スタートアップ専門弁護士から見たテレワークの注意点
コロナ問題でテレワークにシフト!どのような準備が必要?
(2020/04/21更新)
テレワークの導入に関しては以前から必要性が問われていましたが、コロナ問題によって事前準備なく急遽テレワークを導入しなければならない状況に直面している方も多いのではないでしょうか。しかしながら、緊急事態宣言が発令された今、平時のような手続きを踏んでテレワークを導入している暇はありません。
では、どのような段取りや方法でテレワークにシフトしていけばいいのでしょうか。
国内トップクラスのスタートアップ専門弁護士事務所であるAZXの弁護士高橋 知洋氏に、有事を乗り切るために最低限の事項を遵守しながら、適法にテレワークを導入するためのポイントをお聞きしました。
創業手帳では、コロナ問題の影響下で行える企業存続のための対策なども多数紹介しています。そちらも併せてご覧ください。
AZX Professionals Group (AZX総合法律事務所)弁護士
2004年 東京大学文学部 卒業
2008年 東京大学法科大学院 卒業
2009年 司法試験合格 司法研修所 入所
2011年 麒麟麦酒株式会社 法務部 入社
2014年 AZX Professionals Group 入所
2017年 株式会社ブリッジインターナショナル 社外監査役 就任
2019年 AZX Professionals Group パートナー 就任
2020年 株式会社日本データサイエンス研究所 社外監査役 就任
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この記事の目次
Q.テレワーク導入に伴う就業規則や雇用契約の変更は必要ですか?
A. 必須ではありません。(※)
就業規則の必要的記載事項には「就業の場所」という項目はありませんので、導入自体について就業規則に定める必要はありません。
また、雇用契約や労働条件通知書の「就業場所」の欄に「本社オフィスその他会社が指定する場所」などと記載してある場合、「会社が指定する場所」の文言でカバーできますので、雇用契約の変更も必要ありません。労働法は、時間には厳しいですが、場所に関しては比較的自由です。
ただし、雇用契約等の「就業場所」の項目で「本社オフィス」と指定している場合は、これが労働条件として合意されていますので、従業員の同意を得て変更する必要があります。
※急遽テレワークを導入する場合の最低限の事項について述べたものであり、通常の導入ケースではテレワーク就業規程などを定めることが望ましいと考えます。
Q.環境的に家で仕事するのは難しい場合はどうすればいいですか?
A.家族にいてとても仕事をするような環境ではない、PCがない、Wi-Fi契約していない・・・などなど。その場合、会社としては出社してもらってもいいのですが、緊急事態宣言が出ているような事態では、そういうわけにもいきません。
そこで、どうしても家では仕事できないという人には休職してもらう(雇用契約等で就業場所をオフィスと合意しているにもかかわらず、テレワークを命じる場合には、休業手当(給料の6割)の支払いが必要な場合あり)、自宅以外の場所での就業を認める、特別有給休暇を与える、といった対応が考えられます。その際、セキュリティや情報漏洩には注意しましょう。
Q.会社がテレワークで発生する費用を負担する必要がありますか?
A.必須ではないと考えます。
PCがないという従業員については、会社からPCを支給することが考えられますが、導入費用や手配の面から困難な場合も多いでしょう。
Wi-Fi契約をしていないという従業員については、テレワーク期間についてのみ会社負担で契約してあげることも考えられますが、スマホのテザリングなどで対応してもらってもよいと思います。
さらに、その場合の通信料はどうするかという問題がありますが、個人使用との切り分けが難しく、また通信料定額のケースもあることから、実費を細かく計算して支給することはあまり現実的ではありません。そのため、通信料に関しては従業員に目をつぶってもらい自己負担としている会社も多いのが現状です。
一律で固定額を支給する場合は、割増賃金の算定基礎に含める、課税、保険料の対象となってしまう可能性があるので注意しましょう。
Q.テレワークって自由なイメージですが、仕事したいときにすればいいですよね?
A.ダメです!テレワークは働く場所がオフィスではないだけで、時間についてはオフィス勤務の場合と変わりません。したがって、勤務時間についてはしっかりと管理するようにしましょう。
この点、会社PCを貸与している場合は、PCへのログイン、ログオフの時間で管理することが考えられます。業務開始時にチーム全員に一斉メールさせる、業務終了時に報告書を上長に提出させる、といった方法で対応している会社もケースも多いです。
しかし、完璧ではないので、ある程度は信頼するしかないというのが実情です。
Q.仕事したいときに仕事したい!という声もありますが
A.そのような場合は、テレワークを機に、「時間に縛られない働き方」に変更するという手もあります。
裁量労働制(要件が厳しい)などいろいろと制度はありますが、もっとも汎用的に使えるのが「フレックスタイム制」です。これは、始業と終業の時間を従業員に委ねるという制度です。働くべき時間としてコアタイムを設けるケースが多いですが、必須ではありません。コアタイムなし型のことを「スーパーフレックスタイム制」と呼んでいるなどと耳にすることもあります。
なお、フレックスタイムにも深夜割増は適用されますので、フレックス時間を「7時から22時」などと限定することをお勧めします。(自由を手に入れたとたん、昼夜逆転する人が一定数いることが懸念されるため)
オフィスワークでフレックスを導入しても、結局適度な時間に来て適度な時間に帰るという話をよく聞きます。
一方、テレワークの場合は自由に保育園のお迎えに行ける、昼間は子供の世話で仕事できないので助かる、などと良い評価を聞きます。フレックスは、テレワークでこそ本領を発揮する制度なのかもしれません。
Q.テレワーク中のケガは自己責任ですか?
