MW 成田 修造|AI×ロボティクスで、200年変わらぬ「住宅」を再定義する
『フィジカルAI革命』で、AIロボットが住宅の「当たり前」になる未来へ。

前回のインタビュー(2024年)にて、「起業家は最大のリスクを取って、大きなチャレンジをしてほしい」と力強いメッセージを投げかけた成田修造さん。自らも株式会社クラウドワークスの副社長として、売上100億円・従業員500名を超える規模への成長を牽引した後、2022年末にその座を退かれました。
そんな成田さんが「自らリスクを取り、次なる挑戦の舞台」として選んだのは、住宅という巨大なリアルアセット(実物資産)を扱う領域でした。すでに累計30億円の資金調達を実現し、構想を本格的に動かし始めています。
「インターネットはもうレガシーになった」と言い切る成田さん。産業革命以来、その定義が更新されていない住宅産業において、AIとロボティクスを建築段階からフルインテグレート(完全統合)することで、何を変えようとしているのでしょうか。日本の住環境を逆手に取った独自の勝ち筋と、暮らしに溶け込んだロボットが「家事ゼロ」を実現する未来の先にある社会変革のビジョンを伺いました。
株式会社MW 代表取締役CEO
1989年東京都生まれ。慶應義塾大学卒業。在学中にクラウドワークスの役員として参画。2014年、取締役COOとなり東証マザーズ(現グロース)市場に上場。その後取締役副社長COOとして同社を経営。2022年末に取締役を退任。2024年にMWを共同創業。
この記事の目次
SFの世界を現実に。ゼロから「生きた家」を作り上げる

成田:AIとロボットを軸とした最新のテクノロジーが組み込まれた家を、自分たちの手で設計し、建設して、販売しています。ソフトウェアの開発だけでなく、土地の仕入れから、建築、ロボット開発まで一貫して手がけます。言わば「テクノロジーカンパニーが住宅を作っている」という新しい形態です。
コンセプトは、家自体が自ら学習し、進化しながら快適な住まい環境を提供していく「生きた家( Living Home )」。家という「箱」、全体を制御する「ソフトウェア」、そして家事を担う「ロボット」。この3要素をゼロから統合した「未来の家」を創っています。
成田:クラウドワークスが売上100億円を超え、組織も500名規模と大きく成長したタイミングで、30代を迎えた自分に改めて問い直したんです。「本当にもう一度立ち返ってやりたいことは何か」。そこで思い出したのが、大学生の頃から抱いていた「SF(サイエンス・フィクション)の世界を『サイエンスリアリティ』にしたい」という想いでした。
私はもともと実体のあるものづくりが好きなんです。インターネットの中だけで完結せず、リアルな巨大産業で本質的なイノベーションを起こしたい。その想いを本気で実現するために、再びゼロからの起業を決意しました。
なぜ「住宅」? 産業革命以来、止まった時計を動かす

成田:衣食住という言葉がある通り、住宅は非常に重要で巨大な社会インフラです。しかし、鉄やコンクリートを用いた工法が確立された産業革命以降、実は大きなイノベーションが起きていません。多くの会社が、AIやインターネットができる前に生み出された技術革新をベースに、今も建物を作っています。
私はインターネットネイティブであり、AIネイティブでもある世代です。この「変化のない巨大セクター」こそ、テクノロジーによる変革の余地が最も大きい。自動車産業におけるテスラがそうであったように、製品のあり方そのものをデジタルで再定義する「真のデジタルトランスフォーメーション」を、住宅の領域で起こしたいと考えています。
成田:最大のインパクトは「家事がなくなること」です。現在、人間は1日に2時間40分も家事に費やしていると言われています。私は、家事を「当たり前のこと」として受け入れたくないんです。
今、AIの「模倣学習」によって、ロボットは驚異的な器用さ(デクスタリティ)を手に入れつつあります。家事は細かいタスクの集合ですが、これらは近い将来ロボットで代替可能になるでしょう。家事がゼロになれば、人間の可処分時間は劇的に増えます。それは女性の社会進出を加速させ、独身高齢者の生活を支えるなど、多くの社会課題を解決する力になります。
既存のスマートホームは「断片的」すぎる?

