世界で1600億円投資!アニス・ウッザマンがニューノーマル時代の注目ベンチャーを緊急解説【後編】
投資家を魅了する5つのトレンドとベンチャービジネスの今後の展開とは?
日米をはじめ、全世界で1600億円の資産を運用し、世界180社以上のベンチャー企業に投資する米国シリコンバレーのべンチャー・キャピタル(VC)、ペガサス・テック・ベンチャーズ(以下ペガサス)。
2020年10月に創業手帳では、コロナ後を見据えて日本経済を元気にしていくヒントを得るべく、そのペガサスの代表パートナー兼CEOであるアニス・ウッザマン氏による無料のオンラインセミナー&イベントを開催しました。
前編では、世界におけるコロナ前後の社会の変化と、この数年のトレンドから見た、日本の起業家へのヒントを紹介しました。
後編では、今後の成長市場として世界的に注目されている5つの分野におけるベンチャービジネスの展開などについて、日米比較も交えて教えていただきます。
ペガサス・テック・ベンチャーズ 代表パートナー兼 CEO
米国シリコンバレーを拠点に世界16カ国に展開するペガサス・テック・ベンチャーズを設立し、全世界で運用総資産額1,600億円、28本のファンドを運営しており、世界の大手事業会社35社とのパートナーシップによる大手企業内のイノベーション促進の実績を持つ。これまで米国、日本、東南アジアにおいて180社以上のスタートアップへ投資を実施。主な投資先として、SpaceX、23andMe、SoFi、Bird、Color、App Annieなどがあり、日本ではメタップス、ZUU、マネーフォワード、ジーニーエアトリ、ディー・エル・イーといった既に上場した企業のほか、テラモーターズ、ユニファ、モンスターラボ、スターフェスティバル、Life is Tech、エディジーン、FiNC等への投資を行っており、これら投資先の海外展開支援を手掛けた実績を有する。文部科学省の奨学金を受け日本に留学、東京工業大学工学部開発システム工学科を卒業。その後、オクラホマ州立大学で修士、東京都立大学で博士号を取得。著書に「スタートアップ・バイブル シリコンバレー流・ベンチャー企業のつくりかた」(講談社)、「世界の投資家は、日本企業の何を見ているのか?」(KADOKAWA)などがある。
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この記事の目次
投資家が注目する5つの分野にベンチャーでも参入できるのか
この数年と、コロナ禍の前後での世界の社会変化から、現在のテクノロジーの流れとパンデミックを考慮して、日本のベンチャーにとってチャンスとなるキーワードを見ていきましょう。
前編でお伝えした、日用品の宅配や遠隔医療、eラーニングに加え、注目すべき5つの分野は「5G/6G」「宇宙探査」「空飛ぶ車/ドローン」「VR/AR」「ブロックチェーン」です。
これらの分野に参入しているベンチャーの活躍事例や今後の展開を見ていきます。
未知への投資?!高速通信と宇宙事業
現在のインターネット環境は海底ケーブルでつないで、地球の裏側であろうとも若干の遅延で済み、円滑なコミュニケーションやユーザーエクスペリエンスを実現しています。その世界観を変え、圧倒的な変化をもたらす次世代インターネットを、宇宙探査を手がけるベンチャー企業が手がけているのです。
それは、PayPalやテスラの創業者イーロン・マスク氏が率いる「SpaceX」社のStarlinkプロジェクトです。
彼らは地上から750kmに大量の衛星を打ち上げ、その層を創り上げようとしています。現在は約600個ですが、計画しているのは1万2000個で、その衛星の層で地球上をあまねくカバーして、アマゾン奥地のジャングルでも洋上クルーズ船でも音速の飛行機上でも快適なインターネット環境を提供。
これが実現すれば、人類はログインするのは人生で一度だけで済みます。Wi-fiにつなぐ必要もなくなるのです。決して夢物語ではなく、連邦通信委員会(FCC)と国際電気通信連合(ITU)の2つの米国当局もこのプロジェクトを認定しています。
「宇宙探査」分野をリードしているベンチャー企業もこの「SpaceX」で、安価なロケット開発を可能にした彼らは現在、産業ロケットで約6割のシェアを持っています。そして、彼らは2020年6月に、同社の宇宙船「クルードラゴン」による米国で9年ぶりとなる有人試験飛行を成功させるという歴史的快挙を成し遂げました。
また、11月の第2次打ち上げには日本人宇宙飛行士の野口聡一さんも乗船。民間企業が定期的に国際宇宙ステーション(ISS)まで宇宙飛行士を運ぶ事業の初ミッションとして注目されました。この「クルードラゴン」では、操作画面にタッチパネルが採用されていたことも画期的でした。
私には、地上を走るEVであるテスラのナレッジが生かされているかのように見えました。また、ISSまでの飛行コストもロシアなどのロケット大国と比較しても、世界最安となっています。
