借入の返済リスクを恐れる必要はない!専門家が論破します。後編
借入の返却を恐れる必要はない5つの理由
執筆:「飲食店開業融資専門税理士」ITA大野税理士事務所 大野晃)
(更新日:2016/5/10)
前回の記事では借入をしないことによる機会損失のリスクについて説明しました。機会損失は、飲食店を運営するなかで、最大のリスクであり、最悪は独立ができなくなることもあります。
今回は、一般的に指摘される「借入をしない理由」について専門家の立場から反論をしていきます。
借入をしない機会損失のリスクは理解できても、借入をするとなると、独立されるあなただけでなく、家族や親戚など多くの支援者の方々を説得させないといけないでしょう。そんな際に、ご利用ください。
この記事の目次
借入をしない理由その1「借入額が大きいと返済できない」
大概の方が勘違いしているのは、借入金の返済を借入額全体で見てしまうことです。まるで、その金額を貯めて、一気に返さないといけないように思っています。
しかし、借入の返済は、長期間に、少しずつ返済するものです。「利益の前倒し」と書いた通り、開店して得られる利益の一部を事前に手に入れているだけです。
さらに、融資を受ける際には、経営が軌道に乗る(=単月黒字になる)までに必要な資金を考えているはずです。そこには生活費も、お店の運転資金も計算済みです。
つまり借入をする際に、金融機関側も事業計画書を見て貸している訳で、返済は利益の範囲内で行われています。計画通りにいけば、「利益の前倒し」で計算した金額を返済していることになります。決して借入金がある間は、生活が苦しくなったり、お店の経営が不安定になったりするということではないのです。
もちろん、計画通りに行かなければ、借入したお金が目減りするということになります。生活費やお店の運営が苦しくなるという自体は想定できます。しかし、その際の対応策もあります。それは後ほど説明をします。
一方で、予定より経営の軌道が早く乗り、予定より利益が増えた場合も考えられます。じつはこのケースの方が多いのです。
独立前に経営計画を考える際、あなたはどう考えますか?楽観的な客単価と客数を元に売り上げ計画を立てますか?それとも堅実な数値を想定しますか?
多くの方は、堅実な数値を想定し、それでもお店をやっていけることを確認して、独立をするでしょう。そうなると、当初の経営計画よりも多くの利益を得られることが多いのです。
その際に、注意いただきたいのが、現金を持っていた方が経営は安定するということです。
利息分がもったいないからと早めに借入金を返済したくなりますが、それは待ってください。「使わないお金があるなら、土に埋めて寝かしといてください」。冗談で相談者の方にお話をします。
例えば、手元の現金0円、借金なしの人と、手元の現金1000万円、借入1000万円の人では手の打ち方が変わります。手元に現金1000万円あれば、すぐに広告をうったり、キャンペーンを行ったりし、集客を考えることができます。しかし、手元に現金がなければ、まずはお金を工面するところからです。
そして、恐ろしいことに、一度手元の現金がなくなった人に、金融機関はそう簡単にはお金を貸してくれないのです。
そうなると、頭の中が「お金、お金、お金」で埋め尽くされ、お客様やスタッフの事を考える余裕がなくなります。一般の金融機関から借り入れができなくなると、高利の消費者金融でお金を調達するしかなくなります。こうなると悪循環です。
そのため、現金を手元に残しておくため、借入金の利息=保険料と考えれば凄く安い保険料です。
借入をしない理由その2「返済できなくなったらどうなる?」
独立するからには、飲食店経営を絶対に成功させる覚悟が必要です。そのために、経営計画を立て、数値として論理的な考え方を持っていないといけません。
しかし、それでもうまくいかないときはあります。例えば、東日本大震災のような災害が起こってしまったり、リーマンショックのような景気の急落があったりすると、計画通りにいかないことはあります。そういった外部要因は、防ぎようがありません。
そのような際にも諦める必要はありません。まずは、追加の融資を金融機関に打診してみることです。
追加融資がダメでも、リスケといって借入返済を一時的にストップ、または減額を打診することができます。
金融機関も、貸したお金を返済してもらうことが第一です。倒産してしまったら元も子もなくなります。もちろん、新たな経営計画をもとに、返済できることを説明する必要があります。
それでもダメな場合は、どうなるでしょうか?
死んで生命保険で返済しなければならないでしょうか?督促の脅迫電話に怯えなければならないでしょうか?
