開業届を出すデメリットはある?開業届の基礎知識を紹介します

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開業届の基本的なルールとは?メリット・デメリットを理解してベストなタイミングで開業届を提出しよう


起業で個人事業主になった時や独立してフリーランスになった時には、必ず開業届を提出します。
開業届の提出をしていなくても罰則はありません。
しかし、開業届を出さないと青色申告などの様々なメリットを受けられなくなります。

事業を成長させるため、自分のモチベーションを維持するためにも開業届を提出することをおすすめします。
開業届は提出するタイミングによっては、デメリットがまったくないわけではないので事前に確認しておきましょう。

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個人事業主の開業届の扱いとは?


自分で事業を立ち上げたり会社員を辞めて独立したり、その人の職業選択は人生に大きく影響します。
個人事業主として働くと決めることも、人生の大きな決断です。

個人事業主とは、法人を設立せずに個人として事業を営む人を言います。
例えば、フリーランスでスキルを提供するような仕事や、飲食店経営など、個人事業主としての働き方は千差万別です。
税務署に開業届を提出して事業開始を申告すると、個人事業主になります。
この開業届は、個人事業主になったから出してくれと催促されるようなことはありません。
個人事業主の開業届の扱いについてまとめました。

開業届の提出は義務

個人で事業主になるのは、特別難しいことではありません。
事業とは、独立しておこなう反復、継続する仕事を言います。
例えば、利益を目的にしてどこからか商品を仕入れて顧客に販売する仕事を繰り返せば、それは事業といえます。

所得税法第229条では、事業所得や不動産所得、山林所得を生み出すような事業を開始した時には、開業届を出すように義務付けています。
正確には「個人事業の開業・廃業等届出書」と呼び、廃業の時も同じ書類です。

開業届は事業開始から1カ月以内とされていますが、この「事業を始めたとき」に明確な定義はありません。
まだ事業の構想段階であっても、開業届は提出できます。
逆に、事業がある程度形になってから提出するケースもあります。
これから事業を始めようと考えている人も、開業届の提出も忘れないようにしてください。

副業でも開業届は必要

個人事業主は、独立して事業をおこなう人を指す言葉。
本業として事業を営んでいたとしても、会社員が副業として事業を営んでいても同じ個人事業主です。
副業としてサイドビジネスをしているだけだから、個人事業主ではないし開業届も必要ないと考える人もいるかもしれません。
しかし、会社員であっても事業を始めれば開業届が必要です。

罰則がないから開業届は提出しなくても良い?

開業届は、事業を開始すれば原則として提出するように定められています。
しかし、開業届を提出しなかった、もしくは提出し忘れていた場合に、罰則があるわけではありません
そのため、事業をおこなっていたとしても、開業届を出していない人も少なからずいると考えられます。

しかし、罰則がないから提出しなくて良いわけではありません。
うっかり開業届を出し忘れていた人も、すみやかに開業届を提出するようにしてください。

『開業届を出したら確定申告しなければならない!』は間違い

開業届を出さない人の中には、開業届を出してしまうと所得に関係なく確定申告を絶対にしなくてはならないと勘違いしている人もいます。
しかし、開業届を出しているかどうかと、確定申告が必要かどうかはまったく関係ありません

個人事業主で確定申告が必要になるのは、基礎控除額を超えた場合です。
開業届を出していなくても所得が一定額を超える場合には、確定申告をしなければいけません。
確定申告が必要なのは、売上げから必要経費や各種控除を差し引いてプラスになった時です。
合計所得金額が2,400万円以下であれば、基礎控除48万円を差し引くことができます。

開業届を出したら会社に副業がバレる?

開業届を出すことによって、会社に副業がバレるといった勘違いもよく聞かれます。
しかし、開業届を出すことによって会社に連絡がいくことはありません。

会社に副業がバレる原因の多くが、「住民税の特別徴収制度」があるためです。
特別徴収制度とは、事業主が従業員に支払う給与から住民税を天引きして代わりに納入する制度です。

副業として事業をおこなった場合、20万円以上の所得があれば確定申告が必要。
この時に、住民税の徴収方法を選択することになります。

副業で収入が増えた場合は、それに伴って住民税も増加するため、住民税と給与のつじつまが合わなくなって副業がバレてしまうのです。
副業がバレたくない場合は、副業をするときに住民税の徴収方法を「給与から差し引き」ではなく、「自分で納付」(普通徴収)を選択してください。
これを選択することによって、住民税は天引きでなく自分で納付できるようになります。

また、副業がバレる原因にはうっかり副業を同僚に話してしまったり、SNSで特定されてしまったりするパターンもあります。
副業を知られたくない場合には、できるだけ人には話さず、SNSやブログでの発信も避けるようにしてください。

開業届を出し忘れたらどうなる?