さらに面白いのは、SpaceXのロケットは大気圏を越えても燃えないステンレス鋼製で、回収時には自動で地上に着陸できる100%再利用可能なロケットであること。飛ばしたら宇宙ゴミ(スペースデブリ)となっていたこれまでのロケットの常識をも、彼らは打ち破っているわけです。
この「クルードラゴン」は、かつてアポロ計画で使用された「サターンV」よりも大きい、人類史上最大のロケットです。そして、彼らはこの技術をシャトルとして地球上の地点移動、国や都市間の移動に用いようとしています。
初フライトは2026年に予定されており、主要都市間のほとんどの長距離移動が音速により30分程度に、地球上どの地域にも1時間以内には行ける計算です。SpaceXが公表しているイメージ動画では、ニューヨークで朝6時30分に桟橋から船で洋上のシャトル乗り場へ移動。最高時速2万7000kmで、上海に7時39分に到着する様子が描かれています。
投資家が再注目!エンタメとしても期待が膨らむ「VR/AR」
「VR/AR」はコロナ禍以前には、グーグルが2015年にグーグルグラスの販売中止を決め、その後、2019年に再び新モデルを送り出したものの、スマートグラスには個人的にあまり可能性を感じられなくなっていました。
それが、コロナ禍で増えた自宅時間や非接触による人恋しさなどを埋めるためにエンタテイメント系の需要に火が点き、改めてVR/ARの可能性を感じ始めているところです。
教育やトレーニングツールという以外に、広く大人向けも含めたエンタテイメント市場という果実が与えられたと見ています。
テック系ベンチャーへのチャンス?!
業界や領域を広げていく「ブロックチェーン」については、グローバルでセキュリティーの観点から、システムやデータの保全や速やかな商取引のために、この技術のニーズがますます高まると見ています。
以前のような仮想通貨といった文脈のほかの、保険や健康分野といった一般的な業界・領域で広く使われる技術となるでしょう。テック系ベンチャーにとって、大いにチャンスのある分野といえます。
日本のベンチャーも参入する「空飛ぶ車/ドローン」
「空飛ぶ車/ドローン」では、すでに日本にもこの分野で成果を上げているベンチャー企業がいくつかあります。その一つを紹介しましょう。
大口投資が集まるSkyDrive社の空飛ぶクルマ
日本政策投資銀行や伊藤忠、NEC、ENEOSなどが出資する、日本のベンチャー企業です。駐車場2台分に収まる世界最小モデルを実現し、すでに有人飛行の実証実験を成功させています。2023年の大阪万博を見据えて、サービス開始を目指しています。
この「空飛ぶ車/ドローン」も自動運転などと同様に、法規制の整備が待たれるところですが、技術的あるいは運用面でのアイデアがあれば、ぜひベンチャー企業という立場でそれを発展させてもらいたいと思います。投資対象として、たいへん魅力的な分野だと考えています。
事業展開のカギ~投資を活用したベンチャーと大企業のコラボ~
日本を元気にするという視点で、レガシーとも言える日本の大企業が、どうすればこのような社会の変化に対応し、自らイノベーティブに変わっていけるかを考察します。
そのカギは「ベンチャーと大企業のコラボレーション」にあると考えています。日本の大企業は歴史的に自前主義で、自社あるいは系列などのグループ企業内でしか連携をしてきませんでした。
しかし、昨今のようにテクノロジーの進化が著しく、ビジネス自体のスピードも増している時代には、特に製品・サービスの開発にはよりスピード感が求められます。それには、大手特有の自前主義では対応しきれません。大手企業こそがむしろ積極的にベンチャー企業と協業することで、見込みあるアイデアに資金を送り、ビジネスとして製品・サービス化や商業化させる原動力になるべきなのです。
そのための手段の一つが、ペガサスのようなベンチャー・キャピタル(VC)の存在です。日米を始め、世界中にアンテナを張り巡らせている当社では、自社で投資を行うほかに、日本を含む世界の大企業と世界のスタートアップをつなぐ役割をも担っています。
そうした提携により、新規事業開発や商品開発、流通拡大、海外展開等を促進。実際に現在、世界の大企業35社を世界のトップベンチャーにつないで、16カ国に投資を行っています。
ベンチャー企業は、資金提供を受けられるのに加え、大企業の経験や知見、アセットから具体的な支援を得ることも可能です。大企業側も、硬直傾向になりがちな自社の社員に、ベンチャーの視点やアイデアから刺激を与えられ、組織や個人の意識の活性化につながります。古い体質を変えようとするときに、非常に有効な手立てといえるでしょう。
投資家に人気上昇中。「ビジネスシーズを生み、育て、拡大して収穫する支援サイクル」
ビジネスシーズを生み出す活力の源となる、イノベーティブなテック系ベンチャー企業に対する支援環境には、4つの要素が重要です。4つの要素とは、「大学・研究機関」「インキュベーター・アクセラレーター」「投資家」「EXIT(IPO、M&A)」であり、これらの関係は循環型になっています。