成田:現在のスマートホームは、実は体験が非常に「断片的」です。アレクサ、スマートロック、照明……それぞれ個別の設定が必要で、連携も十分とは言えません。1つひとつの電球に設定を施す手間を考えると、本当に便利になったと言えるでしょうか? 結局、外出時に「電気消したっけ?」と2階へ確認しに行くような、昔と変わらないアナログな体験が残ったままです。
つまり、現在「スマートホーム」と称される住宅の多くは、IoTを通じた家電の遠隔操作にとどまっていて、あらゆる操作が人の手を前提としています。しかもメーカーごとにアプリが分散し、住まい全体を一元的に制御できないという構造的な課題も抱えている。これは「スマートデバイスの集合体」であって、厳密には「スマート」な家とは言えません。
本質的な革新を起こすには、後付けのガジェットではなく、建物そのものをゼロから設計し、「フルインテグレート(完全統合)」された体験を作る必要があると私たちは考えます。住宅自体がセンサーやAIを通じて環境を知覚し、文脈に応じた判断を行い、家電やロボットの操作を自ら実行する。つまり、真に自律的な住空間です。それができて初めて、本当の意味での「スマートホーム」と言えるのではないでしょうか。
人が操作するのではなく、家が自ら判断し、住環境を最適化し続ける。私たちが実現に向けて取り組んでいる未来の家「Living Home」は、まさにそういう家です。
成田:市場には、規格化されたユニークで面白いデザインの戸建てはなかなか出回っていません。注文住宅を作ろうとすると時間がかかりすぎますし、時間をかけずに作ろうとするとどうしても凡庸なものになってしまいます。一方で都内のマンションを選ぼうとすると、狭いのに非常に価格が高く、広さに対して価格が見合う家を見つけることがどんどん困難になっている。私自身、自分が住む家を探す中で、機能性とデザインの両立した住宅がほとんど存在しないという強い課題意識を持っていました。
私たちのデザインコンセプトは「プリミティブ(原始的)であり、未来的」。土壁のような伝統的なマテリアルの採用や、バルコニーと一体となった吹き抜けのあるLDK、目で見ても手で触れても心地の良い流線的なデザインなど、人間が太古から本能的に心地よいと感じるような空間を作る一方で、背後では最新鋭の高度なAIやロボティクスがフル稼働している。この相反する要素の共存が、他社には真似できないMWのアイデンティティです。
しかし、これら全てを高度に融合させ、さらにコストや施工速度を最適化していく難易度が非常に高く、立ち上げ初期から現在に至るまで大きな葛藤と難しさを感じている部分でもあります。
「人型ロボット」から始めない。日本独自の「勝ち筋」と強力なチーム

成田:住宅市場は裾野が広く、大手メーカーでさえ数%のシェアにとどまるほどプレイヤーが分散した巨大市場です。参入障壁は高い一方で、少数の企業に寡占されていないぶん、新たなプレイヤーが入り込む余地は十分にあります。そして私たちの最大の武器は、建築家とハードウェア・ソフトウェアのエンジニアが最初から同じチームでモノづくりをしているという、業界では極めてまれな体制にあります。
さらに、チームには強力な経営人材が揃っています。社長としてサイバーセキュリティクラウドのIPOを牽引したメンバーや、クックパッド、メドレー、エクサウィザーズといった上場企業の役員・CTO経験者、さらに世界的建築ファーム出身の専門家もいます。私たちはよく「野心的な挑戦に魂が揺さぶられる時代の才能を集めよう」と話していますが、様々な領域の才能を結集して、この難しい課題に取り組んでいきたいと考えています。
成田:最も悩んだのは、今「人型ロボット」をやるべきか否かという点です。現在、物理世界のAIである「フィジカルAI革命」のど真ん中として、アメリカや中国で人型ロボットの開発が猛烈に進んでいます。正直、挑戦したい気持ちはありますし追随したいという焦りもありますが、日本の一企業が資本力や技術力で真正面から彼らに対抗するのは現実的に難しいと判断しました。
そこで我々は、アプローチを変えました。日本の場合、東京都心部の一般的な戸建ては60〜70平米ほどで、部屋も細かく区切られていることが一般的です。ビジネスホテルの一室を想像していただけるとイメージが湧きやすいと思いますが、限られた空間で人型ロボットが歩き回ると非常に圧迫感があります。動線の邪魔にもなりますし、掃除もしにくい。また、子どもがいる家庭ではロボットが転倒するリスクなど安全面の課題もあります。
だからこそ「住宅と組み合わせ、天井にレールを敷いてそこからアームが降りてくる」というアイデアに至りました。レール上しか動かないので安全性も担保できますし、レールから直接給電ができるため、バッテリー切れの心配もありません。住宅の安全規格や空間設計から逆算することで、人型ロボットにはない、スタートアップならではの「勝ち筋」を見出したのです。
100社を超えるパートナーと「夢」を共有する