開業届は、事業を始めてから1カ月以内に提出するように定められています。
しかし、開業届を出さなくても事業はできるので、うっかり出し忘れた、そもそも開業届が必要なことを知らなかったといったケースもあります。

開業届を出し忘れたとしても、罰則やペナルティはありません
確定申告できなくなるといったこともないので、気が付いた時点で準備して開業届を提出しましょう。

開業届を出すデメリットはなに?


原則として、事業をスタートすれば開業届を出さなければいけません。
しかし、開業届を出すことで何か変わってしまうのではと不安に感じてしまう人もいるでしょう。
開業届を出すことによって、デメリットや不都合はないのか調べました。

失業給付が受けられなくなるかもしれない

個人事業主となる道のりは、人によって違います。
その中でも会社員として働いていた人が退職して、個人事業主となるケースはよく聞かれます。
しかし、会社を退職したタイミングに開業届を提出すると、損になる可能性も考えておかなければいけません。

退職した会社で雇用保険に加入していた場合、失業すると一定期間は失業給付を受給できます。
失業給付はハローワークでの手続きで受給でき、失業期間に生活の心配なく新しい仕事を探すための費用です。

しかし、開業届を出して個人事業主になってしまうと、再就職の意思がないとして失業給付が受けられないことがあります
失業給付は、条件によって受けられるタイミングが違います。
失業保険を受給しようとしている場合には、受給前に開業届を提出しないようにしてください。

また、創業のための退職や、起業準備している場合には、そもそも失業給付の対象にならないと思い込んでいる人もいるかもしれません。
しかし、厚生労働省は自営を開始、または自営準備に専念する人は給付が受けられないものの、求職活動中に創業の準備・検討を行う場合には給付可能な場合があるとしています。
つまり、退職後の創業準備のタイミングややり方によって、失業給付が受けられる可能性があるということです。
詳しくは、ハローワークに問い合わせてみましょう。

加えて、失業保険の給付を受けたあとに事業をスタートしたため、失業給付が受けられなくなったとしても再就職手当が支給されることがあります。
再就職手当は、雇用保険の受給資格がある人が早期に再就職が決まった場合に受けられる手当です。
再就職手当を受けるには、いくつかの条件を満たさなければいけませんが、事業開始も再就職手当の対象とされています。
失業保険を受け取ってから、開業届を提出しましょう。

扶養に入れなくなることがある

個人事業主になろうとしているときに、誰かの扶養に入っているときには注意が必要です。
よく収入などで扶養に入っている、入っていないといった話題になりますが、扶養は税法上の扶養と、健康保険上の扶養があります。
税法上の扶養は、扶養者(配偶者・子供)の所得が一定額以下であれば開業届の有無に関係なく対象となります。

問題となるのが、健康保険上の扶養です。
健康保険上の扶養に入ると、自分で健康保険の保険料を支払わなくても健康保険に加入できる仕組みです。
しかし、この扶養の対象となる人については、各健康保険組合によって決められています。

多くの場合は、扶養に入れるかどうかは収入で判断されますが、開業届を出した個人事業主だと扶養に入れない可能性があります。
もしも、現在扶養に入っていてこれから開業届を出そうと考えている場合には、加入している健康保険組合のルールを事前にチェックしておくことをおすすめします。

青色申告だと手間が増える

開業届を提出することによって、青色申告で確定申告ができるようになります。
後述しますが、税制上の優遇が受けられる青色申告は、複式簿記などの会計処理、書類の整備が必要です。
あまり、経理や書類手続きに時間を使いたくない場合には、負担が大きく感じてしまうかもしれません。

開業届の提出自体が面倒

書類仕事が得意でない人にとっては、開業届の提出自体が面倒で難しい作業に感じるかもしれません。
事業を初めてすぐは、様々な手続きや作業が必要です。
忙しいから税務署に出向く時間がない人もいるかもしれません。
開業届は、税務署の窓口で提出する以外に郵送でも提出できます。

開業届は国税庁のホームページからダウンロードできるので、記載して提出します。
開業届の提出に手数料はかかりません。

青色申告をする場合には、開業届と一緒に青色申告承認申請書も提出してください。
事業のスタートで忙しくて、書類を作成している時間がない場合には、専門家に依頼するか代行してくれる業者に依頼するようにおすすめします。

開業届を出すメリットはある?