その構造を説明するとともに、日米での違いにも触れていきましょう。
ビジネスのシーズを生み出す「大学・研究機関」
まず「大学・研究機関」でアイデアやシーズが形になります。それがビジネスと結びつくためには産学連携がカギとなりますが、日本では大学側の意欲に濃淡があり、企業側も大学との関係構築をし切れずにいる部分があります。
シリコンバレーの発展はそもそも大学が発信源で、hpやインテルといった後のIT巨人企業がそこで生まれ、産学連携が進む中でITベンチャーの集積地となったのです。
一方で、日本では大学に学びながら起業するような環境が乏しく、私の母校である東京工業大学でもほとんどの学生は3年次になると就職活動を始めてしまい、そもそも起業が選択肢として考えにくい現状があります。
こうしたことが日本の閉塞感につながっているようでもあり、大学がイノベーションの種を生み、育てていく源とぜひなって欲しいと思います。
ベンチャーの学び舎「インキュベーター・アクセラレーター」
起業まもなくやシード期以前のベンチャー企業の持つビジネスアイデアを実現し、事業成長を支援する組織やプログラムが「インキュベーター」。そして、シード期を過ぎたベンチャー企業のビジネス拡大に的を絞った投資やノウハウなどを支援する組織やプログラムが「アクセラレーター」です。
これらの役割は、日本でもVCや大企業のCVCなど投資部門が担っていますが、米国ではシリコンバレーなどに限らず、その他の地方にもこれらが数多く提供されているのに対し、日本では東京、大阪、福岡など一部の大都市圏に限定的。
コロナ禍でリモートワークやオンライン会議環境が進む中、地方でも同様に提供される環境整備が待たれます。
シリコンバレーには個人投資家だけでも50万人以上?!
資金調達を支援する「投資家」の数は日米で大きく異なり、シリコンバレーにはVCだけで1000社以上。エンジェル投資家と呼ばれる個人投資家に至っては、50万人いても不思議でないと言われます。
それは、AppleやFacebookなどの社員が、個人でもベンチャーに投資を積極的に行っているからです。シリコンにはこの資金調達インフラがあるので、日本の起業家も数多く米国で資金調達をし、事業展開をしています。
優れたアイデアなら資金調達は可能ですので、起業家や創業予備軍の方はぜひ日本だけにとらわれず、まずシリコンバレーに来て動いてみることを強くお勧めします。
ゴールは利益確定!
ベンチャーのM&Aで投資家に刺激を与える起業家にとってのゴールは、ベンチャービジネスの株式を売却し、利益を手にすることといえます。VCにとっては投資回収であり、手段としてはIPO(株式公開)とM&Aによる第三者への売却などがあります。この舞台となるベンチャー株式市場は、日本では東証マザーズなど、米国ではNasdaq(ナスダック)やニューヨーク証券取引所(NYSE)があり、いずれも活発です。
一方、M&A市場については、大企業がベンチャー企業を買収して傘下に収めるM&A文化が以前よりあり、それがEXITへの有効な道筋となっています。
日本ではM&A自体がまだあまり好意的に見られない傾向も根強く、最近は後継者不足の解決策としての事業承継などが出てきてはいますが、ベンチャー企業のゴールとしてのM&A、バイアウトというのは文化的になかなか馴染まないかもしれません。
また、大企業によるベンチャーのM&Aも、数としては米国と比べ物にはならないレベルに留まっています。このあたりの広がりが出てくれば、起業家の意欲も大いに刺激されるのではないでしょうか。
世界に羽ばたく起業家へ~イベントや投資を利用して夢の実現を!~
私が電気工学を志した時に、日本へ行こうと決めたのは、実家にあった電化製品がソニーや日立だったからです。そうした日本の大企業、ブランドも最初はベンチャー企業でした。
戦後、日本には世界に通用する会社が数多くありましたが、今ではどうでしょうか。私は、日本の若い起業家やその予備軍の皆さんにぜひ夢を見て欲しいと思うのです。
そこで最後に伝えたいのが、ペガサスが2017年から毎年開催している全世界のスタートアップを対象に世界一を決めるピッチイベント「スタートアップワールドカップ」についてです。
60以上の国と地域で開催して、地域予選の来場者数は10万人規模。優勝投資賞金1億円をかけて、世界中のスタートアップが闘いを挑めるイベントです。初代優勝者は、日本のベンチャー企業の株式会社ユニファでした。名古屋にあるこの会社はこのイベントでの優勝が運命を変えてくれたと言って下さっています。
今回の日本予選開催日は、2021年3月25日ですので、皆さん是非ご応募下さい。
スタートアップのご応募先:https://www.startupworldcup.io/tokyo-regional-2021
「スタートアップワールドカップ」のようなピッチイベントの開催が、夢の実現への一歩になれば幸いです。
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(編集:創業手帳編集部)