そんなことはありません。
法人で日本政策金融公庫から創業融資を借入している場合には、「会社」の自己破産となります。代表者保証も取られません。つまり、最大リスクが会社の自己破産であり、個人の生活は守られるのです。
これはリスクがゼロに等しいです。飲食店を開業する方には絶好の時代だと個人的に感じます。
借入をしない理由その3「親族から借入の上限を決められた」
親族の方から、「借入金額はいくらまでしかダメ!」と言わるケースも多いです!特に、奥様から言われることが多いようです。親族の方の言うことをそのまま聞き入れて資金調達した方がよいか、よく考えましょう。その際に必要なのが、経営計画書です。初期投資費用と軌道に乗るまでの運転資金があってはじめて、論理的な借入金額が分かるのです。
さらに、前項の借入をしない理由その1「借入額が大きいと返済できない」でも説明をしましたが、手元の現金をどれだけ持って、軌道に乗せられるかが重要になります。そのため、飲食店開業は最初の投資設計が大事なんです。
私は、ご相談者の親族の方が借入金額をストップしている場合、その親族の方に同席してもらい、なぜこの金額が必要かについて説明をし、ご納得いただいた上で飲食店開業の支援をします。飲食店開業から経営が軌道に乗るまで、支援者の方々の理解が重要になるからです。
実は過去の案件で、相談者の奥様を説得できずに融資額を抑えたがために、痛い目にあった経験があります。私はこの失敗を二度としたくないと思い、これ以降は、融資金額と親族の方の理解は徹底をして、コンサルの仕事をさせていただいています。これを読まれている皆様には同じ経験をして欲しくないので、あえて、その事例を紹介します。
ある年の秋口にご相談者がいらっしゃり、飲食店を独立されるということで、開店までのコンサルを行いました。
既にお持ちの資産と、不動産取得費、内装などの初期投資費、経営計画から見た運転資金を算出し、必要な融資額を考えると1300万円が必要でした。
しかし、奥様が融資額は1000万円までしかダメといわれ、融資額を1000万円で申請しました。たしかに、経営計画書も厳しい条件で、仮になにかのトラブルがあったことも考えた上での、融資額を1300万円に設定していました。
トラブルがなく、経営計画も、多少上に考えれば、1000万円でも経営は問題ないという甘い判断が、そのときありました。
しかし、実際には内装の基礎工事のやり直しが発生し、オープン時期が遅れました。さらに、軌道に乗るのが当初、私が考えていた厳しめの条件の経営計画書と同じ時期になったため、資金繰りが、かなり悪くなってしまいました。
奥様にしっかり同席してもらい1300万円の融資額をご提案できていれば、資金繰りがキツキツになる事態にならなかったでしょう。
このことがあってから、融資額と親族の方への理解を得られないご相談者には、独立を考え直すように言っています。準備がしっかり整う前に独立してしまうと、後戻りができなくなってしまうからです。
このお客様には、最終的には再調整を日本政策金融公庫に提案することになり、難を逃れることができました。ただし、再調整を1度してしまうと次の融資は厳しくなるというリスクを背負ってしまいます。
日本政策金融公庫の飲食店開業予定者向けのパンフレットにも、「ご家族の理解は大丈夫か?」としっかり書いてあります。
納得いく融資額、事業計画について支援者である親族にしっかり説明してから飲食店開業をしましょう。支援者の理解なしに飲食店を開業しても成功しにくいです。
借入をしない理由その4「スモールビジネスで始めるから」
「スモールビジネスで始める=借入額を小さくする」という方程式にはならないです。
例えば、客席が10人だけのお店を想定しましょう。その際、満席から1人いないだけで稼働率は10%も下がってしまいます。2人いなければ、稼働率は80%です。非常に波動が激しくなります。
スモールビジネスだから、面積が小さくて良く、人件費も抑えられる。食材も少なくて済むから借入額は小さくて済むというわけではありません。スモールビジネスだからこそ、客が1人減るだけで稼働率が下がるというリスクがつきまといます。
食材が少なくて済みますが、客が少ない日が続くと全く使用しない食材がでてきて、廃棄のリスクがすぐに発生します。客が瞬間的に多いと、食材が切れてしまう可能性が発生します。そうなると機会損失です。
客数が多い店では、稼働率が低い日があっても、ある程度の客数があるので、食材を使い切ることができるのです。客数が多い日でも翌日分のストックで対応でき、足りなくなったストック分だけ多めに発注すれば良いのです。
スモールビジネスの場合、このように客数の波動が激しくなる=収入の波動が大きくなるため、リスクも拡大します。収入の波動が大きいのに、家賃、人件費は確実に発生するので、経営が軌道に乗ったとしても単月では赤字という月がでてくる可能性があるのです。そのリスクを回避するために多めに現金を持つ必要がでてくるのです。
スモールビジネスだからといって運転資金が少なくてもよいと言うわけではないのです。
借入をしない理由その5「なんとなく……」
このような回答を思った方は、独立を即行でやめてください。独立をするということは、経営者になるということです。数値にはシビアにならなければなりません。その心構えと能力がないのであれば、独立してはいけなせん。
まずは、しっかりと経営計画書を立てるところから始めてください。
なんとなくでは絶対にダメです!!
(監修:ITA大野税理士事務所 大野晃 飲食店開業融資専門税理士)
(編集:創業手帳編集部)