成田:おっしゃる通りです。建物を構成するために、基礎工事や電気工事、大工さんなど建設系のサプライヤーが50社以上。ロボットを構成するモーターやアクチュエーターなどの部品サプライヤーも50社以上。さらに、ダイキンさんのエアコン、ノーリツさんの給湯器、コイズミさんの照明、立川ブラインドさんのカーテンなど、数多くの家電メーカーさんとも連携しています。非常に多くの企業の皆様にご協力いただき、今の事業が成り立っています。
成田:我々はまだ小さなスタートアップですから、まずは我々が思い描く「大きな夢」を語り、お客様にどういうものを提供したいかというビジョンに共感していただくことを何より大切にしています。
特に難しいのが現場の施工、中でも電気工事です。我々の家はセンサーやロボットを張り巡らせるため、家の中の配電量が従来の何倍にもなり、図面の量も通常のハウスメーカーの3〜4倍になります。施工の難易度が極めて高いため、図面に落とし込む際にも根気強く現場に説明を重ねています。また、すべてを外注するとコミュニケーションコストが膨大になるため、内部に施工をマネジメントするチームや、電気工事ができるチームを組織し、自分たちでコントロールできる体制づくりも進めています。
成田:現在は、トレーラーハウスのような小型の施設でレール付きロボットの稼働実験を進めながら、並行してロボットを搭載する前のソフトウェアを統合した住宅の着工を進めています。目黒、恵比寿、代々木上原、世田谷といった都内が7〜8割、福岡などの地方都市が1割、軽井沢や千葉の富津などのリゾートエリアが1〜2割といった割合で、現在10ほどのプロジェクトが進行中です。
経営陣や創業メンバーで最初の資金を出し合い、さらにシードラウンドとしてメガバンク系CVCやベンチャーキャピタル、個人投資家などから16億8000万円を追加調達し、累計約30億円を集めました。今後は棟数の拡大や、ロボティクス開発への投資を行っていき、必要なタイミングでさらに追加調達を行う予定です。
インターネットのその先へ。現実世界のAI革命を狙え

成田:10年後には、年間1万戸の住宅に我々のAIロボットシステムが搭載されて流通している世界を目指しています。自社でデベロッパーとして手がける住宅数百戸に加え、他社のハウスメーカーへのシステム提供も考えています。
例えば、日本で食洗機は累計1000万台以上普及していますが、それも25〜30年かけて当たり前になりました。AIロボットが家に組み込まれていることも決して夢物語ではなく、必ず当たり前のインフラになると確信しています。
成田:私は、インターネット産業はすでに「レガシー」になったと考えています。Amazonが誕生して30年。これから起きるのは、AIがインターネット的な考え方とともに全産業に浸透し、モノのあり方そのものを変えていく「フィジカルAIの革命」です。
我々は住宅産業を選び、家を再定義しようとしていますが、医療、教育、物流、車など、あらゆる巨大産業を変革するチャンスが広がっています。今の時代に起業するなら、ぜひ志を高く持ち、フィジカルAIを活用した大きな産業変革を大胆に狙っていってほしいですね。そうやって多くの人がそれぞれのセクターで挑戦することで、日本の産業界はもっと面白く、活発に変化していくと信じています。
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