォマートの顧客数が一気に伸び、eマーケットプレイス事業は早々に黒字化しました。

ただ、黒字化してはいるものの顧客内シェアが高まらないことが大きな悩みでした。

悩みに悩んだ結果、村上社長は、顧客に対して、eマーケットプレイス事業で使っているシステムをベースにして受発注システムを立ち上げ、月額5,000円で販売を開始したのです。

当時の飲食店では数千万~数億円の費用をかけてEDIシステムを構築している、または、構築を検討している飲食チェーンも多かったため、こうした提案はとにかく反応がよかったんですね。

eマーケットプレイスもEDIも企業と企業を結びつける仕組みという点では共通していますが、eマーケットプレイスは新しい出会いを提供するもので、EDIは既存の取引先同士のやり取りを効率化させるという価値を提供するものです。

当時から、当社がシステム開発する際には、必ずお客様の声をヒアリングすることを大事にしていました。

受発注システムも「eマーケットプレイスの仕組みを既存取引先とのやり取りで使えないか」というお客様の声からスタートしたものですが、販売を開始すると想定以上に受発注のニーズが高かったので、社内体制を整え、受発注を一気に拡販しました。

受発注事業は、インフォマートがこれほどまでに大きな企業に成長した一番の理由だと思います。

現在でも、eマーケットプレイス事業は継続して展開していますが、売上は全体の1割未満で、受発注をはじめとするフード事業が全体の7割程度を占めています。

インフォマート創業者である村上社長の人物像

大久保:創業者の村上社長は、中島さんから見てどのような人だったのでしょうか。

中島:一言で表すと、「究極的な本気男」ですね。

私も銀行に勤めている時に様々な凄い人を見てきましたが、そのような人たちとは全く比べ物にならないぐらい凄いと思います。そのくらい世の中を良くするために本気な人でした。

寝ても覚めてもインフォマートで世の中を変えることばかり、人の50倍は考えていて、誰も議論で太刀打ちできない。そんな人でした。

村上社長は元々は甲子園球児で、社会人としてのキャリアは地元の県信連の勤務から始まったそうですが、3年で退職されました。

その後は起業し、お金儲けを夢見て不動産など様々なことをされましたが、全て失敗して1,600万円の借金を抱えてしまったそうです。

そうした経験の中であることに気付いたのです。それは、『「お金を儲けること」が目的ではない。みんなが喜んでくれるような「世の中を良くすること」をしなければ』ということでした。

それ以来、「世の中を良くするために何をすれば良いか」だけを考えて事業を立ち上げようと本気で向き合ってきたのです。

世の中を良くすることを目的に何かをしようと考えた時に、周りの人から「食材を売買するところには様々なニーズがあるよ」というアドバイスをもらい、そこにインターネットを掛け合わせて何かをしようと考え、インフォマートを創業されました。

ベンチャーが生き残るには、信用と世の中を良くしたいという強い思いが不可欠


大久保:国や大企業が参入してくる中でベンチャーが生き残るために大事なことはありますか。

中島:繰り返しにはなりますが信用を味方につけることですね。

とくに、BtoBの領域ではどれだけプロダクトが良くても、信用がなければ誰も見向きしてくれない。そんな現実をプロダクト力だけで乗り越えようとしても普通にやっていたら何年もかかってしまうと思います。

そこをショートカットするためには、信用を獲得することをまず考えるべきです。

信用とは、国・大企業・協会からなど様々な信用があると思いますが、自分が売りたいマーケットに一番信頼している人物を見つけ、そこに対してどうアプローチしていったらいいのかということを考えるのがとても大切です。

あとは、当たり前のことですが、本気で世の中を良くしたいかと思うかどうかが大切だと思います。

たとえば、EDI事業を例にして考えてみると、仮に国や大企業がある事業を立ち上げて市場に参入したとしても、その事業が上手くいかなかったからといって国や会社が消えてしまうことは少なく、数ある事業・取り組みの一つがなくなるだけ。しかし、ベンチャーはそうではありません。

ベンチャーの場合には、その事業が上手くいかなかったら、もしくはその業界全体に広がらなかったら、会社が倒産する事態につながってしまうんです。

EDI事業に関して言えば、国や大企業に比べて商流を持っていない・発言力が弱いという点では劣りますが、「上手くいかなかったら会社が潰れてしまう、だから本気になる」という強みがある、私はそう考えています。