開業届を出すことによるデメリットは、まったくないわけではありません。
しかし、開業届を出すことによるメリットもあります。
開業届を提出してどのようなメリットがあるのか紹介します。

青色申告ができる

開業届を出すことで得られるメリットの中でも大きいのが、青色申告が選べるようになることです。
青色申告は、税制上の特典が受けられる確定申告方法ですが、開業届と青色申告承認申請書を出さないと選択できません

青色申告の税制優遇措置は、最大65万円の特別控除や赤字の繰り越しといった様々なものがあります。
事業をおこなっていくのであれば、税金の扱いは重要です。
節税するのであれば青色申告は必須と考えてください。

青色申告について詳しくはこちらの記事を
知っておきたい青色申告の基礎知識とメリットデメリット

経費として認められる範囲が広がる

開業届を提出することで、事業所得として認められる経費の範囲も変わります。
生計を一にした親族や配偶者に支払う給与は必要経費にできませんが、事業所得であれば事前に申し込むことで、参入可能です。
白色申告では金額に制限がありますが、青色申告なら支払った額が青色事業専従者給与であれば妥当な金額なら全額が経費として扱われます。

また、地代家賃・水道光熱費などをプライベートと業務で分ける家事按分も青色申告のほうが認められやすくなります。
事業を継続するうえで、経費の扱いは資金繰りに大きく影響します。
課税所得を低く抑えて適切に節税するためにも、開業届が重要です。

屋号で銀行口座を開設できる

個人事業主になると、金銭の出し入れや売上支払いの管理のための銀行口座が必要になります。
個人事業主であれば、事業用の銀行口座として屋号名義を使って口座開設が可能です。
屋号で銀行口座を開設するメリットを確認しておきましょう。

屋号口座を作るメリット1. 仕事とプライべートで使い分けができる

個人事業主にはなるけど、銀行口座はプライベートの口座があるから十分と考えている人もいるかもしれません。
しかし、事業で使う口座とプライベートの口座はできるだけ使い分けるようにおすすめします。

事業用の口座があれば、通帳の明細がそのままお金の流れとなり会計の負担が少なくなります。
また、収支がはっきりするので資金繰りや事業計画も立てやすい点もメリットです。

逆に、プライベートの銀行口座を使うと、プライベートの収支と混在してしまうため、会計処理が煩雑となります。
確定申告や経理処理の段階になって、計算が面倒になってしまうかもしれません。

事業用だけで使っている銀行口座であれば、計算するときに余計な手間もかかりません。

また、税理士に手続きを依頼したり税務署の調査が入って通帳を見せたりするときにも、共有口座にしているとプライベートで使っている銀行口座を見せることになります。
屋号口座であれば、一目見てプライベートの口座か事業用なのかを判別できるため、他人にも事業用であるとはっきりわかります。

屋号口座を作るメリット2. 信頼性がアップする

屋号口座は、顧客やクライアントから信頼を得るためにもおすすめです。
近年はインターネット上で完結するビジネスも増加しています。
お互いに顔が見えないやり取りだからこそ、小さな部分にまで注意を払う必要があります。

使用する銀行口座は、金銭のやり取りが関係する部分です。
一般的な印象として、個人名よりも屋号のほうが信頼できると感じる人は多いです。
屋号がついていることで、事業用の口座であると顧客に伝わって、顧客に安心感を与える効果が期待できます。

小規模企業共済に加入できる

小規模企業共済は、退職時、廃業時に給付金を受け取れる制度。
個人事業主は、会社員と違って退職金はありません。
そこで、退職金に代わって廃業したときや、退職時の生活資金などのためにお金を積み立てできるのが小規模企業共済です。
小規模企業共済を使うと、掛金が全額所得控除できます。

小規模企業共済の加入資格を満たす必要はありますが、小規模企業経営者のための事業資金貸付制度もあるので、開業時には加入を検討してみてください。

小規模企業共済について詳しくはこちらの記事を
小規模企業共済等掛金控除とは?税制上のメリットが大きいこの所得控除を徹底解説!

就業の証明となる

開業届は、個人事業主であることを証明する書類です。
個人事業主であると証明しなければならない場面は少なからずあります。

例えば、保育園や学童への申し込みは会社員であれば就労証明書が必要です。
個人事業主であれば、事業を営んでいる証明として開業届が使われます。

さらに、事業用にオフィスや店舗を借りるとき、融資の申し込みをするときにも開業届が審査の書類として使われる場合があります。
開業届は社会的な立場を示すためにも有効な書類です。開業届を提出すると、開業届の控えを受け取れます。
紛失することがないように保管してください。

まとめ

開業届は提出しなくても罰則がないため、うっかり忘れてしまいがちな書類です。
しかし、開業届を提出することによって、適切に節税したり自身のモチベーションにつながったりといったメリットもあります。

開業届は窓口に出向くことが難しければ、郵送でやり取りする方法や代行業者を使う方法も選択可能。
今まで開業届を提出していなかった人も、速やかに開業届を提出するようにおすすめします。

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(編集:創業手帳編集部)

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