A.労災が適用されるケースもあります。
労災とは、業務遂行中に発生した業務に起因するケガ等について適用されるものです。しかし、テレワークは自宅にいるのだから、当然自己責任ですよね?というのは甘い考えです。
厚生労働省のガイドラインの22頁では、自宅で所定労働時間にパソコン業務を行っていたが、トイレに行くため作業場所を離席した後、作業場所に戻り椅子に座ろうとして転倒した事案は、「業務行為に付随する行為に起因して災害が発生しており、私的行為によるものとも認められないため、業務災害と認められる。」とされています。
なんとも間抜けな事例で、会社側としては受け入れがたいのですが、在宅であっても業務時間中に発生したものは、私的行為に起因するものでない限り、労災の対象になる可能性があるため、注意が必要です。
Q.出社を強制することはできますか?
A.できます。(※)
テレワークは、社員の権利ではなく、会社の業務命令により自宅で仕事させているだけですので、オフィスで働く必要がある場合は、基本的に出社を命じられます。
たとえば、契約締結のために会社印の押印が必要な場合や、電話担当のために誰かがいなければならないというような場合です。
また、問題行動のある社員が、テレワークを機に出社しなくなったなどという場合には、出社命令を下し、当該要請に応じないのであれば欠勤扱いとして、給料を減額することができます。
※ただし、緊急事態宣言が出ている最中に、合理的な理由なく出社を要請することは、問題になる可能性があると考えます。会社には社員に対する安全配慮義務がありますので、時勢には注意して下さい。また、出社を命じたばかりに従業員がコロナに感染した場合には、労災のリスクもあります。
実際にこのような事例は把握していませんが、厚生労働省Q&A7に掲載されています。
Q.派遣社員にテレワークさせてもいいのでしょうか?
A.テレワークさせることは可能です。
なお、以下の点に注意して下さい。
労働者派遣法では、派遣会社と締結する契約書の就業場所の明示が求められます。しかし、現状の契約の多くは在宅勤務を想定した規定となっていないものと思われます。通常であれば、事前に派遣会社と覚書等を締結して対応することが望ましいのですが、緊急時ですので、両者が合意すれば事後的でもよいでしょう。
また、テレワークさせることで発生する費用を、派遣元、派遣先どちらが負担するのかという点も両者で決めておくこともおすすめします。
さらに、派遣社員にのみテレワークを認めないという対応は、正規雇用と非正規雇用の待遇格差是正を要請する「同一労働同一賃金」原則に違反する可能性もあるため注意が必要です。
Q.テレワークのメリットについてもお聞かせください
A.テレワークの法律的な問題点についてはご理解いただけたかと思いますので、最後にテレワークのメリットについて、私見とはなりますがお伝えしていきます。
テレワークには以下のようなメリットがあると思いますし、実際にテレワークを導入された会社の従業員の方からよく聞くものです。
① 通勤時間が削減された
② 仕事に集中できる
③ 無駄な会議が減った
④ 家族との時間や自分の時間が増えた
私はテレワーク推進派ですが、特に①の理由が大きいです。通勤時間は疲労しますし、前後の準備の時間も含めると、毎日大量の時間をロスしているように思われてなりません。その時間にできる仕事はたくさんあります。会議に関しても、これほどオンライン会議ツールが発達している昨今、わざわざ対面で行う必然性はないと思われます。
これを機に、テレワークできるのであれば積極的に取り入れていくべきだと考えています。その中でこそ、本当に対面でやるべき仕事は何か、対面でしか生み出せない価値は何か、という点に気付けるのではないでしょうか。
リモートワーク導入を検討中の方にとっても、すでに導入したものの何か不都合が起きたときの不安を抱えてる方にとっても、参考になるお話が多かったのではないでしょうか。
経営の方向転換や大きな決断に迫られている現状において、法律に沿ったものであるかどうかの判断をしながら決断していくのは大変困難です。
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(監修:
AZX Professionals Group AZX総合法律事務所/高橋 知洋弁護士)
(編集: 創業手帳編集部)