そうすると死に物狂いで広めようとしますよね。すごく当たり前のことなのですが、そこで本気で世の中を良くしたいと思えるかがとても大事だと思います。

組織力・経営力の構築は早期に行うべき

大久保:スタートアップにおいて事業だけが成長して組織の整備が後手に回ってしまうという課題がよくあると思うのですが、そういった時に大事なことはありますか。

中島:起業家と経営者は違うものだと思うので、早い時期に経営ができる人物を雇うか、もしくは自分自身が経営について勉強するということが必要だと思います。

起業家はとにかく事業を行うことが好きな人で、どちらかというと自由を求める、自分がやりたいことをやるという人が多いと思います。

しかし、経営は自由を求めてはいけなくて、自分にストレスがかかろうと、会社全体としての生産性が上がる仕組みを作り出さなければいけない、自分がやりたいことではないことをやらなければいけない、そういったところを楽しめる人でないと難しいと思います。

また、起業する場合でも大手企業出身者で組織の大切さを分かっている人であれば、後手に回ってしまうことも少ないのですが、分かっていない人だと事業発展を100%優先してしまいます。

どうしても事業や売上のトップラインが大事なので、そちらにばかり注力しがちですが、組織力・経営力の構築は少し早めに検討を始めた方がいいと私は思います。そうですね、社員が100名を超えたところ辺りで一度真面目に考えてみるという感じでしょうか。

他業界への進出・協業による一貫したDX支援の実現


大久保:これからのインフォマートについてはどう考えていますか。

中島:そうですね。既存の事業を推進していくことのほかに3つほど考えていることがあります。

1つ目は、全業界向け受発注システムである「BtoBプラットフォーム TRADE」を広げることです。その上で、当社のサービスがフード業界に根付いたように「第2・第3のフード業界」を作っていきたい。業界に深く入り込んだ事業を展開していくことにより、その業界に対する貢献度も高まり、結果世の中への貢献度も増していくものだと思っています。

2つ目は、フィンテックを中心としたデータビジネスです。

当社は今までの事業の中で莫大なデータを保有しているので、このデータをどう活用するのかの一つの答えとして考えているのがフィンテックです。

3つ目は、他社と協業し、提供サービスを増やし充実させていくことだと考えています。

当社はBtoBプラットフォームを自前で作り提供してきた会社ですが、付随する関連システムもお客様に提供できるようになりたいと考えるようになりました。しかし、ゼロから作ると時間がかかってしまうので、すでにプロダクトを持っている他社と協業して進め、トータルでお客様のDXを推進していきたいと思っています。

大久保:御社のサービスをどのような経営者に使って欲しいですか。

中島:例えば請求書ですと、当社のサービスは月に100通ほどの請求書のやり取りがある場合には十分に費用対効果が出るくらい安価なので、このレンジを超えてくる企業にはぜひ利用していただきたいです。

インボイス制度にも対応していますので、請求書業務の効率化だけでなくインボイス制度についてあれこれ考える時間も不要となります。

また、食品や飲食に関わる企業であれば、フード業界向けサービスがかなり揃っていますので、是非お声かけください。

トップがビジョンを上手く発信し続けることが組織強化に大切


大久保:中島さんの今後についてお伺いしたいです。

中島:個人的な思いとしては、まず事業をしっかりとした軌道に乗せ、若い世代の人材育成にも力を入れたいです。

また、何年先になるかわかりませんが、インフォマートを卒業した後は、日本の教育改革をしたいと考えています。描いているビジョンがあるので、それを人生最後の仕事としたいですね。

大久保:起業家に向けて一言お願いします。

中島:「社員が仕事を楽しめているか」を常に気にすることはとても大事だと思います。

楽(らく)で楽しいではなく、「目の前の仕事の先に何かを見つめながら仕事ができているか」という点です。

一つ面白い例ですが、無印良品の仕事のマニュアル「MUJIGRAM」の話をしますね。無印良品では全ての仕事においてマニュアルの冒頭に「目的」が設定されていて、例えば「レジの仕事」ではこんなことが書かれています。

「レジの仕事の目的:レジの仕事とは、このお店に来た人の最後の2分間の経験をさせてあげる仕事です。お客さんはお店に来た最後の2分間でこのお店の印象が8割決まります。そして2分間でこのお店がいいと思うか思わないかによって、リピート率が20%変わってきます。すなわちレジの仕事とは、無印良品が最重要としているリピーター率を左右する最も重要な仕事なのです。」

これを読んでいるかどうかでレジに立つ人の気持ちは大きく変わりますよね。

つまり、今やっている仕事がいかに大事かということを認識させてあげることが、社員が楽しめる状況を作ることにつながっています。

事実かどうかではなく、このようなことをいかに上手くリーダーが言ってあげられるかどうかということがすごく大切だと思います。

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(取材協力: 株式会社インフォマート 代表取締役社長 中島 健
(編集: 創業手帳編集部)



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